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シード期の資金調達では「実績」と「計画」を意識しよう|未来を実装する秘訣 vol.11

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ほとんどの起業家にとって、資金調達は初めての経験です。資金調達に関する本を読んだり、人から話を聞いたりして、資金調達の仕組みをおおよそ理解したとしても、実際に調達活動を始めてみたら分からないことだらけ、という話もよく聞きます。

その中でもしばしば聞くのが、どれだけ準備して臨めば良いのか分からない、というものです。

投資家がスタートアップを評価する際には、チームや市場、アイデアなどを見ます。ここではアイデアとまとめましたが、アイデア自体と同時によく精査されるのは「実績」「計画」の二つです。

エンジェル投資家であれば、実績や計画がなくても投資してもらえることはあります。また、トレンドに乗っているアイデアであれば、そうした準備はさほど必要ないかもしれません。

しかしトレンドではないアイデアで、かつシード投資家と呼ばれるようなベンチャーキャピタルから資金調達をしようとする場合、実績と計画の2つについてきちんと準備をして臨まなければ、起業家にとって不利な資金調達になってしまうことが多いようです。

そこで今回はこの二つについて簡単に解説してみます。

INDEX

実績
計画
お金の使い方の計画
お金はリスクを検証するために使う

実績

まずは実績です。スタートアップの業界では、トラクション(引き合い)という言葉が使われることもあります。

アイデアの良し悪しを、話を聞くだけで判断できる人はそう多くありません。しかし、もしそのアイデアが何かの実績を獲得できていれば、説得力はぐんと高まります。論より証拠、だからです。

分かりやすい実績としては、売上やアクティブユーザー数などが挙げられます。誰かから実際に買ってもらっているのであれば、その製品にニーズがある、つまりその元になったアイデアが優れているかもしれない、という証拠になります。

さらに売上やユーザー数が毎月のように実績が増えていれば、今後も伸びそうだ、と予想できるでしょう。そうした分かりやすい実績があれば、アイデアの良さや可能性を伝えられます。

ビジネスや製品の実績だけではなく、隣接した領域での実績が評価されることもあります。たとえば、製品ができていなくても、完成系の製品に近い形のコンサルティングサービスが高い価格で売れていれば、「このサービスを製品化すれば売上が立ちそうだ」という推測ができます。

また、製品のコアとなる科学的な発見が優れた論文誌に掲載されている、その分野で研究していた、といった起業家自身の実績も評価の対象となる場合もあります。創業チームメンバーに一度成功した起業家がいる、などの実績が高く評価されることもあるでしょう。

実績はアイデアの良さを測る一つのヒントになります。また実績を作ろうと努力する中で、事業に対する学びも生まれてきます。計画を精緻化するよりも、まずは実績を作ることに力点を置いたほうが費用対効果は高いので、お勧めです。

計画

もし実績が十分でない場合は、事業戦略や計画を精緻に作ることである程度その欠点をカバーできます。

これは事業計画書をフォーマット通りに書けばよい、というだけではありません。フォーマットはあくまで最低限必要な情報のための枠でしかなく、その枠の中身を埋められたからといって、書かれた情報の質が高いとは限らないからです。

必要な視点は、計画によって現状のアイデアの価値を高めることです。たとえば、なぜ最初にその事業から始めるのか、どういった順番で市場を攻めることで規模を拡大していけるか、といったことを理詰めで説明することで、これまで単独でぽつんとあったアイデアが文脈や物語の上に乗り、その価値が見えるようになってきます。

起業家にとってアイデアの文脈は自明のものですが、多くの他人にとっては自明ではないので、その文脈を共有するためにも計画を話す必要があります。

計画通りに物事が進むわけではありませんが、そうした仮説を立てられているかどうかは、事業のことを考え切れているかどうかを示す良い物差しにもなります。優れた計画を立てることができていれば、どれだけ深く思考できるチームなのかを示すことができ、アイデアだけではなくチームへの投資をしようと思ってくれる可能性も高まります。

お金の使い方の計画

資金調達で計画を話すときには、お金をどう使うかの計画も用意しましょう。

一般的に、スタートアップは一度の資金調達で1.5年から2年分ぐらいのお金を集めます。それはつまり、1年後から1.5年後には次の資金調達を始める、ということであり、シードと呼ばれる最初の資金調達の場合、次の資金調達はシリーズAと呼ばれる段階となります。それは、約1年後のタイミングまでにシリーズAに到るための条件を満たす必要がある、ということです。

そのための活動計画をきちんと考えられているかどうかが、シードの資金調達で求められる計画です。つまり、シードの調達の時点で、「事業がどこまで辿り着いていればシリーズAの調達ができると思うのか」「そのための事業計画はどういったものか」がある程度起業家の中で明確になっている必要があります。

「資金が必要だから資金調達をする」だけでは、資金調達の目的は伝わりません。次のシリーズAの資金調達までにどういったマイルストーンを達成しておきたくて、そのためにどういう活動をする必要があって、どれだけの人やお金といった資源が必要、といった説明を行うようにしましょう。

お金はリスクを検証するために使う

また、調達した資金は「リスクを検証する」ためのものだと考えることをお勧めします。

リスクの玉ねぎ理論という考え方があります。スタートアップには玉ねぎのように何層にもリスクがあって、スタートアップはそのリスクを徐々にはがしていくようなものだ、という考え方です。たとえば、最初に「顧客にニーズがあるか」というリスクがあり、そのあとに「この製品は作れるのか」「合理的な支出の範囲内で急拡大できるのか」といった複数のリスクが積み重なっていると考えるのです。

この考え方を資金調達に当てはめると、「自分たちは得た資金を使って、どのリスクを検証するのか」を考える、ということになります。より正確に言えば、「得た資金を使って、どういう活動をすることで、どういったリスクを検証するのか」を考えるのです。

投資家もスタートアップにリスクがたくさんあることは知っています。起業家が「リスクはない」と言うよりも、「リスクはまだこれだけあるけれど、次の大きなリスクはこれで、このリスクを検証するためにお金が必要」と言った方が、より誠実に聞こえます。

だからこそ、計画の時には得たお金で検証するべきリスクと、その検証のための活動をきちんと計画するようにしましょう。

ただ、何度も言うようですが、「論より証拠」です。実績を出してから臨んだほうが、より説得力は高まります。売上があれば、「顧客が欲しがってくれるかどうか」というリスクはすでに検証されているように見えるでしょう。

計画を精緻にすることも大事ですが、早く製品をローンチして、実績を作ること、そして実際の顧客から学びを得ることに時間をかけるようにすることを強くお勧めします。

[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]
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