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地方自治体の支援で増加傾向外国人起業家のさらなる台頭が、国際都市競争力を高める Morning Pitch vol.392

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デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は日本発の外国人起業家です。

米大手IT企業の創業者の多くは移民、2世

米国で誕生した大手IT企業の創業者の多くは、外国からの移民もしくは2世です。マーク・ザッカーバーグ氏らと共にフェイスブックを創業したエドゥアルド・サベリン氏はブラジル系移民1世でグーグルのセルゲイ・ブリン氏はロシア系移民1世、イーベイのピエール・オミダイア氏はフランス移民1世です。
このようにスタートアップの世界でも移民文化が根付いていることもあって、シリコンバレーでは外国人起業家の割合が半分弱を占めております。アジアの動向を見ますとシンガポールは35%、北京は23%です。しかし、日本はわずか2%に過ぎません。


その理由として
(1)資本金500万円、2人以上の常勤職員が必要といった法的な縛りがある
(2)外国人起業家への支援策が少ない
(3)高度人材ではなく、働き手として受入れてしまう
(4)起業家教育が少ない―といった点が挙げられます。

日本では福岡市などがスタートアップビザを導入

世界各国で外国人起業家を支援及び誘致するために、起業家誘致の競争も激しくなってきています。例えば行政レベルでは公的に発給要件を緩和するスタートアップビザ(在留資格)を導入する動き、民間レベルでは資金調達が活発化しています。
日本では、福岡市や神戸市、東京都渋谷区など13自治体が経済産業省の認定に基づき、外国人起業家の誘致に力を入れています。かつてはビザの認定が厳格で創業準備中に資金が尽きてしまうといった例がありましたが、こうした自治体の間ではスタートアップビザを導入する動きが顕在化しており、今後も増える見通しです。

経産省は起業前と起業準備期間を支援するため、外国人起業家促進事業という制度も導入しています。ただ、今後の事業成長に向けてはさらなる支援体制の強化が必要です。

経営・管理ビザを取得する外国人は増加

こうした支援制度を後押しする形で、起業家として活動する経営・管理ビザを取得する外国人は増加傾向にあります。2020年は2万7235人で2016年に比べると24%増えています。

日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、外国人起業家が日本で事業をスタートした理由の上位は
(1)マーケットとして魅力がある
(2)長い間日本にいるため
(3)日本で暮らしているため
(4)原材料の調達に有利だから―です。
一方で課題も抱えています。資金調達が困難である点や日本語の細かいニュアンスが伝わりにくいといったことです。ただ、外国人起業家は新たな分野への進出や海外との取引に意欲的といった理由で、協業メリットを感じている大企業も少なくありません。

Paidyはグローバル目線で成長しユニコーンに

ではここで、日本で創業した代表的な外国人起業家を紹介しましょう。個人向けの家計簿・資産管理スマホアプリを提供するマネーツリーのポール・チャップマン代表取締役は「日本にはアプリの開発ノウハウを持つ企業は少なく、技術を備えた当社は優位に立てる」と考えて起業しました。
2021年3月にユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)となった後払い決済のPaidy(ペイディ)を創業したのはラッセル・カマー会長です。グローバル目線で事業を構築し発展させていきました。今回はアジア出身者が設立したベンチャーを中心に5社を紹介します。

鮮度を維持し、フードバリューチェーンを改善

アクシオヘリックス(沖縄県那覇市)はフードバリューチェーンの改善に取り組んでおり、鮮度を維持することで生産地と同等の味を実現するInazumaシステムを提供しています。パネルによって電解を作り分子の動きを抑制することで、低温状態の鮮度を維持する技術です。電解を浴びる細胞は、細胞を活性化するために必要なショ糖が通常の3~5倍も多くなるため、鮮度が維持される仕組みです。

ペットの愛好者向けSNSアプリ

NGA(エヌジーエー、東京都港区)はペットの愛好者を対象にしたSNSアプリ「PET」を提供しています。今年5月に設立されたばかりの会社ですが、起業に至るまでの3年の準備期間中に、同社CEOの出身地である中国で開発された数百万の数に上るアプリから60アプリを抽出し、ビジネスモデルを徹底的に研究し開発しました。ペット用のサロンや同伴可能なレストラン、住居探しに至るまでひとつのアプリで完結します。

点検が難しいプラントなどで稼働するロボット

ハイボット(東京都品川区)は東京工大発ベンチャーで、危険な場所や点検が難しいプラントなどで稼働するロボットを提供しており、データ分析までを一貫して担っています。事業展開に当たっては「RaaS(Robot as a Service=ロボット・アズ・ア・サービス)」というビジネスモデルを取り入れています。いくつかの拠点にレンタルでロボットを配置し、エンドユーザーと取引を行っている会社と提携、その会社がサービスを提供する仕組みです。

スマホ決済の導入・管理コストを抑制

ELESTYLE(エレスタイル、東京都千代田区)は次世代モバイルの決済プラットフォーム「elepay(エレペイ)」を提供しています。各決済会社の申し込みや入金、複雑なAPI接続などを一本化し、スマホ決済の導入・管理コストを抑制します。もうひとつのサービスが、「One QR(ワンキューアール)」です。長年にわたって培ってきたECサービスのノウハウを駆使し、駐車場や自動販売機など利用シーンに応じたモバイルアプリケーションSaaSを提供しています。

外国人材を支援

Linc(リンク、東京都千代田区)は、インバウンドタレント(外国人材)を支援しています。具体的には大学進学に不可欠なeラーニングや進学情報メディア事業を展開しており、コロナ禍にもかかわらず業績を順調に伸ばしています。今後はメディアに登録したユーザーに向け、採用から育成、管理までを一気通貫で支援するサービスを提供、学習効果を可視化したレポートも作成します。
日本が国際都市としての競争力を高めるためには、外国人材を積極的に呼び込むことによって活力を生むことが必要です。2020年の国勢調査では外国人の人口が過去最多となったこともあり、外国人起業家のさらなる台頭に期待が高まります。

Abdullaev Samariddin(アブドゥラエフ・サマリッディン)
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
名古屋大学法学部卒。新卒で2013年に神鋼商事入社。大手鉄鋼メーカー向け原料調達・貿易業務を担当。2016年EYアドバイザリーアンドコンサルティングに入社し、日系企業の海外進出などを支援。2019年デロイトトーマツベンチャーサポート入社(現職)。資源及び原料に関連する素材産業を担当し、素材系のスタートアップ企業を支援しているほか、大企業とベンチャー企業の協業創出支援に向けたコンサルティングを提供している。

【関連情報】
●転載元記事:https://www.sankeibiz.jp/article/20211203-4EN2KV3HIJCBPOP37KL35ARF6M/