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コロナ拡大初期に1週間で対策システムの実装を実現。「データを蓄積しないといけない」という固定観念を覆す「イベント・ドリブン」の設計思想とは

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近年、「スマートシティ」や「スマートカー」に代表されるような、IoTの活用が注目を集めている。その証左として、IDC Japanに市場規模は年間平均12%以上で成長し、2024年には12兆6,363億円にまで達するという予想が発表された。

しかし、従来の手法でリアルタイムに処理が行えるIoT関連のアプリケーションを開発するとなると、複雑で多大な工数がかかる。その問題を解決すべく「イベント・ドリブン型アプリケーション開発プラットフォーム」を提供するのがアメリカのVANTIQだ。

既に日本でもサービスを提供しており、短期間にスタートしアジャイルに進化できるIoT関連システムの開発や導入を支援している。今回はVANTIQの日本法人、VANTIQ株式会社の代表取締役社長、川北潤氏に話を伺った。「様々な企業や業界のDXにIoTは欠かせないが、その活用方法をイベント・ドリブン型で考えられる方はまだ多くない」と話す川北氏は、日本のIoTの現状と未来をどう捉えているのだろうか。

INDEX

リアルタイムなサービスを可能にする「イベント・ドリブン型」システムとは
配車アプリのような複雑なシステムも、VANTIQなら簡単に開発が可能に
イベント・ドリブン型システムでwithコロナの生活もハック
イベント・ドリブン型システムなくしてスマートシティは実現できない
ここがポイント

川北潤
VAINTIQ株式会社 代表取締役社長
1959年7月東京生まれ。中央大学商学部卒。1985年LANの老舗であるアンガマン・バス株式会社(米国Ungermann-Bass,Inc.の日本子会社)へ入社。1989年 ネットワンシステムズ株式会社(Ungermann-Bassと三菱商事の合弁)へ移籍。1994年 MVP株式会社(現・セイムクリック株式会社)設立および代表取締役社長就任。2016年 アライドテレシス株式会社 専務取締役。2019年VANTIQ株式会社 代表取締役社長就任。
執筆: ネットデフレ(マイナビ新書)、他

リアルタイムなサービスを可能にする「イベント・ドリブン型」システムとは

川北氏はまず、VANTIQが手掛けている「イベント・ドリブン型」のシステムが、従来のシステムとどのように違うのか説明してくれた。

川北「例えば『気温が30℃以上になったら、エアコンのスイッチをつける』というシステムを開発するとします。従来の技術では、気温のデータを一度データベースに格納してから、30℃以上になったというデータを検索して、エアコンをつけるという手順を踏んでいました。一度データベースを経由するステップがあるため、リアルタイムでの対応ができません。

一方で、データストリーム上に『気温が30℃になる』というイベント(事象)を指定しておき、そのイベントが発生するとアクション(エアコンのスイッチをつけること)を起こすのが『イベント・ドリブン型』となります。従来の方法に比べてリアルタイム性が高く、イベントが起きて即座にアクションに起こせるのです。

『イベント・ドリブン型』のシステムが必ずしも従来のシステムよりも優れているとは言いません。業務系システムやビッグデータの分析にはデータベースが必須です。一方でIoTセンサーの情報にリアルタイムに反応してアクションするには、イベント・ドリブン型のシステムがどうしても必要になります」

「『イベント・ドリブン型』のシステムは実が古くからあり、決して珍しい技術ではありません。しかし、VANTIQによってより複雑なシステムが簡単に開発できるようになった」

と川北氏は続ける。

川北「一つのイベントに対して、一つのアクションを起こすシステムを作るのは簡単です。しかし、『温度が30℃以上、湿度が50%以上の状態が1分間続いたらエアコンをつける』というシステムだったらどうでしょう。温度センサーと湿度センサーが個別に動作している場合、それぞれの30℃以上と50%以上という条件が1分間揃い踏みしたことを確認するには、どうしてもデータベースを使いたくなり、使うとリアルタイム性が犠牲になります。ものすごく優秀なエンジニアであればデータベースを使わずに開発することも可能かもしれませんが、設計が複雑でセンサーの追加や設定条件の調整などに対し柔軟性がありません。

そこでVANTIQが提供するローコード型の開発プラットフォームを使うと、簡単な開発手順の裏でその様な複雑なプログラムが自動生成されるのです。これまで優秀なエンジニアでなければ組むのが難しかったシステムを、経験の浅いプログラマーでも即座に作れるようになります

配車アプリのような複雑なシステムも、VANTIQなら簡単に開発が可能に

VANTIQなら複雑なシステムでも簡単に作れると語る川北氏だが、どのようなシステムが、「複雑なシステム」と言えるのだろうか。

川北「配車アプリは分かりやすい例ですね。いつどこで発生するか分からない配車のオーダーと、その瞬間にその場所から例えば3km圏内を走る空車のドライバーを結びつけなければなりません。ダイナミックに変化する情報同士を結びつけるため、リアルタイム性が重要です。3km圏内に複数の空車のドライバーがいた場合、誰かがオーダーを受理したら他のドライバーは受理できなくするなど、複雑なシステムが組み込まれています。

他にも監視カメラを使った警備システムの例があります。空港でAI機能を搭載した監視カメラが動作しています。ある人とスーツケースがずっと一緒に移動していたのに、突然スーツケースだけ置き去りになると、爆発物の可能性があり危険です。この状況をAIが検知すると、近くにいる警備員に通知してスーツケースのチェックに向かわせます。これもいつどこでその危険なイベントが発生するか分からない上に、発生時の警備員の配置も流動的に変化していくため複雑です。

さらにVANTIQが優れているのは、リアルタイムなイベントと、様々なシステムとの連携が容易なことです。配車アプリの例で言うと、ドライバー情報データベース、GPS情報を提供してくれるWebサービス、ドライバーのスマートフォンアプリ、これらとの連携をVANTIQはオールインワンで実現します」

イベント・ドリブン型のサービスが簡単に作れれば、世の中の細かいにニーズにも応えることができると川北氏は語る。

川北「例えば自動車保険などは、細かいニーズに対応できていません。車1台に対する保険料だと、1人で通勤する場合も、家族で旅行する場合も同じ保険料がかかります。相対的に1人で使っている人は損をしていることになります。

もしイベント・ドリブンな自動車保険のサービスを作れるなら、人数に合わせてダイナミックに保険料を決められるはずです。例えば1人で乗っている時は安い保険料で設定しておいて、途中で友達を乗せたことを車載カメラが感知したら、ドライバーのスマートフォンに通知し2人用の保険料に切り替えます。そして途中で友達を降ろしたらまた1人用の保険料に戻るなどが考えられます。

他にもGPSと連携して、慣れた通勤経路を走っている時と、遠出などで不慣れな道路を走る時とで保険料を切り替えられます。このように私達の生活の中のダイナミックなデマンドの変化に対し、リアルタイムできめ細やかなサービスが提供できるようになるのです」

イベント・ドリブン型システムでwithコロナの生活もハック

様々な事例をもとにVANTIQの可能性を語ってくれる川北氏だが、withコロナの時代においてはどのようなサービスの誕生が考えられるのだろうか。

川北「例えばオフィスでは咳などによる飛沫感染を恐れていますよね。音の発生場所を特定するマルチチャンネルの音センサーと、その音が咳だと分かるAIと連携すれば、咳を検知するや否や周囲の空気を天井のダクトへ吸い上げることも可能です。いつどこで起きるか分からない咳に対して、リアルタイムに対応できるのはイベント・ドリブン型ならではです。

他にも、今はビルに入る時にマスクの着用や手の消毒、体温測定など様々なチェックポイントがありますよね。それらをチェックするだけなら簡単です。しかし、チェックに引っかかった後の対応をシステム化することは、相手によって対応が異なり複雑です。例えば高体温を検知した時に入館ゲートを閉めたままにする場合、一般の来客の場合はサイネージにメッセージ表示、社員の場合は個々のスマートフォンへ通知、VIPの場合は対応担当者へ通知して駆けつけるなどが考えられます。VANTIQなら、顔認証システムに社員とVIPの顔を登録して連携すれば実現が可能です。いつどの様な人がどの様な状態で訪れるか分からない、ダイナミックな環境でリアルタイムな対応が必要な代表例と言えるでしょう。

withコロナの新たな社会の仕組み作りは待ったなしです。従来の手法で何ヶ月もかけて開発している場合ではありませんし、出来上がったシステムはリアルタイムに動作する必要があります。だから世界中でVANTIQのサービスが求められているのです」

イベント・ドリブン型システムなくしてスマートシティは実現できない

川北「最近『スマートシティ』関連のイベントによく呼ばれるのですが、いつも『インテリジェントシティとスマートシティの違いとは何ですか?』と聞いてみるのですが、明確な答えは返ってきません。我々の答えは『ダイナミックに発生する事象に対しリアルタイムな対応ができるかどうか』ということです。例えば交差点に車椅子の横断者が現れたら渡り終えるまで信号は青にする、これがスマートです。ビッグデータを分析して青にしておく時間を予め決めておくだけではダメなんです。実は私達の生活にはイベントが突然発生し続けており、それに対して適切に対応ができることが『スマート』なのです。

データベースを使ったサービスでは『インテリジェント』ではあっても『スマート』なサービスは作れません。私達はスマートなサービスを簡単に作れるプラットフォームを用意したので、あとはサービスのアイディア次第ということになります」

VANTIQはOSのような存在なので、そのOSを使って新しいアプリを考えられる事業者が増えて欲しいと川北氏は言う。しかし、従来のデータベースを使った考え方が根強く残っているため、イベント・ドリブン型に頭を切り替えるのは難しいのが現状のようだ。

川北「これまで様々な会社のDX担当者とお会いしましたが、IoT時代の成功の秘訣がイベント・ドリブンにあると考えられる方は多くありませんでした。そこで私達の方からアイディアを提案しているところで、現在はそれなりの手応えを感じています。

また最近ではGUTP(東京大学グリーンICTプロジェクト)にVANTIQの開発環境を用意し、スマートシティやBIM(*)連携などへの適用が試されています。いずれ私達の技術を使って新しいスタートアップが生まれることも期待しています。優秀なアイディアには単純に技術を提供するだけでなく、事業そのものを一緒にプロデュースしていきたいと思っています」

* Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)。コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コスト・仕上げ・管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計から施工、維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。

ここがポイント

・IoTセンサーの情報にリアルタイムに反応してアクションするには、イベント・ドリブン型のシステムが必要
・ローコード型の開発プラットフォームにより、経験の浅いプログラマーでも即座に難しいシステムがつくれるようになる
・イベント・ドリブン型のサービスが簡単に作れれば、世の中の細かいにニーズにも応えることができる
・withコロナの時代に、いつどこで起きるか分からない咳に対して、リアルタイムに対応できるのはイベント・ドリブン型ならでは
・イベントが突然発生し続けており、それに対して適切に対応ができることが『スマート』
・DX担当者で、IoT時代の成功の秘訣がイベント・ドリブンにあると考えられる方は多くなかった


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:戸谷信博