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位置情報をもとに、世の中のすべての情報を保存する。WebGISプラットフォーム「Re:Earth」を開発したEukaryaが目指す未来

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世の中の8割の情報には位置情報が付いている——。そう話すのは、Eukarya(ユーカリヤ)代表取締役CEOの田村賢哉氏だ。地理学者でもある田村氏は、位置情報をベースに世の中のすべての情報をデータベースに保存することを大きな目標としている。

その一歩として開発したのが、GIS(Geographic Information System、地理情報システムのこと)のプラットフォーム「Re:Earth(リアース)」だ。「Re:Earth」は、デジタルアース上にデータをマッピングすることができ、さまざまな分析やシミュレーションを行うこともできる。

そしてこのGISと切っても切り離せないのが、「インテリジェンス」の一つである「ジオイント」という概念だ。そもそもインテリジェンスとは、閉鎖的な情報を入手し、それを分析した知見によって意思決定や行動をしていくプロセスのこと。インテリジェンスにはいくつか種類があるのだが、なかでも最近注目を集めているのが、地理空間情報に関連づけられた「ジオイント」だという。

では、なぜ今「ジオイント」が注目を集めているのか。また、Eukaryaは「ジオイント」にどのように向き合い、「Re:Earth」を活用していこうと考えているのか。田村氏に伺った。

田村賢哉
株式会社Eukarya 代表取締役CEO
広島県生まれ。東京大学渡邉英徳研究室の「ヒロシマ・アーカイブ」のプロジェクトに参加。2017年データベース開発、可視化ツール開発をする株式会社Eukaryaを、東京大学渡邉英徳研究室のメンバーによって創業する。2019年、国内クラウドファンディング史上最高額の2.76億円、異例の大型調達に成功し、次世代データベースの研究開発しつつ、その成果を活かした大規模かつ複雑な都市データを扱うことができるWebGISプラットフォーム「Re:Earth」を開発している。2021年からサービス提供をはじめた「Re:Earth」は、国土交通省の「Project PLATEAU」に採用され、約200都市のデータを管理・運用し、自治体での普及や市民・民間企業での利用促進を目指している。

ポイント

・インテリジェンスとは、閉鎖的な情報を入手し、それを分析した知見によって意思決定や行動をしていくプロセスのことで、地理空間情報に関連づけられたものが「ジオイント」。
・「Re:Earth」は、WebGISのプラットフォームで、プログラミングなしで3Dの地図表現やデータビジュアライゼーション、デジタルアーカイブを、誰でも簡単に作成・公開することができる。
・位置情報と紐づけることで、テキストや映像では伝えきれない「場所」と「時間」の感覚を視覚的に表現することができ、ユーザーは実相をより立体的に理解しやすくなる。
・位置情報を活用することで、データを視覚的に整理し、理解しやすくすることができ、異なる情報源からのデータを統合しやすくなる。
・データの管理者側が持っているフォーマットと、データを使用する側が使いたいフォーマットが違うという点がデータ活用のネックになっている。
・「ジオイント」は情報を使って競争相手を打ち負かすのではなく、社会全体の利益や平和を促進するために利用することが理想。

INDEX

目指すのは、地理学をもとに世の中のすべての情報を保存すること
「Re:Earth」は、位置情報をベースに情報を蓄積する
地図、防災、福祉……行政が持つ莫大なデータをデジタルで保存する
フォーマットの変換機能を提供し、データ管理者と利用者の間を繋ぐ
情報の整理に役立つと注目されている、ジオイント
あらゆる産業に位置情報はつくからこそ、活用の幅は無限大

目指すのは、地理学をもとに世の中のすべての情報を保存すること

——まず、Eukaryaのビジネスについて教えてください。

田村:僕らは研究開発型のスタートアップとして2017年に創業しました。世の中の全ての情報を保存することを目標として取り組んでいます。

ただ、データベースの研究開発はかなり時間要するものなので、そこで得た知見を応用したプロダクトの提供も行っています。当社のデジタルツインプラットフォーム「Re:Earth」は、そういった経緯で生まれたプロダクトの一つです。「Re:Earth」は、WebGISのプラットフォームで、プログラミングなしで3Dの地図表現やデータビジュアライゼーション、デジタルアーカイブを、誰でも簡単に作成・公開することができます

——地理学者の田村さんはがなぜデータベースの研究開発をしようと思ったのでしょうか?

田村:一つは、アカデミックとしての地理学に限界を感じた部分があったからです。地理学は生態学や経済学、社会学など、さまざまな学問領域にまたがっていることもあり、薄く広くの領域になってしまっているんですよね。

そこで、新たに面白い地理学というものを作れないかと考えたときに、情報という観点で地理学を見つめ直してみました。地理学をベースに、世の中のすべての情報を保存することができれば、世界に新しい動きが生まれると考えたんです。

——なるほど。他にも、きっかけがあったのでしょうか?

田村:はい。もう一つは、広島原爆の実相を伝えるデジタルアーカイブズ「ヒロシマ・アーカイブ」という取り組みに参加したことです。この「ヒロシマ・アーカイブ」は、東京大学大学院の渡邉英徳教授の研究室が制作しているもので、僕は広島県出身なのもあり、取り組み自体は元々知っていました。ただ、渡邉研究室は情報アーキテクトが専門。「地理が専門でない集団が、なぜ被爆者の証言を地図上にビジュアライズできるんだろう」という疑問があり、それがきっかけで渡邉研究室に入りました。

「ヒロシマ・アーカイブ」は、被爆者の経験や思いを完全にデジタルに保存することは難しいことを、多元的な資料を活用しながらバーチャルなデジタル地球儀上にビジュアライゼーションすることで、被爆の実相についての伝えようとしていました。ここで、「ヒロシマ・アーカイブ」のもつ、地理的な空間に情報をマッピングすることの意義を強く感じました。被爆者の証言や資料を地図上に配置することで、単なるテキストや映像では伝えきれない「場所」と「時間」の感覚を視覚的に表現することができるのです。これにより、ユーザーは被爆の実相をより立体的に理解し、歴史の一部として共感しやすくなります

それでも、記憶の継承に取り組む地元の高校生たちから、被爆者に当時の話をしてもらっているとき、そこには話の内容だけでなく、被爆者の方の表情やその場の雰囲気など、どうしてもデジタルに保存しきれないさまざまな情報があることも学びます。じゃあ、その空気感も含めてどうやったら保存できるんだろう、ということを考えるようになり、データベースの研究開発をやっていくために会社を立ち上げました。

「Re:Earth」は、位置情報をベースに情報を蓄積する

——「Re:Earth」についても伺っていきたいと思います。世の中のすべての情報を保存することを目標としたときに、なぜデジタルツインプラットフォームの「Re:Earth」を開発されたのでしょうか?

田村:そもそも「Re:Earth」の開発を始めたきっかけは、「ヒロシマ・アーカイブ」で被爆者の証言をデータベース化するときに感じた課題感でした。「ヒロシマ・アーカイブ」では、主に地元の人々が証言を集めているのですが、その人たちだけではデータ化はできません。というのも、証言を集めたあと、エンジニアやデザイナーによるコーディングやデザインを経て、ようやくアップロードすることができるからです。

デジタル化には大体このような手順を踏むことが多いと思いますが、「ヒロシマ・アーカイブ」が特殊なのはボランティアベースでやっているということ。そのため、証言を集めてからアップロードまでに2〜3ヶ月かかってしまいます。ですが、こうした活動は熱量が重要なので、時間がかかればかかるほど、モチベーションを維持するのが大変なんです。

実際、証言を集めるだけで終わってしまって、データベース化できていないという現状があります。だとしたら、デザイナーやエンジニアでなくても、誰でもすぐに情報をデータとして格納できることが重要だと思ったんです。かつ、ビジュアライズやシミュレーションができるツールがあればいいなと思ったことが、「Re:Earth」の開発に繋がりました。


国土交通省3D都市モデルの可視化ビューワー「PLATEAU VIEW3.0」をRe:Earthで制作

——「Re:Earth」のように、位置情報をベースにデータが蓄積されていくと、どのようなメリットがあるのでしょうか?

田村:情報の整理がしやすくなります。いろいろな情報を集めて整理するとき、時間なのか場所なのか、何をキーにするのかが重要です。僕の恩師は「世の中の情報の8割には位置情報がついてる」と言っていて、位置情報はその重要なキーの一つになりうると思っています。

具体的には、位置情報を活用することで、データを視覚的に整理し、理解しやすくすることができます。例えば、防災情報を地図上にプロットすることで、危険地域を直感的に把握することができ、迅速な対応が可能になります。また、都市計画や交通管理など、さまざまな分野での応用が期待できます。

さらに、位置情報を基にデータを蓄積することで、異なる情報源からのデータを統合しやすくなります。これにより、より包括的で正確な情報が得られ、意思決定の質が向上します。要するに、位置情報はデータの整理と活用を促進する強力なツールとなるのです。

——「Re:Earth」が事業として成長していくポイントはどこだと思いますか?

田村:ユーザー側が使い続けてくれるかどうか、という観点では、そのテーマに対してコミュニティが存在しているかを重視しています。

「ヒロシマ・アーカイブ」で言えば、ヒロシマ・アーカイブによって、被爆証言の継承コミュニティが生まれたのではなく、元々そのコミュニティがあって、被爆証言を集めることをやっていました。それに対してヒロシマ・アーカイブという手法がはまり、コミュニティがより活性化したという研究結果を論文にまとめました。何を目的としているかに応じて、僕らがそれにあった最適なツールを提供できれば、持続されるといえます。

そのため、「Re:Earth」も同様に、コミュニティに最適なツールとして提供できることが重要です。例えば、地元の歴史を保存し、次世代に伝えたいと考える地方自治体や教育機関、地域コミュニティが「Re:Earth」を活用することで、その活動がより効果的に行われるとともに、新たなユーザー層が増えていくでしょう。コミュニティが強固になればなるほど、プラットフォーム自体の価値も向上し、ユーザーの継続利用が期待できます。

——「位置情報をベースにデータを蓄積する」以外の使い方も考えられるということですね。

田村:そうですね。まったく別の観点での活用ですが、今は山口県下関市の中山間地域で、パソナJOB HUBとともに、デジタル人材の育成を進めています。「Re:Earth」はノーコードで扱うことができますし、HTMLやCSS、JavaScriptが使えれば、プラグインで機能拡張していけます。また、オープンソースのソフトウェアなので、基盤の開発に携わることもできます。さまざまな携わり方ができることを活かして、下関では「Re:Earth」を手段に、地元のデータを自分たちで創り活用し、雇用を目的としたみんなで学び合うコミュニティを作ろうとしています。

僕らが目指すのは、単なるツールの提供にとどまらず、ユーザーが自らの目的を達成するための「パートナー」としての存在です。これからも「Re:Earth」を通じて、多くのコミュニティや企業、自治体が位置情報を活用し、データの価値を最大限に引き出すことをサポートしていきます。

地図、防災、福祉……行政が持つ莫大なデータをデジタルで保存する

——「Re:Earth」のビジネスモデルとしては、利用料をもらう仕組みですか?

田村:そうですね。ただ基本的な機能は無料で提供していて、グループでプロジェクトを作成したり管理したりする場合に課金するかたちを取っています。

——主に利用しているのは、どういったところですか?

田村:ここ2年間は、行政に多く使っていただいています。幸いにも、最初に国交省に使っていただいて、その後に総務省や環境省、内閣府など、行政では横断的に使っていただいています。国が使っているということで、今度は自治体からも問い合わせが増えて、最近は民間企業からもお声がけいただいている状況です。

——行政や自治体はどういった情報を貯めて、どのように使っているのでしょうか?

田村:行政が保有している情報ってものすごく莫大なんです。地図に関してのデータはもちろん、防災や都市計画、福祉など、とにかくさまざまな情報がありますね。

こうした行政が持っているあらゆる情報をデータベース化するのに使われていて、イメージとしてはDXに近しいですね。たとえば、国の統計調査に関して言えば、インターネット上に公開されているのは集計されたデータがほとんどで、集計前のバラバラのデータは見ることができないんです。でも、そのデータを活用したいユーザー側としては集計前のデータも見たいはずで、うまく統計調査が活かされていないのが現状です。僕らがそれらの情報のデジタル化に取り組むことで、行政の持つデータがより活用されるとうれしいですね。

——ちなみに、行政や自治体が貯めているデータを活用したら、どのようなことができるのでしょうか?

田村:行政の話で言えば、防災に関してはより詳細で高度なシミュレーションに活用できます。ほかにも、都市計画に関しては、今まで「街の方向性はなんとなくこういうのがいいよね」とふんわりしたものだったのが、今後の人口の増減を予測したり、人の流れを考えたりと、さまざまな情報を活用しながら取り組むことができます。

民間企業も活用のメリットがあります。たとえば、最近は空き家が問題になっていますが、行政が一生懸命調べている一方で、民間企業も同じような調査をしていることがあります。民間側が空き家ビジネスをやっていきたいと思っているにも関わらず、行政の持つ情報とうまく結びついていない現状があるんです。

——ということは、「Re:Earth」はデータを作る人と、使いたい人の両方のアクセスがあると思うのですが、使いたい側の人もお金を払うようなシステムなのでしょうか?

田村:データの作成者側によりますね。作成者側が、データの閲覧にお金をかけるのか、それともデータを活用する際の提供にお金をかけるのか、それによって変わってくると思います。行政の場合は、オープンデータ化したいというものが多いので、閲覧もダウンロードも無料でやっています。

フォーマットの変換機能を提供し、データ管理者と利用者の間を繋ぐ

——データを活用していく際に、ネックになっていることはありますか?

田村データの管理者側が持っているフォーマットと、データを使用する側が使いたいフォーマットが違うという点ですね。特に国が持っているデータは、規定に基づいて作られた難しいフォーマットなことが多いので、それをそのまま活用するのは難しいんです。そのため、ウェブエンジニアやデータサイエンティストなど、それぞれが使いたいフォーマットに変換する必要があり、それだけで1〜2ヵ月くらいかかってしまうことがあります。しかも、その変換をすべてのユーザーが毎回やっている。これは無駄でしかないと思っています。

——確かに、そういうケースはありそうですね。

田村:そこで、僕らはそのデータフォーマットの変換を自動で行う機能も開発しています。たとえば、「元データはExcelだけど、使う側のデータサイエンティストはJSONで欲しい」といった場合に、自動でフォーマットの変換をかけます。データ自体は元のフォーマットでも、変換後のフォーマットでも使用できます。このようなかたちで、管理者側と利用者側の間を繋いでいます。

ちなみに、これは企業や行政の中での活用もありうると思います。僕らは200近い自治体のデータを扱っていますが、自治体によってフォーマットは本当にバラバラなので……。自治体と自治体、企業ならば部署と部署を繋いでいくという意味でも、重要な機能だと思っています。

——お話を聞いていると、データの作成者側・管理者側はどんどん増えてきているように感じましたが、使う側も増えているのでしょうか?

田村:行政のデータに関しては、使う側もすごく増えていますね。外部ツールもどんどん生まれていて、ゲームの開発ツールであるUnityやUnreal Engineで使えるSDK(ソフトウェア開発キット)があったり、データサイエンティスト向けにPythonのライブラリがあったりします。それらを利用して、ゲーム開発やシミュレーション開発、データサイエンティストなら分析など、活用の幅が広がっています。

情報の整理に役立つと注目されている、ジオイント

——ここからは、近年注目が高まっているインテリジェンスの一つ、ジオイントについてお伺いします。そもそもインテリジェンスとは何なのでしょうか?

田村:インテリジェンスとは、ある手段を用いて閉鎖的な情報を入手し、それを分析した知見によって意思決定や行動をしていくプロセスのことです。重要なのが、ただ意思決定や行動をすることではなく、その情報をもとに不確実性を減らすこと。そうすることで優位性を持って行動することができます。

インテリジェンスと聞くと、軍事的・政治的なイメージを持つ人が多いのですが、実はインテリジェンス自体は幅広い行為のことを言います。たとえば、休日に釣りに行くとしたら、有名な釣りスポットではなく、漁師しか知らない穴場スポットに行きたいと思うことありますよね。でも、素人はどこが穴場かわからない。じゃあどうするかと言うと、SNSで調べたり、釣り仲間に聞いたり、漁師に聞いたりして情報を集める。結果として、釣りの穴場スポットという、素人は知らない閉鎖的な情報を得たことで、最適な場所を選んで釣りを楽しむことができますよね。つまり、「わからない」という不確実性を減らして行動しているので、これもインテリジェンスと言えるんです。

——私たちも日常的に行っている行為なんですね。では、ジオイントとは何でしょうか?

田村:インテリジェンスには、情報源によっていくつかの種類があります。ラジオやテレビなど、一般に公開されている情報を分析する「オシント」、電話やGPS、ITネットワークなどから情報を得る「シギント」、人から情報を得る「ヒューミント」といったものですね。そうした種類の一つに、地理空間に関連づけられた情報である「ジオイント」があります。

ただ、ジオイントは数あるインテリジェンスの中でも少し特殊です。というのも、オシントやシギント、ヒューミントには地理空間情報も含まれているからです。基本的に、人間の活動は地球をフィールドにするので、何かしらの位置情報があるはずですよね。つまり、ほとんどのインテリジェンスはジオイントでもあるわけで、その特徴を活用すれば地理空間情報をキーに情報の整理ができるんです。

——バラバラだった情報を整理するのにジオイントが役立つと。

田村:はい。安全保障分野などでは「オールソースインテリジェンス」や「マルチインテリジェンス」といった、集めた情報を統合的に見ていこうという流れがありますが、まさにジオイントは位置情報をキーに情報を統合しやすいんです。情報を整理して統合しておけば、いざ何かが起きたときに、すぐに情報を活用して行動することができるようになります。

——経済産業省でもジオイントが注目されていますが、それは整理・統合することでデータを集める手間が省けるからですか?

田村:そうですね。あとは、何か有事が起きたときに、位置情報をベースに情報が整理されていることは結構重要だと思います。

ここ数年でもミャンマーのクーデターや、ウクライナとロシアの戦争など、たくさんの有事が起きていますし、国内外問わず災害も増えています。そうした予想していなかった事態が起こったときに、たとえば企業活動においてどういう対処をすべきなのか、考えて意思決定をしなければいけない。撤退するとしても、どう撤退するのがその土地にとって最善なのか。また自分たちのビジネスを考える必要もあります。ある場所における不確実性を減らして、意思決定をするという場面においては、ジオイントは非常に役立つと思いますね。

——ジオイントが注目されていくと、どれだけの人がそのプラットフォームにリーチできて、リアルタイムに情報を投入してくれるかもかなり大事になってきますよね。

田村:その通りです。ジオイントの活用においては、集めた情報を管理、分析、可視化できるWebGISの発展が不可欠です。そして、重要なのはそのツールが誰でも使えるものであることです。情報を提供する側、管理する側、そして使いたい側、それぞれが簡単にアクセスできる必要があります。

だからこそ、私たちの「Re:Earth」は、クラウド上で利用できるようにしています。これにより、専用のソフトウェアをインストールすることなく、ブラウザさえあれば誰でも利用できる環境を整えています。このアプローチは、情報の共有やリアルタイムのデータ投入を促進し、多くの人々が参加しやすいプラットフォームを実現するために重要です。

「Re:Earth」が多くのユーザーに広がり、リアルタイムで情報が投入されることで、ジオイントの効果を最大限に引き出すことができます。これにより、情報の精度や信頼性が向上し、さまざまな分野での応用が可能になります。

——インテリジェンスは安全保障の文脈で語られることが多いですが、田村さんはどのように活用されるべきだと考えていますか?

田村:インテリジェンスを活用する際には、その行動が平和に繋がるかを常に考えるべきだと思います。情報を集めれば集めるほど優位に立ち、自分の都合の良いように行動できてしまう一方で、その力をどう使うかによって結果が大きく異なるからです。インテリジェンスには非常に大きな力がありますが、その力を誤って使うと、対立や混乱を引き起こす可能性もあります。

だからこそ、インテリジェンスを活用する目的が非常に重要です。情報を使って競争相手を打ち負かすのではなく、社会全体の利益や平和を促進するために利用することが理想です。具体的には、災害対策や公共安全、環境保護など、共通の課題に対処するための意思決定に役立てることが考えられます。

私たちの「Re:Earth」も、そうした平和的で建設的な目的のために活用されることを願っています。位置情報を基にしたインテリジェンスを通じて、より良い社会の実現に貢献したいと考えています。

あらゆる産業に位置情報はつくからこそ、活用の幅は無限大

——「Re:Earth」をはじめ、データベースやインテリジェンスに関する事業は情報が集まることで初めて意味をなすものだと思うのですが、競合他社はいるのでしょうか?それとも1社総取りになるんでしょうか?

田村:競合他社はもちろん存在します。データベースやインテリジェンスの分野では、多くの企業がさまざまなアプローチで取り組んでいます。しかし、私たちの「Re:Earth」はオープンソースで提供している点が他とは異なります。オープンソースであるため、別のクラウドサービスに移し替えることも容易にできますし、誰でも自由に利用し、カスタマイズできる柔軟性があります。

私たちがオープンソースにこだわる理由は、デジタルな公共財を作りたいという強い思いからです。特定のベンダーに依存する形になると、価格が高くなったり、技術が古くなったりするリスクがあります。オープンソースなら最新の技術が使われ続け、価格も適正に保たれるため、広く社会に役立つものになります。

そのため、公共財のようなシステムが特定の企業に独占される状況を避けることも重要です。データは誰にでもアクセスできる状態であるべきで、これが社会全体の利益につながると考えています。私は、データを誰にとっても身近なものとして容易に、それでいて高度に活用できる環境を提供したいと思っています。ですから、1社が独占するのではなく、多くの企業や個人が「Re:Earth」を活用し、共に成長していくことを目指しています。

——最後に、どんな自治体や企業に使ってほしいと考えていますか?

田村:行政や自治体にはかなり導入していただいているので、引き続き使ってもらいたいですね。これにより、防災や都市計画、福祉など、多岐にわたる分野でのデータ活用が進むことを期待しています。

民間企業で言うと、三菱地所をはじめとした不動産企業やグローバル企業ですね。人口減少社会で、都市と地方のバランスや土地の価格など、さまざまな問題があると思います。それとGISのプラットフォームは相性がいいかなと。グローバル企業にとっては、世界中の情報を整理し、一元管理するためにGISは非常に役立つツールです。位置情報はあらゆる活動に付随しており、その情報を最大限に活用することで、より効果的な意思決定が可能になります。
結論として、「Re:Earth」はあらゆる産業で活用できるポテンシャルを持っています。どのような企業や自治体であっても、位置情報を活用してデータを整理し、意思決定に役立てていただければ嬉しいですね。


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:溝上夕貴
撮影:幡手龍二