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東京大学が挑むイノベーターの育成 「数千人のタネは世に放たれた」

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※本稿は「SankeiBiz」に掲載されたTMIP通信を転載したものです。

イノベーションを進める上で、「学」との連携は欠かせません。9月9日に開かれたTMIPによるセミナー「東京大学が挑む未来を創るイノベーターの育成~スタートアップ創出から大企業連携まで」の模様を通じ、東京大学がイノベーションをめぐり、どのような取り組みを進めているのか、お伝えします。

INDEX

アントレプレナー道場卒業生の100人程度が起業家に
アイデアない段階から支援し挑戦者を増やす
ベンチャーを使って組織のOSを変えていく
優秀な人材は官僚でなく起業家に
東大発ベンチャーの多様な活躍に期待が高まる

「将来の日本を考えるときに、東京大学と丸の内は切っても切り離せない最重要な要素です。両者が手を組むことが、日本のイノベーションに多大なる影響があるだろうというところから、今回のセミナーが企画されました。東大の取り組みを包括的に理解することで様々な取り組みの参考にしていただければと思っています」
今回のセミナー開催の趣旨について、TMIP事務局の後藤泰隆氏はこう言及しました。

アントレプレナー道場卒業生の100人程度が起業家に

東京大学では、スタートアップ支援のエコシステムの構築に注力しています。同大学産学協創推進本部の菅原岳人氏から、その概要について説明がありました。

「産学協創推進本部ではスタートアップの支援プログラムが多数あり、大学単体だけでなく、関連企業や先輩起業家の方々にも多数ご協力いただき、創業支援や成長支援をしています。充実した起業支援やインキュベーションを提供することはもちろん、教育・人材育成にも長年力を入れているのも東大の特徴と言えます」

アントレプレナー道場という在学生向けの講座だけでも、これまで累計4000人ほどが受講し、卒業生の100人ぐらいが起業家になったと、菅原氏。スタートアップの世界とは、なぜ世の中にスタートアップが必要なのか、キャリアとしてスタートアップ起業家とはどのようなものなのかといったことを学生の時点で基礎からレクチャーしているそうです。

「卒業後すぐに起業する学生はそれほど多くなく、我々もすぐの起業は推奨していませんが、様々なプログラムを受講した数千人のタネは世の中に放たれており、彼らの多くがこれからの5年10年でスタートアップの世界にやって来るだろうと捉えています。また、ビジネスの匂いがすると入りづらいというテクノロジーに興味の中心がある学生のための支援スペースもあり、ビジネスと技術プログラムを両輪に人材育成をしています」

アイデアない段階から支援し挑戦者を増やす

「スタートアップ挑戦者を生み出す仕組み」については、どうでしょうか。東京大学FoundXの馬田隆明氏が解説しました。

「数年間企業に務めてから改めてスタートアップをやりたい、という東京大学の卒業生を支援し、挑戦者を増やしていくプログラムとして、2019年にFoundXが立ち上がりました。チームに1人以上東大卒業生や現役生、研究者を入れることで大学とのつながりを保たせ、個室やプログラムを最大9カ月間無償で提供しています」

FoundXでは、挑戦者を増やすことを前提としており、アイデアがない段階から、アイデアを見つけるということから支援しています。「リスクは極めて高く、実際ほとんど失敗する前提なのですが、こうした支援がなければ起業しなかった人たちにも興味を持って踏み出してもらうことを目的としています」と、馬田氏は力を込めました。

ベンチャーを使って組織のOSを変えていく

投資をめぐっては、まず東京大学エッジキャピタル(UTEC)の坂本教晃氏が「UTECは東京大学の名前が入っているとおり、東大との関係を軸としながら、民間に投資するベンチャーキャピタルとして運営している会社で、優れたサイエンステクノロジー、強力なチーム、グローバルな市場や課題の3つにテーマを絞って投資活動を行なっています。投資先は東大だけでなく基本的にどの大学でも対象となります。大学への寄付や、UTC SOCというコミュニティで投資先の引き合わせもしています」と自社を紹介。「私たちは、『テクノロジーは複数の大学や企業にまたがるもの』という仮説を元に、いろんな国の研究者や技術者を取り込みながら技術を発展させていくことに取り組んでいます」と強調しました。

東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)の水本尚宏氏も「弊社は東京大学の100%子会社となります。あえてベンチャーキャピタルと言わないのは、既存の枠組みにとらわれない投資をしていこうというコンセプトとなるためです」と説明。その上で、活動の狙いをこう明かしました。

「立ち位置としては、民間のベンチャーキャピタルや大企業と連携しながら東京大学のベンチャーと取り組みをする組織とご理解いただければと思います。私たちは、新事業を立ち上げるためには、既存事業に最適化された組織のOSを変えていく必要があると考えています。完成された企業ほど、既存の事業にベストフィットしているので、新しいことをしようとしたら組織を変えていく必要があります。その方法としては、ベンチャーを使って新しいOSを外から取り入れることと、新しいOSを外に作ることの2つを提案したいと思っています」

優秀な人材は官僚でなく起業家に

プレゼンター各氏に、起業に際して東大のエコシステムをフル活用した株式会社estieの平井瑛氏が加わり、TMIPアドバイザーの鎌田富久氏がモデレーターを務めてディスカッションも行われました。以下はそのやり取りです。

最初の話題は、ウィズコロナで、それぞれの活動が制限されている状況について。


パネルディスカッションの様子

馬田氏は「コロナの影響で、今後起業する人たちの数が減ってくると懸念されます。その代わり、数が少ない分、今のタイミングで起業すると目立てるというチャンスもあります。オンラインで何ができないのかが見えてきて、オフラインの大切さが改めて見えてきました」と語りました。

鎌田氏より「1回も会ったことのないベンチャーにオンラインだけで投資できるのか」との質問があり、坂本氏の「全く会わずに投資ということは経験がなく、人柄などを知るために一度は会っておきたい」という発言を筆頭に、他の参加者も皆、オンラインではなく直接会って判断したいと回答。投資される側の平井氏からも、「Zoomだけで面談している相手から投資を受け入れるのも不安」という声が上がりました。

続いて「ここ数年、東大からスタートアップが増えていることについて、それぞれが感じている理由は?」という質問がありました。

馬田氏は「スタートアップ業界に関わる人の数が増えたことで、周囲に起業家がいる人も増え、彼らがその影響を受けて自分も起業に興味を持つことも増える、という循環になっているんだと思います」と指摘しました。

坂本氏は「かつては東大で最も優秀な人材は官僚や行員になるのが主流でしたが、徐々に陰りが出てきた」、水本氏は「官僚よりベンチャー人気が高まった背景には、経済的に成功する若い起業家が増えたのも大きい」との見解を表明。2014年に大学を卒業したばかりの平井氏はここ数年でも変化はあると言い、自身が学生の頃はそれでもまだ大企業を目指すのが主流だったが、同世代の人々が社会人経験を経た上でスタートアップの世界へやってくるパターンも増えていると明らかにしました。また、菅原氏からも「10年前に比べて経済学部などの学生も増えているが、最後まで課題もやりきり、キャリアの選択肢の1つとしてスタートアップが認識されている印象」と話しました。

「東大の先生への要望は?」という質問には、菅原氏が「若い先生の間では、他の先生のスタートアップへの協力的な姿を見て自分も考える方が増えています。ただ、研究費自体が細ってしまうと、チャレンジングなことを続けづらくなるので、先生への要望というより、組織として予算をしっかり確保していくことが必要と考えられます」と答えました。

東大発ベンチャーの多様な活躍に期待が高まる

このほか、テック系スタートアップを増やしていくことの困難さや、研究者と経営者双方を揃える必要性、事業と同時に研究を続けることの重要性、東大発スタートアップの増やし方、大企業とスタートアップの共創による大きな成功モデルなども話題にのぼり、各者各様の意見が飛び交いました。東大発ベンチャーの多様な可能性には今後ますます、期待が高まりそうです。

【関連情報】
●転載元記事:https://www.sankeibiz.jp/startup/news/201125/sta2011250700001-n1.htm
●EVENT REPORT:https://www.tmip.jp/ja/report/1219