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デザインディレクター石川俊祐・アドライトの木村忠昭、両名が語る大企業が再び成功する為の道

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「大手企業」と「スタートアップ」。その価値観や組織形態は同じ国の会社でも驚くほど違っている。
イノベーションを軸に語る様な文脈では、往々にして大手企業が「イケてない」と評されることも多い。確かに、大手企業からスタートアップに転職して、「風通しのよさ」や「スピード感」を感じながら水を得た魚のように活躍をしている人材も少なくはない。

ところが最近ではそんな大手企業も、反撃の狼煙をあげている。スタートアップとコラボレーションし「オープンイノベーション」に力を入れて変革を迫っているのだ。それでも、大きくなりすぎた組織が実際に変革に成功したケースはまだ多くないだろう。今後、日本の大手企業が変革し、世界での競争力を取り戻すにはいったい何が必要なのだろうか。

日本で「デザイン思考」を広めたAnyProjectsの石川俊祐氏と、ハンズオン支援を通し、何社ものスタートアップの上場に携わってきた株式会社アドライトの木村忠昭氏に、今後の日本の企業組織について語ってもらい、変革の糸口を探っていく。

INDEX

日本への危機感と期待が隣り合わせ。二人が「変革」を支援する理由
日本企業は多様性というものを勘違いしているのか?
「プロジェクト化」が失敗を恐れない組織を作る
シリコンバレーが一番熱い…?ちょっと待った!
ここがポイント

石川俊祐(いしかわ・しゅんすけ)
ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズを卒業後、パナソニックデザイン、PDDイノベーションUK等を経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画し、デザインディレクターとして多様なプロジェクトを担った。2017年、AnyProjectsを設立すると、2018年にはBCGデジタルベンチャーズに参画。Head of Designとして大手企業の社内ベンチャー立ち上げ等のプロジェクトに携わった。そして2019年3月、新たなパートナーも加えAnyProjectsでの活動にドライブをかけている。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎刊)がある。

木村忠昭(きむら・ただあき)
東京大学大学院経済学研究科修士課程卒業。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務に従事。2008年、イノベーション共創を手掛ける株式会社アドライトを創業。国内スタートアップ企業へ社外役員就任によるハンズオン支援を行い、うち5社(ユーグレナ、じげん、クラウドワークス、エスエルディー、マネーフォワード)が上場を果たす。アジアやアメリカの海外スタートアップ企業も積極的に支援。これまでに20社以上の投資育成を行いうち3社が買収される。

日本への危機感と期待が隣り合わせ。二人が「変革」を支援する理由

デザインとファイナンスという、全く異なる業界でキャリアを積んできた2人。歩んできた道は違うが、日本の企業に危機感を持ち、そのための「変革」を求めていることは同じだった。まずは二人のキャリアについて伺う。

石川「私は高校を卒業後、イギリスのデザインの大学に進学しました。その後、パナソニックのデザイナーとして5年間経験を積み、再びイギリスのデザインコンサルティングファームに転職したのです。しかし、その会社はコンサルティングファームなだけあり、デザインを用いたロジカルな課題解決を得意としていました。そこで働くうちに、私はもっとクリエイティブなこと、予定調和に終わらないことをしたいと思うようになりました。そして、世界最大級のデザイン会社『IDEO』の東京支社の立ち上げに参画します。IDEOでの仕事はとてもクリエイティブで、直感や主観を活かしたアプローチでした。その後はボストンコンサルティンググループで、様々なジョイント・ベンチャーを創る仕事をしてきました。そして2019年、自ら『AnyProjects』を立ち上げました。今は会社を立ち上げたばかりで四苦八苦しているところです。
日本と海外の仕事を見ていると、課題の設定の仕方が大きく違うことに気づきます。例えば海外では、『冷蔵庫をつくる』プロジェクトがあると、『食べるってなんだっけ?』という問いから始まります。ライフスタイルから問いを立てるのです。しかし、日本では視点が家電量販店に向かっています。隣に置かれるであろう他社の冷蔵庫と差別化することばかり考えているのです。そのため、他社よりも少し機能がよくて、おしゃれなデザインにした冷蔵庫ばかりが世の中に出来上がる…そんな違いです。
でも、だから日本はダメなんだと言うつもりはありません。むしろ日本人には素晴らしい発想力がありますし、デザイン思考に大切な気遣いや思いやりの精神を持っています。それがビジネスの場で活かされていないことが、もったいないのです。そして、今はこの前者、デザイン思考を用いて『変革』していくことが必要だと思っています」

対して木村氏はどのようなキャリアを歩み、日本企業に違和感を持つようになったのだろう。

木村「私は大学時代から起業家のコミュニティに属していました。ビジネスが始まる根源に関心があったのです。そしてスタートアップをサポートするために会計士になりました。2008年には、会計士として独立し、スタートアップをクライアントに仕事をしてきました。2012年に、社外役員としてサポートしていたユーグレナが上場し、その後も同じようにサポートしていたスタートアップが5社連続で上場しました。
これまで、成功した多くのスタートアップを見て気づいたのが、みんなチームの作り方が違うということ。そこで、海外の事例も見てみようと、実際に視察をしました。初めてシリコンバレーに行く時はさぞかしすごいのだろうと期待に胸を膨らませたものですが、思っていたよりもシリコンバレーでは実りがなくて、正直驚きました。確かにシリコンバレーにはゼロイチに強い人は大勢います。様々な人に会い話を聞いていると、面白いアイディアを持っている方はたくさんいるのです。しかし、スケールさせられる人は限られています。正直、日本より格段に優れているという印象は持てませんでした。実は東アジアの国々から見ると、日本人が思っている以上に日本の評価は高いのです。多くの企業が日本の企業と連携をしたがっています。
しかし、日本の大手企業は自分たちが持っている研究成果を、外に出すことを頑なに拒みます。大手企業はたくさんの研究成果をもっていますが、使わない。成果も含めて社内に独占しているのです。つまり、海外から評価され連携を求められながら、応えられていない。ここに危機感を覚えています。もっと、研究のデータや結果などを、社外に出して有益に使えるようにすれば、日本にはもっと多くのチャンスが訪れると思います」

日本の大手企業に危機感を感じながらも、発想力や研究成果など、活かすべきリソースがあると話す2人。それらのリソースを活かすためにどのような変化が企業には必要なのだろうか。

日本企業は多様性というものを勘違いしているのか?

大手企業とスタートアップの差分の主たるものは何か。いくつものスタートアップを見てきた木村氏はこう語る。

木村「最近、大手企業で勤めている方が、副業などでスタートアップで働くケースが見られます。大手企業の方というのは、決められた仕事を的確に遂行できるので、スタートアップでも案外活躍しているものなのです。しかし、これが逆になると話は変わります。スタートアップの人材が大手企業で働いても、パフォーマンスを上げることができません。なぜこのような事態が起きるかというと、スタートアップでは、大手企業の仕事の仕方を受け入れられるので、大手企業の方も活躍できます。しかし大手企業では、スタートアップの仕事の進め方を受け入れることができません。大手企業では『型』が重視されます。多くの人が仕事に関わるため、誰でも同じパフォーマンスを発揮できることを目指すからです。ただ、スタートアップではそうではない。その結果、大手企業にスタートアップ人材が入っても、型にはまることを求められてしまい、活躍することができないのです。もっと大手企業が、自分たちとは違う価値観ややり方を受け入れられるようになれば、変革のチャンスが増えると思いますし、そうなればいいなと思っています」

では、違うやり方を受け入れられるようになるには、何が必要なのだろうか。

石川「にわとり卵のようですが、組織にはより多様性が必要だと思います。理想は、バックグラウンドがバラバラの人がいること。最近では多様性が必要と言って、違う職業の人を集めること多いですが、同じような環境で同程度の教育を受けていると空気が読めてしまうものです。全く違う環境で育った人と一緒に働けば、いやでも違いを認めざるを得なくなります。例えば、同じ『シンプル』と言っても、ドイツ人とイタリア人と日本人がイメージすることは全く違います。日本でシンプルな商品と言えば、『無印良品』のようなものをイメージする方も多いと思います。しかし、ドイツではもっと流線的なデザインをイメージしたり、イタリアではビビッドな色をイメージすることもあるのです。シンプルな建物として『サクラダ・ファミリア』をイメージする国もあるかもしれません。しかし、イメージが違うからと言って、相手を否定することはできません。あまりにも価値観の違う人間といると、それを受け入れるしかないのです。日本でもそれぐらい価値観の違う、多様性のある環境で働けば、自然と他人の価値観を受け入れられるようになると思います」

しかし、スタートアップも企業が大きくなるにつれて、大手企業化していくケースも少なくない。スタートアップが大手企業のようになるプロセスについて、木村氏はこう語る。

木村「スタートアップも成長していくと、よくも悪くも暗黙知やルールが増えていきます。それらは一見、会社として整備されてきたように見えますが、実は思考停止の原因にもなるのです。成功しているスタートアップの共通点を見ると、前例に従うことなく、その都度課題に対して最適解を求めています。できるだけ慣習を作らず、常にフラットな状態で課題解決を行っているのです。時には経営者自身が、社内に溜まっている『当たり前』を根底からひっくり返すこともあります。また、意図的でなくても外的要因で、ひっくり返されることも。
しかし、組織が大きくなってくると、ちょっとやそっとのことで社内の当たり前はひっくり返されません。そのため、多くの慣習やルールが根強く残ってしまうのです。このようなルールや暗黙知が増えることは、決してデメリットばかりではありません。ルールや暗黙知があるおかげで、同じ課題が発生した際には、迅速に対処することができます。それが効率化であり、その集大成が大手企業です。大手企業は効率化の塊なので、ケースごとに最適解を求めるよりも、ルールを守ることが優先されているのです」

大手企業はルールを作り、仕事を効率化した代償として「作業化」していると木村氏は語る。では、どうすれば「作業化」を防げるのだろうか。石川氏が自身の経験からこう語る。

「プロジェクト化」が失敗を恐れない組織を作る

石川「仕事の作業化を防ぐには、プロジェクトが効果的ですね。IDEOではすべての仕事をプロジェクト化し、共通のゴールを設定していました。多くの企業が仕事をプロジェクト化しないので、仕事が作業になってしまい、チーム感がなくなり、士気も上がりません。
例えば大学ラグビーで8連覇を果たした帝京大学では、練習中にこまめに3人1組で集まって、上級生から下級生にフィードバックする時間をとっているそうです。ラグビーは試合が始まると、外部から指示を出すことができないため、ゲーム中は自分たちで考えながらプレーをしなければなりません。そのためにも、生徒たち自分たちで『勝利』という共通のゴールに向けて考えることが、いいトレーニングだそうです。
これをビジネスの場で活かすことが、プロジェクト化です。例えば、同じ仕事に携わっていても、立場が違えば主張が違う。デザイナーは新しいものを作りたいと思うかも知れませんし、技術者はできるだけコストを下げたいと思っているかもしれません。その主張の違いによって、トラブルが起きることは多くの方が想像がつくでしょう。この時、プロジェクト化を採用して、最初にキックオフミーティングを行う機会があれば、プロジェクトの目的目標を共有できます。それによりメンバーの視座を揃えられ、士気を上げることもできます。シード期のスタートアップであれば、自然とプロジェクト化を行っているのでメンバーの目標が揃っているのだと考えています」

大手企業の中にも、組織のあり方自体を変えようと考える人も多いだろうが、大きな組織ほど変革するのは簡単ではない。大手企業はどのように組織を変えていけばいいのだろう。

石川「IDEOでの成功事例では、組織全体を一度に変えるのではなく、1フロア、もしくは1チームだけルールを変えるのです。みんなが憧れるようなルールを作り、みんながあのチームに行きたいと憧れるようになれば、全体のルールも変わっていきます。全てうまくいくとは限らず失敗することも多いですが、ひとつずつ変えていくことが重要です。仮に失敗しても、次のチャンスには繋がっていくので」

スタートアップでは、失敗してもやってみようという文化が定着しているが、大手企業ではなかなかそうもいかない。いかにすれば失敗から学べる組織を作れるのだろうか。

木村「そもそも『失敗を許容する』と言っている時点で、成功を前提にしているんですよね。失敗してもいいよ、ということは成功が当たり前だという発想から生まれています。しかし、スタートアップは基本失敗することが前提です。失敗する前提の中で、いかに成功する可能性が上げられるかを模索しているのです。成功を前提にして失敗を許容するのと、失敗前提で可能性を模索するのでは捉え方が全く異なります」

石川「そういう意味ではもっと、探究型の会社が増えれば面白いですよね。IDEOでは、プロトタイプで実験をして、失敗から学ぶスタンスをとっていました。そして、みんなそのプロセスを楽しんでいたのです。
しかし、大手企業では失敗することへの拒絶反応が強いように見えます。大手企業で働いているなら、失敗しても怒られない程度の実験をいかにできるかが大事です。失敗の経験も増えていけば、探究型の会社も増えるのではないでしょうか」

シリコンバレーが一番熱い…?ちょっと待った!

大手企業が組織の変革を起こそうとする際に、シリコンバレーなどのやり方を採用するケースもしばしば見られる。しかし、木村氏はそのやり方に異を唱える。

木村「シリコンバレーでのやり方を、日本の企業にそのまま当てはめてもうまくいくはずがありません。日本でのやり方にあうように、調整しながら取り入れていかなければなりません。その過程には多くの試行錯誤が必要です。
大事なのは、表面上だけでプロセスを取り入れようとしないこと。プロセスだけを取り入れても、実際に働く人たちの感情がついてこないからです。働く人々が楽しいと思える環境をゼロから作っていくことが重要です。そのためには、無意識のうちにルールになっているものを変えていく必要もあります。無意識のルールは自分たちではなかなか気づけません。だからこそ、他業種の方など、全く違う目線を入れていくことが重要です。そして、全く視線の違う意見を取り入れるには、お互いの信頼関係が必要なのです。信頼関係がなければ、相手の意見を受け入れることができません。オープンイノベーションを成功させるためにも、最も大事なのは信頼関係を築くことです」

石川「信頼関係を築くのが大事なのは、社外に対してだけではありません。社内、つまり後輩や新入社員との信頼関係も必要です。新入社員は、まだ会社の『当たり前』を知りません。社会の『当たり前』も知らないので、他業界の人よりも大事な意見を持っていることもあります。しかし、多くの人が年齢やキャリアを重ねるごとに、部下に対して『知らない』と言えなくなります。部下からのインプットが減ることで、視野も狭くなるのです。大事なことは、自分は何も知らないという前提に立って、部下にでも弱みを見せられることです。
新入社員を先生だと思って、自分の知らないことについて素直に聞いてみる。それができれば組織の空気の流れがずっとよくなるはず」

グローバル化が進み、国内の競合だけをベンチマークしていればいい時代は終焉を迎えている。海外の成長企業との競争も前提にしなければ、日本は世界での競争力を急速に失うことになるだろう。

日本の企業に必要なのは、世界で最も進んでいるとされる、海外の成功事例の表面的な猿真似ではなく日本人に合わせた改革だ。自社の変革を目指し、海外のノウハウや事例を血眼になって探し回り勉強している方も多いかもしれない。しかし企業を変革するための要素は、意外と身近で、今働いている社員の声や、規模も文化も異なるスタートアップの柔軟な姿勢や、信頼関係。そう、自分たち自身の中に転がっているのだ。

ここがポイント

・デザイン思考やオープンイノベーションで「変革」を目指すには、価値観やものの捉え方まで違うほどの「多様性」が必要。
・多様性を継続させるために、慣習や暗黙知をひっくり返し続けることが重要。
・仕事が作業化し士気が下がるのを防ぐには、プロジェクト化し、共通の目的・目標を持つ。
・組織は「失敗を許容する」ではなく「失敗から学べる」探究型の組織になっていくべき。


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介