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デザイナー/メーカーと一緒に作るサステナブルな未来。 米国で11万人が利用する建材サンプルマーケットプレイスを日本展開するMaterial Bank®︎ Japanの戦略

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2019年にサービス開始し、急成長している「Material Bank®」という米国発のサービスがある。Material Bank®は、建材サンプルマーケットプレイスで、建築・インテリア業界に従事するデザイナーと建材メーカー(建材・塗料・家具・装飾品などのメーカー)を繋ぐサービスだ。
多様なメーカーの建材サンプルを1つのサイトで横断的に検索し、取り寄せられるのが特徴で、自社倉庫でサンプルの保管から配送まで一気通貫で行っている。この独自のモデルは瞬く間に米国のデザイナーたちから支持を得て、今や約11万人のデザイナーに利用され、取扱メーカー数は約450社を超える規模に成長した。

今回は、そんなMaterial Bank®の日本展開を担うMaterial Bank® JapanのCEO、中沢剛氏にインタビュー。「デザインする人と素材とを結びつけるテクノロジーインフラをつくる」をビジョンに掲げ、米国で生まれたサービスを日本の市場でどのように展開させているのか。そして、今まさに同氏も奮闘しているという、ビジネス展開の要となる組織開発について伺った。

中沢 剛
Material Bank Japanを運営するDesignFuture Japan株式会社CEO。
デザイン業界の課題解決にパッションを持つ。
2000年代の黎明期ファッションECなど複数の事業開発に従事したのち、2012年よりソフトバンク社長室に参画。孫正義氏のもと戦略立案と各種特命案件に携わる。ベンチャー経営、大学研究員を経て、2022年に当社設立。著書「アイデアのスイッチ!」(単著)「NTTデータ流ソーシャルテクノロジー」(共著)。クリエイティブな生き方/働き方を実現するようなサービス(事業開発)と、それを地で行くようなチーム作り(組織開発)の実現が2大ライフテーマ。

INDEX

デザイナーと建材メーカー、両者が本来の業務に集中できる環境を整備する
米国での「勝ちパターン」を、敢えてアンラーンする
米国と日本の事業運営は対等な関係が理想
多様性を尊重し、事業も組織もロールモデルとなる
ここがポイント

デザイナーと建材メーカー、両者が本来の業務に集中できる環境を整備する

――米国でMaterial Bank®が生まれたきっかけを教えてください。

中沢:Material Bank®は、建築・インテリア業界のデザイナーと建材メーカーを繋ぎ、多様な建材サンプルの検索、請求、配送までを1つのサイトで行える建材サンプルマーケットプレイスです。デザイナーと建材メーカー、両者がそれぞれ抱える課題を解決し、本来の業務に集中できる環境づくりを目的として生まれました。

中沢:まず、デザイナー側は、建材サンプル探しと取り寄せに膨大な時間がかかることが課題でした。一概には言えませんが、デザイン業務には各フェーズの中で建材や家具の検討、図面の作成、施主への提案、といった作業が含まれます。

Material Bank®が行った調査によると、デザイナーはこれらの業務フローの中で、約4割もの時間を建材探しとサンプル取り寄せに費やしているという結果が出ました。ひとつの空間設計において必要な建材は、壁装材、床材、天井材と複数あり、材質も木、タイル、石膏、塗料など多岐に渡り、問い合わせ先も多くなります。

加えて、探し方も見本帳・Web・カタログ・営業など、取り寄せ方法も、メール・FAX・電話などと様々あり、サンプルも別々のタイミングでバラバラに届くため管理が煩雑で履歴も管理しづらくこれらが積み重なり膨大な業務量になっていました。

――確かに、カテゴリーも種類も発注方法も多種多様ではかなりの時間がかかりそうですね。

中沢:施主に提案するデザイン・マテリアルを考えるために頭を使うところに時間を使いたいところですが、実際には前後の作業に多くの時間が費やされているのです。

Material Bank®がアメリカで一気に浸透していった要因は、まさにこれらの業務負荷の高さを解決できたからこそだと思っています。

――他方でメーカー側にはどのような課題があったのでしょうか?

中沢:メーカー側には、デザイナーのプロジェクト進行状況が見えにくいため、どのタイミングで商品の提案やアプローチをするのがベストなのか、見極めが難しいという課題がありました。

Material Bank® Japanはこれらの課題解決のために、両者を繋ぐプラットフォームです。デザイナーは、サンプル探しに関する作業を効率化することでデザイン業務に集中できるようになります。メーカーは、デザイナーに対して自分たちのブランドや商品を理解してもらいやすくなると同時に、プロジェクトで必要とされるタイミングでのアプローチが可能になります。これにより営業は提案活動に時間を使えるようになり、またデータを活用した商品開発にも取り組みやすくなります。

お互いが本来時間を割くべき業務に集中できる仕組みを確立したのです。

米国での「勝ちパターン」を、敢えてアンラーンする

――サービスの展開先として、アメリカの次に日本市場が選ばれた理由を教えてください。

中沢:ポイントは3つあります。1つ目は、単一国の市場で経済的な規模感が大きいこと。2つ目は、建築や建材、デザインという領域に歴史があり、独自性もあること。3つ目は、デザイン工程をリサーチしたときに、米国との共通点が多かったこと、ですね。

――建物のデザイン工程は日米で似通っていると?

中沢:はい。もちろん、造る物は異なるので使用するマテリアルは異なりますし、そもそも市場にいるメーカーが違うなど差分はあります。ですが、プロジェクトの中で、コンセプトから、デザイン・設計に落とし込む各プロセスの中でどのようにマテリアルの検討をするかという点が米国のそれと似通っていました。

だからといってMaterial Bank® Japanが日本で簡単に受け入れられるかというと、そうではありません。米国では課題が大きかったデザイナーの業務フローは共通していますが、実際にサービスを使うのは日本の方々です。

文化や商習慣が異なりますし、ビジネスに対する考え方も、受け入れ方も違う。そういった意味では、「米国で成功を収めたから、日本でも同じように」とは考えず、アンラーンしながら向き合ってきました

――では、どのように日本市場への展開を進めているのでしょうか。

中沢国を超えて事業展開をしていくときに最も重要なことは、バリューマーケットフィットだと考えています。要するに、その事業・サービスの本来の価値を市場に提供できる状態であるかどうか。

そのために僕らが最初にしたことは、Material Bank® Japanが提供できる本質的な価値を深く追求したことです。事業が持つ普遍的な価値を日本という米国とは異なる市場にフィットさせるためにはどうしたらいいのか、どういう形であればいいのかと、改めてこの事業と向き合いました。

自国で大成功した事業を、他国に持ち込んだ途端に苦戦を強いられる状況をよく見かけますが、それは事業か市場のどちらか片方にしか矢印が向いていない場合が多いのではないかと思います。

そうではなく、事業と市場の両方に目を向け、双方がフィットし続けるプロセスの構築に真摯に取り組まなければならないのです。

――「自国で成功したから」と、他国でもそのままのやり方で事業を展開してしまうケースは多そうですね。

中沢:加えて、展開先の国に根付く課題にも改めて目を向ける必要があります。その国のターゲットユーザーは、何に困っていてどんな課題を抱えているのか。国が変われば文化も人も変わり、どこに課題を感じるのかも変わってきます。

僕らは日本での展開前、たくさんの日本のデザイナーや建材メーカーの元に足を運び、愚直にヒアリングを重ねました。「何に困っていますか?」「どういうフローでお仕事をされていますか?」「煩わしい作業はありますか?」と、日本のデザイナー・メーカーの方々の声に向き合ったのです。一見すると本当に地道で、他の人から見れば「そこまでしなくても」と思う作業かもしれません。

ですが、このプロセスを経たことで、日本のユーザーが感じている課題を解決するソリューションとして、Material Bank® Japan が価値を提供できそうだと自信が確固たるものになりました。

こうして言葉にすると、当たり前のことだと感じるかもしれません。ですが、実際にサービスを利用してくださるユーザーの理解は、意外と見逃している企業が多いのではないかと思います。自国での成功体験を一度手放し、勝ちパターンを敢えてアンラーンする。手間はかかりますが、別の市場で勝負する際には改めて原点に立ち返る必要があるのではないでしょうか。

米国と日本の事業運営は対等な関係が理想

――バリューマーケットフィット以外で重要視したポイントはありますか?

中沢:日本のマーケットでサービスを立上げる上で、サービスを生み出した米国との関係性は意識していましたね。

例えば、サービス発祥国と展開国でどちらかが指示を出す上下関係があったり、忖度し合う関係があったりすると、グローバル経営の実現はかなり難しくなると言わざるを得ません。特に、立ち上げ時などスピード感が求められるフェーズにおいて判断待ちになってしまうと、意思決定や行動にも遅れが生じてしまう可能性があります。

サービス展開国にとってサービス発祥国は、縛り付けたり寄りかかったりする関係性ではなく、困ったときに頼れる相談役のような存在であり、あくまでも意思決定をするのは現地法人という関係性がベスト。そういった関係を作るために、働く上での倫理観のすり合わせや共感も重要ですし、お互いに受け入れ合う姿勢も大切になります。

裏を返せば、発祥国はアドバイスをしたとしても、決定権は現地法人にあるため思い通りに動くとは限らないと理解すること。展開国は発祥国が大切にしていることを咀嚼し、もらったアドバイスや意見を聞き入れる姿勢をもつ必要があります。そのためには両者のリスペクトが何よりも重要です。

実際、日本で法人を立ち上げる前、Material Bank®の創業者はもちろん、米国のメンバーが「どのような想いや覚悟を持って事業を展開しているのか」を知るために、訪米しました。日本展開前にお互いの考えを擦り合わせるこのプロセスがあったからこそ、今のような対等で良好な関係性が構築できたと思っています。

多様性を尊重し、事業も組織もロールモデルとなる

中沢:バリューマーケットフィット、米国との関係性に加え、日本におけるチーム作りでも心がけていることがあります。

――チーム作りで心がけていること、ですか。詳しく教えてください。

中沢:ビジョンの設定がそれです。ビジョンには大きく2種類あって、1つは会社・事業のビジョンです。

米国と日本チームとの関係性とも似ているのですが、チームメンバーのマインドセットも「言われたことだけをやる」では、なかなか前に進みません。

同じMaterial Bank®サービスを展開するうえでも、市場が異なればユーザーも異なるため、マテリアルの掲載方法や使いやすいサイトのUI、マテリアルの説明の仕方、デザイナー・メーカーの巻き込み方も異なってきます。そのような中で、日本の市場に精通しているメンバーが「こういうふうにするべきだ」と提案できる環境、そしてスピーディに意思決定できるチームを作る必要があります。

そのためにも、チームメンバーに対し「Material Bank® Japanはどういった課題を解決し、どう社会に貢献しているのか」「何のためにこの事業をしているのか」といったビジョン、目指すべき場所を示し続けていくことが肝心です。
もう1つは個人のビジョンです。チームは個々人が集まり、会社・事業のビジョンに向かい、足並みを揃えて推進していきます。ですが、そもそも人にはそれぞれ目指すべき理想や目標があるはずです。

そういった個人のビジョンは、必ずしも会社・事業のビジョンと完全一致するわけではありません。僕たちMaterial Bank® Japanの中でも、チームで機動するノウハウを学びたいと思っている人もいれば、1つの目標を達成するプロセスを体感したいという人、デザイナーの課題を解決したい人など、多種多様な個人ビジョンを持ったメンバーがいます。

そのようなバラエティに富んだメンバーたちに、僕らは「その考え方を持ったままでいいよ」と伝えているんです。

――なぜ「その考え方を持ったままでいい」と伝えているのでしょうか?

中沢:そうすることで多面的なメンバーが集まり、新しいアイデアが生まれたり、お互いに刺激を受けたり、チームとして大きな成長が期待できるからです。おかげで、Material Bank® Japanには、雇用形態も個人ビジョンも異なる様々なメンバーが在籍してくれています。

会社・事業のビジョンと個人のビジョンは、完全一致ではなくとも、どこかで重なる部分があるから一緒に事業を推進していける。そして、 Material Bank® Japanの中で得たものを人生の中で1つのステップアップとして進んでいくようなマインドで仕事をしてほしいと、包み隠さず話していますね。
一人ひとりが、自分のビジョンと会社・事業のビジョンを原動力に思いっきり仕事ができると、自然と事業の推進力もあがっていく循環が生まれていきます

――そういったチーム作りの考え方は、ご自身の経験の中で培われていったのですか?

中沢:そうですね。僕はこれまで、いろいろな立場から事業開発や新規事業の立ち上げに携わってきました。新しいことをするには常に、想像以上のエネルギーを必要としますし、スピードも重要な要素の1つです。

ビジネスを続けていくと「何のためにやっているのか?」「自分たちがしていることに意味はあるのか?」と思い始め、心が折れそうになることがあると思います。それに打ち勝つためにはビジョンが重要だと、経験の中で実感してきました。ただ、頭ではわかっていても実行するのはなかなか難しいものです。組織開発においては、僕らも模索しながら、進めているところです。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

中沢:2023年1月に実証事業を始めてから半年、市場もユーザーも常に変化し続けていると実感しています。

さらにこれからは、SDGsやエシカルな側面も重要だと感じています。これからMaterial Bank® Japanを使用いただく感度の高いみなさんは、新しいサービスを見たときに、本質的にサステナブルな価値があるかどうかを見抜く目を持っています。

特にこの業界では、取り寄せたたくさんのサンプルは処分してしまうため、今後はこういった産業廃棄物問題も大きなポイントになると予想します。

事業開発においてはもちろんですが、組織開発でも多様性が求められる今、我々があらゆる面でロールモデルとなれることを目指していきます。

ここがポイント

・Material Bank® Japanとは、建築・インテリア業界に従事するデザイナーと建材メーカーを繋ぐ、建材サンプルマーケットプレイス
・ビジネスをグローバル展開させるときは、バリューマーケットフィットが大切
・事業は常に、課題から。国境を越えても、課題からスタートする
・米国と日本の事業運営は信頼関係を基盤に対等な関係で
・チーム作りは、会社・事業のビジョンと個人のビジョンで考える
・サービスで、本質的なサステナビリティの価値を伝える


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:田邉なつほ(声音)
撮影:幡手龍二