2022年9月28日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.43」を実施しました。(過去のイベントレポートはこちら)。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。
今回ご登壇いただいたのは、AnchorZ代表取締役CEOの徳山真旭さんです。同社は、世界初の本人認証技術「バックグラウンド認証®」を開発。現在20個以上の国際特許を取得し、IDやパスワードを覚えなくてもオンラインサービスが利用できる世界を目指しています。
インターネットで買い物をする人が徐々に増えてきた2009年に「本人認証の負担と不安をなくしたい」という思いで創業。そこから約9年かけて、バックグラウンド認証®を完成させました。
「サービスが認められなかったり、仲間が離れていったり、9年間は地獄でしたよ」と語る徳山さん。そんな中でも、信念を曲げずに開発を続けられた理由や今後の展望などを本イベントで語っていただきました。モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。
INDEX
・友人の「パスワードが覚えられない」を解決するため会社を設立
・誰しもが使えるセキュリティサービスを世界へ広げていきたい
友人の「パスワードが覚えられない」を解決するため会社を設立
携帯電話やWebサイト、アプリなどサービスに接続する際に必要になる「ID」や「パスワード」。今や本人確認のために当たり前に使われる一方、「パスワードをうっかり忘れて入れなくなった」「再発行しなくてはいけなくなった」と、面倒くさい思いを経験した人は多いのではないでしょうか。
そのような悩みを解決するのが、今回登壇したAnchorZ。常に統合バックグラウンド(顔や声、使い方の癖や利用履歴、行動履歴など)で本人認証をする技術「バックグラウンド認証」を開発し、パスワードを覚えなくてもいい世界を実現しようとしています。
イベント冒頭、同社代表取締役CEOの徳山さんの起業に至るまでの経緯が語られました。
徳山さんのキャリアは、常にパソコンが中心でした。新卒で入社したユナイテッド航空の日本支社では、経理データの管理を任されたことをきっかけに、パソコンを独学しました。
2社目のシャープでは、営業の情報データの管理を担当。3社目のアーク情報システムでは、ノートパソコンにCD-ROMがなくても、データを読み出せる「仮想CD-ROM」を企画・開発販売をして、世界的に認められる商品を作りました。
そんな徳山さんは、プライベートでもパソコンに関する質問を受けることが多くなって「パソコン博士のようになっていった」と言います。
徳山さん「仕事で使う人たちだけでなく、主婦の人たちからも質問されました。楽天市場やYahoo! ショッピングなどが普及し、オンラインショッピングのニーズが増えたからです。
ただ、質問に答えるものの、一向に使い方を覚えてくれないのですよ。なぜか考えてみると、ショッピングをしたい人たちは、そもそも『パソコンの使い方』には興味がないのだなと。購入さえできればいいのだと気がつきました」
AnchorZ 代表取締役CEO 徳山真旭さん
「バックグラウンド認証」が生まれたのは、会社から「BtoBで面白いビジネスを考えてみてよ」と言われたことがきっかけでした。徳山さんが考えたのは「本人認証の負担を下げて、オンラインサービスの利用ハードルを低くできないか」ということでした。
徳山さん「本人確認を2度に分けて行う『二段階認証』のパスワードを覚えられない友人がいました。そこで『覚えていないから悪い』と指摘するのはおかしいなと。サービスを提供する側の工夫が足りないと感じたのです。
セキュリティに対して苦手意識がある人のために、ソリューションを提供したい。認証のためのパスワードをなくせたら、『覚えられない』という悩みも解決でき、オンラインサービスを安心して利用できる世界になるなと思いました」
利用者本人の複数の生体情報に基づき、バックグラウンドで常に本人確認ができる「バックグラウンド認証」を考案しました。ただ会社からは「今ある技術では実現は難しいだろう」と、受け入れてもらえませんでした。
それから3年ほど悩んだ徳山さんでしたが、「自分でやるしかない」と決意。情報の偽装・漏洩リスクがないセキュリティで、誰もが簡単にオンラインサービスを使える世界を目指して、2009年に創業しました。
今回のイベントはハイブリッド配信で行われた
誰しもが使えるセキュリティサービスを世界へ広げていきたい
徳山さんが開発したバックグラウンド認証を使用した「DZ Security®」は、3つの特徴があります。
1つ目は、誰でもすぐに使えること。本人確認の際にパスワードを覚えなくても、顔や指紋認証をする必要もありません。2つ目は、偽装される心配がないこと。バックグラウンド認証では、利用者本人の顔や声、その他の情報(コンテキスト)など複数の生体情報によって定常的に本人認証します。3つ目はサーバーに個人情報を預けなくて済むこと。スマートフォンに個人情報・認証情報などを入れることができます。
徳山さんはこのバックグラウンド認証の開発を始めるにあたり、特許の取得に5年、その実装に4年、なんと約9年かけて開発しました。開発までは辛い道のりだったと語ります。
「まず、サービスを受け入れてくれる企業が見つからず、1年目の導入企業はゼロでした。アイデアに対して『面白い』『素晴らしい』と反応をしてくれるものの、ベンチャーのセキュリティソリューションは信用面から受け入れてもらうことが難しかったです。
次に、創業メンバー2人の退職。創業4年目に特許が取れて、受託開発からバックグラウンド認証の技術実装に完全に切り替えようとしました。すると受託の仕事をしていたメンバーからは『これまで得たクライアントからの信頼を大切にしたい』と言われ、対立してしまい、結果退職することになってしまいました」
サービスを受け入れてもらえなくても、仲間が離れていっても、芯を曲げず開発を続けた徳山さん。原動力となったのは「身近な人のセキュリティの課題を解決したい」という想いでした。
徳山さん「パスワードも4桁から6桁、8桁に増え、大文字や英数字が必須になり複雑に。私も覚えるのが難しくなりました。そのうち誰もがデジタルサービスを使う世界が来るのに、パスワードを覚えられない人たちをほったらかしにはできないなと。ますます事業の意義を感じました」
そして、2019年にイギリス・ケンブリッジのArm社とAIパートナー契約締結という転機が訪れました。半導体の心臓部であるCPUの設計をしている同社に技術を認められ、AnchorZの技術を使ったソフトウェアの開発に取り組んでいます。開発が完成すると、ハードウェアの本人確認は最初の登録のみで、常に本人認証を維持できるようになるそうです。
現在は、銀行や学校のオンライン授業で「DZ Security」の導入が増え、バックグラウンド認証が、世の中に受け入れられつつあると語ります。
さらに、2022年10月には新しい製品「DZ IAP(DZ Intelligent Access Platform)」を発売。バックグラウンド認証を使ったプラットフォームサービスで、参加している人同士が安全性を確保しながら情報を共有することができるもの。本サービスで10社に対しても、1回の初期登録だけで済むようになるそうです。イベントの最後に今後の展望ついて語りました。
徳山さん「私たちのサービスは内容的にも、利用者が大手企業になることが多いです。しかし、ベンチャー企業のセキュリティサービスは信用を獲得するのが難しい。『個人情報は大丈夫なのか』と気にされることがかなり多いです。
今後は顧問弁護士の力を借りながらも、私たちのサービスの安全性を主張していきたいです。そのためにも、『日本から世界を変えてやるぞ』というモチベーションがある技術者と一緒に、会社を大きくしていきたいですね」
▼当日のセッション
『本人認証の負担と不安をなくすイノベーションを』
https://youtu.be/DBOhOfODetM