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竹中工務店とジザイエが挑む高所クレーンの遠隔操作。2社の協業から学ぶ、片方が勝ち逃げしないオープンイノベーションの在り方

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大企業、スタートアップの両方に欠かせない戦略となってきたオープンイノベーション。しかし、大企業とスタートアップではそのリソースの差から『共創』とは名ばかりで、受発注の関係になっているケースも少なくない。結果的にプロジェクトが頓挫してしまうケースも多発している。

大企業とスタートアップの協業を成功させるには、いったい何が必要なのだろうか。今回は、イノベーションスペースInspired.Labに入居している竹中工務店と人とロボットやAIをつなぐことでリアルタイムの遠隔就労を支援するプラットフォームを開発するジザイエにインタビューを実施。

ジザイエの持つ「映像圧縮伝送技術」を用いて、タワークレーンの遠隔操作プロジェクトを進めている両社。お互いにリスペクトを持ちながら関係を築けた背景にあった考え方やコミュニケーションに迫る。


写真右)中川純希
株式会社ジザイエ 代表取締役CEO
東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院在学中に米ワシントン大学(Center for Sensorimotor Neural Engineering)へ留学し、同大学でもサービスロボティクスを中心とした研究に従事。
リクルートホールディングスに入社後、リクルートグループ全体の新規事業開発を担う部署(Media Technology Lab)で、複数プロジェクトの立ち上げに従事。リクルートホールディングス退社後は、CtoCのスマホアプリを開発/運営する会社を共同創業し、CFO兼マーケティング責任者として、創業時の資金調達を推進、軌道に乗せたタイミングで退任。
2022年11月に株式会社ジザイエを共同創業。「すべての人が時空を超えて働ける世界へ」をミッションに、最先端の研究シーズから新産業創出を目指す。

同左)長谷川完
株式会社竹中工務店 COT-Lab大手町 代表
千葉大学理学部化学科卒業。1989年、竹中工務店に入社後、技術研究所にて約30年間、建築材料の研究開発に従事。塗料や左官材料、防水材料、断熱材料などの各種材料メーカとの共同研究の他、日本建築学会や日本防錆技術協会などの建築仕上げ材料に関連する学協会等の各種委員なども歴任。2023年4月よりCOT-Lab大手町の代表として、「ことづくり」に関連する建物の周辺技術についての共創活動をマネージメントする。具体的には「健康なまちづくり」、「モビリティ革新まちづくり」、「カーボンニュートラルなまちづくり」の実現に向けて、大企業、スタートアップ企業との共創を促進する。

ポイント

・竹中工務店とスタートアップのジザイエは、ジザイエの持つ「映像圧縮伝送技術」を用いて、タワークレーンを遠隔操作するプロジェクトを進めている。
・2社の協業は、入居していたInspired.Labで情報交換をしたり、開催するイベントへの登壇から生まれた。
・大企業とスタートアップのオープンイノベーションを成功させるためには、両者が俯瞰的・長期的な視点を持つことが重要で、それがないと受発注関係になってしまう。
・大企業は、ビジョンに共感できるスタートアップと組むことで無駄なコミュニケーションコストを減らせると考えられる。
・オープンイノベーションの本質は『自分たちができないこと』を知ること。お互いにリスペクトをもって謙虚な姿勢で望む必要がある。

INDEX

建設現場の労働環境を改善する『遠隔操作』プロジェクト
入居していた施設(Inspired.Lab)での出会いが共創のきっかけに
オープンイノベーションを成功させるために必要な俯瞰的・長期的な視点
スタートアップと組むために投資すべきは『人』
『自分たちができないこと』を知るのがリスペクトの第一歩

建設現場の労働環境を改善する『遠隔操作』プロジェクト

――映像圧縮伝送技術とタワークレーンの遠隔操作にはどのような関連があるのでしょうか。

中川:タワークレーンを遠隔操作するには映像を見ながら重機などを操作することになります。その際、映像のタイムラグは操作性に直接影響するのです。そのため、いかに低遅延で映像転送が行えるかが重要です。東京大学の研究では、機械やロボットの遠隔操作で映像の遅延が0.7秒以上になると、自分で操作している感覚が著しく薄れるというデータも発表されています。

私たちの技術を使うと映像のタイムラグを0.2秒位内に抑えることができるので、現場で実際に操作しているのと同じ感覚で重機の操作が可能になるのです。

――竹中工務店ではなぜタワークレーンの遠隔操作プロジェクトに着手したのでしょう。

長谷川:建設現場の労働環境を改善したいと思ったからです。大規模な建設現場で使用されるタワークレーンは重機の一番上に操縦席があるのですが、朝登ると仕事が終わるまで降りられません。そのため、食事もトイレも操縦席で行うなど、働く環境として改善の余地があって。

そのような労働環境では、若い人たちが業界に入ってきません。既に現場で働いている人たちの労働環境を改善すると同時に、若い人たちにも業界に興味を持ってもらいたいと思い遠隔操作のプロジェクトを進めてきました

――ジザイエの技術を聞いた時の印象はいかがでしたか?

長谷川:まさに私たちが求めている技術だと思いました。これまでも遠隔操作のプロジェクトは進めていましたが、映像の遅延がネックになっていたのです。現場からもタイムラグが発生して操作がしにくいという声が上がっており、その問題を解決するには画質を下げるしかないと思っていました。

しかし、ジザイエさんの技術を使えば、画質を保ったまま遅延を減らせることができ、私たちが抱えた課題を解決できます。いつかは地球の裏側でも遠隔操作できるようにしたいと思っており、そのためにジザイエさんの技術は欠かせないものになると思いました。

――今回の共創プロジェクトの所感についても聞かせてください。

長谷川:スタートアップらしい柔軟性とスピード感を持って取り組んでいただき、非常に感謝しています。今回は映像の遅延を減らすためのプロジェクトでしたが、私たちの話を聞いてタワークレーンに取り付けているカメラの「首振り機能」まで作っていただいて。

現場からは首振り機能が欲しいという声は上がっていたのですが、映像の遅延を改善するのを優先していたため、具体的にはお願いしていなかったのです。それでも実験のタイミングまでに首振り機能の試作までしていただき非常に助かりました。

入居していた施設(Inspired.Lab)での出会いが共創のきっかけに

――どのような経緯で両社の関係が始まったのでしょうか。

中川:竹中工務店さんはInspired.Labでのオフィスが隣で、顔が見える距離で仕事をしていました。遠隔操作という同じテーマを扱っていることもあり、お互いのイベントに参加しあいながら情報交換などもしていたのです。

具体的な共創の話になったのは、2023年4月のイベントでのこと。私たちは2~3ヶ月に一度、Inspired.Labのスペースを借りて遠隔就労に関するイベントを開催しており、その時は竹中工務店の方に登壇していただきました。竹中工務店が鹿島建設、アクティオと進めていた「タワークレーンの遠隔操作システム」について話してもらったのです。

どんな技術的課題を抱えているかなどもお話しいただき、そこに私たちがもつ映像を圧縮する技術を組み合わせてみてはどうかと話が進みました。映像圧縮伝送技術は遠隔就労の根幹をなす技術とも言われていたので、遠隔就労プラットフォーム事業を手掛ける私たちも映像伝送に関する研究を進めていたのです。

――竹中工務店は何を目的にInspired.Labに入居しているのでしょう。

長谷川スタートアップとの共創を加速させるためです。私が所属する「COT-Lab®」という組織は、外部と共創活動をするためにメンバーそれぞれが様々なテーマを持って活動しています。各地に拠点を構えており、その一つである「COT-Lab®大手町」を、多くのスタートアップが入居するInspired.Lab内に構えることにしました。

扱っているテーマも広く、ジザイエさんと進めている遠隔操作のプロジェクトの他にも『生物多様性』など幅広いテーマを同時進行で扱っています

オープンイノベーションを成功させるために必要な俯瞰的・長期的な視点

――大企業とスタートアップの共創を成功させるために必要な心構えを聞かせてください。

中川:スタートアップに必要なのは、中長期の視点を持って取り組むことです。スタートアップは資金需要が強いため、つい短期的に資金を得ようとしがちです。しかし、スタートアップの視点が短期的になると、大企業の言いなりになって結果的に受発注の関係になってしまいます

今回も、単に竹中工務店さんの言う通りのものを作るのではなく、私たち自身も現場の声を咀嚼して本当に使いやすいものを作ることを意識していました。自分たちでも現場に足を運んで課題を吸い出したり、短いスパンで検証を繰り返したりしたからこそ、対等な立場でプロジェクトを進めてこられたのだと思っています。

――長谷川さんはいかがですか?

長谷川:俯瞰的・長期的な視点は大企業にも必要だと思います。今回の課題を解決するためだけにジザイエさんの技術を使おうと思ってしまうと、どうしても受発注の関係になりがちです。そうではなく、最終的にどうすればジザイエさんの技術が広まり、利益に繋げられるか、さらには社会貢献に繋がるかを考えるのが重要だと思います。

実際、今回の取組で出来た技術も、私たちで独占するつもりはなく、業界全体に広げるつもりで考えています。その方がジザイエさんの技術が広く知れ渡りますし、結果的に私たちも安く使えるようになるので、お互いに得だからです。竹中工務店とジザイエさん、そして社会全体にメリットがあるように考えたからこそ、プロジェクトをうまく進めたのだと思います。

――中川さんから見て、竹中工務店との取組みだからこその成功要因などがあれば聞かせてください。

中川:先ほど長谷川さんが言っていたように、私たちの技術が世の中に広がることを考えてくれるのは、大変ありがたいですね。竹中工務店さんは普段から『まちづくり』という広い視野を持って仕事をしているので、俯瞰的な発想をしやすいのかと思いました。

これが自社の業界・業種だけにこだわっている大企業だと話が違います。狭い業界の中でばかり売上を上げようとするため選択肢が減ってしまい、営業リソースをかけなければ売れなくなっていきます。最終的に担当者が変わってしまってプロジェクトが頓挫してしまうことも珍しくありません。

その点、竹中工務店さんは広い視野で考えてくれますし、腰を据えて取り組んでくれるので安心してプロジェクトを進められました。

――企業によって、プロジェクトの進め方も大きく変わってくるのですね。

中川:知財を独占せず、共有してくれたのも大きいですね。企業によっては知財を独占したがる企業もあって……。大企業がお金を出すので、そう言いたくなるのも分かりますが、それでは対等な関係は築けません。

その点、竹中工務店さんはスタートアップの持つ視点や情報にも価値を感じてくれました。私もかつては大企業で働いていたので分かりますが、大企業とスタートアップではインプットできる情報量がまるで違います。

スタートアップ界隈にいると様々な業界の方や投資家と話すため、大企業で得られる情報量とは大きな差があります。しかし、それらの情報に価値を感じなければ、知財など目に見える価値を求めがちです。長谷川さんたちは普段からスタートアップのイベントにも積極的に参加し、情報に価値があることを知っているからこそ対等な関係を築けたのだと思います。

スタートアップと組むために投資すべきは『人』

――竹中工務店は、なぜスタートアップと対等な関係を築けたのか教えて下さい。

長谷川:良くも悪くもあまりお金を出さないからだと思います。プロジェクトに出せるお金が少ないため、受注を目当てにして声を掛けてくるスタートアップは私たちと組もうとは思いません。

お金でスタートアップを釣ってしまうと、開発費が欲しい会社ばかりが集まって、結果的に受発注の関係になってしまいます。開発費目当てではなく、同じ目線で新しい価値を作っていきたいと思えるスタートアップを集めるためにも、あまりお金を出さない方がいいのかもしれません。

――お金を出さなくとも、スタートアップが一緒に研究をしたいと思うために何が重要なのでしょうか。

長谷川:『人』だと思います。それぞれのメンバーが自分のテーマに熱意を持って動いていますし、そういう熱量がなければスタートアップも一緒にやりたいとは思わないはず

メンバー一人ひとりが、自分の『やりたい』という気持ちを前面に出し、スタートアップと同じ立場で仕事をしているため、周りを巻き込めるのだと思います。

中川:竹中工務店の方たちは、どの方と話しても“社会のため”という広い視野で考えている気がします。「建設業のため」「竹中のため」という視野で話す方は、これまで会ったことがありません。

竹中工務店は『人』に投資をしているからこそ、魅力的な人が多く一緒に仕事をしたい企業が集まってくるかもしれないですね。人への投資はすぐには利益に繋がらないかもしれませんが、結果的には大きな利益をもたらしてくれるのではないでしょうか。

『自分たちができないこと』を知るのがリスペクトの第一歩

――これからスタートアップと組んでいく大企業に、どのような姿勢が求められるのか教えて下さい。

長谷川:将来を見越して考えることが大事だと思います。その将来というのは、自社の将来ではなく、社会全体としての将来やパートナーであるスタートアップの将来のことです。まずはスタートアップの成長を考え、運がよければ自分たちにも利益が回ってくる。それくらいで考えるといいと思います。

大企業とスタートアップの利益は二項対立ではありません。そして、大企業が先に利益を得ようとするとスタートアップは大きな損失を被ってしまうこともあります。逆に先にスタートアップに成長してもらえれば、その後に大企業が利益を得る機会はいくらでもあるはずです。

スタートアップと組む大企業は目先の利益を追い求めるのではなく、余裕を持ってスタートアップの成長を考えてほしいと思います。

――スタートアップの視点から、大企業の担当者の方に持ってほしい視点はありますか?

中川最初から情報をオープンにしてもらったほうが、スタートアップとしては非常に助かります。初期の打ち合わせで違和感がある場合は、後になって課題が出てくることが多いです。突然出てきた課題に対応するにはコストもかかり、スタートアップにはそんな余裕がありません。

また、スタートアップは1〜2年後の利益よりも4〜5年後の成長を見据えて動いているので、同じ将来像を見据えて動いてもらえると非常に嬉しいですね。多くのスタートアップは明確なビジョンを掲げているはずなので、そのビジョンに共感できる企業と組めば無駄なコミュニケーションコストを減らせると思います。

――スタートアップ側は「なんでもできます」と大風呂敷を広げることもあると思います。その点についてスタートアップ側が気をつけることもあれば聞かせてください。

中川:たしかにスタートアップは大風呂敷を広げることはありますし、それによってスタートアップも成長していくものだとも思います。ただし、大風呂敷を広げるべき案件かどうかは慎重に選んでください。

その案件で得られる知見や技術が、後の成長に繋がるのであれば、利益が薄くても大風呂敷を広げるべきだと思います。その案件では儲からなくても、長期的に会社を成長させてくれるからです。

一方で、次の案件に繋がらないようなら依頼は、利益が大きくても無理して受ける必要はありません。一時的には儲かっても、長期的な成長に繋がらないからです。

――最後にスタートアップとの連携を考えて大企業の新規事業担当者の方にメッセージをお願いします。

長谷川オープンイノベーションの本質は『自分たちができないこと』を知ることだと思います。スタートアップと一緒に仕事をしていると、自分たちができることは案外少ないことに気付かされる毎日です。

一方で、自分たちの『できない』をできるスタートアップがいることも学べるので、そこからリスペクトが生じます。大企業の方は、まずは謙虚な姿勢でスタートアップの方と話すと、自分たちが持っていないものが見えてくるはずです。これからスタートアップと組む担当者の方は、ぜひその姿勢を忘れないでほしいと思います。


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:阿部拓朗