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大学発スタートアップ支援の第一人者、TomyK鎌田氏が語る大手企業の人に求められるマインドとは

ACCESS共同創業者で大学発スタートアップ支援の第一人者であるTomyK鎌田氏に、2019年のスタートアップ領域の振り返りと今後の予想を伺った。「日本が世界での競争力を取り戻す『夜明け前』飛躍のためには大手企業の存在が欠かせない」

ユニコーン上場や大型の資金調達、年末のIPOラッシュとトピックスの多かった2019年の日本のスタートアップ領域。では、スタートアップエコシステムの内側にいるエコシステムビルダーにとって2019年はどんな年だったのろうか。テクノロジー・スタートアップの起業支援やエンジェル投資を行うTomyKの鎌田富久氏に2020年の予想と併せて話しを伺った。

自身で設立した会社を上場させ、10年間上場企業の経営に携わった鎌田氏は、2012年よりスタートアップへの投資や支援を開始。現在は三菱地所とSAPが共同で運営する「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」に拠点を構え、ロボットやメディカル領域のテクノロジー・スタートアップを中心に支援を行っている

鎌田氏は2019年を日本が世界での競争力を取り戻す「夜明け前」と評し、さらなら飛躍のためには大手企業の存在が欠かせないと語ってくれた。その真意はどこにあるのだろうか。

INDEX

ビジネスの主戦場は「デジタル」から「デジタル×リアル」へ
大手企業には2つ目のメールアドレスが必要?大手企業のあるべきスタートアップとの付き合い方とは
超高齢社会を乗り切れば、日本が世界のリーダーに
ここがポイント


鎌田富久
TomyK Ltd. 代表

東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。
株式会社ACCESSの共同創業者。
大学在学中の1984年にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を荒川 亨氏とともに設立。組み込み向けTCP/IP通信ソフトや、世界初の携帯電話向けウェブブラウザなどを開発。携帯電話向けのコンパクトなHTML仕様「Compact HTML」をW3Cに提案するなど、モバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し、グローバルに事業を展開。2011年に同社退任。スタートアップを支援するTomyKを設立。ロボットベンチャーSCHAFT(米Googleが買収)の起業を支援するなど、ロボット、AI、IoT、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書に「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)がある。

ビジネスの主戦場は「デジタル」から「デジタル×リアル」へ

様々な領域でテクノロジー・スタートアップが社会実装に向けて着実に一歩を進めたのが2019年だった」と鎌田氏は話し始めた。電動車椅子や空飛ぶクルマ、警備ロボットなどが実用化とまでいかずとも、様々な場所で実証実験が行われるなど、2019年は各業界で事例が生まれた年だった。

鎌田「テクノロジー・スタートアップの製品やサービスは実用化の目前まで来ていますね。Inspired.Labがある、大手町ビルではSEQSENSE社製の警備ロボットが巡回していますし、医療業界に目を向けると、医療分野のAIスタートアップに対して、初めて薬事承認が降りました

加えて、国内の大手企業がスタートアップ領域に対して積極的に動き始めた年でもあったと語る。一つはテクノロジー・スタートアップと大手企業との提携がある。電動車椅子のWHILLが東京海上ホールディングスと、フレキシブル基板をインクジェットで印刷するエレファンテックがセイコーエプソン・三井化学と資本業務提携を行った。他にも、投資や大手企業内の新規事業も活発化しており、大きな変革の予兆を感じるという。
ビジネスの大きなトレンドはデジタルのみで完結するものから、デジタルとリアルをかけ合わせたビジネスに変わりつつある。そしてその変化は、ものづくりに強い日本にとって「勝機」につながる。

鎌田「これからはデジタルだけで完結するビジネスではなく、IoTやロボット、自動運転車など『デジタル×リアル』のビジネスが主流になっていきます。そのようなハードウェアが絡むビジネスは、ハードからソフトまでが必要な上に、安心や安全、法規制などネットビジネスよりも考慮すべきことが格段に増えます。だからこそ我慢強く取り組むことができて、ものづくりや緻密さに強みを持つ日本に勝機があるのです。

ソフトウェアやネットビジネスは多額の資金を集め、ユーザーを獲得しシェアを拡大することで急成長できるため、英語圏にあり、かつ人もお金も流動性の高い米国シリコンバレーの瞬発力に日本は追いつけませんでした。しかし、リアル産業や医療ビジネスは、安全や人命にも関わるシビアな世界です。日本がそのようなテーマに真摯に向き合うことができれば、世界にイノベーションを起こせる可能性が十分にあるでしょう」

ネットビジネスから「デジタル×リアル」のビジネスにシフトしていくこれからの時代、どのような人材が求められるかを問うと、鎌田氏は「専門領域だけでなく、総合的な分野にまたがって考えられる人材」だと答えた。

鎌田考えるべき範囲が狭く、一定のルールや法則がある専門性の高い領域ほど、計算や処理力、データの量などからAIが強みを発揮していきます。つまり、そこで人が強みを発揮することが難しくなるのです。そのときに求められるのが、哲学や倫理、社会科学的なものまで含めた広い視野で、全体を考えられる人材です。
例えば自動運転の車が走っていて、右にハンドルをきると老人3人、左にハンドルをきると子供1人を轢いてしまう状況があったとします。この状況でどちらにハンドルをきるべきか、この判断をAIに任せるわけにはいきません。他にも、医療のサービスとなれば、判断ひとつが直接命に影響します。
これからのビジネスは何が正しいのか、自分が作ったサービスが社会にどんな影響を及ぼすのかまで考えられなければいけません。少なくとも技術だけで食べていける時代ではなくなりますよね。だからこそ、これからのビジネスでは、総合的にバランスをとって考えられる人材が求められるでしょう」

大手企業には2つ目のメールアドレスが必要?大手企業のあるべきスタートアップとの付き合い方とは

これからの時代、日本には十分に勝機があると話す鎌田氏だが、テクノロジー・スタートアップへのさらなる資金の供給など越えるべきハードルもあるという。

鎌田テクノロジー・スタートアップはソフトウェアに比べて成長するのにお金がかかります。ユーザーの獲得に加え、プロダクトの試作や実証実験、量産化に向けた製造ラインの整備などネットベンチャーよりも初期に整備するべきものが多いのです。
大きな資金調達を考えた際、シリコンバレーであれば100億円超の資金調達は珍しくありませんが、VCのファンドサイズ自体が100億円に満たないものが多い日本ではそれだけの大型の調達は難易度が高いですね」

そこで注目すべきが大手企業だ。日本の大手企業は内部留保が400兆円以上あると言われており、投資する余力は十分にある。大手企業が本格的にスタートアップに投資するようになれば、日本が世界にイノベーションを起こす可能性はより色濃くなるだろう。だからこそ大手企業には、スタートアップの特徴、大手企業との違いを理解してほしいと続けた。

鎌田「スタートアップや新規事業はチャレンジです。チャレンジですからもちろん失敗もします。大手企業は規模の大きな事業を行っているがゆえに、一つの失敗のインパクトが大きく、失敗を許さないカルチャーがあります。既存の事業の成長を考えればそれは当たり前ですが、一方でスタートアップや新規事業は8割失敗するもの。スタートアップに投資する大手企業の方は、その違いを理解して積極的に投資してもらえると嬉しいですね」

成功率だけでなく、スタートアップとの付き合い方に関しても言及する。大手企業とスタートアップでは時間軸が違い、スタートアップが大手企業に提案して「検討します」と半年待たされては、スタートアップは潰れてしまう。スタートアップとしても大手企業に時間軸を合わせてもらう、もしくは理解してくれる会社と付き合う努力が必要だ。
大手企業がスタートアップと時間軸を合わせて付き合うには、環境ごと変えてしまうのがいいという。Inspired.Labのようにスタートアップが在籍する場所に席を借りれば、そのカルチャーが染み付いてくる。また、メールアドレスやセキュリティレベルについても、本体とは別に設けることが望ましいという。添付ファイルが送れない、クラウドにアクセスできない、チャットツールを導入できない、申請すると承認に時間がかかる。そんな状態ではスタートアップのスピードには付き合っていけない。そのことを大手企業の上層部が理解することが大事だと。

鎌田「大手企業の上層部がスタートアップとの付き合い方を理解してくれると、現場も動きやすくなります。スタートアップはスピード優先、どんどん新しいツールを使っていきますが、大手企業がそれに合わせるために法務を通していたら間に合いません。また、前でもお話しましたが、スタートアップは失敗する確率も高いので、大手企業がコストをかけすぎずにスタートアップと付き合っていける体制を作っていくことが重要だと思います」

さらに、マインドの部分も重要だと鎌田氏は続けた。実際に起業をしなくても新しいことを立ち上げるスタートアップマインドが、これからの時代は必要だと。大手企業も大学も官公庁も上のポジションは既に埋まっているため、今の若い人たちはポジション待ちの最後尾に並ぶことになり、出世できる期待は薄い。さらに日本の人口が減っていくなかで組織の合併が起きれば、さらにポジションは減っていくばかりだ。ならば自分でポジションや仕事を作って、自分がそのポジションに就くしかない。それを会社から出て行えばスタートアップであり、社内で行えば新規事業だ。だからこそ、大手企業の人にもスタートアップマインドが必要であり、それが周りを巻き込む力になるのだ。

鎌田「大手企業での新規事業は社内の壁を突破する必要があるので、ある意味スタートアップをするよりも大変ですが、その分社会に与えるインパクトも大きくなります。社内でうまく推進するためには少なくとも上層部に一人は応援してくれる人を作らなければなりません。

それを可能にするのがミッション・ビジョンを掲げる力です。ミッションやビジョンこそが仲間を集め、大きなお金を引っ張る力になります。テクノロジーで社会をどう変えるのか、どんな世界をめざすのか、共感を呼ぶ力が重要になっていきます」

超高齢社会を乗り切れば、日本が世界のリーダーに

テクノロジー・スタートアップを中心に投資を行っている鎌田氏に、2020年以降特に注目している領域を尋ねると「医療、ヘルスケア」と答えが返ってきた。

鎌田「世界一の高齢社会と言われる日本の年齢中央値は現在48.4歳です(国連の人口推計2019)。アメリカは日本よりも10歳若く、インドはさらに10歳若い。2060年には日本の中央値は55歳にまでなり、超高齢社会を迎えると予測されているのです。今ですら40兆円を超えている医療費がさらに増大するのは想像に難くありません。ここには大きなビジネスチャンスがあります」

日本はその現実に真摯に向き合い、医療やヘルスケアのサービスを作っていくべきだと鎌田氏は語った。もしも日本で新しい豊かな長寿社会を作ることができれば、世界中が同じ課題に直面した時に世界をリードすることができるのだ。短絡的に人口が伸びている国にシフトする大手企業もいるが、いずれはそれらの国も人口が減るのは目に見えている。だからこそ、今ある日本の課題から逃げずに正面から立ち向かうことが重要になる。そして、もし解決できた先には今よりも働かなくてもいい時代を迎えると。

鎌田「ロボット活用や自動化が進み、人口が減っても機能する社会が出来上がると、毎日働かなくてもいい時代が訪れます。もし働かなくてもいい時代になったら、人は何をして生き、何に価値を見出すのでしょうか。少なくともモノは売れなくなっていきますし、宇宙旅行のような新しい体験に価値を見出すかもしれません。そのような新しい時代に日本は今向かっていますし、2020年は新しい時代の幕開けになることでしょう

「夜明け前」が一番暗いといわれるが、2019年の動向をみるにすでに夜は明け始めているのかもしれない。日本が世界での競争力を取り戻す「夜明け」、そして「躍進」のためにスタートアップと大手企業が手をとり、同じビジョンのために進むことがより重要な2020年になるのだろう。

ここがポイント

・2019年は、様々な領域でテクノロジー・スタートアップが社会実装に向けて一歩を進め、国内の大手企業がスタートアップ領域に対して積極的に動き始めた年
・これからはデジタルだけで完結するビジネスではなく、IoTやロボット、自動運転車など「デジタル×リアル」のビジネスが主流になっていく
・シビアなテーマに真摯に向き合えば、日本が世界にイノベーションを起こせる可能性が十分にある
・「デジタル×リアル」が主流になると、総合的な分野にまたがって考えられる人材必要になる
・大手企業がスタートアップと付き合うには、スピード感や成功確率を理解し、環境ごと変えてしまうのがよい
・大手企業の人にもミッション・ビジョンを掲げ、周りを巻き込む力が必要になる
・日本で新しい豊かな長寿社会を作ることができれば、世界中が同じ課題に直面した時に世界をリードすることができる

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介