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VC投資の基本的な仕組み| ベンチャーキャピタリストの視点 vol.1

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VC投資についての議論の中で、おそらく基本的な仕組みの理解がないことによる誤解が数多く見受けられる。具体的には、一人で1年間に数十社もデューデリジェンスと呼ばれる投資審査を行ったという人がいたり、シリコンバレーではスピードが命なので24時間以内に投資を決定しなくてはならないという人がいる。よく考えたらおかしな話が横行しているが、このような話はVC投資の基本的な仕組みを理解していれば、すぐに変だと言うことがわかるはずだ。以下でVC投資にまつわる基本的な枠組みについて説明をしたい。

INDEX

VC投資の基本的な枠組み
スタートアップの資金調達の概要
スタートアップ投資のお金の流れ

VC投資の基本的な枠組み

VCが投資を行うスタートアップに関連する主なプレーヤーとしては、以下のようなプレーヤーが挙げられる。

1. スタートアップ
2. 大学・研究機関
3. アクセラレーター・エンジェル投資家
4. VC
5. 金融機関
6. 大企業
7. ビジネスサービスプロバイダー

1. スタートアップは新しい産業を作り出すような急成長を続ける企業であり、
2. 大学・研究機関はスタートアップにテクノロジーや人材を供給し、
3. アクセラレーター・エンジェル投資家はスタートアップに最初の資金提供を行う。
一般的に3に続いて長期的にスタートアップに資金を提供し、価値向上に寄与する付加価値を提供するのがVCとなる。
それ以外のプレーヤーとして、
5. 金融機関はスタートアップの上場の際の引受やスタートアップへのファイナンシャルサービスの提供をし、
6. 大企業はスタートアップとの協業や、スタートアップを買収したり投資を行う。
7. ビジネスサービスプロバイダーと呼ばれる銀行や弁護士事務所、会計事務所も重要な役割を果たすプレーヤーとなる。これらも一般的な大規模金融機関や大企業法務、会計の有名事務所でなく、スタートアップやVC業界に特化した数社の金融機関やプロフェッショナルファームがその役割を務め、独特のサービスや契約に対応する。スタートアップはどんどん新しい会社が出てくるがそれ以外のプレーヤーはあまり顔ぶれに変化がないのが大きな特徴となる。

スタートアップの資金調達の概要

次にスタートアップの資金調達の概要について説明したい。
まず、スタートアップにとって、資金調達の種類は3つに大別され、資本コストと呼ばれる資金調達のコストが低いものの順番で①補助金、②負債、③株式となる。
①補助金は、特定の条件を満たしたら多くの場合返済の義務がない資金が提供され、最もスタートアップ視点で見た場合コストが安い資金調達手段となる、
②負債については、担保や信用等の条件が必要となり、返済期限が設定され、利子等の追加の支払いが必要になるが、それ以外は原則負債金額以上には支払いを要求されない次にコストが安い資金調達手段となる。
③株式は会社の持分を売却するというもので、担保や利子支払いは原則必要ないが、会社が成長した場合は売却金額以上に株価が成長しても投資家が一旦割り当てられた持分を維持することになり、最もコストの高い資金調達手段となる。
この裏返しで、VC等の投資家側から見ると、資金調達の条件と期待する投資利益とリスクを考えて出資に応じるかどうかの判断となる。
このうち、スタートアップ資金提供は、株式での投資がメインとなる。なぜならば、スタートアップにとって、負債での資金調達は、返済義務が発生することやその返済の妥当性を確保するための担保の確保等が難しいことから株式が求められることからだ。
VCはスタートアップ向けに株式での投資を行う投資家であり、当然のことながら株式での投資はリスクサイドが担保等で保護されている負債よりも高い投資利益が必要となる。具体的には年間利率で15−20%以上の年間利率での利益が確保できる投資が全体としては必要となり、そうなるとスタートアップは少なくとも数十%以上の年間成長が期待できるビジネスでないとVCから株式による資金調達が難しいことになる。

スタートアップ投資のお金の流れ

VCによるスタートアップ投資については以下のような仕組みでお金が流れることになる。
まず、VC自体にも投資家がおり、VCの投資をLP投資家と呼ぶ。LP投資家は通常、金融機関や事業会社、あるいは年金基金や大学基金、財団であることが多く、LP投資家はVCに投資に関する権限を投資契約で決められたルールで一任し投資のリターンを一定割合で受け取る。

お金の流れとしては、LPがVCがファンドを組成するタイミングでVCにお金を出資する。これをファンドレイズと呼ぶ。
VCはLPから集めたお金をスタートアップに投資し、通常は10年間の期間で運用する。10年間のファンド運用期間が終了後、VCはLPに投資によって得られた利益を契約に基づく配分で分配する。またVCはリスク分散のため複数のスタートアップに投資し10年間かけて売却により投資利益の獲得を目指す。アメリカでは、LPのVC投資は、国債や不動産や公開株式、ヘッジファンド、M&Aファンドと並ぶ投資アセットとして地位を確立しているため、年金のような数兆円規模の運用をしている巨艦投資家がポートフォリオの分散戦略の一環としてVCに資金を振り向ける。このようなLP投資家にとってVCファンドへの期待リターンは、通常リスクの低い他の投資アセットより高くなる。

次に、契約関係を説明すると、まずLPとVCの契約関係は、LPAと呼ばれる投資契約を締結し、ファンドの投資家募集から通常投資契約も締結まで1~2年かかる。LPAの締結により、LPはその資金の運用をVCにゆだねることになり、VCはスタートアップの投資が可能になる。

LPAの締結後のVCファンドのオペレーションのプロセスは以下となる。
LPA締結後、VCはスタートアップへ投資を開始する。投資した先のスタートアップがM&Aで買収されたり、IPOにより株式公開し売却が可能になるタイミングで売却を行い、売却できた時点でLP投資家に投資利益を配分する。通常VCの場合は出資金の100%までは最優先でLPに投資額を返金し、それ以降は決められた投資利益の配分で投資利益を取り、残りをLPに配分する。

各スタートアップへの投資については通常、有望なスタートアップの投資の条件交渉に入り、データーの取得の為のNDA等の必要な契約を締結し、基本情報を精査したのちに両者で合意をした場合にタームシートと呼ばれる投資条件の概要に相互にサインし、データルームと呼ばれる詳細な財務情報含む投資判断に必要な情報一式の提示を受け、その内容に基づいてDue Diligenceと呼ばれる投資精査を通常4−6週間程度実施し、投資を進めることに双方合意した場合、投資契約等の必要契約を締結し、投資金を払い込むというプロセスを取る。このような投資精査のプロセスには弁護士、会計士含む外部の専門家を加えて数名のチームで通常1−2ヶ月の期間と数百万円のコストが必要となる。

上記のようなVC投資の通常プロセスを理解すると、VC投資には時間もかかり、かつ、人的リソースも弁護士、会計士等の外部の専門家起用のコストも相当のものが必要になることがわかる。そうなると、一人で何十件もVCとしての投資検討を行うことや24時間以内に投資を決定することが現実的でないことはご理解いただけると思う。

[中村幸一郎:Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター]
早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに孫泰蔵⽒とともに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンドの事業などを担当した。早⼤法学⼠、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズ(Kauffman Fellows Program)を2012年に修了。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List 100の2021年版に日本人として72位で初めてランクイン、2022年度版のランクでは63位までランクを上げた。シカゴ大学起業家教育センター( Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)を2022年より務める。

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