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『お金』から見たWeb3.0の影響力と未来とは。先駆者、ブロックチェーン推進協会理事岡部氏が語るこれからの社会の形

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耳にする機会の増えた「Web3.0」。
GAFAMなどのITジャイアントが支配し中央集権的だった「Web2.0」の時代から、プラットフォームや仲介者を介することなく、ピア・ツー・ピアなインタラクションが可能な自律分散型の時代が来ると注目されている。その周りにはブロックチェーンやメタバース、NFTなどのバズワードが浮かんでいるが、実際にどんな世界が実現するかはまだ不透明なままだ。

そこで今回は、ブロックチェーン推進協会(BCCC)の理事でもある岡部典孝氏にWeb3.0でどのような社会になるのか話を聞いた。私たちの生活はどう変わるのか、どんな業界にビジネスチャンスがあるのか、岡部氏の考察をお届けする。

岡部典孝
JPYC株式会社 代表取締役
2001年 一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業、代表取締役/取締役CTO等経て取締役。2017年 リアルワールドゲームス株式会社を共同創業、取締役CTO/CFOを経て取締役。2019年日本暗号資産市場株式会社(現JPYC株式会社)を創業、代表取締役。2020年 Links株式会社取締役。2021年 iU情報経営イノベーション専門職大学の客員教授、BCCC理事、DeFi協会・ステーブルコイン部会長。

INDEX

地域通貨の研究から「Web3.0」へ
Web3.0で大きく変わる「お金の流れ」
変化する「お金」。消えていく現金と銀行の未来
メタバースで変わる国や自治体のあり方はどう変わる?
早ければ5年後には実現するWeb3.0。鍵となるのはキラーアプリ
ここがポイント

地域通貨の研究から「Web3.0」へ

――まずは岡部さんがWeb3.0のような世界観に興味を持ったきっかけを聞かせてください。

「通貨」に興味を持ったのが最初です。大学時代は、経済学部でゲーム内の地域通貨の研究をしていました。もともとオンラインゲームが好きで、当時はまだゲームで使われる地域通貨の研究をしている人がいなかったからです。

日本の地域通貨と言えば「地域振興券」などを思い浮かべる方も多いと思いますが、海外では既に地域通貨の電子化もされており、日本は遅れていました。これから日本でも地域通貨が電子化するだろうと目をつけたのです。

ブロックチェーンなど、技術の側面からWeb3.0の世界に入る方も多いのですが、私は経済学の側面から興味をもち、もともとプログラミングも好きだったので技術も研究し始めた形になります。

――Web3.0に関わるキャリアとしては、異色のキャリアに見えますね。

私のように経済学の側面からWeb3.0の世界に興味を持つ方は珍しいかもしれませんが、オンラインゲームが好きだった人が多いという点では、共通点もあると思います。2000年前後はMMOの黎明期で、その頃からゲームやSNSなどでデジタルコミュニティに属していた方はWeb3.0の世界観も抵抗なく受け入れられたと思います。

Web3.0で大きく変わる「お金の流れ」

――本題に入りますが、Web3.0とは世界に、どんな変化をもたらすのか聞かせてください。

特に大きな変化が起きるのはお金の流れです。例えば製品を販売し代金をお客さんがクレジットカードで支払う場合を見てみます。現在の商取引では、カード会社で処理され、製品の代金が入金されるまでに1ヶ月程度かかり、手数料もとられます。これだと、売上は立っているのにキャッシュフローが赤字になったり、悪ければ借り入れが必要になることさえあります。

その原因は、取引の途中に人が介在しているから。Web3.0の世界では、決済の処理も全てがデジタルで行われるため支払いのタイムラグもなくなり手数料も発生しません。発生するとしてもごく少額ですみます。納品した瞬間に代金が受け取れるため、商売がしやすくなり企業の成長に繋がります。

――タイムラグのない処理は、キャッシュレス決済の延長線などでは難しいのでしょうか?

今のキャッシュレス決済は、プラットフォームに依存するため、サービスに対応していないと決済ができませんよね。「PayPayで支払いたいのに、あの店は楽天Payしか対応していない」ということが起こり得ます。

そして一つのプラットフォームに資産が集中するのも大きなリスクです。例えば今回のロシアのように経済制裁などによりプラットフォームが機能不全に陥ると、そのプラットフォームで資産を管理していた人は、資産は引き出せなくなるかもしれません。分散型のWeb3.0ではそのようなリスクを回避できるのも大きなメリットです。

――既にWeb3.0による金融の仕組みもあるのでしょうか。

今はDeFi(Decentralized Finance)という分散型金融の領域が一番盛り上がっていて、そこで使われているステーブルコイン(価格の安定性が実現するように設計された暗号資産)は既に20兆円以上の取引がされています。銀行とは違って24時間365日誰でもお金が貸し借りでき、手数料もごく少額しかかかりません。例えばPolygonあるいはShidenというネットワークですと、金額に関わらず一回の送金手数料は0.1円以下になることが多いです。(2022年5月現在)

これまでの金融機関では、お金を預けてもらうために信頼できるシステムを作り、信頼できる人を雇って、それを監視する人も必要でしたよね。仕組みを運用する費用が必要なために、お金を借りる時や送金するときにも手数料がかかっていました。

しかし、Web3.0では人を介しないためお金の管理に人件費がかかりませんし、システムや維持費用もこれまでに比べて遥かに安価になります。それにより私たちは手数料を支払わなくて良くなり、みんなハッピーになると注目されているわけです。

変化する「お金」。消えていく現金と銀行の未来

――手数料を払わなくていいなら、みんなWeb3.0を使いますよね。そうなると、銀行など既存金融機関はどうなるのでしょうか。

「今のままではビジネスが立ち行かなくなる」と、多くの金融機関は危機感を抱いています。これまで銀行は様々な規制などで守られてきたのですが、Web3.0に関しては規制するのも難しくて。どこかにサーバー管理者のような人がいれば規制することもできますが、世界中のインターネットで動いているので規制のしようがない。

これからWeb3.0が普及していくに当たって、既存の金融機関がどれほどのダメージを受けるかが一番のボトルネックだと思います。その危機を回避するために、多くの銀行がスタートアップに出資して新しいビジネスの形を模索しているんです。

――仮想通貨が普及していくということは、現金はなくなっていくのですか。

既に海外では現金のない国も現れはじめていますし、日本でもATMや現金の量を減らす動きが見られます。今でも現金よりキャッシュレスで買い物した方がお得ですし、国もキャッシュレス決済を普及させるために、様々な施策を行っていますよね。

世界全体でお金のデジタル化が進んでいるといえます。

――仮想通貨だけを持っているのは少し怖いですね。

たしかに、これまで流行ってきたビットコインやイーサリアムのような仮想通貨を、日常で使うのはリスクが大きすぎます。値動きが激しく、数秒で価値が倍になったり半分になることも珍しくないからです。

そこで円やドルと同じように信頼できるコインを探して見つけたのが先程も挙がった「ステーブルコイン」です。取引価格が安定することを企図して設計された暗号資産で、アメリカではステーブルコインならクレジットカード決済も可能です。安心して使える仮想通貨として、これから日本でも広がると思っています。

メタバースで変わる国や自治体のあり方はどう変わる?

――Web3.0の大きなテーマと言えば、メタバースもありますよね。メタバースで世の中がどのように変化するのか聞かせてください。

メタバースが普及することで、私たちの働き方はこれまでと全く違ったものになります。数年前から、新しい働き方としてメタバースが注目されていたのですが、コロナ禍でより注目されるようになりました。

オンラインで仕事ができるなら通勤する必要もなく、満員電車に1時間も揺られる必要もありませんし、子育てや介護をしながら働くことだってできます。世界に目を向ければ、言語の壁があるとは言え、今は精度の高い自動翻訳もありますし、グローバルの壁はなくなりつつあるのです。

唯一、壁があると言えば時差。しかし、それもロボット同士で取引するM2M(マシンツーマシン)技術で解決する構想も生まれています。

――ロボットが取引するとはどういうことでしょうか?

ロボットでの取引は、金融業界では既に当たり前に行われています。10年前までは証券会社でも人が取引をしていましたが、今や証券会社同士の取引はロボット同士で、質の高いアルゴリズムを作るためにエンジニアが鎬を削っているのです。

今はまだ金融業界に限った話ですが、今後はメタバース上で「小麦をいくらで買い付ける」という取引も、すべてロボットが交渉して決めるようになると思います。ロボットが正常に作動しているか、チェックするのが人の仕事になっていくでしょう。

夢のような話に聞こえるかもしれませんが、技術的には可能なので、そう遠くない未来に実現すると思います。

――技術以外のハードルもあるのですね。

「オープンなメタバースをいかに作るか」という大きな課題が残っています。今あるメタバースはどれも、企業が作っているので中央集権的なんですね。どの企業にも依存しないオープンなメタバースをいかに作るか、これは国家レベルで話し合われている議題です。

メタバースは多くの人に富を与えると同時に、管理も複雑になります。例えばメタバース上で発生した利益に対して税金をどこの国が徴収するか、国同士で利権争いにもなるでしょうし、国民の管理も大変です。マイナンバーなどで管理することで、国家に監視されやすくなるなど様々な問題を解決しなければいけません

――税金の話は国家間だけでなく、自治体でも課題にもなりそうですね。

おっしゃる通り、Web3.0が普及してDAO(自律分散型組織)などで働く人が増えると、どこに税金を収めればいいかわからなくなります。それによって地方の財源がなくなると、水道や道路のインフラが完備されなくなり別の課題に繋がります。

その解決策と言われているのが自治体のWeb3.0化。これまで市役所にあった機能をメタバースに移すのです。どこに住んでいるかに関わらず、その地域出身の人とか旅行にきてファンになった人々が、その自治体のNFTを買って議論に参加できるようになるかもしれません。

今で言うふるさと納税をNFTで行える世界が実現する可能性もあるのです。まだ、それを実現している自治体はありませんが、今後特区を作って実現していくのは十分に考えられますね。

――そう考えた時に、日本のWeb3.0の進捗度は海外と比べてどうなのでしょうか?

日本は規制が多いので、海外に比べると遅れていますね。実は起業家や技術者の方も、よりWeb3.0が進んでいる国に引っ越しているケースもあります。

ただし、個人的には日本はもともとWeb3.0の概念に向いているとは思っています。日本は村のような小さなコミュニティを運営するのに長けていて、それは分散型の概念に近いんですね。一神教ではなく、いろんな宗教を信仰している人が同じコミュニティに属している国なので、Web3.0的な考え方を受け入れる土壌はあると思います。

規定やルールが整備さえすれば、意外に日本での広がりは早いんじゃないでしょうか。

早ければ5年後には実現するWeb3.0。鍵となるのはキラーアプリ

――どれもSFのような話ばかりでしたが、Web3.0はどれくらいの期間で実現すると思いますか?

早ければ5年もかからないと思います。例えばポケモンGOのようなキラーアプリが誕生すれば、Web3.0の世界も一気に広がるはずです。ポケモンGOにもポケコインという仮想通貨がありましたが、それで日々の生活もできるようになれば、社会は急速に変わるでしょうね。

仮にキラーアプリが現れなくて、草の根的に広がっていくとしても、10年くらいではないでしょうか。今はメタバースの中でおままごとをしているように見えるかもしれませんが、それでも20兆円が動いているのですから。それが年間20倍で成長すると言われており、仮想通貨の流通量が現金の流通量を上回るのは時間の問題です。

――最後にこれからWeb3.0に参入するとしたら、狙い目の領域があれば教えてください。

私が注目しているのは、これまでお金が無駄に滞留していた業界です。先程も言ったように、今は代金が支払われるまで1ヶ月以上かかる商習慣が常識となっています。それを納品した瞬間に代金が支払われるような仕組みにすることができれば、これから大きなマーケットになるのではないでしょうか。

もう一つは地域独自のシステムの一体化です。これまでは、それぞれの自治体が独自の地方創生路線を辿ってきたので、地域によってシステムがバラバラでした。例えばコロナワクチンも、日本全国同じ仕組みでもいいはずなのに、各社が競争して入札した結果地域ごとに違うシステムになりましたよね。それらのシステムを全国で共通にする市場はこれから狙い目だと思います。

ここがポイント

・「Web3.0」により大きな変化が起こるのはお金の流れ。決済処理もデジタルで行われるため支払いのタイムラグもなくなり手数料も発生しなくなる
・ビットコインやイーサリアムのような仮想通貨は、日常で使うには値動きが激しいため「ステーブルコイン」で取引価格の安定が図られている
・今後、メタバース上では「小麦をいくらで買い付ける」という取引も、すべてロボットが交渉して決めるようになる
・メタバース上で発生した利益に対して税金をどこの国が徴収するかや、国民の管理、監視社会にしないなど様々な問題を解決しなければならない
・日本は村のような小さなコミュニティを運営するのに長けていて概念が近いため、分散型のWeb3.0は向いている
・キラーアプリが誕生すれば、Web3.0の世界も一気に広がる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:阿部拓朗