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ノーベル物理学賞で脚光 Climate Techベンチャーが地球温暖化対策の切り札に Morning Pitch vol.386

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※本稿はSankeiBiz Fromモーニングピッチ を転載したものです。

デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は気候変動に対応したソリューションを提供するClimate Tech(気候テック)です。

21世紀末には最大で4.4度上昇

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書によると、直近10年の世界の平均気温は産業革命の後期に相当する1850~1900年の年間平均に比べ1.07度上昇しています。温暖化は人為的影響を受けて一段と悪化しており、このまま温室効果ガスの排出が増え続けた場合、21世紀末には最大で4.4度上昇する可能性が指摘されています。

気候変動に関する国際的な枠組みはいくつかありますが、そのひとつがパリ協定です。2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)によって採択されたもので、
世界共通の長期目標として2度目標が設定され、すべての国に削減義務が課されたことが特徴です。ほかにもSDGs(持続可能な開発目標)や事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とするRE100、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などがありますが、その多くが民間企業にとって馴染みのあるものになってきています。
また、消費者の間でも気候変動に関する認知度・関心は高まってきており、環境負荷の低い商品を好むなど、実際に行動を起こしている層は3割に上るとの調査結果もあります。

2020年の調達額は14年比で約8倍

こうした動きに伴い、Climate Tech市場は急成長を遂げており、2020年の調達額は161億ドル(約1兆8000億円)で、2014年に比べると約8倍の規模です。2021年は上半期(1~6月)だけですでに約142億ドル(約1兆6000億円)に達しています。

地域別では米国と中国系ベンチャーの参入が著しく、分野別ではEV(電気自動車)など電動モビリティ関連やエネルギー効率化のソリューション、植物性代替肉などが上位を占めます。

テックジャイアントの投資も活発

世界の事業会社の間ではテックジャイアントなどが、気候変動の解決に力を入れることを表明しています。ビル・ゲイツ氏やジェフ・ベソス氏らによって2016年に設立されたBreakthrough Energy Venturesは、設立当初時点で10億ドル(約1100億円)の投資を発表し、投資額は以降も拡大しています。アマゾン・ドット・コムは2020年に、約20億ドル(約2100億円)規模の気候変動対策に特化したファンド「The Climate Pledge Fund」を設立し、物流やエネルギー、資源、農業など、サーキュラーエコノミーなどの領域でベンチャー投資を実践しています。また、日系の大手事業者も気候変動に大きな関心を寄せており、気候変動や環境に特化したファンドの設立を発表しています。
温室効果ガスの削減にはさまざまな技術が有機的に連動し、社会実装される必要があります。二酸化炭素(CO2)の排出削減、貯蔵・固定化、再利用を視野に入れた炭素循環という観点から、再生可能エネルギーやCCS(CO2の回収・貯留)/CCUS(分離・貯留したCO2の利用)、サーキュラーエコノミーなどの技術を通して、社会システム全体で持続可能な社会を目指すことが重要です。

気候変動事業の成果比率は1割

当社はモーニングピッチの会員企業に向けてアンケート調査を実施しました。それによると9割の企業が気候変動(脱炭素)に事業として取り組むことに関心を持っている半面、実際に行動を起こしている企業は6割に過ぎないことが分かりました。また、事業で一定の売り上げを計上している企業はわずか1割でした。取り組みが行われていない企業が抱える主な要因としては

(1)事業として取り組むための方針や体制が自社にない
(2)どのように取り組めばよいのか分からない
(3)良いパートナーが見つからない

といった点が挙げられます。

脱炭素領域のオープンイノベーションを推進するにはベンチャーとの協業が重要なカギを握ります。今回は省エネ・電化・蓄電池、再エネ・クリーンエネルギー、炭素管理の領域から5社のベンチャーを紹介します。

低温低圧下でのアンモニア生産により製造時のCO2排出を削減

つばめBHB(横浜市緑区)が実用化を進めているのは、世界初となるエレクトライド(電子化物)触媒を活用して、製造時のCO2排出を大幅に削減するアンモニア製法です。現在のアンモニア生産は高温・高圧下で水素と窒素を合成することから多くのエネルギーを要し、CO2を大量に排出することが課題となっています。また、一極に集中した大量生産型であることから、輸送や貯蔵に多くのコストがかかっています。同社のアンモニア製法や小型オンサイトによるアンモニアの生産は、CO2の排出削減および輸送や貯蔵などサプライチェーンにかかわるコストや環境負荷の低減にも貢献します。

温室効果ガス排出量を可視化、行動変容を促す

DATAFLUCT(東京都渋谷区)は、データを活用し消費者や企業の温室効果ガス排出量を可視化、行動変容を促すことを目的としたサービス「ClimateAction Platform:CAP」を提供しています。企業活動で発生するCO2排出量を収集、計算・管理・報告を行いオフセットできる炭素会計ツールや、クレジットカードの決済データから消費者のCO2排出量を可視化してオフセットできる機能などが特徴です。

ガソリン車をEV車に変身

AZAPA(名古屋市中区)が提供しているのはガソリンエンジンの自動車からエンジンを取り除き、電気モーターを搭載することで、電気自動車と(EV)として生まれ変わらせるコンバージョン事業です。EVはまだまだ価格が高く、簡単には購入できません。ただ、中国ではEVの軽自動車が65万円で販売されており、将来的に日本市場に参入した場合、日本の軽自動車市場が奪われる可能性があります。そのような背景の中、同社はバッテリーが適正価格になるまでの期間における同事業のニーズ拡大を見込んでいます。

サプライチェーンの脱炭素化を支援

アスエネ(東京都港区)は、再生エネルギー100%で地産地消型のクリーン電力「アスエネ」を提供しています。ブロックチェーンを活用した透明性の高い供給システムを通じ、CO2排出量の削減と地域貢献を両立させるサービスを展開しています。また、温室効果ガス排出管理クラウドサービス「アスゼロ」では、サプライチェーンの排出量データの計算・配信などを通して、法人・自治体のサプライチェーン全体における脱炭素化を一気通貫でサポートします。

植物由来のカーボンバッテリー

PJP EYE(福岡県苅田町)は植物由来のカーボンバッテリーを開発しています。同社のバッテリーはリサイクル率が100%と環境負荷を低減するだけではなく、従来のリチウムイオンバッテリ―に比べ短時間充電(20分)と長寿命(20年以上)を実現しています。現在の用途は電動自転車用ですが、風力発電にも取り組んでいます。
2021年のノーベル物理学賞を受賞する米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員は、地球温暖化の研究が認められました。これを契機に気候変動に対する関心がさらに高まるのは必至で、ClimateTechベンチャーのさらなる活躍が期待されます。

井村 賢(いむら・さとし)
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
商社にて、ASEAN諸国でのセールス、事業投資に従事。その後、開発援助機関でケニア、日本での援助プログラムに関与した後、総合コンサルにて、大企業におけるサステナビリティ対応および大企業の途上国新規事業創出などを支援。2020年より現職で大企業の新規事業創出およびスタートアップのアクセラレーションの支援に従事。

【関連情報】
●転載元記事:https://www.sankeibiz.jp/startup/news/211022/sta2110220600001-n1.htm