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世界で新たな選択肢になりつつある代替肉。日本の現状について「ネクストミーツ」佐々木氏が語る

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人口が増え続けることで、全人類が直面しているのが「食糧危機」と「タンパク質クライシス」だ。加えて、家畜を育てる過程での環境への負荷も懸念されており、畜産業界は大きな課題を抱えている。今ほど気軽に肉を食べられなくなる未来はそう遠くないかもしれない。

これらの背景から、「代替タンパク」が注目を集めている。大豆や昆虫など、食肉以外でのタンパク質を摂取する流れが、ここ数年日本でも起き始めている。日本のスタートアップでその先陣を切っているのが「代替肉」の開発を手掛けるネクストミーツ株式会社。創業からわずか7カ月で米国市場でのSPAC(*)上場も果たしており、世界的にも注目を集めている。

今回は同社の代表である佐々木英之氏に、食肉の未来とスタートアップが代替タンパク市場に参入する意義について話を聞いた。

*SPAC・・・Special Purpose Acquisition Companyの略で「特別買収目的会社」という意味。自社事業を持たないペーパーカンパニーを設立し、株式を公開していない企業を買収することによって上場する法人


佐々木英之
ネクストミーツ株式会社 代表取締役
1980年生まれ。東京都出身。
キッチンカーの運営など早くから起業した経験を活かし、海外に目を向け、中国深センにて12年間、様々な事業に携わる。 大企業向けのアクセラレータプログラムや、メディア運営、研修支援などを経験。環境課題や社会貢献できるビジネスに関心があり、2020年6月にネクストミーツを設立。現職に至る。
国内外のメディアで話題となり日本を代表する代替肉ベンチャーとなる。
中国語ビジネスレベル。趣味は音楽(バンドを組んで活動していたこともあり)。

INDEX

なぜ「次世代のタンパク質」が代替肉なのか
日本で代替肉スタートアップが増えない納得の理由
事業の起爆剤になった外食産業とのコラボレーション
ここがポイント

なぜ「次世代のタンパク質」が代替肉なのか

――早速ですが、現在の畜産業界が抱えている課題について聞かせてください。

様々な課題がありますが、その中でも環境負荷に関する課題は大きいと思っています。牛のゲップに含まれるメタンガスはオゾン層を破壊しますし、牛に限らず家畜を育てるには膨大な飼料や水が必要です。

私はその課題への取り組みをよく自動車業界になぞらえるのですが、車は従来のガソリン車が今の時代に合わないとして、電気や水素で走る車が開発されていますよね。だからといって、将来ガソリン車が地球上からなくなるかはわかりません。畜産業界も同じように、従来のやり方を続けながらも、今の時代に合った環境負荷の低いやり方を選択肢と増やしていかなければならないと思っています。

――今の時代にあった畜産のあり方が必要ということですね。

そうですね。生産者の数も減ってきており、これまでのような畜産の方法を持続するのは不可能です。農業も同じく生産者の問題を抱えていますが、畜産と違うのは都会でも行えるということ。最近は都会の真ん中に畑を作り、自分で育てた野菜を食べる文化も現れ始めました。

しかし、匂いや鳴き声の問題があり、また広い敷地を必要とする畜産は同じようにはいきません。そういう意味では、畜産の後継者不足の問題は農業と比べてもより深刻だとも言えます。

――日本では後継者不足は想像に難くないですが、世界ではどうなのでしょうか?

世界的にも畜産業界の後継者は減っていると言われています。これからの30年で人口は20億人増えると予測されているのに、家畜を育てる人は減っていく。それでも生きるためにタンパク質は食べなければなりません。

日本なら魚という選択肢も考えられますが、世界には海に面していない国も多く、魚を安定的に供給できるエリアは限られています。どんな国でも安定的に供給できるタンパク質が豆類であり、代替肉を提供するスタートアップが世界的に増えている理由でもあります。

――最近は食糧問題の解決策として培養肉や昆虫食も注目されていますよね。それらと比べて、植物性代替肉が注目される理由も教えてください。

確かにそれらの技術も有望ですが、ネックは市場価格が高いこと。そもそも培養肉はまだ市場に流通していませんし、仮に市場に出回ってもしばらくは気軽に食卓に乗る値段にはならないと思います。昆虫食も同じで、興味本位で昆虫食を買う人はいますが、わざわざ高いお金をかけて買おうとする人は多くはありません。

また、技術が進歩して価格を下げられても、今度は価値観の壁があります。海外では給食にも出される昆虫食ですが、日本では心理的な抵抗を感じる人は少なくありません。それは培養肉も同じだと思います。その点、大豆なら普通のお肉と同じくらいの値段で提供できますし、どの国でも豆を食べる文化があります

20年後にはどうなっているかわかりませんが、ここ10年くらいは食糧問題への取り組みを(植物性)代替肉がリードするのではないでしょうか。

日本で代替肉スタートアップが増えない納得の理由

――日本でもスーパーなどで代替肉(大豆ミート)を見かけるようになりましたが、世界の状況についても聞かせてください。

代替肉が最も浸透しているのはアメリカで、代替肉のスタートアップだけでも200社はいると言われています。先日、ウチのスタッフがアメリカとシンガポールでスーパーに行った話の中で、アメリカでは売り場に代替肉を販売する大きなフリーザーが4つあり、シンガポールには2つありました。日本では専用のフリーザーがないことを考えると、世界との大きな差を感じる話でした。

日本では10社ほどの大企業が代替肉を提供していますが、スタートアップは私たちを含めほんの数社だけ。香港には世界的にも有名なメーカーも存在しているので、いかに日本の市場が遅れているかを痛感します。

――なぜ日本では代替肉のスタートアップが増えないのでしょうか。

日本では新しい食品を作るのにも、流通させるのにも大きな壁があるからです。たとえば中国では個人だろうと零細企業だろうと、お金さえ払えば工場が商品を作ってくれます。一方で日本では信用がないと工場が契約すらしてくれません。

私自身も会社を設立する前にいくつもの工場を回りましたが、どこも対応してくれませんでした。会社を設立した後であっても、知り合いを通じてやっと契約できたほどで。契約できただけでもありがたいですが、いま思うと間に人を挟むことでコスト高になってしまうんですよね。それが食領域における起業のハードルになっているのだと思います。

――商品を作るだけでも大変なんですね。

商品を作るだけでなく、流通に乗せるのも大変です。たとえば大手の卸さんと取引しようと思ったら「口座開設に6ヶ月かかります」と言われて。仕方なく私たちはECで売り始めました。大企業同士なら問題ないのでしょうが、私たちのようなスタートアップが6ヶ月も商品を売れなかったら潰れてしまいます。

結局は1ヶ月もしないうちに口座を開設してくれたのですが、日本の商習慣が大企業を前提に作られているのを体感しましたね。スタートアップが商品を流通に乗せるには、そのような壁も超えなければなりません

――逆にスタートアップならではのメリットがあれば教えてください。

話題性とスピードだと思います。大企業もイノベーションを起こそうと取り組んでいますが、社内で稟議を通すのに時間がかかる上に、適切なリスクがとれません。その点、スタートアップなら積極的に斬新な取り組みをはじめられるので、話題になり新しい価値観を作っていけます。

もしも私が大企業の新規事業として始めていたら、こんなスピードでは事業を立ち上げられなかったと思います。大企業では、どんな些細な事でもテストをしたり、承認を得なければ進められません。代替肉のような前例のないビジネスでは、その慎重さが大きな足かせになるはずです。

――設立7カ月でアメリカ市場に上場したのもスピード感あってのことだと思いますが、その狙いはなんだったのでしょうか。

一つは、グローバルな事業展開をするなら、世界最大の市場であるアメリカは外せないということ。アメリカで資金を集め、しっかり認知度を上げていくためにも、アメリカ市場での上場が最適な選択肢でした。

おかげでアメリカでの認知度は高まっており、アメリカのメディアで代替肉のカオスマップなどが作られる時は、必ず私たちの名前も入っています。今後事業を大きく伸ばすには、アメリカ市場の開拓が欠かせません。

――なぜアメリカにそれだけ大きな市場があるのか教えてください。

単純に人口が日本の3倍あるのに加え、ビーガンやベジタリアンの人口が全体の10%ほどいるのも大きな理由です。代替肉は肉を食べられないビーガンの方などに人気なので、それだけでも大きな市場になります。

――アメリカで上場する際に大変なことはありましたか?

上場してからの監査は大変でしたね。設立から7カ月しか経っていないので、監査に対する準備が整っているわけもなく。その対応には苦労しました。逆に言えば、上場で苦労したのはそれくらいです。

事業の起爆剤になった外食産業とのコラボレーション

――代替肉という新しい食品を普及させる上で、有効だった戦略があれば聞かせてください。

外食や中食の企業と組んで、代替肉を使ったメニュー開発したことです。最初はスーパーを中心に卸していたのですが、思った以上に売上が伸びなくて。スーパーとしても、売れるかわからないものに売り場面積を取ってくれません。大企業ならCMなどを売って瞬間的に知名度を上げられますが、私たちはそのような戦略もとれなくて。

そこで次にとった戦略が外食企業とのコラボです。私たちの社名も役立って、様々なお店で「ネクスト〇〇」というメニューを作ってもらいました。ニュースなどにも取り上げられ、多くの方に手にとってもらえて。興味本位であれ、お店で代替肉を食べる人が増えれば、徐々にスーパーで商品を手に取る人も増えるはずです。

パクチーやロマネスコなど、海外の野菜も最初は同じでしたよね。どう調理していいか分からない食材を手に取ろうとする人は多くありません。しかし、お店などで食べて「こうやって食べればいいんだ」と分かれば、自分でも作ってみようと思う。代替肉もそのように広がっていくと思います。

――これから20年先、30年先にどれくらい広がっていると思いますか?

遠い未来のことなので確かなことは言えませんが、肉市場の50~60%くらいには成長していると思います。ただし、動物性タンパク質を完全に食べなくなることは起きないと思います。
今でもブランド牛のように畜産が地域経済を支えている例もあり、それらがなくなることで地域経済が回らなくなるでしょうし、動物が世の中からいなくなるわけではないので。

それでも、肉売り場の半分以上は代替肉になっていると思います。

――最後に、これからの展望を聞かせてください。

代替肉を普及させていく上で最も重要なのは美味しさだと思っています。どんなに安くて、どんなに環境負荷が少なかろうと、美味しくなければ人は買いません。美味しさではなく健康メリットで売れているのは青汁くらいではないでしょうか。

健康にいいこと、環境にいいことを押しても、一時的には売れるだけ。いわば流行で終わってしまいます。時間をかけてでも美味しさを追求し「美味しいから買う」と思ってもらえる商品を追求していきたいと思います。

ここがポイント

・畜産業界は従来のやり方を続けながらも、今の時代に合った環境負荷の低いやり方を選択肢と増やしていかなければならない
・どんな国でも安定的に供給できるタンパク質が豆類であり、代替肉を提供するスタートアップが世界的に増えている理由
・日本で代替肉のスタートアップが増えない理由は新しい食品を作るのにも、流通させるのにも大きな壁があるから
・スタートアップのメリットは、話題性とスピード。適切なリスクが取れること
・事業の起爆剤になったのは外食や中食の企業と組んで、代替肉を使ったメニュー開発したこと
・代替肉普及に欠かせないのは「美味しさ」


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:小池大介