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東京を世界に誇れるスタートアップ都市にするために。グローバル投資会社 Sozo Venturesが日本に期待すること

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ここ10年足らずで約10倍に増えた日本のスタートアップへの投資額。その成長ぶりは目覚ましいものの、アメリカをはじめ海外のスタートアップシーンはさらなる盛り上がりを見せ、その差は埋まらない。今後、日本のスタートアップシーンが海外に肩を並べるためには何が必要なのか。

その解を求めて、今回取材したのはSozo Ventures共同創業者のフィル・ウィックハム氏と中村幸一郎氏。中村氏は米フォーブスが発表した「最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング(The Midas List) 」の2021年版で72位、最新の2022年度版では 63位と、日本人では唯一、しかも二年連続でランクインした今注目のベンチャーキャピタリストでもある。

「今の日本の投資スタイルではスタートアップが成長できない。日本は大きなポテンシャルを持っているだけに、それはとてももったいないことです」

取材の中で2人はそのように警鐘を鳴らした。一方で数十年前は日本と同じ状況だったヨーロッパや南米も変革できたのだから、日本が変わるのも時間の問題だとも話す。世界を舞台に活躍する2人が日本のスタートアップ、ひいては東京という都市に期待していることは何か、そのエッセンスをお届けする。

フィル ウィックハム
Sozo Ventures 共同創業者/パートナー
シリコンバレーの国際展開支援のトップファンドとして知られているSozo Venturesにおいて、ツイッター、スクエア、コインベース、ズームといった米国のトップベンチャーへの投資案件を支援する。
ベンチャー投資家、スタートアップ企業家として豊富な経験を有し、カウフマン・フェローズのCEOを経て名誉会長として、ベンチャーキャピタルの次世代リーダーの育成を支援してきた。同プログラムのグローバル化をすすめ、参加者を40カ国以上に拡大し、ベンチャーキャピタル業界の国際化を進めた立役者の一人として広く知られている。カウフマン・フェローズ出身者が設立した数多くのファンドを支援し、Creandum Fund等で名誉顧問を務めている。
NEWSPICKS、日本経済新聞、Forbes、TechCrunch、VentureBeat、CNBCなどにも定期的に寄稿しており。また、スタンフォード大学工学部大学院で教鞭をとり、早稲田大学ビジネススクールの客員教授も務めている。

中村幸一郎
Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター
早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに孫泰蔵⽒とともに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンドの事業などを担当した。早⼤法学⼠、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズ(Kauffman Fellows Program)を2012年に修了。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List 100の2021年版に日本人として72位で初めてランクイン、2022年度版のランクでは63位までランクを上げた。シカゴ大学起業家教育センター( Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)を2022年より務める。

INDEX

「スタートアップ投資は博打じゃない」日本人に伝えたい投資の真の姿
日本の「単発投資」が生み出してきた博打のイメージ
日本が変革するヒントは、20年前に変革したヨーロッパにあり
日本が世界に負けないスタートアップ都市になるには
ここがポイント

「スタートアップ投資は博打じゃない」日本人に伝えたい投資の真の姿

――まずはスタートアップ投資の現状について聞きたいと思います。ウクライナ情勢がスタートアップにも負の影響を与えていると言われていますが、どのように捉えていますか。

中村:その論調は間違いです。VCの成果というのは、投資から7~10年かけて現れるもの。つまり、不況や世界情勢の影響を最も受けにくい業態であり、今の状況は7~10年前の仕事の結果です。

では、なぜそのような論調が起きるのか。それは一部の成果の出ていないVCが、定期的に起きる不景気を言い訳にしようとするからです。「不景気だから、スタートアップ投資のパフォーマンスが悪くてもしょうがないよね」という雰囲気を醸成してしまいます。

その度に、せっかく盛り上がってきたスタートアップ投資の流れもリセットされてきました。そのような間違った論調に振り回されない姿勢が、スタートアップシーンを盛り上げていくためには必要だと思います

――一部の人によって間違った情報が拡散されているのですね。他にもスタートアップ投資について、誤解されていることはありますか?

中村「スタートアップ投資は博打」というのも、誤解と考えています。よくスタートアップ投資は3割成功すればいいと言われますが、そんな成功確率ではファンドは運営できません。

仮に100億円のファンドを運営するとなれば、実際に投資できるのは約80億円。そのうち3割がヒットして株価が3倍になったとすると、リターンは次のようになります。

80(億円)×0.3(成功確率)×3(株価成長率)=72(億円)

100億のファンドを10年運用して72億円じゃ大失敗。それでは博打どころではありません。

――実際にはどれくらいの成功確率なのでしょうか。

中村正しいやり方をしているVCなら5割は最低達成を目指すべきラインです。ある程度の成功案件の中から10倍以上の案件が出てきます。投資先の2分の1をヒットさせることを目指すのですから、スタートアップ投資が博打を打っていては成り立たないことがわかってもらえると思います。そのためにはしっかりしたシステムが不可欠です。

日本のスタートアップ投資が博打とみられてしまう傾向があるのは、リピートが可能で説明ができるシステムとしての投資をしてこなかったからと言えるかもしれません。いくら規模の大きなファンドを作っても、システムが伴った投資の仕方をしなければ、ある意味クラウドファンディング的なお金をばらまくだけのけの運に頼った投資になってしまいます。

日本の「単発投資」が生み出してきた博打のイメージ

――もう少し詳しく日本のスタートアップ投資のどこに問題があるのか教えてください。

中村海外では何度も同じ会社に追加投資をするのに対し、日本では一度きりしか投資しないファンド、CVCがほとんどです。これは投資を分散してリスクを回避しているように見えますが、結局はスタートアップを成功から遠ざけているのです。

単発投資がメインになると、スタートアップは資金調達のたびに新しい投資家を探してプレゼンしなければならず、本業に集中できません。そして集中できず本業がうまくいかなければ、スタートアップも投資家も共倒れです。

追加投資を前提に考えられるなら、本業で成果を出せば新たな投資家を探す必要もなく、ビジネスの成長だけを考えられますよね。それだけスタートアップの成功確率も高まりますし、投資家もリターンを得られやすくなるのです。

――では、日本でも追加投資が行われるようになれば、よりスタートアップが成功できるのですね。

中村:その通りなのですが、追加投資を計画的に行うのは容易ではありません。より厳密に企業評価を割り出さなければなりませんし、どれくらい成長したらいくら追加投資するか緻密に計算もする必要があります。その結果に基づいて新規投資と追加投資にどのくらい資金を振り分けるかという管理はVCファンド特有の業務となります。このようなポートフォリオマネージメントと呼ばれる業務は通常はそのような業務の経験者が不可欠で、投資先の獲得や付加価値の提供とは別のノウハウとなるため、通常は一人でこのような必要な経験を有することは極めて稀です。

アメリカではトップクラスのビジネスエリートが集まって、スタートアップを吟味し投資しているのですが、VCファンドの業務に必要な経験を積んだ人間が集まってチームとしてファンドを運用しています。特にポートフォリオマネージメントのようなVC特有の業務経験者は日本では極めて稀有で、必要な人材を集め、追加投資できるだけのファンドを運用できるチームを作るのは容易なことではありません。

――追加投資できる体制を整えるのに様々なハードルがあるのですね。では、日本のスタートアップは海外の投資家から投資してもらうべきなのでしょうか。

中村:それでは、追加投資を海外のVCから受けようというのもそんな簡単な話ではありません。海外のVCは過去にそのスタートアップがどのような投資を受けているのか調べます。その際に日本のVCから追加投資を受けていないという実績は「投資家に評価されず、追加投資を受けられなかった」と映るのです。そのため実際はいいスタートアップであっても、海外の投資家から評価されずに終わってしまいます。

日本の一度きりの投資スタイルというのは、スタートアップの成長を妨げるだけでなく、海外の出資を受けづらくさせてしまう。結果としてスタートアップが成功できず、投資家もリターンも得られない、誰も得しない結果を作り上げてしまうのです。

その悪循環が「スタートアップは博打」というイメージを作り上げてきてしまったのでしょう。

日本が変革するヒントは、20年前に変革したヨーロッパにあり

――どうすれば悪循環を断ち切り、日本の投資スタイルを変えられると考えていますか?

フィル:ヨーロッパの例を挙げて説明しましょう。ヨーロッパも20年前は日本と同じような状況でした。そんな中、誕生したのがアメリカ式の投資スタイルを学んだクランダムというVCです。

彼らはアメリカ仕込みの投資でSpotifyを成功させ、ヨーロッパのスタートアップシーンを大きく変えました。ヨーロッパの起業家たちは「自分たちもアメリカのような会社を作れるんだ」と思うようになりましたし、他のVCもクランダムに倣います。

一つの成功モデルを創ることで、ヨーロッパのスタートアップシーンが変わり始めたのです。

――日本でもヨーロッパと同じようなことが起きる可能性があると。

フィル:そうです。ヨーロッパで起きた現象は、その後南米やシンガポールでも見られました。ヨーロッパから20年遅れて、日本でも変革が起きるタイミングは近いと思います。

――そもそも、日本ではなぜ「一度限り」の投資からスタートしたのでしょうか。

フィル:どの国でも、最初にスタートアップ投資を始めるのは銀行や証券会社です。彼らは、既存の貸付による利子での収益や手数料での収益ビジネスの考え方が根底にあり、投資リスクを最小化しようとするため、何社にも分けて分散投資をすることになります。それは、スタートアップ投資の理論とはかけ離れています。

その後、VCや大企業などがスタートアップ投資を始めても、証券会社と同じスタイルを踏襲してきました。その結果、一回限りの投資がスタンダードになってきたのです。

――Sozo Venturesが日本で投資すれば、日本も変わるのではないでしょうか。

中村:いえ、私たちはノウハウを教えることはできても、私たちが日本を変えることはできません。なぜなら私たちはアメリカのVCだから。他の国や地域を見ても、現地の大企業やVCが変わらなければ、本当に変わったとは言えません。

一刻も早く、日本から世界に通用する投資スタイルのVCが現れるのを期待しています。日本、特に東京は大きなポテンシャルを持っているので、投資スタイルが変われば世界に通用するスタートアップ都市になるのも夢ではありません。

世界のエコシステムの立ち上がりを見てきたフィルが言うのだから間違いないでしょう。

日本が世界に負けないスタートアップ都市になるには

――東京が持つポテンシャルについて教えてください。

フィル一つは東京のライフスタイルです。食事や文化がとても魅力的で、世界中の多くの人が東京に住みたがっています。リモートで働ける今となっては多くの起業家が東京に住居を移し始めており、私たちの投資先でも日本の住環境や文化に惹かれて、オフィスごと海外から引越した企業もあります。

2つ目は大企業との協業。10年ほど前までは、日本で大企業がスタートアップと協業することはほとんどありませんでしたが、ここ数年で協業するケースが急増しました。日本の大企業には魅力的なノウハウやリソースが集積されているので、それらがスタートアップに流入するのは大きなチャンスです。

3つ目は交通の便。東京という小さな都市に地下鉄が張り巡らされていて、会いたい企業にすぐに会えます。私も時には1日に12~3件のミーティングをすることがあるのですが、そんなのは海外ではありえません。

そのようなポテンシャルをうまく活かせば、東京が海外に負けないスタートアップ都市になる可能性は十分にあるでしょう。日本の大企業ではまだスタートアップ投資が経営戦略のメインになっていませんが、早くスタートアップ投資の重要性に気づいてもらえればと思います。

――世界はスタートアップがメインストリームになっているんですね。

中村:アメリカのビジネス誌「FORTUNE」が選ぶ急成長企業100社の上位20社のうち、7割がこの20年以内に設立された会社で、残りの3割がそこに投資した投資会社でそれらの会社は年間40〜50%の急成長を続けています。世界的な経営学の権威シカゴ大学も、その事実を受け止め急成長を続けるスタートアップ的な経営ノウハウをカリキュラムの中心にしようと注力しています

シカゴ大学はスタートアップ的な経営に関する知見を持ち合わせないことに危機感を覚え、私に起業家センターのアドバイザーを依頼しにきました。つまり、世界のビジネスのメインストリームがスタートアップ的な投資も含めたあらゆるリソースをフル活用しイノベーションによる成長要素を経営に取り込んでいくという新しいスタイルの経営にシフトし、かつての10−20%の安定成長を目指す、これまでのスタイルの経営の常識が通用しなくなっているということです。

この動きはシカゴ大学に留まらず、これから世界の大学が本腰を入れてスタートアップ起業に注力してくるでしょう。「スタートアップ投資は博打」と思っている日本の大企業は、今のままでは大きな波に乗り遅れてしまいます。

――日本でも国を挙げてスタートアップ投資額を増やすなどの取り組みをしていますが、それでは足りないのでしょうか。

中村:国の歳出を増やせばユニコーンが増えるというような、単純な話ではないんです。スタートアップに資金は必要ですが、資金さえあればいいスタートアップができるわけではありません。まずはモデルケースを作って、それを拡大すること。モデルケースもないのにお金をばらまいても、うまくいかない会社が増えていくだけです。

日本は補助金はたくさん出しますが、順調に成長している会社は資金調達には困らないので補助金は必要ありません。日本政府は早くそのことに気づき、いいスタートアップが世界で戦える支援をして欲しいと思います。

――最後にSozo Venturesとして今後取り組んでいきたいことがあればお願いします。

中村:グローバルで活躍できるチームづくりをサポートしていきたいと思っています。そのために、グローバルのチームを日本のチームと組み合わせるモデルケースを作りたいですね。そのようなケースはシンガポールでも成功事例があるので、日本でも増やしていきたいと思います。

また、私たちができることは世界でどのような投資が行われているか日本で発信すること。そのために、世界で活躍する31人の投資家たちに取材して書籍『ベンチャー・キャピタリスト──世界を動かす最強の「キングメーカー」たち』にまとめました。グローバルで上梓する予定ですが、まずは先月日本で発売を開始しています。

ぜひ、日本でビジネスをしている方は、この本で世界の成功パターンを学んで参考にしてもらえればと思います。

ここがポイント

・VCは不況や世界情勢の影響を最も受けにくい業態で、今の状況は7~10年前の仕事の結果
・「スタートアップ投資は博打」というのは誤解で、正しいやり方をしているVCなら5割が最低達成を目指すべきライン
・博打とみられてしまう傾向があるのは、リピートが可能で説明ができるシステムとしての投資をしてこなかったから
・追加投資を前提に考えられるなら、本業で成果を出せば新たな投資家を探す必要もなく、ビジネスの成長だけを考えられる
・日本の一度きりの投資スタイルは、スタートアップの成長を妨げるだけでなく、海外の出資を受けづらくさせてしまう
・ヨーロッパでは、クランダムが一つの成功モデルを創ったことで、スタートアップシーンが変わり始めた
・東京は、ライフスタイル、大企業との協業、交通の便の3つのポテンシャルがあり、世界に負けないスタートアップ都市になりうる

ベンチャー・キャピタリスト
――世界を動かす最強の「キングメーカー」たち
(NewsPicksパブリッシング)

 


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:幡手龍二