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最悪を想定しつつポジティブに。TomyK鎌田が語るスタートアップの新型コロナ危機の乗り越え方

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世界経済に大きな影響を与える新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)。多くのイベントは自粛され、人やモノの移動が制限される中、経営に苦しむ企業が続出している。もちろんスタートアップも例外ではない。あらゆるリソースにおいて余裕のないスタートアップは、経済活動の停滞に文字通り生き残れるかが試されていることだろう。

グローバルでの危機的な状況の中、スタートアップに求められるマインドセットはいかなるものだろうか。また、この先に訪れる未来「アフターコロナ」はどうなるのか。ACCESS共同創業者で大学発スタートアップ支援の第一人者であるTomyK鎌田氏に、企業がとるべき行動と日本に訪れる変化について、オンラインで話を伺った。

コロナショックの先にはチャンスがある」と断言し、今は何よりも生き残りを優先すべきと語る鎌田氏の真意に迫る。

INDEX

最悪の事態を想定し、生き残ることだけに集中せよ
「経済危機の後には大きなチャンスがある」幾度のピンチから学んだこと
「仕事」が「為事」に。働く意義を変えるきっかけとなる
ここがポイント


鎌田富久
TomyK Ltd. 代表
東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。
株式会社ACCESSの共同創業者。
大学在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を荒川亨氏とともに設立。組み込み向けTCP/IP通信ソフトや、世界初の携帯電話向けウェブブラウザなどを開発。携帯電話向けのコンパクトなHTML仕様「Compact HTML」をW3Cに提案するなど、モバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し、グローバルに事業を展開。2011年に同社退任。スタートアップを支援するTomyKを設立。ロボットベンチャーSCHAFT(米Googleが買収)の起業を支援するなど、ロボット、AI、IoT、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書に「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)がある。

最悪の事態を想定し、生き残ることだけに集中せよ

投資先のスタートアップには、生き残ることが最優先とだけ言っています」そう語り始めた鎌田氏。大企業と違い資金面に余裕のないスタートアップは、ちょっとした見通しの甘さがすぐに致命的になると語る。多くのスタートアップが既にコストカットに舵を切っているはずだが、それでも見通しが甘いことが多いと指摘した。

鎌田「売上や大企業との協業が、数ヶ月遅れる程度に考えているスタートアップも多いですが、その程度で済めばそれはいい方です。本当に最悪の事態を想定するなら、1年間は売上がないつもりで削れるコストは全て削らなければいけません。無駄なことには一切お金を使わず、採用も絞らざるを得ないでしょう。ランウェイ(手持ち資金が枯渇する期限)をいかに引き伸ばせるかを最優先させなければいけません

スタートアップは生き残り戦略が重要だと語る一方で、大手企業やVCにも大きな変化が生じると語る。

鎌田「これだけ人もモノも移動できないとなると、大手企業も本業に影響が出ますから、当然スタートアップへの投資は後回しになります。新しい取り組みに興味関心はあっても、目の前で火急の事態が起きているのですから仕方ありません。VCも保守的になります。株式市場が停滞すれば、軒並み上場は延期され上場の数も減ります。イグジットが減り、バリュエーションも下がればVCのリターンも減ってしまうため、リスクの高いアーリースタートアップよりも、ミドル以降のステージでの投資に集中せざるを得ません。何より既存の投資先を守ることが優先されるため、新規に投資する動きも鈍くなってしまいます。いずれにしてもスタートアップにとっては、資金調達のハードルが上がることは避けられません

新しく資金調達するのは難しくなると語る鎌田氏は、キャッシュ・フローと同じくらい社内の結束への配慮も必要と語る。

鎌田「売上の減少に加え、コストを削っていくことで社内の雰囲気もどんどん悪くなってしまいます。経営陣で意見が割れることも多くなるでしょう。ただし、こういう時こそ社内へのケアを忘れてはいけません。経営陣で意見が割れることは悪いことではありませんが、ギクシャクしている姿を社員たちに見せるのは避けるべきでしょう。社員たちの前で話す際には、経営陣が全員納得した上で話してあげてください。
業績が悪化すれば揉め事が増えるものですが、経営陣の器が試されるイベントでもありますし、逆に言えば、こういった状況を乗り越えたチームは強くなります。今は業績や企業価値が下がるのは当たり前なので、あまり数字に囚われず信じていることをやりきることが重要ですね」

「経済危機の後には大きなチャンスがある」幾度のピンチから学んだこと

自身でも会社を上場させ、幾度かの経済的危機を乗り越えた経験を持つ鎌田氏。これまでの危機をどのように乗り越えてきたのだろうか。

鎌田「私自身、これまでITバブルの崩壊や同時多発テロ、リーマンショックといった世界的な危機を経験してきました。同時多発テロの時は世界中で人の動きが止まってしまったのは、今回と共通していますね。当時はグローバル展開に力を入れていて、私はスペインから動けなくなりましたし、各国でしばらく足止めされた社員もいましたね。結局グローバル展開は一度ストップし、国内でのビジネスを最優先することになりました。
リーマンショックの時は金融業界が大ダメージを受けて、消費が冷え込み、経済が低迷しました。当時資金調達しようとしていたスタートアップはしばらくキツかったと思います。ただし、あの時と違い、今回はもともと経済は健全に回っていました。多くのスタートアップがやっていることは間違っていないということです。現在コロナ感染防止対策で、もともとある需要を押さえ込んでいる状態です。ですので、今回の事態を乗りこなしさえすれば、再びジャンプできるはずです」

実際に世界的な危機を乗り越えてきた鎌田氏は、ピンチの時こそ冷静でいられるかが試されていると続ける。

鎌田「苦しいのは私たちだけでなく、世界中の競合たちも同じ苦境に立たされています。むしろニュースを見る限りでは、現段階では日本はまだマシな状況とも言えます。みんな同じ条件なのですから焦る必要はありませんし、こんな時こそじっくり力を貯められるかが重要です。資金が減っていくのを目にしてジタバタする会社も増えていきますが、冷静にできることにフォーカスしていきましょう。見通しが甘いと予想以上に事態が悪化した時に焦ってしまいますが、最悪を想定していれば焦ることもありません

鎌田氏自身も過去の経験で想定以上に悪化したことがあったらしく、自戒の意味も込めて最悪を想定する重要性を何度も話してくれた。そして、こんな時だからこその行動にも触れる。

鎌田「こういう時は自分たちで完結できる仕事にフォーカスすることが重要です。顧客やパートナーと進めている仕事は、相手が動かなければ進みません。こういう状況では、変更になる可能性も高い。それよりも本来やるべき開発、後で開発しようとしていた製品やサービスを前倒しで開発するなど、自分たちの努力でコントロールできる仕事をしっかり計画を立てて進めていきます。
自分たちの力を溜め込んでおけば、事態が収束した後に大きくジャンプできるはずです。これまでの経験から言っても、危機の後は優秀な人を採用しやすくなるなど、チャンスも多くなります。そういったポジティブなことを考えながら冷静に力を溜め込んでください」

「仕事」が「為事」に。働く意義を変えるきっかけとなる

話題は変わり、アフターコロナでの社会の変化についても話を伺う。今回の騒動を機に、各国の地球環境への意識も変わるだろうと鎌田氏は話してくれた。

鎌田「温暖化や自然破壊が、ウイルスの変異のリスクを高めているということもあります。我々は自然とは戦えない。これまでは経済成長を優先してきた世界の流れも、今回を機に意識が変わるのではないでしょうか。企業の活動を見ても、やみくもな経済成長を標榜するより、SDGsや社会的責任を掲げた方が人が集まりやすくなっています。企業の存在意義が単なる利益の追求から、環境問題や社会の課題の解決にシフトしていくはずです」

世界の流れだけでなく、日本の働き方も変わるだろうと鎌田氏は続ける。

鎌田「これまでの工場型の働き方から、能力をつなぐ働き方に変わっていくでしょうね。これまでは同じところに人を集めて、仕事を割り振って生産性を高めてきました。一箇所にまとまっていたほうが管理しやすいなどの利点があったからです。しかし、今回の騒動でオンラインでの仕事が普及したことにより、オフィスに行かなくてもできる仕事が案外多いことに気づいた企業も多いのではないでしょうか。もちろんリモートでは難しい仕事もあるはずですが、以前よりもリモートでの仕事が増えるのは確実だと思います。
そして、これからは個人の能力をいかに発揮してもらうか、それが働き方の大きなポイントになっていきます。例えば、仕事をする環境も、仕事の質によって選べることが大切です。一人で黙々と集中できる静かなスペースと、人と話して刺激がもらえるスペース、そして適度に雑音が聞こえるような環境。
この3種類くらいから働く環境を選べればいいんじゃないでしょうか。最近は一人で集中できるスペースと、開放的なスペースが用意されているオフィスも増えていますが、働く場の設計もクリエイティブな発想を生むデザインに変わっていくと思います。今回の騒動を機に、何年も先だと思っていた働き方が前倒しで訪れることになるはずです」

働く環境が大きく変わりつつある今は、スタートアップにも大きなチャンスがあるとも言う。そして、働き方だけでなく働く意義についてもパラダイムシフトが起きることを、明治の文豪森鴎外の言葉を借りてこう語る。

鎌田「仕事は仕える事と書きますが、森鴎外は自身の小説で為す事と書いて『為事(しごと)』と書いていました。会社のために働くのではなく、自分が成し遂げたいこと、やりたいことをやって会社や組織がそれを活用するのが為事ではないでしょうか。言われて働くのではなく、自分が為したいことのために組織を利用するということですね。そんなことを当時に思っていたのは本当にすごいことだと思います。そして彼が思い描いていた世界がいよいよ実現するときがやってきたのを感じますね」

やりたいことなら誰でも力を発揮できるし、会社はその力を活用して結果を出す仕組みになっていくと鎌田氏は語る。最後にスタートアップと大手企業に次のようなエールを送った。

鎌田スタートアップのチャンスは『未来』から『現在』を引いたところにあります。未来から見て今足りないことを作っていくのがスタートアップです。今回の騒動で未来がわずかながら近づいたはずなので、こんな時だからこそ未来を先取りしてチャンスにしてください。最悪を想定しながらも、そのような前向きな姿勢で乗り切って欲しいと思います。
大手企業に関しては、こんなときだから夢を見て欲しいと思います。このような事態で本業がピンチになると、どうしても投資マインドがなくなって短期的な事業の立て直しが優先となってしまいます。しかし、こんな時だからこそ夢に投資することで、10年後に称賛されることになります。本業も大事ですが、ぜひスタートアップへの投資も忘れずに未来をいっしょに創りましょう」

ここがポイント

・新型コロナ禍でスタートアップは、生き残りを最優先に考え、1年間は売上がないつもりでコストを削る必要がある
・困難な状況を乗り越えたチームは強くなる。社内ケアを忘れず、信じていることをやりきることが重要
・現在はコロナ感染防止対策で、もともとある需要を押さえ込んでいる状態。事態を乗りこなしさえすれば、再びジャンプできる
・現在の様な状況下では、自分たちで完結できる仕事にフォーカスすることが重要
・「アフターコロナ」は企業の存在意義が単なる利益の追求から、環境問題や社会の課題の解決にシフトしていくはず
・会社や組織のために働くのではなく、自分が成し遂げたいこと、やりたいことをやって会社や組織がそれを活用する「為事(しごと)」が重要になる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介