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変化への適応のカギは“情報の調理法”にあり。日本生命オープンイノベーション拠点「Nippon Life X」室長インタビュー

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時代の変化に対して大手企業は硬直してしまいがち。変化に対応し、新たな体制を構築し、新事業を推進する「出島」戦略には大きな期待が寄せられている。生命保険大手の日本生命も2018年にイノベーション開発室を組織し、2020年よりオープンイノベーション拠点「Nippon Life X」という統一ブランドの下、グローバル4極(東京・米国シリコンバレー・ロンドン・北京)で活動を開始。未来の金融を模索する複合施設「FINOLAB」をベースとして、社内起業の促進やスタートアップ提携を軸に活動を行なっている。

今回は「Nippon Life X」の室長である練尾諭氏に話を伺い、日本生命が何を目的に、どのように出島戦略を行なっているのかを訊ねた。

練尾諭
1999年入社。保険システムの開発、大型プロジェクトマネジメントを経験し、直近はIT企画・DX部門にて、Fintechに関する調査・研究・開発や、投資計画、人材戦略等を担当。2021年より総合企画部担当部長 兼 イノベーション開発室(Nippon Life X)室長。

INDEX

多様化するニーズに対応して、「安心」を提供するためのプロジェクト
なぜ生命保険の会社が子育て事業を立ち上げるのか?
「情報の調理法」が出島戦略の成否を分ける
ここがポイント

多様化するニーズに対応して、「安心」を提供するためのプロジェクト

――はじめに、「Nippon Life X」について、教えてください。

Nippon Life Xは日本生命が設立したオープンイノベーション拠点です。東京・大手町のFINOLABをベースとして、「ヘルスケア」「子育て・教育」「働き方・ダイバーシティ」「資産形成」をテーマに、新たな事業価値の創出と社会課題の解決を目指しています

――設立の背景にはどんな目的があったのでしょう。

端的に言えば、ニーズの多様化に対応するためです。生命保険の本質は「お客様が人生で困った時に安心を提供するツール」です。現代は「人生100年時代」と呼ばれ、ライフスパンが長期化するなかでお客様のニーズや不安が多様化しています。これらに対応しなければ将来的に保険会社として立ち行かなくなるため、新規事業を創出することを目的に2018年にイノベーション開発室を組織しました。(2020年からNippon Life Xと呼称)

――具体的にはどのような活動をしているのでしょうか?

主なミッションは、中長期目線で新規事業のタネを探し、日本生命がどう変化すべきかをテストすることです。具体的には2つの軸があり「社内起業の促進」と「社外提携によるオープンイノベーションの創出」を進めています

近年の成果として、社内起業では子育てに関する事業を検討しており、社外提携ではCVC的にスタートアップに出資を行っています。他方では、競合や周辺領域など我々の脅威となりうる存在を見つけ、対策を考えることも業務の一環です。

しかし、私たちのチームメンバーは20名ほど。日本生命は営業を含め全体で約5万人の従業員がいますから、とても手が足りません。変化の流れをつくり会社を牽引していかなければミッションは達成できないと考えています。

――企業風土の変革もミッションに含まれているのですね。

そうですね。新しい施策を取り入れても、カルチャーや業務プロセスが旧来のままでは大きな変化は望めません。日本生命は比較的トラディショナルなカルチャーなので、新規事業が生まれやすい社内風土を整備しなければ。
「日本生命の5年後を見据えて大きな変化を与えてくれる施策」を実装しつつ、施策を円滑に進めるために会社へイノベーションマインドを根付かせること。そのための拠点がNippon Life Xなのです。

なぜ生命保険の会社が子育て事業を立ち上げるのか?

――先ほど社内起業を行っているとお聞きしましたが、どのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?

先ほども少し触れましたが、現在事業化を進めているのは子育て事業です。社内起業プロジェクトを立ち上げ公募したところ、社内から400以上の案が集まりました。そのなかから最終案に決まったのが子育てに関する新事業です。

――なぜ生命保険の会社が子育てに関わるのでしょう?

保険に代わる方法として「安心」をお届けするためです。生命保険の本質は「安心」をお届けすること。保険に入っていない人々にも安心を提供するため、働くお父さんお母さんに寄り添うことを目指しました。

――市場には既存の子育て事業がたくさんあります。従来とは何が違うのか、コンセプトを教えてください。

「プライベートを楽しんでもらうための子育て事業」をコンセプトにしています。プロジェクトメンバーからも声が挙がりますが「子どもを持てば自分の時間が持てなくなるのでは」と考えている人は多い。だからこそ、このサービスを通して、子育て・仕事・趣味の全てを諦めない環境を提供したいのです。例えば、子供を保育園に預ける方は多くいらっしゃると思いますが、「子どもを保育園に預けて仕事する」ではなく「保育園に預けて夫婦で趣味を楽しむ」。そんな選択肢があってもいいと考えています。

日本生命は創業以来女性社員の比率が多く、弊社以上に働く女性に寄り添える企業はないと思っています。グループに子育て支援を行なう企業もあるため、知見を活かして事業化の準備を進めています。

――サービスが普及すれば、子育てに対するイメージも一変しそうですね。もう一方の柱である「社外提携によるオープンイノベーションの創出」はどのように進めているのでしょうか?

こちらはCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)的な動きですね。保険事業と関連性があるスタートアップに出資して、本業との相乗効果を狙っています。Nippon Life Xはファンドも持っていますから、VCを通して様々なスタートアップやベンチャーの情報を集めることができる。相乗効果が望めそうな企業には個別に打診もしますし、直接投資もしています。いまでは米国の企業との協業や、ヘルスケア領域で新規事業を立ち上げるようになりました。

「情報の調理法」が出島戦略の成否を分ける

――出島戦略をどのように運用すればいいか、課題を抱えている企業は多いと思います。Nippon Life Xは活動するなかでどのような課題が生じてきたのでしょうか?

提携企業のソリューションを既存事業へ組み込むケースが難しいですね。既存事業は業務プロセスがそれなりに最適化されていますし、部署からの反発もあります。「なぜ新しいソリューションを導入しなければいけないのか」社内調整が必要です。調整時に求められるのが「情報の調理法」です。コックが食材を調理するように、探し出したソリューションや情報を再編集して活用する力が求められます

逆に、提携企業と新規事業を立ち上げる場合は、摩擦が少ないので上記のような制約を気にしなくても良いです。保有するアセットは多いので、スタートアップの方々に日本生命を上手く活用してもらえたらと考えています。

――相互に利益が見出せれば一緒にやりましょうと。

その通りです。実現したいのは受発注の関係ではなく、オープンイノベーションです。双方が持っているものをミックスすることで、片方だけではできなかったものを生み出したい

間口はいつでも開いています。一見保険に関係なさそうなソリューションでも適用できるものはきっとあるはず。私たちは大手町のFINOLABにいますので、スタートアップの皆さんにはどんどん提案に来て欲しいです。

――オープンイノベーションを成功させるためにどのような力が必要なのでしょうか?

先ほど話した「情報の調理法」がカギになると思います。「情報を料理する人」の創造力を伸ばし、「世の中には〇〇の波が来ているから、この部署が変化すれば、将来〇〇な事業が生まれるのでは」とイマジネーションを働かせられる人材を増やしていきたいですね。

――オープンイノベーションを進める際には社内との調整も必要で、特に経営層の理解はプロジェクトの成否を左右すると思います。出島組織はどのようにトップを味方につければ良いのでしょうか?

出島組織は新しい領域に挑戦するので、打率が悪くなりがちです。ならば、打席の多さや打点を見てもらうと良いでしょう。Nippon Life Xも「当たれば大きいので、ある程度の三振は許してください」と双方が納得できる着地点を模索しています。

また、出島は経営層だけでなく社内のあらゆる部署とコミュニケーションが必要なポジションです。外と中の橋渡しをしなければミッションは達成できません。

――最後に、今後実現していきたい目標はありますか?

Nippon Life Xは日本生命の出島として、小さな成功体験を積み重ねていきたいですね。新しい取り組みの最中では「誰もやったことがないプロセス」を踏む時もあります。未踏の道はどちらに進めば正解か分かりませんが、小さな成果を積み重ねれば、「何が成功なのか」が分かり、次なる挑戦の拠り所になります。

保険とは不測の事態に備えて「安心」をお届けする商品です。「安心」を追求すれば、今後は予防医学的に不測の事態を「避ける」「防ぐ」ことが求められるかもしれません。その一手が今回紹介した子育て事業でした。

Nippon Life Xは次世代の「安心」を皆様にお届けしたい。私たち金融業界はトラディショナルな気風も強く、変革は容易ではありませんが、内外の力を借りて風穴を開けていきたいですね。

――Nippon Life Xが成果を出せば、「日本生命が成功したなら」と後に続く企業は増えていくと思います。今後の活躍を期待しています。本日はありがとうございました!

ここがポイント

・「Nippon Life X」は「ヘルスケア」「子育て・教育」「働き方・ダイバーシティ」「資産形成」をテーマに、新たな事業価値の創出と社会課題の解決を目指している
・立ち上がった背景は、ライフスパンが長期化するなかでお客様のニーズや不安の多様化に対応するため
・「社内起業の促進」と「社外提携によるオープンイノベーションの創出」を進めている
・現在は、社内起業のプロジェクトで、保険に代わる方法として「安心」をお届けするための子育て事業を推進
・出島戦略の成否を分けるのは、「情報の調理法」
・経営層の理解を得るために、「ある程度の三振は許してください」と双方が納得できる着地点を模索している


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:吉田一之