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リモートワークで成果を出すチームの仕事術-ゴールドマン・サックス出身のSymphony上原氏に聞く

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世界を取り巻く環境が様変わりし、リモートワークに切り替える企業が増えている。
そんな中、リモートワークが当たり前という環境で成果をあげてきた人たちがいる。
その一人が、扱う情報の性質上、遠隔での仕事が難しいとされていた金融業界の業務効率化の一翼を担っているSymphonyのAPAC地域代表代理の上原 玄之氏だ。上原氏は20年間ゴールドマン・サックスで世界中に上司や部下が点在し「10年ほどオフィスに上司がいたことはない」という驚きの環境で難しいミッションを達成してきた。まさにリモートワークの先端を走ってきた。
多様なバックグラウンドを持ち、さらに遠隔地にいるメンバーをチームとしてどのようにまとめ、成果を出してきたのか、その秘訣をお伺いした。

INDEX

リモートワークで大事なことは個人が組織のミッションをしっかり理解すること
評価の対象は成果物。オフィスに来てどれだけ頑張ったかではない
いろんなアングルからリスク検証された結論は失敗が少なく堅牢


上原 玄之
コロンビア大学卒業後、約20年間にわたりゴールドマン・サックス社にて日本・香港・インドを含むアジア地域のテクノロジープラットフォームの構築やワークプレースの変革に携わり、Symphony導入にも貢献。2017年8月よりSymphonyにてアジアパシフィック戦略・企画担当として日本市場およびアジア地域での事業展開に従事。グローバル金融業界でのテクノロジーインフラやプラットフォームに関する経験を活かし、グローバルおよび日本の金融機関のコミュニケーション・プラットフォームを通じた業務効率向上をサポートしている。

リモートワークで大事なことは個人が組織のミッションをしっかり理解すること

Symphonyが誕生したのは、2014年。 世界の大手トップ15の金融機関が共同出資して発足し、Symphonyの現CEOであるDavid Gurléが元々創業したPerzoを買収して始まった。セキュリティやコンプライアンスが厳しく問われる性質上、便利な情報プラットフォームがなかなか導入できなかった金融業界でも、チャットやモバイル業務、WEB会議など、遠隔でも仕事ができるセキュアなコラボレーションプラットフォームを展開。日本でも、メガバンクや証券会社が導入しているほか、東京証券取引所でも実証実験が行われている。

上原氏は2018年にアジアに拡大するところで加わっているが、それまではゴールドマン・サックスに約20年勤務していた。

「実はゴールドマン・サックス在職中から、Symphonyのプロトタイプづくりに関わっていました。自分自身もかつて、こんなシステムがあったらと思っていた悲願のシステムであり、金融業界のコラボレーションをどう効率化するか、というミッションに賛同し、退職することにしました」

今もそうだが、ゴールドマン・サックス時代を含めこの10年ほどオフィスに上司がいたことはないという。ロンドンにいたり、香港にいたり、アメリカにいたり、インドにいたり。

「世界中にチームメンバーがいました。そのときにその場にいるように会話ができる情報ツールがあれば便利だなと思う場面が幾度もあったんです」

今は日本でもリモートワークが拡大しているが、組織のパフォーマンスを上げる上で最も大事なことは、個々人が組織のミッションをしっかり理解することだと語る。

「自分たちは何のために仕事をしているのか。それをリーダーは発信し続けないといけない。また、メンバーが本当に理解できているか、常に聞く必要がある。前職でも現職でも、社内ブログや社内SNSなどを活用して、組織のミッションやそれに対する自分の考えを頻繁に発信するようにしています。顔を合わせないからこそチームがうまくいくための基本は大切にするべきです」

評価の対象は成果物。オフィスに来てどれだけ頑張ったかではない

ミッションが浸透していないチームは成果を上げることは難しいという。

「私がよく言うSymphonyのミッションは、『コラボレーションや業務の自動化・効率化により企業の業務を加速すること』。いきなりミッションを聞かれたとき、これが出てこなければ大問題です。部下にいきなり聞いて、答えられなければコミュニケーション不足、もしくはミッションが明らかになっていない可能性があります」

ゴールドマン・サックスを含め豊富な経験上、多数の社員が在宅などリモートワークになった場合は、自律的な組織だけが効率良く仕事ができ、指示待ちの自律性不足の組織は極めて仕事効率が悪くなるという。

「ミッションを理解して賛同していれば、個人個人がクリエイティブな方法を見つけて、ミッションを果たす方法を考えるんです」

ただ、初めて仕事をする人とは、できるだけ対面で会うことを意識してきた。状況に応じて、ツールを使ってWEBミーティングを行うこともあるが、大事なのはお互い何を考えているのか、相互理解を深めておくこと。一度それができれば、顔を合わせなくてもかなり仕事は進められるという。
今は東京、香港、シンガポール、オーストラリアのスタッフみんなで、アジア全域を見ている。

「スタッフは海外にもいますが、彼らがオフィスに来ているかどうかも、私にはわかりません。逆に彼らは、頑張っているので評価してくれるだろう、とも言わない。評価の対象は成果物だけです。オフィスに来て、どれだけ頑張ったか、ではなく、どんなプロジェクトをどう進めたか。距離があるからこそ、大事になるのがミッションを共有することなのです。それがわかっていれば、どうプロセスすればいいかも個人でわかる

自身も、最も大切にしているのは、ミッションだという。

「こういうことを解決したい、顧客と一緒にこんなことをしたい。ミッションをちゃんと持っていれば、仕事は楽しいものになります」

いろんなアングルからリスク検証された結論は失敗が少なく堅牢

これからはさらに変化への柔軟な対応力が求められる。上原氏の何でも面白がる性格はどのように磨かれていったのだろうか?

「父親の仕事の関係でアメリカに住むことになり、現地の高校に通いました。もちろん高校からはじめての海外なので語学の壁を超えるのは容易ではありませんでした。でも環境に慣れていくに従い、とても居心地がよくて。卒業後もアメリカに残り、コロンビア大学に入学しました。理系の科目が好きだったこともあって、土木工学を専攻したんですが、3DデザインやCGの授業でコンピュータに出会ったんですね。
当時はインターネット黎明期でしたが、コンピューターとコンピューターがつながって、コミュニケーションができる、ということにとても興味を持ちました。それでアルバイトをして機材を揃えて、いろんなことにトライしていたんです。
就職することになったとき、最先端のコンピューター機材はどこにあるのか、と思ったわけです。それは金融じゃないか、と思いました。ゴールドマン・サックスに入り、日本で働き始めました」

1998年のゴールドマン・サックス入社後は、日本・香港・アジア地域のテクノロジープラットフォームの構築やワークプレイスの変革に携わっていた。

全力で仕事をすれば、いろんなことを自分で決められる。自由に仕事ができ、世界中の人とコラボレーションができる。楽しかったですね。多様なメンバーがいて、いろんなアイディアが出てくる。海外のメンバーは会議では自分の意見を自由に言うので、何か物事を決めるのは大変です(笑)。
でも、多様性を面白いと思いました。いろんなアングルからリスクが検証されますから、大きく失敗することはないですし、このプロセスを経て出てきたものは強いんです」

コンピューターテクノロジーがまさしく急速に進化していった時代。上原氏は最先端の技術に携わるだけでなく、グローバルな仕事にも従事し、ゴールドマン・サックスのヴァイスプレジデントとしてもさまざまな仕事経験を積んだ。

「世界でいろんな仕事をしましたね。インドでオフィスビルを作る、なんて仕事もありました。インドに行ったこともなかったんですが、日本や香港から20人ほどが送り込まれて3カ月ほどカンヅメになりました。
国によってやり方は違うんですよね。日本は、正確だけれどリスクを取らず、人件費が高い。インドは対極で、人件費が高くなく、とりあえずやってみる。両方を学び、両方にリソースを抱えている組織だと、ハイブリッドなアプローチができ、柔軟性とスピードを持ってプロジェクトを押し進めることができます。こういうことを、グローバルな組織で学ぶことができました」

上原氏のアメリカでの生活は、自分で選択した環境ではなかった。しかし、与えられた環境の中で、できることを積み重ね、時に学びながらアメリカでの生活を居心地が良いと思えるところまで、溶け込みチームとしての仲間意識を高めていった。

私たちの働き方はこれからも変化し続けるだろう。今まで以上に自らの選択とは違う変化と向き合うことになる。会えないコミュニケーションが増えていく中でチーム力をいかに上げていくか、デジタルトランスフォーメーションの加速とともに、意思疎通を図るためのチームミッションの定義づけや個々のスキルの底上げが急務となる


企画:阿座上陽平
取材:上阪徹
文:丸山香奈枝
撮影:刑部友康