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『アーリーステージのスタートアップを成長軌道に乗せる』ファンドを設立し動き出したFINOLABが見るフィンテックの未来

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フィンテック業界でイノベーションを生み出す拠点「FINOLAB」は、9月に「FINOLAB FUND」を設立し、GP(無限責任組合員)として出資することを決定した。“共闘する投資。”を理念にスタートアップの事業成長を資金面からサポートし、フィンテック業界のスタートアップ・エコシステム形成を加速していく。

加えて「FINOLAB」のオフィスを拡張・リニューアルし、バックオフィスのシェアリングサービス「SUBPOSI」、調査組織「FINOLAB RESEARCH」も開始することでサポート体制をより充実したものにした。今回はFINOLABの柴田誠氏に、一連の動向に関しての狙いとこれからのサポート体制については話を伺った。

INDEX

リモートワークの時代にFINOLABがオフィスとしてマッチする理由
投資はスタートアップをサポートする一手段でしかない
コロナ禍で浮き彫りになった課題の数々。ビジネスチャンスはこれから広がっていく
ここがポイント


柴田誠
FINOLAB所長
株式会社FINOLAB設立とともに現職就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

リモートワークの時代にFINOLABがオフィスとしてマッチする理由

ファンドの設立にオフィスのリニューアル、そして新サービスの開始と大きな取り組みが続くFINOLAB。それらの取り組みを同じタイミングで行った狙いとはなんだろうか。まずは今回の取り組みの全体像について柴田氏に語ってもらった。

柴田「今回いくつかの発表の時期が重なったのは意図的なものではありません。もともとオフィスのリニューアルは以前から準備していたのですが、工事が伸びたために他の発表と一緒になってしまいました。どのようなオフィスにするか、コロナ禍の前から、コミュニティメンバーたちの声を取り入れて数ヶ月に渡り準備を進めてきたのです。
コロナ対策のためにリニューアルしたわけではありませんが、結果的にコロナ対策にもなったのは嬉しい誤算です。パーテーションを設けたスペースやファミレス席など、密にならずに働ける環境になったと思います。徐々に打ち合わせなどで利用する人も増えており、働きやすくなったという声を頂いています」

FINOLABに参画している企業の多くも、コロナ禍ではリモートワークで働いていると言う。そのような時代だからこそ、FINOLABのような施設が必要になると柴田氏は続けた。

柴田「IT企業であれば、仕事のほとんどはリモートで済ませられますが、重要なこととなるとやはり実際に顔を合わせた話した方がいいでしょう。特に金融業界の場合、はんこや紙の文化が根強く残っています。大手企業や金融機関と話すときは、直接合って打ち合わせした方が、都合がいいことも多いはず。
また、今はzoomなどを使って会議もリモートで行えますが、実際に集まってガヤガヤした環境のほうがアイディアも生まれるもの。ただし、会議のためだけに大きなオフィスを借りておくのはもったいないですよね。その点、私達のように必要な時に必要な分だけ使えるオフィスの方が、今の時代にマッチしていると思います」

2016年からフィンテック業界のコミュニティ拠点としてスタートしたFINOLAB。これからは場所だけでなく、資金面でのサポートもしていく。これは当初から計画していたものだったのだろうか。

柴田「FINOLABの設立当初は、ファンドを設立する明確なロードマップがあったわけではありません。フィンテックスタートアップを育成していくために、コミュニティづくりからはじめ、随時必要なことから増やしてきただけです。業界の古い慣習を壊していくためには、スタートアップと大手企業と協業が必要なため、コミュニティ運営は欠かせないものでした。
そして、これまでコミュニティを運営してきて見えてきた次の課題が資金調達です。今は多くのVCが現れて、門を叩けば資金調達できる環境が整ってきましたが、創業間もないスタートアップは今でも資金調達に苦戦しています。私達はそのようなシード、アーリーフェーズのスタートアップに対して、商品やサービスが形になるまでのサポートをしていくつもりです

投資はスタートアップをサポートする一手段でしかない

日本のスタートアップエコシステムが充実してきているとは言え、今でも資金調達環境に課題があると言う柴田氏。どのような投資を行っていくのか、その戦略を語ってくれた。

柴田「私達のファンドの狙いは、ファイナンシャルリターンではありません。ファンドを設立したのもスタートアップをサポートする一つの手段でしかないと思っています。
通常のファンドであれば、期間を設定しリターン極大化を目指します。当ファンドも相当のリターン確保を目指すことは通常のファンドと変わりないですが、アーリーステージの投資先スタートアップと伴走し、成長軌道に乗せることに重きをおいており、その伴走によるスタートアップの成長の果実として、相応のリターンを確保することが基本方針となります。
こうお伝えすると、ストラテジックリターンを目指すCVCの様に聞こえますが、M&AやLPとの直接の事業シナジーを目指すわけでもないので、毛色は少し違います。投資したスタートアップが成長し、フィンテック業界が盛り上がれば、自然と私達にもリターンがあるため、投資先の成長にコミットしていくだけです。
そのため投資金額もリターンの最大化のためではなく、その企業が成長するのにいくら必要なのか、企業によって必要な金額も違うので、成長戦略をヒアリングしながらそれぞれ必要な金額を投資していく予定です。商品やサービスが軌道に乗りさえすれば、他のVCから資金調達できるはずなので、それまでに必要な金額を投資していきたいと思っています。」

FINOLABから投資を受けるメリットは、決して資金的な側面だけではない。これまでコミュニティを運営してきたからこそのサポートがあると柴田氏は言う。

柴田「FINOLABには、銀行員やキャピタリスト、起業家など様々なメンバーがメンターとして参画しています。彼らのサポートを受けられるのは大きなメリットだと思います。企業によって抱えている悩みも違うはずなので、それぞれに合った専門家を繋ぎ合わせています。ときには技術的なサポートかもしれませんし、法律面でのサポートかもしれません。
また、これからFINOLAB発のスタートアップが成長していけば、彼らの経験が聞けるのも大きなメリットです。フィンテックの事業を進めていけば、どんな壁にぶつかりどうすれば乗り越えられるか聞けることは、大きな近道になるでしょう。そういった循環を作り出すことで、フィンテックスタートアップの成功率を上げていきたいと思っています」

目指すのが投資先のスタートアップの成長であるために、LPとのコミュニケーションも変わるそうだ。

柴田出資元であるLPは、間接的もしくは中長期でのメリットを目指すことになるため、投資先の定性的な評価に重点を置いています。また、定量的には企業価値の評価を向上させることを中心にアクセラレーションに取り組んでいく予定です」

FINOLABはファンドの設立と同時に、スタートアップをサポートする「SUBPOSI(サブポジ)」その後には「FINOLAB RESEARCH」というサービスも開始した。これらはいったいどのようなサービスなのだろうか。

柴田SUBPOSIはスタートアップの様々な困りごとを解決するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)のようなサービスです。例えば、立ち上げたばかりのスタートアップでは、財務の専門家をチームにいれるのは簡単ではありません。そういった会社に資金調達のアドバイスなどをするのが『SUBPOSI FINANCE』です。
他にもマーケティングのサポートを『SUBPOSI MARKETING』や『SUBPOSI CREATIVE』で行っていきます。
共通するのは、とにかく、スタートアップの人たちが事業の一番大事な仕事に集中してもらうのが目的であること。創業時は人員が少ないため、経営者自らが様々なバックオフィス業務こなさなければいけないことも少なくありません。これからSUBPOSIのラインナップも増やし、また調査機関を通じて業務展開に役立つ質の高い情報提供を行うことにより、スタートアップが効率的に成長できる環境を作っていきます。
『FINOLAB RESEARCH』は金融ビジネスや先端技術に関する情報の収集・分析・解説を行い、日本のFinTechエコシステム拡大に資する情報発信を内外に行っていくことを目指す調査組織です。」

コロナ禍で浮き彫りになった課題の数々。ビジネスチャンスはこれから広がっていく

ファンドを設立し、サポート体制を整えたFINOLAB。今後、スタートアップのサポートには変化があるのだろうか。

柴田「これまでフィンテックスタートアップを中心にサポートしてきましたが、これから必ずしも金融という狭い領域だけでなく、広い視野でサポートしていきたいと思っています。キーワードとなるのは『テクノロジー』と『社会課題の解決』です。新しいテクノロジーを活用して、何かしらの社会課題を解決しようとしているスタートアップをサポートしていきたいですね。
特に今は『フィンテック』の指す領域が広がってきました。どんな業界であれ、決済システムを開発したらそれはフィンテックに含まれてしまいます。経済活動をすれば、決済やお金に関わる可能性が高いので、あまりフィンテックという言葉にこだわる必要もないかと思っています」

幅広い企業をサポートしていく目的に一つには、オープンイノベーションを促進する目的もあるようだ。業界のハブになることがFINOLABの役割だと柴田氏は語る

柴田「オープンイノベーションを求めているのは、スタートアップだけではありません。大手企業や金融機関も、いかにイノベーションを生み出すか、DXをどう進めていくのか悩んでおり、自社だけですすめることが難しいことも理解しています。そういった企業同士をつなげるハブになるのも私達の役割です。
特にこれから大きなビジネスを展開していくには、規制にぶつかることも多くなるはずです。スタートアップだけでは規制を変えるのは難しいため、大手企業なども巻き込みながら進めて行かなければなりません。FINOLABでは金融庁や日銀の人たちと繋がる場を作っているので、うまくステークホルダーと繋がってもらえればと思います」

最後にフィンテックスタートアップに対してメッセージをもらった。

柴田「今はコロナ禍の影響でビジネスも大変な時期ですが、コロナ禍によって浮き彫りになった社会課題も多くあります。例えばリモートオフィスをしようにも、ハンコや紙の書類をもらいに行くためだけに出社していた人も多くいました。給付金を配布しようにも、システムの問題で大変だったのも大きな課題です。

コロナ禍に限らず、日本の金融業界はまだまだ課題が眠っています。学校でお金について教えないために、将来に漠然とした不安を持っている方も多くいるでしょう。社会全体がそのような課題を認識し始めたため、これからビジネスチャンスも広がっていくはずです。コロナ禍で大変な目にあったスタートアップも多いと思いますが、そういったチャンスをものにしてチャレンジをして欲しいと思います」

ここがポイント

・必要な時に必要な分だけ使えるオフィスの方が、今の時代にマッチしている
・ファンド設立の背景は、コミュニティを運営してきて見えてきた次の課題が資金調達であること
・シード、アーリーフェーズのスタートアップに対して、商品やサービスが形になるまでのサポートをしていく
・成長戦略をヒアリングしながらそれぞれ必要な金額を投資していく予定
・LPは、間接的もしくは中長期でのメリットを目指すことになるため、投資先の定性的な評価に重点を置いてる
・今後のキーワードを『テクノロジー』と『社会課題の解決』と置いている


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木 光平
撮影:小池大介