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世界で保険会社140社にAI自動車事故損害調査ソリューションを導入。独インシュアテック企業が考えるレガシー産業と新興テクノロジーの付き合い方。

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ディープラーニング、AI、機械学習などの最先端技術が、私たちの日々をより豊かに便利なものへと変化させている。国内でAI活用が叫ばれるようになったのは2008年頃と13年も前のことだが、未だにAIを賢く活用できている企業はそう多くないのが事実ではないだろうか。

今回、話を伺ったのはドイツに本社を構えるインシュアテック企業、ControlExpert。2019年に日本法人を立ち上げ、組織こそ小規模ながらすでに大手損害保険会社との取引を行うなど、着実に実績を積み上げている。

彼らが得意とするのは、自動車事故損害調査分野だ。ディープラーニングやAIなどの技術とカーエキスパートであるアジャスター(*)との融合によって、迅速かつ高い精度で自動車事故損害調査を行う。

ControlExpertのドイツ本社が立ち上がったのは2002年、それから19年に渡って最先端技術を取り入れながら世界中に140社を超える顧客を抱えて成長を遂げてきた。今回は、日本法人CEOである望月重成氏にAIを始めとする最先端技術との良い付き合い方について尋ねる。

*アジャスター・・・自動車事故の損害調査業務を行う専門職員

INDEX

AIとカーエキスパートのハイブリッドにより、現場が本当に使えるソリューションを提供
保険業界だけでなく、レンタカー、カーリース、カーシェア分野もターゲット
「なんのためのテクノロジー導入なのか?」を見失わないことがなによりも大切
ここがポイント

望月重成
Deloitte Tohmatsu Consulting, SAP Japan, Lehman Brothers米国本社を経て
システム開発会社を経営。

AIとカーエキスパートのハイブリッドにより、現場が本当に使えるソリューションを提供

2002年から19年間に渡りAIを活用したソリューションの提供を続けるControlExpert。これまでは目視が必要で、属人化していた自動車事故の損害調査業務をデジタル化することに成功。現在は、AIによる自動診断と「アジャスター」と呼ばれるカーエキスパートによるハイブリッドソリューションの提供を打ち出している。時代に先駆けAIに着目したのはドイツに根付く省力化の考え方が理由と望月氏は話す。

望月「ドイツには保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)とをかけ合わせた“インシュアテック”企業が数多く存在し、保険会社もインシュアテック企業のソリューションを上手く活用しています。大手であればAllianz(アリアンツ)社がその筆頭で、同社は早いタイミングでAIや画像認識技術の導入などのデジタル化を行なっています。すべての企業がというわけではありませんが、ドイツには省力化を重んじる文化があるので効率を高められる点に対する投資を惜しまない企業が多いように思います」

日本のように前にならうのではなく、独自路線で進化を遂げる企業の多いドイツ。2010年代後半、インシュアテックの波が世界中に訪れたが、そのうねりを生み出したのはドイツの動きあってこそだった。

望月「今、日本に訪れているDXの波が早くきたのがドイツでした。先程お話したように、ドイツには効率化を重視する文化があり、テクノロジーありきではなく、テクノロジーを導入する目的が最初に明確になっているため、本当の意味での効率化に繋がっていると感じます。翻って日本は、AIやデジタル化という言葉が先行していて、そうしたものを導入することが目的となってしまっているケースも少なくないように感じます」

ControlExpertが現在取り組んでいる自動車事故損害調査は、元来、車の構造や仕組みなどをよく知るアジャスターによって行われるものだった。ドイツ本社でも多数のアジャスターを社内に抱えていたが、日々査定を続ける中で査定のノウハウ化が行えることに気がついた。AIの活用を始めたのはそのノウハウにより最低限の査定を自動化できれば、アジャスターたちがより高いレベルの業務に注力できると考えたからだ。

望月「アジャスターはメカニック上がりの人も多くカーエキスパートなので、車に関するあらゆることを熟知しています。グローバルを相手に何十万件、何百万件と査定を続けることで、修理事項・交換対象・国別の対応などをノウハウ化できるようになる。それらを教師データとしてAIに活用させたのが始まりです。基本的な分析はAIが行い、アジャスターはその精度を確認する。海外の事例だと、全案件の3割ほどはAIによってアジャスターが見る必要がない案件と判断されるため、保険会社からすると損害調査業務の効率が大幅に上がります

レンタカー、カーリース・カーシェア分野にもソリューション提供を進めたい

2019年の日本法人設立以来、まだ例の少ないアジア圏でのインシュアテック企業として実績を生み出している段階だというControlExpert。言語こそ違えど、これまで18の国々で提供してきたソリューションを同様に提供することには変わりない。

望月「弊社の強みのひとつが画像認識技術になります。ドイツでは、事故発生時にお客様が保険会社のカスタマーサポートへ電話するとSMSで弊社アプリのリンクが送られます。そのリンクを立ち上げ指示通りに事故写真を複数枚撮影して送信すると、画像を解析して査定見積もりを生成します。平行して修理の実行可否や決済方法などを顧客と進めるフローを取っています」

事故現場への立ち会いや目視による確認などを行う時間を省いた分、修理までにかかる時間が劇的に削減され、また適正価格での見積もりを生成することもできている。この画像認識の技術を応用して、日本でもカーリース、レンタカー、カーシェアなどを行う企業からの引き合いもあるという。

望月「修理や故障などではなくとも、不特定多数の人が利用するレンタカーの場合は小さな傷ひとつについても誰がつけたかを捉えることが必要です。ところが、それらを一つひとつ目視で確認するのは骨が折れる作業です。そういったときに確認を画像認識で自動化できたらとても良いですよね。カーシェア文化が広がりつつある今の時代こそ、AIの価値を最大化できる活用方法を見つけて取り組んでいけたらと思っています」

また、日本市場に参入する中でローカライズの難しさも実感していると望月氏は話す。大きな事業の枠組みは変わらないが、国に合わせてフィットするサービスを作るには細やかな配慮が必要だからだ。

望月「日本の保険業界には長い歴史があり、マーケットも非常に大きいため、日本独自の細かい仕様が沢山あります。細かい観点ですが、そういった小さな障壁を一つずつ超えることで利便性の高いソリューションを提供していきたいですね」

国内に百社単位で損害保険会社があるようなヨーロッパ諸国と比較すると、日本には損害保険会社が多くないのが現状だ。ControlExpertでは、業界のスタンダードとして知られることを目指し、日本にフィットするサービス作りを追い求めている。

「なんのためのテクノロジー導入なのか?」を見失わないことがなによりも大切

日本企業の多くには、効率の観点で見ると改善できる点が数多く存在する。それは、業務の仕組みだったり、組織に根付いた無自覚な常識だったりとさまざまだ。効率化を求めることで本来取り組みたい業務に集中できるようになり、成果は上がる。それを実現してきた企業こそControlExpertなのだ。

望月日本には紙文化をはじめ、なぜか残り続けている昔のやり方が数多く存在すると思います。その当たり前を覆すロールモデルのような存在になりたいと思っています。最近では大手企業とスタートアップとの共創によりイノベーションが起きる事例も少しずつ増えています。そういった風穴を開ける存在になれるよう、今の取り組みを続けていきたいですね」

AIやディープラーニングに古くから着目してきたControlExpertとしては、DXに追い風が吹いている今の時代に喜びを感じながらも、一方で不安視する点もあるという。それは、目的を見失ったDXが蔓延する可能性だ。

望月「なぜAIを導入するのか、なぜDXを行うのか。そういった“なぜ”の観点を持たずに、あるいは途中で見失ったままに改革を進めてしまう企業が少なからずあるように思います。テクノロジーの導入は、決して外からの見え方を意識して行うものでもありません。事業に与える影響を鑑みた目的が必ずあって、そのための一助としてテクノロジーを導入するべきだと思うのです」

最先端技術が刻一刻と進化を続ける世の中で、テクノロジーを導入しないことで事業としての遅れを取ったり、それゆえに焦りを感じることも少なくないはずだ。しかし、AIやディープラーニングは魔法の杖でもなければステータスでもない。正しい付き合い方を考え、実行していくことが企業の未来により良い結果をもたらすのだろう。

ここがポイント

・ControlExpert社は自動車事故損害調査業務の自動化技術を保有するグローバル企業
・2019年に日本法人を設立し、現在はサービスのローカライズに注力している
・企業がグローバルで活躍するためには細やかな言語以外の観点で使い勝手や国ごとに生まれる障壁をクリアしていく必要がある
・AIやディープラーニングと心地よく付き合うためには導入目的をぶらさないことがなによりも重要


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木詩乃
撮影:戸谷信博