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社内外との接点である広報だからこそできる、自社の強みの再編集。社内の巻き込みから始める三菱地所のコーポレートブランディング

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三菱地所グループが、新たな企業広告としてスタートした「三菱地所と次にいこう。」シリーズ。2010年から8年間放映した「三菱地所を、見に行こう。」シリーズからのステップアップを目指し、テレビCM第1弾「協創」篇には、女優・高畑充希さんを起用している。

CMの舞台は2027年度に全面開業予定の「TOKYO TORCH(トーキョートーチ)」。2021年6月末に竣工予定の「常盤橋タワー」の建設現場で撮影が行われた。

今回は新たな企業広告を企画した三菱地所広報部の打越氏と横坂氏にインタビューを実施。コンセプト制作の舞台裏や「協創」篇に込めた想いなどを聞いた。広報として2人が意識的に行ったことはなんなのか、そのエッセンスをお届けする。

INDEX

認知度拡大に成功した「見に行こう」シリーズを引き継ぐ新シリーズ
「次にいこう」のコピーが表現する三菱地所の強み ~「未来のアタリマエ」を創り続ける~
事業部と広報部は表裏一体。いかに事業部と一体となれるかがカギ
事業部との協創を生み出すための秘策とは
社員一人ひとりに自分の言葉で語ってもらう。「広報」として活躍する社員を増やす第一歩
ここがポイント


打越 亮
三菱地所 広報部 兼 ラグビーマーケティング室 兼 DX推進部
2010年に三菱地所に入社。マークイズみなとみらいをはじめ、商業施設のテナントリーシングに携わった後、ビル営業部にて、オフィスビルのテナントリーシングおよび他オーナー物件のオーナー窓口業務等に従事。現在は、広報部でグループ会社も含めたコーポレートブランディングおよびインナーコミュニケーションの業務全般を担う。


横坂真衣
三菱地所 広報部 兼 ラグビーマーケティング室
2017年三菱地所に入社後、広報部でグループ会社を含めたコーポレートブランディングおよびインナーコミュニケーションの業務全般、スポーツ協賛を通じた広告業務を担当。

認知度拡大に成功した「見に行こう」シリーズを引き継ぐ新シリーズ

――これまでも企業広告をシリーズとして実施してきたのですか?

横坂:初めての企業広告シリーズは2010年から始めた「三菱地所を、見に行こう。」シリーズです。それ以前もCMを作っていましたが、長期にわたってシリーズ化したのは初。

不動産デベロッパーは生活に身近な存在だと捉えられにくく、一般の方の企業認知度が高くないという課題がありました。「見に行こう。」シリーズは、8年かけて当社グループが開発する商業施設や住宅、ホテルなど様々な事業を「見に行く」広告を継続して展開したことで、一般の方に身近に感じてもらい、また企業認知を獲得することに成功しました。
企業の認知度が高まったところで、次にとりかかったのはより好感度を上げること。「新しい匂いのする街」と題した2つ目のシリーズは、大企業ばかりでお堅いイメージが強かった大手町や丸の内に「柔軟で新しい働き方」が広まっていることをドラマ仕立てで表現しました。

――どちらのCMも印象に残っていますが、なぜまたシリーズ変更をされたのですか。

横坂:2つ目のシリーズは1作1作の好感度が高く、コーポレートブランドの向上に寄与したと考えています。しかしどうしても「見に行こう。」の印象が強く、社内外に三菱地所の広告=「新しい匂いのする街」シリーズであると認識してもらうことに難しさを感じていました。そこで、「見に行こう。」シリーズのステップアップとして、三菱地所の広告=このシリーズだよね、と社内外の方に認識されやすく、またシリーズを通して伝えたいメッセージも強く印象に残るものを目指して、新たなシリーズをスタートさせました。

――新CM放映のタイミングに意味があれば教えて下さい。

打越:実は2019年から準備を始め、2020年4月、当社グループの長期経営計画(以下、長計)スタートと併せてのローンチを目指していました。しかし、当時、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、社会情勢が読みづらく、一旦、ローンチのタイミングを再検討することにしました。企業広告は社会情勢も踏まえて展開していく必要があります。これまで以上に社会をリードしていくという能動的な姿勢を訴求する新CMとしての相応しいローンチタイミングを見計らっていました。

今回、当社グループとしての新年度が始まるタイミングで企業広告のリニューアルを発表したのです。

「次にいこう」のコピーが表現する三菱地所の強み ~「未来のアタリマエ」を創り続ける~

――新シリーズの「次にいこう。」のコピーには、どのような想いが込められているのですか

打越:三菱地所グループは、すべてのステークホルダーのことを想い、これまでも、これからも「未来のアタリマエ」を実現する会社であり、常に先を見据えてチャレンジを続けていきますという想いです。

長計の中でも、当社グループの強みは「超長期視点でのまちづくり」と「時代を先取りするDNA」と発表していまして。そうした企業姿勢を表現できるコピーをつくれればと思っていました。

――「超長期視点」というのはインパクトがありますね。

打越:発表した経営計画も10年スパンでの長期計画です。一般的な企業の経営計画が中期の3~5年と考えると、当社グループがいかに長期的な視点で事業推進しているかが分かってもらえると思います。

コラボラティブオフィスの「Inspired.Lab」や「FINOLAB」の入っている大手町ビルは既に築60年を超えていて、大規模リノベーションの実施により100年ビルへの挑戦をします。CMの撮影を行った常盤橋タワーも、私が新卒で入社した11年前にはすでに、社内で計画に関するディスカッションを先輩たちがしていたことを覚えています。どのプロジェクトも数十年先の未来を見据えて走っているのです。

――今回のCMの第一弾は「協創」篇とありますが、その意味についても教えて下さい。

横坂:「協創」もまた、長計に盛り込まれているテーマです。過去の丸の内は大手企業ばかりが集まる街でしたが、今では多くのスタートアップも集まっています。様々な価値観が混ざり合うことで、新たな価値観が生まれることを「協創」という言葉で表現しました。

広告だけではなかなか伝わらないメッセージですが、私たちが「協創」の観点を大事にしていることを知ってもらえれば、私たちの事業に対するイメージも変わると思います。

――具体的にどのような協創を行っていくのでしょうか。

打越:今回、テレビCMと一緒にラジオCMも制作しています。その中で取り上げた協創事例を紹介しましょう。

例えば「東京と地方」の協創。TOKYO TORCHは東京駅前に誕生しますが、そこには日本全国の文化と魅力が集まります。新潟県小千谷市の錦鯉が泳ぐ親水空間に、茨城県つくば市の天然芝、静岡県裾野市の季節の花々といったように。

他にも「大人と子ども」の協創。子どもたちとワークショップを通じて「自分たちの夢や日本の未来」について考え、語り合う取り組みです。そこで得たアイデアやセンスをヒントに、私たちも有識者らと知性をぶつけ合いながらこれからのまちづくりを考えていきます。

「企業と企業」はもちろんのこと、「地域と地域」や「大人と子ども」といったように、様々な協創の場を創出していきます。

事業部と広報部は表裏一体。いかに事業部と一体となれるかがカギ

――テレビやラジオなど、様々な取り組みをしていますが、大変だったことを教えて下さい。

横坂:今が一番たいへんですね。CMは無事完成しましたが、大事なのはこれからこのシリーズが社内でも親しまれ、その価値観に共感してもらえるものにしていくことです。

――社内への浸透に力を入れているのですね。

打越:私たちが社外にメッセージを発信しても、それを体現するのは各事業部ですからね。そういう意味では事業部と広報部は表裏一体の関係だと思っています。事業部メンバーと、企業グループとして目指したい方向性やイメージの共通認識をしっかりと持てる関係性を構築し、メンバー一人ひとりに「広報」になってもらわなければなりません

逆に私たちも、単にメディアでメッセージを発信するだけでなく、メッセージを体現する取り組みをしていく予定です。

――具体的にどのような取り組みをしていくのでしょうか。

横坂:4月に期間限定で「三菱地所と次にいこう。CAFE」を丸の内エリアで展開しました。カフェ内で、当社グループの様々な事業や取り組みを「協創」という切り口で紹介したり、「協創」を感じていただけるようなメニューを提供しました。例えばサステナビリティ活動の一環で山梨の限界集落地域で収穫したお米で作った日本酒の提供や、地方からの産地直送食材をふんだんに使ったメニューなどですね。

CMの放映と併せ、「協創」という切り口で事業に触れていただける場を作ることで、広告で発信しているメッセージと事業のイメージを結び付けられたら、と考えました。今後も、テーマに合わせて事業部と一緒に様々な企画を検討していきたいです。

――広報の取り組みとしてはとてもユニークですね。

打越:本来なら、このようにエリアを活性化させるイベントや、サステナビリティ活動は、それぞれ専門のセクションの管轄です。しかし、広報部でも業務フィールドを拡げて動くことで、事業部を巻き込んで、社内の協創もより生み出していきたいと思っています。

――そこまで事業部につよくアプローチできる秘密があれば教えて下さい。

横坂:広報部の広告担当者として事業部とのコミュニケーションを強く意識するようになったのは、打越さんが異動してきてからですね。

打越:私は新卒からずっと事業部で働いてきて、2019年4月から広報部に異動してきました。広報部に来て驚いたのは、社内に自分の知らない取り組みがたくさんあったこと。もっとインナーコミュニケーションを活発にして、社員一人ひとりが「広報」の役割を担ってもらわないともったいないと思いまして。

事業部との協創を生み出すための秘策とは

――事業部と連携するために行っていることを教えて下さい。

打越:それぞれの事業部やグループ会社に回って、「今こんなことを打ち出そうとしているんだけど、コラボできる機会はない?」と聞きに回っています。アタリマエ、且つ、地味な活動ですが、各部、各社から「うちの施設で宣伝したいから、ロゴやCMのデータない?」などと声をかけてもらえるようになりましたね。

横坂:これまでは、CMをお披露目して初めて社員も知るのが当たり前でした。今ではローンチと同時に様々な施設でPRしたり、話題にしてもらえるようになってきていると感じます。

――打越さんは事業部出身ですが、その経験からお願いするときに気をつけたことはありますか。

打越意識しているのは、「押し付けない」こと。あくまで「こんな取り組みをしているので、活用できる場面があれば活用してください」とお願いしています。もし活用されなくても、まずは知って、今後気にかけてもらえるように。

もし「こういうルールがあるので、それに従って活用してください」とお願いしていたら、事業部サイドも面倒くさくて協力してくれなかったと思います。

――CMが始まってからの反応はいかがでしょうか。

横坂:CMがスタートしてから、社内やグループの方から「新CM見たよ」という声をたくさんいただきました。今回はシリーズの第1弾として「新しいシリーズが始まった」ことが伝わるように、CMやグラフィックをインパクトのあるクリエイティブにしました。広告を見た社員にも、新しいものが始まったと感じてもらえたようです。

これまで関東中心の広告展開だったものを、同予算で全国でもCMを流せる工夫をしたことで、地方メディアや支店からも非常に良い反響がありました。事業エリアの拡大と併せて、広告訴求エリアも工夫を凝らしていきたいです。

社員一人ひとりに自分の言葉で語ってもらう。「広報」として活躍する社員を増やす第一歩

――これから事業部との連携を図っていきたい会社にアドバイスがあれば聞かせてください。

横坂事業部の方々自身に対外発信を担ってもらう、という社内意識の醸成がポイントだと思います。

そのためには、社員にいきなり対外発信してもらうのではなく、まずは社内報など、社内発信ツールで自身の取り組みを発信してもらうことは有用だと思います。まずは社内で自身の取組みの理解浸透にチャレンジしてもらい、それに対する周りの反応を感じてもらうことで、発信ポイントの理解度も高まっていくはずです。

打越:最近では社内報やイントラネットを社内に閉じられた世界にするのではなく、そのまま社外に発信するケースもありますよね。メルカリやトヨタなどは、社内と社外を分けずに情報発信して、社員一人ひとりに自分たちの言葉で語る機会を作っている新しいインターナルコミュニケーションにチャレンジしていて素晴らしいと思います。

そういう意味では「xTECHウェブサイト」の取り組みはそれに近い部分もあり、社外の方を取り上げる一方で、社内の方も取り上げてくれるのでとても楽しく閲読しています。

横坂:資料だけで理解していたつもりになっていた取り組みも、xTECHウェブサイトで取材された記事を見て、始めて意図が分かることも珍しくありません。とても貴重な機会だと思い、いつも楽しみにしています。

これらはあくまで一例ですし、これから新しいスタイルのインターナル・コミュニケーションを始める企業も増えていくのではないでしょうか。

ここがポイント

・企業広告シリーズの「見に行こう。」シリーズは、広告を継続して展開したことで、企業認知を獲得することに成功
・社内外に認識されやすく、伝えたいメッセージも印象に残るものを目指して新シリーズ「三菱地所と次にいこう。」をスタート
・込めたのは、これまでも、これからも「未来のアタリマエ」を実現する会社であり、常に先を見据えてチャレンジを続けていきますという想い
・体現するのは各事業部のため、共通認識を持てる関係性を構築し、メンバー一人ひとりに「広報」になってもらう必要がある
・社員に「広報」を担ってもらうには、いきなり対外発信してもらうのではなく、社内報などの社内発信ツールで自身の取り組みを発信してもらうことは有用


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介