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ジェネレーティブAIは金融サービスを大きく進化させる! | お金とテクノロジーの未来 vol.6

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本記事をご覧になっている皆さんは、少なくとも1度はChatGPT(チャットジーピーティー)を使われた経験をお持ちかもしれません。ChatGPTのような新世代のAIは「ジェネレーティブAI(日本語では生成AIとも表記)」と呼ばれ、ほぼ毎日と言ってよいくらいメディアや新聞紙面をにぎわせています。

GPTとは、「Generative Pre-trained Transformer」の略で、自然言語処理(NLP)の分野で広く使われている大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の一種です。ChatGPTは、GPT技術を活用してOpenAI社によって開発されたAIサービスですが、大量のテキストデータからパターンを学習し文章生成や質問応答、機械翻訳などのタスクを非常に高いレベルでこなせることで一躍有名になりました。

INDEX

大手金融機関が続々とジェネレーティブAIの活用を開始!
“責任あるAI”運用と持続的成功への道
ジェネレーティブAIは革新的金融サービスへの扉を開く最終兵器?

大手金融機関が続々とジェネレーティブAIの活用を開始!

金融サービス業界でも、ChatGPTに代表される会話型AIに熱視線が注がれています。日本では、いち早く大手の金融機関や保険会社がこぞってChatGPT採用のニュースリリースを出す事態にまで発展しました。

普段は動きが遅いと言われる大手金融機関が、なぜこれほどまでにChatGPTに食いついたのでしょうか?その理由は、金融機関の業務構造の特殊性にあります。金融機関の業務構造は、主に以下の3つの特殊性から、ジェネレーティブAI導入による効果が大きいと考えられます。

1つ目は、高度な専門知識が必要な業務が多いことです。金融機関では、投資や融資、保険など多くの専門的な知識が求められます。これまで金融の専門家が行っていた問い合わせ対応や書類作成業務の一部を、ジェネレーティブAIを用いたチャットボットが代行することで、効率化が図られるだけでなく、専門家がより高度な業務に専念できるよう仕向けることができます。

2つ目は、情報の変化が激しい業界であることです。金融市場は絶えず変化しており、金融機関は最新の市場情報を迅速に取り入れて様々な判断を行う必要があります。ジェネレーティブAIはこれまで人手で行っていたデータ分析を代替しかつ高度化する能力があり、最新の情報を適切に把握し、それに応じた業務指示やアドバイス、提案が可能です。

3つ目は、コンプライアンスや法規制が厳しい業界であることが挙げられます。金融機関は、銀行法や保険業法などの法令、種々規制に従い厳格な業務運営が求められます。ジェネレーティブAIは、法令や規制の変更を迅速に学習し、適切な対応策を提案することができ、結果としてコンプライアンスリスクの低減や効率的な業務運営が期待できます。

金融サービス業界におけるジェネレーティブAI活用の方向性(例)

効果 説明 具体例
①業務の効率化 手間のかかる繰り返し作業を自動化し、業務の効率が向上する 問い合わせ対応の自動化、書類作成の効率化、内部コミュニケーションの改善
②行員の知識の補完 AIが最新の金融情報や市場動向を取り込み、行員の知識を補完する 複雑な金融商品の解説やアドバイス、市場分析のサポート、稟議書作成支援、など
③顧客体験の向上 迅速かつ正確な対応やパーソナライズされたサービスを提供する 24時間365日の顧客サポート、顧客のニーズに合った金融商品の提案、パーソナライズされた的確な応対の実現
④リスク管理とセキュリティの強化 AIがリスク要因のパターンを学習し、リスク管理やセキュリティ対策の質を向上させる 不正トランザクションの検出や詐欺予防、個人情報保護の向上
⑤コスト削減と収益の向上 人件費や業務効率化によるコスト削減が期待できる 顧客対応の自動化による人件費削減、業務の効率化によるオペレーションコストの削減
⑥新たな金融サービスの創出 個々の顧客ニーズに対応した金融サービスや商品の開発が可能になる 個別顧客向け投資ポートフォリオの作成、個人向け金融プランの提案
⑦データ活用と分析力の強化 大量のデータを自動で分析し、インサイトを導出することでビジネス戦略や顧客対応に活かすことができる 顧客の購買履歴や口座取引データからの売上予測、顧客の信用スコアの算出
⑧組織の柔軟性と競争力の向上 AI技術の導入により、組織が変化に対応しやすくなり、競争力が向上する スピーディーな意思決定、新規ビジネスモデルの開発や導入、従業員のスキルアップ

これらの特殊性から、大手金融機関はジェネレーティブAIに積極的に取り組むことで、効率化や最適化、リスク管理の強化による競争力の向上を目指しているといえます。

“責任あるAI”運用と持続的成功への道

今後、金融機関はジェネレーティブAIを活用しつつ、倫理や法規制に沿った運用、いわゆる“責任あるAI”(安全、信頼、倫理的な方法でAIシステムを開発、評価、展開するためのアプローチのこと。運用するAIが安全で信頼でき、バイアスがないことを保証する)の運用が求められます。

そのためには、技術者や金融専門家、規制当局との連携が不可欠です。2023年4月に行われた先進7か国(G7)デジタル・技術相会合においても、責任あるAIを実現するための行動計画が採択されました。こうしたAIのガバナンスフレームワークを巡る世界的な動きもキャッチアップしていく必要があるでしょう。

また、金融機関はジェネレーティブAIを導入する際に、顧客に対して十分な説明やサポートを提供することが求められます。顧客がAI技術を理解し、信頼できるサービスとして利用できる環境を整えることが、金融機関の持続的な成長成功へと繋がるはずです。

さらに、AI技術の進化によって生じる雇用への影響も懸念されます。金融機関は、AI導入による効率化や自動化が進む中で、従業員のスキルアップや再教育を通じて、より高度な業務に適応できる人材を育成することが重要です。

ジェネレーティブAIは革新的金融サービスへの扉を開く最終兵器?

ジェネレーティブAIは、ChatGPTのように、簡単に使えて効果がわかりやすいサービスが出現したことによりブレークしたわけですが、単なる“賢いチャットボット” ではありません。ジェネレーティブ、すなわちコンテンツ生成で大きな威力を発揮するため、例えばプログラムコードの作成や画像、あるいは動画の作成も得意とする領域です。

さらに面白いことに、AIに対して投入する自然言語による指示(プロンプトと呼ばれる)によって、アウトプットの質やレベル感をコントロールできるのも大きな特徴です。すなわち、使う人の技量によって受け取るモノが異なるというわけですが、これはAIを利用するユーザーが、自分のニーズや目的に応じて、より適切な結果を得ることができるというメリットがあります。

このように、企業内のあらゆる人がダイレクトに恩恵を受けられるというのが、ジェネレーティブAIが金融機関から大注目されている理由でしょう。さて、そのようにして生産性を究極に向上させると何が起きるのでしょうか?

企業がジェネレーティブAIを活用してうまく仕組み化すると、理論上、これまで人手で対応していた追加作業に対する限界コストを限りなくゼロに近づけることができます。そうすると、投入コスト(仕組みの構築や運用にかかるコスト)に対して効果が飛躍的に向上する(例えば効果が数倍に増加する)ことが期待されます。この効果は、業務の効率化や生産性向上、そして企業の競争力の向上に直結し、しいてひいてはROoE(自己資本利益率)の向上にも寄与することになるでしょう。

結果として、従業員はより高度な知識やスキルを活用した創造的な仕事に集中できるようになります。例えば、ジェネレーティブAIを新規事業やユーザーテストの壁打ち相手として用いることで、事業開発のコスト削減とサイクル短縮を試みるPoCを進めている金融機関もすでに存在します。

ジェネレーティブAIはまだまだ黎明期の技術ですが、使い方次第で無限の可能性を秘めているといっても過言ではないでしょう。個人的には、金融以外のサービスとの組み合わせで新たな価値を創出しやすくなるのではないかと考えています。例えば、PFM(個人財務管理)アプリとフィットネストラッカーのデータを掛け合わせ、個別のニーズに合わせた健康と財務のアドバイスを提供するサービスなどが考えられます(例えば、適切な運動量や食生活の改善、節約方法、投資戦略など)。サービスを盛り上げるためのコミュニティ作りにおいても、ジェネレーティブAIは大きな威力を発揮するでしょう。

金融機関だけでなく、多くのフィンテック企業もジェネレーティブAIに注目しており、すでに新機軸のサービスを提供し始めている企業もでてきているようです。近い将来、想像をはるかに超える、革新的な金融サービスが登場することを期待したいと思います。

[藤井 達人:みずほフィナンシャルグループ 執行理事 デジタル企画部 部長]
1998年よりIBMにてメガバンクの基幹系開発、金融機関向けコンサル業務に従事。その後、マイクロソフトを経てMUFGのイノベーション事業に参画しDXプロジェクトをリード。おもな活動としてFintech Challenge、MUFG Digitalアクセラレータ、オープンAPI、MUFGコイン等。その後、auフィナンシャルホールディングスにて、執行役員チーフデジタルオフィサーとして金融スーパーアプリの開発等をリード。マイクロソフトに復帰し金融機関のDX推進、サステナビリティ戦略の立案等にも携わる。一般社団法人FINOVATORSを設立しフィンテック企業の支援等も行っている。2021年より日本ブロックチェーン協会理事に就任。同志社大卒、東大EMP第17期修了。

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