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もはやうわべの情報発信やPRは通用しない 求められるのは、身体感覚を伴う実態のあるつながり

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本メディア記事にて話を伺った日比谷尚武氏は複数の肩書きを背負うパラレルワーカーだ。前回取材時には11枚のそれぞれ異なる名刺を持参いただいた。本業をはじめ、働き方改革推進団体、ベンチャー企業支援、渋谷区、ロックバーなど彼の活動範囲は多岐にわたるが、そのどれもが広報やコミュニケーションに関わる。

その傍ら、日本におけるパブリックリレーションズの啓発や普及にも携わる日本パブリックリレーションズ協会の広報委員会副委員長の顔も併せ持ち、PR業界を俯瞰する立場でもある。メディア露出やネットによる発信などに限らず、広義のPRに携わる一人として、様々な情報が飛び交い混乱に陥ったコロナ禍、更にはコロナ禍を節目に変わりゆく情報の受発信、ならびにパブリックリレーションズのあり方を伺った。

INDEX

未曾有の状況下で情報の混乱を避けるために
コロナ禍を境に変化するパブリックリレーションズの方向性
求められるのはビジョンではなく、連帯感
ここがポイント


日比谷尚武
公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会 広報副委員長、BtoB/IT広報勉強会 主催者、一般社団法人at Will Work理事、一般社団法人Public Meets Innovation理事、Project30(渋谷をつなげる30人)エバンジェリスト、ロックバーshhGarage主催、他。

未曾有の状況下で情報の混乱を避けるために

コロナ禍では様々な情報が飛び交い、混乱を招くことも多かった。そんなタイミングでは情報の発信側はどんな事を考え、何に注意すれば良いのだろう。

日比谷「情報が錯綜するような時期に限った話ではありませんが、広報とコミュニケーションにおける前提は、伝えたい相手の環境と、相手を取り巻く外部環境を把握し、配慮することです。一方で、第一波収束に向かう現在までに、新型コロナウイルス感染症に関係するトピックは、フェーズ(扱う対象となる時期)とテーマが入り混じった大量のトピックが世間に氾濫していたことは皆さんご存知の通りです。フェーズで見れば、『アゲインストコロナ(Against Corona)』の話から『ウィズコロナ(With Corona)』『アフターコロナ(After Corona)』のどこの話をしているのか。内容については、『アゲインスト』において語られた医療崩壊危機や自分自身の感染予防、感染した場合の対応、生活保護支援など、喫緊の課題についてや、それを経た『アフター』における新たなルールの制定や教育や行政機関のあり方など、多岐に渡ります。また、それらの総論もあれば、いずれかのトピックを切り出した話もあり、フェーズとテーマの粒度が入り乱れ、多様な情報が同時多発的に発信され続けています。
広報や発信側の立場からすると、このような外部環境が刻々と変化し、受け手のニーズや課題が多様化する状況では、情報の受け手の興味関心や求めるものの照準が非常に定めにくい。そうした中で発信側が意識するべきは、どのフェーズのどのテーマを話題にしたいのかを、企画観点ではもちろん、発信するコンテンツの中で明確にすること。その配慮が足りなければ、受発信側それぞれが、読みたいトピック、発信したいメッセージの意図が噛み合わなくなるでしょう」

コロナ禍を境に変化するパブリックリレーションズの方向性

情報の受け手からすればコロナ禍において求める情報がどの媒体、どの記事にアクセスすれば手に入れられるのかが分かりづらい状態が続いた。非常時を生き抜くため、今までになく情報に優先順位がはっきりとつけられ、情報に対する目利きもあるようになったはずだ。読み手の変化とともに発信側も変わらなくてはならない。今後、情報発信におけるコミュニケーションはどのように変化するのだろうか。

日比谷いよいよ表面的な情報発信は通用しなくなるでしょう。コロナ禍を経て、言うまでもなく受け手の『不要不急』に対する感度が高まっています。toB、toCを問わず、基本的に先が見えない。リスクが高まり不確実性が高まる中では、みな情報の取捨選択には慎重になるので、従来のような瞬間的で感覚的、そして量を浴びせるコミュニケーションは機能しにくくなるでしょう。
また、変化の大きい社会情勢においては、広義の『パブリックリレーションズ(=PR)』がますます必要になります。言葉の通り、社会との関係づくりを意味するPRの概念では、顧客や従業員、パートナー企業、業界団体、監督官庁など、あらゆるセグメントと事業を進めていくことが重視されます。一個人や組織単体の持つ情報収集アンテナではインプットが偏ってしまう。多方面との繋がりから知見や動向を得ることで、状況把握や先読みがしやすくなるでしょう。オープンイノベーションや異色人材を外部取締役に採用することも、そのひとつと言えます。とにかく特定の業界や組織内に固執していると世の中の大きな流れに追いつけず、ルールチェンジが起きた瞬間に置いていかれる時代が加速していくのではないでしょうか」

そうしたステークホルダーとの良好な関係構築には、フェアであり中長期的なビジョンを描けているかが前提となる。その前提に立てば、自ずと一個人や企業の利益追求や枠組みを越えて産業や業界全体、さらには国、世界に貢献する公共性と公益性へ目を向けた「(広く)誰かのための」発想が生まれるだろう。

日比谷「たとえば、AGREE社の医療相談アプリ『LEBER:リーバー』があります。医師であり代表取締役の伊藤さんが『人と人とを信頼感で結びつける』ことを ミッションにして地道に運営してきたところに、コロナ禍を機に遠隔医療に注目が集まり、一気に引き合いが増えました。他にも、『恵比寿新聞』はコロナ禍における地域の飲食業救済と、地元住民の方々の家仕事を軽減できるよう『テイクアウト・デリバリーMAP』、『エビスこどもごはんプロジェクト』を立ち上げました。これらの取り組みは商店街や自治体、地域の方々と意見交換しながら、早い段階で発足したこともあり、関係各所から『助かった!』という声があがっています。
日頃から『地域密着新聞』を謳い、人と人をつなぐメディアとして活動する『恵比寿新聞』の代表・高橋さんだから実現できたのだと思います。彼は昨年、『渋谷をつなげる30人』として地域の活動に参画するなどし、パパママ子育て支援に関わるNPOとも繋がっていました。今までの関係があり、それに地道な活動を継続的に続けてきたからこそ、有事の際にすぐに地域のニーズを汲み取り、支援策を講じることができたのでしょう。

同様の飲食支援キャンペーンが乱立していますが、だからこそどれを使うべきか選びかねる。そうした時に、『恵比寿新聞』のようにこれまでの日々の活動や『人』の痕跡があるかどうかかがひとつの判断基準になるでしょう。自分たちの利益追求だけではなく、地域社会をより良くするために役立てることを考え続けていると、自然と周囲にいる人たち、消費者の方々とともに先々のことを考える流れが生まれてくるのかと思います」

求められるのはビジョンだけではなく、「連帯」感

最後に、具体例として挙げてくれたものには中長期的なビジョンを描けていることに加え、他にも共通点があると日比谷は語ってくれた。

日比谷「ここで強調しておきたいのが、ステークホルダーとの良好な関係を結ぶために中長期的なビジョンは不可欠ですが、それだけでは不十分だということ。今後は、実体験を通じて培われる共感や仲間意識のような感覚、いわば『身体感覚を伴うつながり』が求められるようになるでしょう。SNSなどのバーチャルワールドが発展した反動で、そうしたつながりの強度が見直されているように思います。スナックブームや、『6Curry』のようなリアルな場所を軸に活動するコミュニティやイベントが人気を呼んでいることも、そのわかりやすい事例です。
物理的な接触が制限され、リアルな場に出ていく慣習がリセットされた今、各々がどのような場所にわざわざ足を運ぶかが吟味されることでしょう。その時、求められるのは既に打ち立てられた理念ありきの場所ではなく、そこにいる人たちが目指すゴールをともに考えられる場ではないかと思います」

ここがポイント

・広報、コミュニケーションにおける前提は、伝えたい相手の環境、相手を取り巻く外部環境を把握し配慮すること
・未曾有の状況下で情報の混乱を避けるために発信側が意識するべきは、どのフェーズのどのテーマを話題にしたいのか、発信するコンテンツの中で明確にすること
・コロナ禍を経て、従来のような瞬間的で感覚的、そして量を浴びせるコミュニケーションは機能しにくくなる
・多方面との繋がりから知見や動向を得ることで、状況把握や先読みがしやすくなる
・ステークホルダーとの良好な関係構築には、フェアであり中長期的なビジョンを描けているかが前提となる
・今後は、実体験を通じて培われる共感や仲間意識のような感覚、いわば『身体感覚を伴うつながり』が求められるようになる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:戸谷信博