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コリビングで快適な暮らしとコミュニティを。「不動産の新しい価値づくり」を掲げ三菱地所が挑む新しい暮らし方”Hmlet”とは

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入居者同士のコミュニティ形成を重視した、新しい暮らしのスタイルが海外で広がりを見せている。シンガポールでCo-livingサービスを提供するスタートアップ「Hmlet」は既に香港、シドニーへと展開し、2019年には三菱地所をパートナーとして東京への進出を果たした。第一号物件を渋谷区神泉町にオープンし、入居者たちは親睦を深めている。

今回は三菱地所の新規事業としてHmletとの協業を提案し、Hmlet Japanの代表取締役を務める佐々木謙一氏に話を伺った(2020/3/17取材実施)。日本ではまだ馴染みのないCo-livingと呼ばれる新しい暮らし方を、これからどのように展開していくのか、また中堅社員の佐々木氏が社内起業した理由について深堀りしていく。

INDEX

日本の不動産ビジネスに「快適な暮らしとコミュニティ」を
建物にとらわれないコミュニティ形成と専用アプリでのサービス提供
大手企業の中堅社員こそイントレプレナーがおすすめな理由
ここがポイント


佐々木謙一
三菱地所株式会社に2006年入社。法人営業、丸の内再開発事業、採用・研修・人事制度構築等に携わったのち、シンガポールにて東南アジアでの不動産開発に従事する。2018年より、シンガポールにてHmlet社創業者と日本におけるJV組成について協議を開始し、2019年10月よりHmlet Japan株式会社に勤務。

日本の不動産ビジネスに「快適な暮らしとコミュニティ」を

2017年から2019年まで、シンガポールに駐在していた佐々木氏。東南アジアの不動産デベロッパーとJVを組成し、三菱地所の住宅ビジネスのノウハウを伝える仕事に従事していた。Hmletと出会いは、佐々木氏のある行動がきっかけだった。

佐々木「シンガポールでの仕事に慣れ、余裕が出てからは、現地のスタートアップを調べてはCEOなどに直接話を聞きに行っていたのです。半分趣味ではあったものの、面白い会社を見つけた時は三菱地所の新事業創造部にも紹介しており、新規事業のきっかけになればと思っていました。

東南アジアのスタートアップには、グローバルに進出する足がかりとして、アジアでも大きな市場を持つ日本に興味のある経営者が多かったのです。しかし、独自の文化を持つ日本はローカライズが難しく、気軽には手を出せません。そこで、大手企業である三菱地所の強みを活かして、日本への進出を後押しできればお互いにWin-Winだと思いました」

いくつもあるシンガポールのスタートアップの中で、Hmletを選んだ理由を佐々木氏はこう語る。

佐々木デジタル技術を活用しながら、コミュニティを持たせる住宅という考えが面白いと思ったからです。日本の住宅ビジネスはシンプルで、『駅からの距離』と『築年数』で坪単価の9割近くが決まります。建物の仕様などで多少上下することはあっても、相場から大きくブレることはありません。

そうなると、あとは土地や建物の所有者からいかに安く仕入れられるか、そして、いかに強気の賃料設定ができるかが住宅ビジネスのシンプルなルールになります。もし、コミュニティや住宅関連のサービス提供で新しい価値を生み出すことができれば、これまでにない住宅ビジネスを展開できると思いました」

コミュニティによる新しい価値とはどのようなものだろうか。佐々木氏はHmletのビジネスを見た時に、自分の生活を基にしてあるイメージが浮かんだと言う。

佐々木「例えば私は共働きで2歳の子どもがいます。どちらかが残業する時は、一人で子どもの世話をしなければいけませんし、土日に仕事が入れば一日中一人で子どもにかかりきり。飲みに行く回数も子どもが生まれる前の10分の1以下に減りましたね。

もしも、そんな私たちの家族の隣に、定年して老後の人生を楽しむ60代の夫婦が住んでいたとします。その夫婦は、お金も時間もあるけど、子育ても終わって寂しさを感じ、社会との繋がりを欲しているのではないかと思います。時々でもいいから子どもを預かってもらえたら、お互いに人生が充実すると思うんです。

子育ては楽しいですが、共働きでは大変な時もあります。もし慌ただしい日常のなかで、ちょっとした助け合いができる隣人がいたらとても心強いですし、隣の夫婦も社会との接点を持てます。このようにお互いのニーズを満たしマッチングをできる住宅なら、相場より多少家賃が高くても住みたいと思う人は必ずいると思ったのです」

建物にとらわれないコミュニティ形成と専用アプリでのサービス提供

将来的には、日本人入居者の比率を高めたコミュニティを作りたいと言う佐々木氏だが、現在の利用者の8割は外国人のようだ。外資系企業の駐在員にとても人気だと佐々木氏は話す。

佐々木仕事で日本に長期滞在する駐在員の中には、賃貸マンションを借りるのに苦労している方も少なくありません。これまではホテルやサービスアパートメントに住むしかありませんでしたが、それでは日本人の友だちが作りにくいですし、日本の文化に触れる場面も限られてしまいます。

Hmletなら、充実したコミュニティが手に入るだけでなく、海外の方にとっては煩雑な水道光熱費やインターネットの契約/解約も簡単に行えます。最短1ヶ月からの契約が可能なので、長期のビジネス出張者の方にも喜んでもらっていますね」

外国人の利用者が増えることで、日本人にも新たな価値を提供できるようになると佐々木氏は話す。

佐々木「日本で会社勤めされている方は、朝から晩まで会社で働き、仕事が終わった後も上司や同僚と飲みに行くという生活をされている方も多いと思いますし、私も20代の頃はそうでした。そのような生活を何年も続けていれば、よほど気を付けていないと視野が狭くなりやすく、また新しい価値観や考えを取り入れにくくなります。しかし、住居を介したコミュニティに、例えばスタートアップで働く人や海外の駐在員の友人ができれば、全く異なる文化に触れて刺激にもなりますし、生き方も変わるかも知れません

自身も家と会社の往復の仕事をしてきた佐々木氏にとって、海外に駐在し日本人以外と話すことはとても刺激的だったのだろう。自分と異なる価値観や経歴を持つ人たちとのコミュニティが持てることは大きな価値だと言う。

佐々木「日本人は既に会社や学生時代の友達がいますので、初めはHmletのようなコミュニティに価値を感じない人も多いと思います。一方で、例えば、Hmlet渋谷松濤にはGoogle等に勤務する欧米人が住んでいますが、将来海外で仕事をしたい日本人やMBAを取りたい方などと相性がいいはずです」

コミュニティを売りにするHmletだが、コミュニティと言えばシェアハウスを思い浮かべる方もいるのではないだろうか。従来のシェアハウスとHmletとの違いについて、次のように佐々木氏は話す。

佐々木「まず、Hmletでは通常の賃貸マンション同様に、キッチン・トイレ・風呂がそれぞれの個室で確保されています。入居者は自室で寛ぐことが出来ますし、自分の好きな時だけコミュニティラウンジに来ればいいのです。また、Hmletのコミュニティは、必ずしも一つの建物で完結する訳ではなく、入居者専用アプリを通じて、情報発信や入居者同士の交流を促すため、エリア単位でのコミュニティを形成します。渋谷の1号物件の中には共用スペースもありますが、もし、周辺の賃貸マンションに空き部屋ができたら一部屋ずつでも増やしていくことが出来ます。シェアハウスのコミュニティは建物内部で完結していますが、私達は建物ではなくエリアごとにコミュニティを作っていく構想です。

最近ではホテルからの協業の問い合わせも増えています。ホテルはハイシーズンこそ部屋が埋まっていますが、それ以外は空室を抱えることがあります。使われていない部屋の一部を私達が数か月単位で借りて、Hmletとして提供していくのです。またホテルには食堂もありますが、ほとんど朝食と夕食時しか使われていません。そんな食堂のアイドルタイムをコミュニティ形成のために使うことなども有益だと考えています」

現在はマンションタイプに限られるが、今後はホテルなど様々なタイプの部屋に住むことができるかもしれない。そして、もう一つの大きな差別化として、独自のアプリについても紹介してくれた。

佐々木「入居者の方だけがダウンロードできるアプリがあり、どんな人が住んでいるのかプロフィールを見られるようになっています。アプリを使ってイベントの告知もすることができ、エリアごとに様々なイベントを企画できます。先ほど、お伝えした通り、従来のシェアハウスでは、同じ建物に住んでいる人としか繋がれませんが、Hmletなら近くに住んでいるHmletの入居者たちとも簡単にコミュニティを作ることができるのです。

他にも、アプリを使えば簡単に清掃サービスを手配したり、コミュニティ・マネージャーや他の入居者とのチャット、24時間の不具合対応サポート依頼、その他の各種の手続きを行うこともできるので、日々の生活を充実させてくれるでしょう」

独自のサービスを打ち出して、これから日本人の利用者も増やしていくようだが、コロナ禍においては課題も感じているようだ。

佐々木「これまでは、主に欧米系の駐在員が入居してくれていますが、3月以降のコロナウィルスの世界的な流行を受けて、国境を跨いだ移動がなくなったため、更にローカライズを進めているところです。

例えば、金額の打ち出し方にも工夫の必要を感じています。今は水道光熱費やインターネット代なども含めた金額を打ち出しているのですが、通常の賃貸マンションと比較すると、相対的に高く見えてしまいます。水道光熱費などは別料金として打ち出したり、備え付けの家具もオプションにしたりして、一人一人のニーズに応じた柔軟なサービスを提供できればと考えています」

大手企業の中堅社員こそイントレプレナーがおすすめな理由

大手企業に所属しながら起業した佐々木氏。イントレプレナーとしての側面にもスポットを当てていきたい。シンガポールで様々なスタートアップを見てきた佐々木氏が、協業先にHmletを選んだのは、三菱地所グループ内での理解のされやすさも考慮に入れてのことだったという。

佐々木「新規事業を行うにあたり、グループ内にファンをいかに多く作れるかを意識していました。本業から近ければ社内の方々も関心をもってくるので、例えば物件情報や潜在顧客を紹介してくれることもあると思いました。10年以上働いてきた会社なので、社内で築いてきた人脈を活用しないのはもったいないですよね。

そういった意味では、Hmletの事業は三菱地所の住宅事業領域の本業に近接している事業なので、多くの方に応援してもらっており、大変有難く感じていますし、同様に社外の方々からも想像以上にサポートして頂いています。

また、Hmletと組んだことで三菱地所のブランディングにも繋がればいいなと思っています。三菱地所はオープンイノベーションに積極的ではないイメージを持たれる方も多いですが、実際には積極的にスタートアップと組んでいます。Hmletをはじめオープンイノベーションの事例を増やすことで、大企業でありながらも新しいことにチャレンジしたり、スピード感をもって事業を進めていきたいですね」

佐々木氏は三菱地所で様々な新規事業が次々に生まれていることを強調した。取材の最後に、佐々木氏は大手企業の中堅社員こそイントレプレナーに向いていると語る。

佐々木「もし事業に失敗して仕事がなくなるような環境なら、なかなかチャレンジすることは出来ません。仮に事業に失敗しても、生活が保証されている社内起業だからこそチャレンジしやすいのです」

現在は、松濤と笹塚にのみ物件を持つHmletだが、今夏、岩本町・千石・原宿・高田馬場・三軒茶屋で、新たに5物件を開業予定であり、今後も積極的に物件を提供していくと語った。まだ日本では馴染みのないCo-Livingという住まい方も、当たり前に受け入れられる未来はそう遠くないかもしれない。コミュニティのある新しい暮らしが日本に広がっていくのが楽しみだ。

Hmlet Japanの運営する物件の詳細はこちら

ここがポイント

・”Co-living”のデジタル技術を活用しながら、コミュニティを持たせる住宅という考えが面白かった
・お互いのニーズを満たしマッチングできる住宅なら、多少家賃が高くても住みたいと思う人は必ずいると思った
・仕事で日本に長期滞在する駐在員の中には、賃貸マンションを借りるのに苦労している方も少なくない
・日本人も全く異なる文化に触れて刺激にもなるし、生き方も変わるかも知れない
・Hmletのコミュニティは、建物で完結する訳ではなく、入居者専用アプリを通じてエリア単位でのコミュニティを形成している
・新規事業を行うにあたっては、グループ内にファンをいかに多く作れるかを意識していた
・仮に事業に失敗しても、生活が保証されている社内起業だからこそチャレンジしやすい


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介