※本稿はSankeiBiz Fromモーニングピッチ を転載したものです。
デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は物流です。
物流ベンチャーへの累計投資額は5年で3.4倍に
EC(電子商取引)の拡大などによって物流市場は拡大しています。国土交通省の調べによると宅配便などの取り扱い個数は2019年で約48億個。1997年比では3倍の規模にまで成長しました。国内市場規模は46兆円でこのうち物流事業者が引き受けるアウトソース分は25兆円を占めているとみられています。
必然的に物流への投資意欲は高まっており、物流ベンチャーに対する累計投資額も増加傾向にあります。当社の調べによると2016年は約38億円でしたが2021年は130億円を突破しており、5年間で3.4倍の規模にまで成長しました。
利用者に物を届けるための最後の区間である「ラストワンマイル物流」市場も急成長を遂げています。2018年は約1兆8000億円でしたが、2030年には3兆円近くにまで拡大するとみています。
COVID-19で業績が悪化
ただ、COVID-19による負の影響は顕著に現れています。日本ロジスティックシステム協会が会員企業を対象にした調査によると、約4分の3が「業績面でマイナスの影響があった」と回答しています。個人向け荷物の取り扱い個数の増加や海外輸入の減少、倉庫作業員と配送従事者が不足したことによる稼働率の低下が業績悪化の要因です。
従来から深刻化しているのは宅配コストの増加やドライバーの労働問題です。このためCOVID-19を契機に業務の自動化と貨客混載の増加、配送の自動化を追求する動きが鮮明になっています。具体的にみると倉庫内での作業やユーザーへの配達などは感染防止も含め、自動化する傾向が強まっており、利用頻度が減少した航空機やタクシーなどを物流に活用する動きが顕在化しています。また、ドローンや自動運転車を物流に利用するための検討、実証実験が進んでいます。
労働力のテクノロジーで担保
こうした動きを踏まえ、輸配送や保管、荷役、流通加工、梱包・包装、情報管理といった領域の課題解決につながるソリューションを提供するベンチャーが続々としています。例えば輸配送については再配達やドライバーの不足、配送物の品質の悪化、「もっと早く届けてほしい」というニーズの高まりに応えるサービスが相次いでいます。
保管領域では倉庫の稼働率の非平準化や倉庫内作業の非効率化、人件費の上昇といった課題に対応するソリューションへの人気が高まっています。
海外でも進む自動化の動き
海外でも倉庫内作業の効率化などに取り組む物流ベンチャーが台頭しています。シンガポールのInfinium Roboticsはドローンを活用した倉庫内作業の自動化に取り組んでいます。GreyOrange(シンガポール)は在庫の移動や補充を効率的に行うロボットサービスを提供しています。ドイツのContinentalは犬型ロボットを自動運転タクシーに乗せ、宅配サービスを自動化するシステムを開発、実証実験が始まっています。
今回は「配送ドライバーの不足・再配達」「配送リード」「倉庫内作業」「国際物流の事務」といった領域から、各課題の解決につながるサービスを提供するベンチャー5社を紹介します。
スマホ1台でピッキングや検品を実施
倉庫でのピッキングや検品などをスマートフォン1台で行う在庫管理ソフト「ロジクラ」を提供しているのがロジクラ(東京都新宿区)で、約2万社の小売業や倉庫事業者が利用しています。商品バーコードをスキャンすることにより、大量の紙伝票で行われていたやり取りを効率化。発送時にはバーコードの読み取りによって購買者にメールを送信することができ、誤出荷の減少にもつながっています。
ドライバーを適材適所の形で紹介
プレックス(東京都中央区)は「ドライバージョブ」という業界最大手の人材紹介サービスを提供しており、全国で8万6000人が利用登録しています。ドライバーの人手不足と高齢化は深刻化する一方で、ユーザーの費用感や運送物の種類など細かなニーズを踏まえ、適材適所の紹介を行っています。今後は荷主と運送会社とをつなぐ輸送案件のマッチングプラットフォームも構築する計画です。
仕入れ先ごとのラベルから文字を読み取る
東大発ベンチャーのTRUST SMITH(東京都文京区)は、倉庫や工場の無人化を実現するロボット・AIによるソリューションを提供しています。提供サービスのひとつである自動走行フォークリフトは、レールなしで走行し障害物も検知して回避、目的地まで自由に走行します。ラベル識別AIは、仕入れ先ごとに異なるラベルから文字を読み取り、自動でシステムへ入力するサービスです。ヒューマンエラーの削減に貢献します。
DX化で見積もり時間を大幅に短縮
Willbox(横浜市中区)は大型工作機械や精密機械などを輸出したい企業と、物流業者を適材適所の形でつなぐプラットフォーム「Giho」を提供しています。業者からヒアリングを行いフォークリフトの爪の長さ、
単価など120項目以上をデジタル化しており、見積もりに要する時間を大幅に短縮、物流費の削減につながります。また、「おじいちゃんでも使える」をコンセプトにしたシンプルさが特徴です。
サプライチェーンを一気通貫で可視化
共同配送をシームレスに追跡し、調達から販売に至る分断されたサプライチェーンを、スマートフォンとQRコードの組み合わせによって一気通貫の形で可視化できるサービスを提供しているのがLOZI(名古屋市中区)です。食料品の安心安全や物流以外の分野での製造プロセス管理、人材管理などオープン型プラットフォームとして、様々な応用が期待できます。
人手不足や長時間労働、業務の非効率化といった物流業界の課題を解決するには労働力の確保が不可欠となるだけに、その部分をいかに先端テクノロジーで補っていけるかが重要です。ベンチャーのさらなる台頭による物流改革の進展に期待が高まります。
會田幸男(あいだ・ゆきお)
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
デロイトトーマツベンチャーサポートスタートアップ事業部副部長。グロービス経営大学院卒。2010年三菱UFJ信託銀行、2017年デロイトトーマツベンチャーサポート入社。東京都主催のアクセラレーションプログラムのプロジェクトマネージャーを担い、シード・アーリー期のベンチャー企業の支援や新規事業の立ち上げにも注力する。専門領域は物流。
【関連情報】
●転載元記事:https://www.sankeibiz.jp/startup/news/210924/sta2109240600001-n2.htm