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ZENKIGEN野澤比日樹氏がWEB面接ソリューション「HARUTAKA」で見据えるHRの未来

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人材採用の際に多くの人事担当者が頭を悩ませているのがミスマッチだろう。せっかく費用をかけて候補者を採用しても、ミスマッチが起きれば早々に転職してしまう。

このような課題の解決を目指す企業が、株式会社ZENKIGEN。その事業はテクノロジーを用いた採用支援だ。企業の採用力を強化するWEB面接ソリューション「HARUTAKA」をはじめ、候補者体験の向上を支援する面接官サポートAI「ZIGAN」(β版2019年10月発表)など、HRテックの領域でプロダクトをリリースしている。

今後、HRとテクノロジーが融合すると、どのような世界が訪れるのだろうか。この記事では同社代表の野澤比日樹氏に、事業を通して実現したいビジョンや、HRテックの未来について伺った。

INDEX
サイバーエージェントからソフトバンク、創業までの履歴
「上りのエスカレーターに乗れ」創業時に思い出した、サイバーエージェント藤田氏の言葉
AIはディストピアを作らない、野澤氏が思い描くテクノロジーのあるべき姿
採用にはこだわらない、ビッグデータを活用して「人と企業を全機現する社会」を作りたい

野澤比日樹
株式会社ZENKIGEN 代表取締役社長
1998年、インテリジェンスに新卒入社。翌年に創業期のサイバーエージェント入社。大阪支社立ち上げ、社長室、事業責任者として会社の急成長に貢献。2011年6月、ソフトバンクアカデミア外部1期生として参加する中、孫正義会長から声がかかり、ソフトバンク社長室で電力小売事業「SB Power」を立ち上げる。その後、個人向けの日本初、森林寄付型の「自然でんき」を発案から販売までの事業責任者として従事。2017年10月ZENKIGENを創業、現在に至る。

サイバーエージェントからソフトバンク、創業までの履歴

代表取締役社長の野澤氏は、同社を創業する前に一貫して新規事業の立ち上げに関わっていた。学生時代から社会変革に関心が高く、一時期は政治家になることも夢見ていたという。なぜ野澤氏は、ビジネスの世界に足を踏み入れたのか。

野澤:「私は学生時代から『世の中にはおかしなことが多い』と感じていて、それを変えるには制度の改変が必要だと考えていました。一時は政治家を志した時期もありましたが、政治家は豊富な資金が無いと政策づくりに集中できません。だからまずは資金を作ろうと思い、ビジネスマンになったのです」

野澤氏は新卒1社目で株式会社インテリジェンスに入社。その後はサイバーエージェントやソフトバンクグループなど、IT業界に携わっている。その背景には海外で経験した出来事が関係していた。

野澤:「私が初めてインターネットに触れたのは、1997年。世界旅行中に訪れたインドでした。現地のインターネットカフェに出かけて、友人にメールを送ると一瞬で返信があったんです。今でこそ当たり前のことですが、当時は船便で手紙を送っていた時代でしたから、その衝撃はすごかった。『これは世界を変える技術だ。将来的にはインターネットは世界を変える。インターネットが全ての産業に行き渡り、人のライフスタイルを変える』。そんなことを考え、新卒入社したインテリジェンスを半年で離れ、従業員数名の創業間もないサイバーエージェントに転職しました」

その後の野澤氏の活躍は目覚しい。大阪支社の立ち上げや社長室での新規事業立ち上げに関わり、東日本大震災を機に自然エネルギーの普及に着目してからは、ソフトバンクグループで電力事業の立ち上げに携わった。野澤氏は会社員として優秀な実績を残していた。そのまま会社員を続ける道もあったはずだが、なぜ会社を創業したのだろうか?

野澤:「ソフトバンク入社時は、『事業を立ち上げたら辞めます』と言って入社したんです。なぜかというと、電力ビジネスは安定化するまで2〜30年かかる事業です。私の強みは事業を立ち上げることなので、ひとつのサービスを掘り下げていくのは私より適した方がいます。『今後も事業を通じて社会課題を解決し続けたい』と思い、自分の会社を立ち上げることを決めました」

「上りのエスカレーターに乗れ」創業時に思い出した、サイバーエージェント藤田氏の言葉

数々の新規事業立ち上げに関わってきた野澤氏には他の選択肢も選べたはず。なぜHR領域を主戦場として選んだのだろうか?

野澤:「現代の日本って、大人が元気じゃないですよね。大人にとって仕事は生活の多くの時間を占めるものです。それが楽しくないと、日本の社会が良くならない。ZENKIGENという社名は禅の用語である『全機現(人が持つ能力の全てを発揮する)』に由来しています。自らの能力を発揮し、活躍できる社会の創出に貢献するためにまずは採用領域で事業を行おうと思いました」

学生時代に政治家を志した野澤氏だが、社会をより良い方向に変えたい、という思いは消えずに胸中にあるようだ。もちろん社会的な意義だけでは事業は成り立たない。同氏はこの領域に勝算を感じているという。

野澤: 「サイバーエージェント時代に、創業者の藤田さんは『上りのエスカレーターに乗れ』とよく言っていました。世の中で上り調子の市場で事業を立ち上げないと、大きな成長は望めません。

書類選考から人事面接、役員面接という日本の採用方式は私が就活をしていた20年前からほとんど変化していません。しかし、採用難や人事の激務など、様々な問題が表面化しています。これは構造的な問題であり、大きな変化が求められている業界なので、その分需要も大きいのです。

外部環境も追い風になっていて、現代はスマホが普及し、回線も高速化しました。さらに、若者の間には動画文化が定着しています。『動画面接は必ず成長する産業だ。やるなら今しかない』と考え、HARUTAKA事業を立ち上げました」

AIはディストピアを作らない、野澤氏が思い描くテクノロジーのあるべき姿

昨今、AIを用いたプロダクトづくりはITビジネスの定石と言える。ZENKIGENも例に漏れず、AIをプロダクトに組み込んでいた。

野澤:「私がソフトバンクグループに関わるきっかけになったのは、ソフトバンクアカデミアという孫正義社長の後継者育成プロジェクトです。ここでは毎回決まったテーマが与えられて、受講生がビジネスモデルを作り、プレゼンテーションを行っています。その中でも『AI』がテーマとして扱われていました。やはり現代のビジネスにおいて無視できないテクノロジーだと思います。

私もAIがなくてはこれからのビジネスは成功しないと考えています。しかも、AIは私たちのビジネスとすごく相性が良い。いわずもがな、AIの動力源はビッグデータですけれど、データの取得には莫大な費用がかかる。しかし、当社にはWEB面接事業を通じて多くの採用に関するビッグデータが集まる仕組みがあります」

AIビジネスを展開している野澤氏だが、思い描く「あるべき姿」があるようだ。

野澤:「一般的に『AIがディストピアを招く』ことが懸念されているという話題をよく耳にします。機械が人を管理して、効率化の波に飲まれてしまうと。

一方で私は、『AIは友達』と言える社会を創りたいんです。AIによる人の管理は効率的な一面があるかもしれません。しかし、当社のビジョン『テクノロジーを通じて、人と企業が全機現(人が持つ能力の全てを発揮する)できる社会の創出に貢献する』にあるように当社は人の能力が最大限に発揮される社会の創出を目指しています。

私たちが目指しているのは、テクノロジーを通じて、人事担当者、候補者双方の生産性を向上させ、面接における体験を向上し、人が持つ本来の力を発揮してもらうこと。人事の方ってすごく忙しいじゃないですか、忙しいから効率化が必要だし、採用数や退職予想など数字を追いかけてしまう。でも本分は、人の可能性を引き出すことではないでしょうか。

とある調査で、面接を受けて『入社したくない』と思った経験のある人は85%いるようです。その理由のうち75%は『面接官の不快な態度や言動』が原因でした。面接における候補者体験が向上しないと、会社にとって必要な人を逃してしまい、会社のイメージを損ねてしまうかもしれない。このような良質な面接体験を作るために、私たちはサポートAI『ZIGAN』をリリースしたのです。AIが面接官に向け正しいフィードバックができれば、面接体験はきっと向上しますから」

採用にはこだわらない、ビッグデータを活用して「人と企業が全機現する社会」の創出に貢献したい

自社プロダクトを通して、採用の最適化に取り組む同社。野澤氏はさらに大きなビジョンを描いているという。

野澤:「実は今、東京大学の研究室と共同で、声からストレス状態などを計測・可視化する研究をしています。この技術を応用すれば、人の働き方を大きく変えてくれるでしょう。動画のようなビッグデータを活用することで全ての人が能力を発揮し、働くことを支援できる可能性があると考えています。たとえば、成果主義は苦手だけれどクリエイティブなことが得意な人がいたとします。そこに成果第一主義の上司がつくと、ミスマッチが起こってしまう。それってすごくもったいないことだと思います。
今までは、成果を出せるプレイヤーが上司になることが多かった。けれど、部下の心象を把握してサポートすることが得意な人もいます。そういう人が上司になれば、チーム全体の生産性が上がるかもしれない。
将来的には、日本全国をフィールドに、適材適所が進められると考えています」

ZENKIGENは現在、採用領域を事業にしていますが、テクノロジーを通じて人と企業が全機現できる社会を作れるならば、業界は限定していません。今後も様々な領域に挑戦していきたいですね。

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:戸谷信博