※本稿は「EGG JAPAN」に掲載された記事を転載したものです。
2020年1月13日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら)。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者から学びを得るもの。
今回登壇いただいたのは、マザーハウス代表取締役副社長 山崎大祐さん。同社は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、途上国にある素材や人材の可能性に光を当てたバッグやジュエリー、アパレル商品などを展開しています。
2020年は新型コロナウイルスの影響で、アパレル業界に大きな打撃を与えました。
しかし、マザーハウスでは店舗営業の再開後には昨年を超える売り上げを記録。オンライン販売での注文も伸び続けているといいます。2020年7月には回収したバッグのレザーを再利用し、再びバッグや小物にリメイクする「RINNE」の販売も開始しました。
国内に250人ほどの従業員をかかえるほどにまで成長した同社。さらには、バングラデシュをはじめ、計11カ国で約650人のスタッフが働いています。今回は、マザーハウスの成長する鍵となってきた“コミュニケーションの工夫”について伺いました。Peatix Japan 取締役 藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務めました。
・目標数値だけでなく、実現した先にある未来も伝える
・いずれ、地方から世界へとビジネスを広げていきたい
目標数値だけでなく、実現した先にある未来も伝える
マザーハウス副社長に就任する前は、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務していた山崎さん。エコノミストとして、日本とアジア経済の分析、調査、研究に従事していました。
そんな山崎さんは会社を成長させるうえで、数字と“あることを”を重視したと言います。
「創業時から細かく損益分岐点の計算をし、どの数値を追えばいいかを厳しくみました。社会的なミッションの達成を目指す企業ほど、キャッシュの確保は大切になるからです。
しかし、私だけが数字に厳しくても仕方ありません。目標数値達成のためには、従業員も一緒の方向を向くことが重要になってきます。そこで、従業員には『売上10億円達成すると、こんな未来がくる』といったように、実現した先にあるものを一緒に伝えてきました」
会社としての目標達成だけでなく、その先にある未来やスタッフの生活がどう変わるのかも伝えていく。その過程で苦労したエピソードとしても、山崎さんは紹介してくれました。
「当初は理解されないことも多く、『ついていけない』『そんな目標は達成できない』と責められ、退職してしまう社員もいました。でも、目標を達成できれば、会社のミッション達成につながり、結果みんなの生活もサステナブルになるんだ、という本音でのコミュニケーションを毎月のように伝え続けたところ、徐々に全員が同じ方向を向けるようになってきました。
たとえば、創業5年目、中期経営計画2年目の時に売上が前年比2倍増となったんです。しかし、まだまだ経営状況としては厳しい状態でボーナスも支払えない。そこで、会社として何ができるかを考え、1人3000円のボーナスをポチ袋に入れて渡しました。今は普通にボーナスもきちんと支払える会社になりましたが、中には当時のポチ袋を今でも大切に保管している人もいて、わずかな金額でしたが、ボーナスを渡せてよかったなと。こうした積み重ねによって、今はマザーハウスに関わるみんなが同じ方向を向き、目標に向けて頑張れていると思います」
従業員と同じ旗に向かって成長してきたマザーハウスですが、それは国外の工場で働く約350人のスタッフも同様です。モデレーターからは「発展途上国6カ国にもスタッフがいる中、コミュニケーション面で工夫していることは?」という質問が投げかけられました。
「国が違えど基本的なコミュニケーションは変わらず、働く理由や会社として目指す社会的ミッションはつぶさに伝えています。『バッグが完成するうえで、この作業はなぜ必要なのか』『このバッグはどういう人が使うのか』を詳しく説明していますね。
一方で、国によって異なる部分もあります。たとえば、途上国だと従業員の家族のお葬式に私たち経営陣が参加するといったこともあります。宗教面での違いもあるので、勉強することはもちろん必須ですが、全てを分かりあおうとしないことも大切と考えています」
会えないなかで始まった、マザーハウスの新たな“挑戦”
2020年に世界を襲った新型コロナウイルスは、多くの人の働き方を変えていきました。そして、例に漏れずマザーハウスも変革の必要に迫られました。
「新型コロナウイルス感染拡大が進む前は、1年の半分は工場で過ごす生活をしていました。しかし、今は海外に行くことが難しくなり、完全にオンラインでのコミュニケーションに変わっています。思っていた以上にスムーズにオンライン化が進んだのは、『新型コロナウイルスに負けない』という1つの目標に全員が集中し、協力できたからだと思います」
具体的には、YouTubeチャンネルを通して人気商品の紹介をしたり、バッグのケアの仕方を教える「マザーハウス ケア スクール」などのオンラインイベントも開催。2020年4月からの緊急事態宣言の約1ヶ月間、店舗の閉鎖を余儀なくされた一方で、試行錯誤を重ねながらお客さんとのコミュニケーションを大切にしていったといいます。
2020年7月に販売を開始した「RINNE」
また、新型コロナウイルスの影響で工場が1か月停止する中、マザーハウスとして大きな挑戦となったのが、回収したバッグのレザーをリメイクし、製品化する「RINNE」です。
「新型コロナウイルスの影響で約1ヶ月工場が停止。商品を生産できずにいました。バッグや小物のケアについて発信しつつも、『他にも私たちにできることはないか?』と考え続けてきました。そこでたどり着いたのがRINNEです。でも、RINNEプロジェクトが発足したときは、試行錯誤の連続でした(笑)。バッグの解体コストもかかってしまうし、バッグのサイズや種類は全部バラバラで、取れるレザーの素材も大きさも違う。
業界初で難しい取り組みでしたが、みんなの協力があり、今はオペレーションもかなり改善されました。生産からケア、修理、リメイクまで、新たな社会の循環を構築するために、関わる人々と密にコミュニケーションをとり、モノの終わり方もデザインしていけたらと思っています」