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リーダーシップ研究者、早稲田大学の村瀬俊朗准教授に聞く、テレワークでも成果を出せるチームの作り方

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新型コロナウイルスの影響でテレワークを始める企業が増え、慣れない仕事の進め方に四苦八苦している人もいるだろう。特にプロジェクトの進行管理を行うリーダー層は、メンバーの顔が見えない状況でどのようにモチベーションを上げ、成果を出せば良いか悩んでいるはずだ。

ならば、専門家に話を聞いてみよう。本記事では日米で10年以上チームワークの研究に携わる早稲田大学准教授の村瀬俊朗氏に、テレワーク下のチーム形成について伺った。

テレワーク下ではどのような課題が発生するのか、その課題を解決するために何ができるだろうか。ビデオチャットを使って村瀬氏に伺ってみた。

INDEX

テレワークで起こりがちな問題は、共通のゴールが見えなくなること
3つの行動で「共通認識」をつくり出す
コミュニケーションを促すために「心理的安全性」が求められる
ここがポイント


村瀬俊朗(むらせ・としお)
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)をつとめた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。

テレワークで起こりがちな問題は、共通のゴールが見えなくなること

一言にテレワークと言っても、プロジェクトによって求められるレベルは異なる。作業を滞りなく進めるだけなのか、異なる部署・企業がコラボしていくのか、さらに高みを目指しイノベーションを生んでいくのかなど、様々な状況があるだろう。

ここでは、コラボやイノベーションを生み出せるレベルを前提に話を進めていきたい。そのうえでどのような課題が発生するのだろうか。

村瀬:テレワークのようにお互いに顔が見えない環境では「共通認識」が形成しづらくなります。ビジネスにおける共通認識とは、プロジェクトのゴールや目的、誰が何をしているかなど、チームが機能するために必要な情報です。

私たちはオフィスワークのなかで、視覚・聴覚から多くの情報を受け取っています。オフィスでは雑談やコーヒーブレイクができ、視界の片隅に常にメンバーの姿が見えている。誰が、どこで、何をしているか。これらの情報から共通認識は生まれているのです。

仕事を進めるうえで、共通認識はとても有益なものです。はっきり指示が下されなくても、個々のメンバーが「Aさんが営業に行くから資料を作成しよう」「部長は来週プレゼンだから事前に情報を集めよう」と、周りの情報から判断して行動することができます

しかし、テレワークでは交流の方法はビデオや文字などに限られてしまい、コミュニケーションの総量が少なくなってしまう。無意識的に受け取っていた情報が得られないので、個々のメンバーの間でプロジェクトのゴールや目的に様々な解釈が生まれ、前提条件にズレが生じてしまいます。この状況ではプロジェクトはなかなか前には進みません。

3つの行動で「共通認識」をつくり出す

村瀬氏はテレワーク下の課題として、共通認識が形成しづらいことを挙げた。これをどのように解決すれば良いのか。村瀬氏は3つの行動が重要だと言う。

村瀬:これはオフィスワークとテレワークに共通することですが、リーダーには以下の行動が求められます。
・プロジェクトのゴールを明確にすること
・計画のステージを整理し、誰が何をやるのか、役割分担を明確にすること
・メンバーの作業を見える化すること

なぜ3つの行動が求められるのか、それは自走できるチームを作るためです。特にテレワーク下ではコミュニケーションの総量が減るため、メンバーの状況が分かりづらくなります。つまり、トップダウンの管理監督がしづらくなってしまうのです。お互いの状況を逐一確認できない状況では、メンバーそれぞれが自走できる環境を作らなければいけません。

異なるバックグラウンドを持つ人々が成果を上げるためには、共通のゴールが必要です。そして、ゴールを目指すために役割分担を決める必要があります。そのうえで、チーム全体がゴールに向かえているか確認するために見える化を行うのです

具体的な方法ですが、ゴールや役割分担は、チャットツールの片隅など目につきやすい場所に記載してもいいですし、毎週ビデオ会議を行って逐一伝えてもいいでしょう。作業の見える化には、日報・週報だけでなく、タスク管理ツールも見える化を助けてくれます。これらの施策は普段から行っている人も多いと思いますが、テレワークの環境下では交流機会が限られるのでオフィスワーク以上に根気よく、繰り返し伝えることが重要です。

ゴールを明確にして、役割分担を決め、作業を見える化する。これらはマネジメントの基礎的な手法だが、テレワークではより高いレベルが求められる。ここで、先ほど課題の段落で述べられた「共通認識」について村瀬氏からアドバイスがあった。これを円滑に形成するためには「心理的安全性」が必要だと言う。

コミュニケーションを促すために「心理的安全性」が求められる

村瀬:共通認識が仕事に与える影響は先ほど話した通りですが、これを形成するためには、メンバー同士の情報の交換を促さなければいけません。そこで重要になるのが「心理的安全性」です。「ちょっと相談できますか」と言いやすい状況を作れば、おのずと交流が活発になり、状況も把握しやすくなります。

心理的安全性を形作るのは「信頼」です。「信頼」は「能力への信頼」と、弱い部分を見せてプライベートなことを相談できる「人としての信頼」に分けられます。そして、後者は心理的安全性の下地になります。

テレワーク下のコミュニケーションは、時間の制約やツールの制約から仕事中心になりがちです。プライベートなことを話す機会が少なくなるので、「人としての信頼」は形成しづらいと思います。だからこそ、業務中のコミュニケーションを大切にしなければいけません。

忙しそうな人にはチャットで話しかけづらいですし、ビデオチャットを重要な会議だけに使っていれば気軽に使いづらくなってしまう。交流を増やすためには、リーダーが方向性を示すことが重要です。ビデオチャットで雑談してもいいですし、悩みを相談する時間を設けてもいいでしょう。

普段のオフィスワークとは状況が異なるテレワークでは、様々な工夫が必要だ。言い回しひとつとっても、オフィスワークとは異なる心がけが必要になるだろう。

村瀬コミュニケーションは「明確にはっきりと」を心がけましょう。繰り返しになりますが、テレワーク下ではコミュニケーションの総量が少なくなり、フォローの機会も限られるからです。

たとえば、部下から書類のチェックをお願いされた時に、「君はこれでいいと思っているの? そうなんだ」とフィードバックを返すのでなく、「僕は〇〇が問題だと思っているから、■■へ直してほしい」と伝えるのです。遠回しで嫌味な言い方は「人としての信頼」があるから成り立ちます。しかし、テレワーク下では信頼が形成しづらく、遠回しな伝え方は部下のモチベーションを下げてしまいかねないのです。

同様に、チャットではついつい面倒になり、いいねやスタンプだけで済ましてしまうこともありますが、これは得策ではありません。貴重な交流の機会なので、丁寧で素早いフィードバックを心がけ、リーダー側から「何か相談はない?」と聞く姿勢が必要です。

村瀬氏が言うように、こういう時節だからこそ丁寧なコミュニケーションを心がけてみたい。この状況はいつ解決するのか先が見えず、日々ストレスを感じることも多くなってきた。きっと不安を抱いている部下も多いだろう。だからこそ「悩みはない?」と一言かけるだけで、信頼関係が築けることもあるはずだ。

今回、村瀬氏に聞いたお話は、いずれもマネジメントの基礎と応用だった。テレワークにおいても「魔法の杖」と呼べるようなクリティカルな方法はないのだろう。地道に行動し、ノウハウを蓄積して、PDCAを回して、はじめてチームは形作られる。困難な状況はまだしばらく続きそうだが、だからこそチームの真価が問われるのではないだろうか。

ここがポイント

・普段のオフィスワークでは、プロジェクトのゴールや目的、誰が何をしているかなど「共通認識」ができている
・テレワークでは、個々のメンバーの間でプロジェクトのゴールや目的に様々な解釈が生まれ、前提条件にズレが生じやすい
・「プロジェクトのゴールを明確にすること」「計画のステージを整理し、誰が何をやるのか、役割分担を明確にすること」「メンバーの作業を見える化すること」が重要になる
・「共通認識」を円滑に形成するためには「心理的安全性」が必要
・心理的安全性は、弱い部分を見せてプライベートなことを相談できる「人としての信頼」によって築かれる
・リーダーは適切なフィードバックを行う必要がある


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:高澤啓資