TO TOP

VCは投資先のスタートアップをどうやってモニタリングするか? | ベンチャーキャピタリストの視点 vol.4

読了時間:約 6 分

This article can be read in 6 minutes

今回はVCは投資先を毎期、毎年どのような形で評価するか、その際どのような点を注視しどのようなアクションをとるのかを説明したい。

INDEX

投資先管理の基本的な考え方
フォローオン投資が重要な別の理由
投資先に関するEXITデザイン
リサイクル投資とEXITデザイン
投資戦略における投資先管理の重要性

投資先管理の基本的な考え方

VCによる株式投資は大前提として、投資時の価値評価段階で、黒字化し資金調達が不要になるまでどのくらい資金が必要で、どのタイミングで株式を売却できるEXITのタイミングを迎えるかまでを考えた想定事業計画を作る(モデリング)ことは前回の企業価値評価の記事で説明をした。投資先管理(ポートフォリオモニタリング)はその想定モデルと実際を比較して乖離を都度検証し、乖離が生じた場合には必要なアクションをとっていくことなる。
基本的なやり方として、投資先企業と月次、もしくは四半期ベースでモデルのキーとなるデータ、数字を中心にチェックしていく。この際はミーティングもしくは必要なデータの提出を依頼する。チェックすべき項目は、売上高・ユーザー数・ユーザー増加率・現金残高・債務状況などの数字、資金調達の蓋然性、マネジメントチームの質、技術的な点での競争力の変化やマーケットポジションなどが挙げられ、それらが想定とどう異なっているかモニタリングしていく。想定で作ったモデルは実績からは外れるものであるため、チェック時に乖離の要因分析やモデルの修正を投資先の経営陣に確認をしながら、会社の必要資金や時期について持分割合や目標とする株式保有比率を勘案して追加投資計画の修正を行う。並行して、ファンド全体の追加投資計画への反映と準備を進め、モニタリングポイントからの乖離の割合に基づいた評価額の修正を行っていく。

以上のような適切なモニタリングプロセスを実行することにより、実際の結果から都度「答え合わせ」がされることになり、その事業分野の企業の成長段階に応じた必要な成功モデルに関するデータと適切なモニタリングポイントに関するノウハウがVCに蓄積されることになる。そのようなデータや経験が該当事業分野での適切な企業価値評価、モデリング、モニタリング、その評価項目の設定、評価方法に関するVCファンドの「システム」の精度を向上させ、投資の成功確率を上げていくことになる。言い方を変えると、適切なモニタリングプロセスに裏付けされたフォローオン投資をしっかりしないとVCが安定した成果を上げることは困難ということも言える。

フォローオン投資が重要な別の理由

適切なフォローオン投資はVCファンドのブランドとしても非常に重要となる。スタートアップ側の視点では、18−24ヶ月毎に行う新規資金調達において、基本的にはそれぞれのラウンドで中核となる既存投資家(リードインベスター)がそれなりの割合を継続投資して支え、数社の新規投資家の獲得を既存投資家と連携して行うことが極めて重要となる。そうなるとスタートアップとしては投資家構成の内、大部分の割合を追加投資をしてくれる(適切な成長を続けるのであれば)投資家で構成することが重要となる。言い方を変えると、選択肢があるスタートアップには適切な追加投資を行わないVCファンドは選ばれないことになる。ただ、追加投資を行うにはファンドの投資資金のうち、投資先にどのくらいの追加投資が必要かの計画とその後の実績に基づいた計画の修正が肝となる。やるべきフォローオン投資が行えなくなると、プロのファンド運用者として信用を失うことにもなりかねない。

投資先に関するEXITデザイン

VCファンドにとって企業価値評価と連携した投資先管理を行い、追加資金の計画を実績をみながら修正していくことの重要性を説明したが、投資先管理においてもう一つ重要な点がEXITのデザインとなる。

VCファンドは一般的に10年前後のファンドの運用期間が設定され、その中で最初の3−5年間を投資期間と設定し、新規投資を実行する。通常、VCファンドが投資したスタートアップは、うまくいけば投資後平均7−8年を経てIPOもしくはM&Aで投資家の株式が売却可能なEXITの段階を迎える。従って、新規投資は投資期間の5年間の中で実行され、投資期間終了後の5年間は必要な追加投資を行いながら会社の成長をモニタリングし、ファンド期間の終了までに投資先の株式が売却できたタイミングで投資家に資金を配分する。このようなVCの投資とEXITによる資金回収サイクルの仕組みにおいては、当然のことながら、投資期間にはEXITまで時間がかかる投資先に早めに投資を行い、運用期間の後半では比較的早いタイミングでEXITを迎える会社への投資を中心に実行することが望ましい。

リサイクル投資とEXITデザイン

このようなEXITの見通しに伴う投資先選定の大原則に加えて、投資効率を上げるためのリサイクル投資という要素がある。
一般的には、VC投資は投資家から預かったお金の年間平均2%、10年間で20%をマネージメントフィーという手数料に使い、投資実行に使われるお金は80%前後になる。LP投資家の視点に立てば、出資金額に対しての実際の投資実行金額の割合をできる限り増やし、投資効率を上げた方がより多くの利益が期待できることになる。そのためVCファンドも投資家から預かった出資金を決められた期間内に100%に近づくように、新規投資と追加投資の割合を常に計算し続けながら投資をすることに務める。そこで出てくるのがリサイクル投資だ。一般的にはファンドの運用途中では投資に回せる資金は増えないが、例外とされている制度がリサイクル投資と呼ばれる仕組みで、早めにEXITした会社の売却資金を投資家に配分せずに一定割合再投資に回すというものである。

リサイクル投資は一部の日本のVCファンドの投資家には好まれない傾向があり、利益が出次第、リサイクル投資を行わずに100%配分することを希望するという発言を何度か聞いたことがある。しかしながら、リサイクル投資は基本的には投資家を利する重要な条件として考えるのが妥当である。

まず、リサイクル投資を有効に使う為には、早い段階で一定割合EXITが見込める会社を投資先に組み込むことが重要になる。そうでないとリサイクル投資した会社がファンドの運用期間内にEXITできず投資家に配分できないおそれが出てくる。別の言い方をするとリサイクル投資を実行できるVCファンドはしっかりと早めに投資リターンを出せる会社に投資実行ができているVCのみとなる。

リサイクル投資はVCファンドの視点で言うと、手数料を取らずに投資を行う資金となる為、投資利益が出ないのであれば投資を実施する経済的なインセンティブはなく、その点は完全に投資家の利害と一致するとも言える。

投資戦略における投資先管理の重要性

VCファンドは10年間のファンド運営期間の中から5年間の投資期間の中で出来るだけ幅広い時間で分散して投資をすることが景気動向のリスクを避ける観点から言うと望ましいが、投資先管理という面だけをみてもそれ以外の追加投資戦略や、EXIT戦略、リサイクルによる再投資というような複雑な要素の考慮が必要となる。
もちろん、ビジネスに関する要素、例えば対象事業分野の成熟度やビジネスの性質による企業価値傾向、EXITまでに要する時間などの要素も加えると、VCファンドとして期間内に最適な投資を実現するためには適切な投資先の構成に関しては複雑な考慮が必要で、投資期間中同じ割合で、単純に1年に20%ずつの投資を実行していくというような単純な話ではないことはお分かりいただけたと思う。

VCファンドとしては、以上説明してきた通り、出来るだけ投資効率を上げつつ過不足のない形で適切な投資を行うためには、追加投資戦略、EXIT戦略を含んだ適切な投資先管理がVCファンドにとって非常に重要であり、VCファンドの成績や評価に大きく影響することがわかっていただけたと思う。次回はこれまでの4回の内容を踏まえて、VCファンドを評価するにはどのような点が重要なのか解説を行いたい。

[中村幸一郎:Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター]
早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに孫泰蔵⽒とともに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンドの事業などを担当した。早⼤法学⼠、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズ(Kauffman Fellows Program)を2012年に修了。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List 100の2021年版に日本人として72位で初めてランクイン、2022年度版のランクでは63位までランクを上げた。シカゴ大学起業家教育センター( Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)を2022年より務める。

この連載コラムのバックナンバーはこちら