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ITやバイオ・ヘルスケア、ものづくりの領域を中心に数が急増 大学発ベンチャーが成長戦略を支える Morning Pitch vol.394

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デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は大学発ベンチャーです。

研究成果型が全体の6割近くを占める

大学発ベンチャーは(1)研究成果(2)共同研究(3)技術移転(4)学生(5)関連―といったように大きく5つのタイプに分類されます。このうち、大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的でスピンアウトした研究成果ベンチャーが、全体の6割近くを占めています。
大学発ベンチャーの数は、ここ数年で急速に増えています。そのきっかけは2014年に導入された官民イノベーションプログラムです。国立大学によるファンドの設立が可能になり、国は東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学の4大学に1000億円を出資しました。2020年の大学発ベンチャーの数は2905社と、過去最高を記録しています。

東京理科大発ベンチャーの数は4年で22倍に

業種は大きく7分類され、IT(ソフト+ハードウェア)が最も多く、続いてバイオ・ヘルスケア、ものづくりです。これら3領域で全体の約3分の2を占めます。大学別では4大学が上位を占めていますが、VC(ベンチャーキャピタル)や支援機関を立ち上げるなどして独自の追い上げを行っている大学も目立っています。代表的なのが東京理科大学で、2017年時点は5社だったのに2021年は111社とわずか4年で22倍に拡大しました。
IPO(株式公開)した大学発ベンチャーは合計66社。2021年1月時点の時価総額は3兆630億円です。時価総額上位の代表的なベンチャーは京都大発で再生可能エネルギーの企画・開発・運営を行うレノバや東大発で創薬研究開発を行うペプチドリームなどです。この1年以内を見ても東北大発で医薬品や医療機器、人工知能(AI)ソリューションの開発を行うレナサイエンスなどが上場を果たしています。

サイエンスの深みなどが成功するためのカギ

成功した大学発ベンチャーには共通項があります。まず、サイエンスの深みです。自身の研究成果が論文として、最も権威のある学術雑誌であるトップ・ジャーナルに掲載され、複数の周辺技術を保有していることが成功事例のひとつです。また、サイエンス、ビジネスの領域で高い知見を備えた人材を、できるだけ早い時期にそろえるなど、バランスの取れたチーム体制の構築も不可欠な要素です。このほか創業者のリーダーシップコミットメントや資金調達力も重要な役割を果たします。

高まる外部との協業ニーズ

外部との協業ニーズも高まっています。経済産業省の「平成30年度 大学発ベンチャー調査」によると、今後協業したい相手は国内大企業が最も多く、販売・マーケティングで協業したいという傾向が鮮明に表れています。有望な技術を持ち大きなポテンシャルを秘めながらも事業化までには多くのハードルがあり、大手企業との協業が有効になるからです。
2021年も大企業との協業事例が相次ぎました。東大発のCraif(クライフ)は東京海上日動あんしん生命保険と連携し、尿中からがんを早期発見するスクリーニング検査サービスを優待価格で提供、がんの早期発見をサポートします。名古屋大発のトライエッティングは東急不動産ホールディングスと提携、DXの推進や新規事業の創出を支援しています。
今回はITのソフト・ハード、バイオ・ヘルスケア、ものづくりの領域から5社を紹介します。

低価格で何度も利用できる無人衛星

東北大発のElevationSpace(エレベーションスペース、仙台市青葉区)は、国際宇宙ステーション(ISS)に代わる宇宙プラットフォームの開発をミッションに、ELS-R(イーエルエス アール)と呼ぶ小型人工衛星内で宇宙実験や材料製造、エンタメなどの利用が可能なプラットフォームを開発しています。低価格で気軽に何度も利用できる無人の小型衛星を投入する計画で、150キログラム程度の技術実証機を開発し、2023年に打ち上げを予定しています。

AIで医師でも見つけられない肺がんを検出

プラスマン(東京都千代田区)が注力しているのは、がんによる死亡原因第一位の肺がんの治療です。適用しているのはCT画像を解析した上で、数理工学や科学的な原理・技術を応用するアクチュアリアルサイエンスという手法を取り入れた医療画像解析AI「Plus.Lung.Nodule」(プラスラングノジュール)です。医師でも見つけられない肺がんの検出が可能です。今後は肺結節以外にも対応できる画像診断AIを開発し、国内外に投入する計画です。

薬物分布の制御で副作用を最小限に抑制

東大発のブレイゾン・セラピューティクス(東京都文京区)は、薬物分布の制御によって副作用を最小限に抑える技術を用いたドラッグデリバリーを実現しています。従来は脳に届けたい薬があるたびに脳関門という部分を突破する薬剤を創薬する必要がありました。同社の技術は、低分子医薬品から核酸医薬品、たんぱく質や抗体に至るまで幅広く高分子ミセルに内包し、脳へ運ぶことができます。

機械が人のような触角を備え、力を加減

慶應義塾大発のモーションリブ(川崎市幸区)が開発したのは、機械が人のような触覚を獲得し、対象に合わせて力を加減できるようになる「リアルハプティクス」技術です。この技術を制御ICチップに集約して企業に提供しており、機械やロボットに人のような触覚と力の入れ方を実装しています。これによって研磨やバリ取りといった熟練技術者の繊細な力加減を要する作業の自動化や、遠隔医療が可能となります。

市販のパソコンでも学習・推論が可能

東工大発のSOINN(ソイン、東京都町田市)は、市販のパソコンでも学習・推論が可能で、AI の非専門家であっても現場で動作確認や調整をしながら運用できる商品を提供しています。データ量が少なく、無償トライアル制を導入しており、工場内の違和感の検知や街のエネルギーマネジメント、ため池の水量の予測などさまざまな用途に使われています。
政府は成長戦略の一環として、世界トップレベルの研究力を目指す大学を資金面で援助する10兆円規模の「大学ファンド」の運用を、2021年度内に開始する予定です。大学発ベンチャーが活躍するステージはさらに広がりそうです。

久保 凜太朗(くぼ・りんたろう)
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 グローバル&インダストリー事業部
大手自動車メーカーにて市場情報部に所属し、海外市場の調査分析を通じた商品企画を担当した後、大手総合金融系企業にて海外ベンチャーとのオープンイノベーションに従事。インドのSaaSベンチャーとの新規事業を立ち上げ、プロジェクトマネジャーとして初年度から数億円規模の売上創出をリード。2021年より現職で海外ベンチャーと日本企業のオープンイノベーション創出や、国内のシード・アーリー期のベンチャー支援を担当。