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日本の農業をアジアに広げることが勝ち筋に アグリテックベンチャーが〝儲かる農業〟を実現 Morning Pitch vol.393

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デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はアグリです。

スマート農業が進化

日本の農業の課題は担い手の確保ですが、大手農機メーカーが先導役を担う形で、ロボットやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などを活用したスマート農業が着実に進んでいます。その上で農家・農業法人がさらに成長するには、儲かる農業への転換が必要となります。とくに生産者は経営や販売を苦手としている人が多いため、作業の効率化による人件費削減や地域特性を活かしたブランド化、消費者と直結する流通といった戦略が重要になってきます。
儲かる農業を具現化するためのカギを握るのは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)をかけあわせたアグリテック(AgriTech)です。この技術は社会実装という段階に移行しており、これからは生産者からの信頼を得ていくことが必要だと考えています。

実証プロジェクトは収益計上を重視

国はこうした課題に応えるため、スマート農業の実証プロジェクトを全国で実施しています。実際に技術を生産現場に導入し実証を行うとともに、経営への効果を明らかにすることを目的としています。2019年度から開始し、これまで182地区で展開しています。
2020年度までは具体的な栽培品目がテーマとなっていましたが、2021年度は輸出、新サービス、スマート商流、リモート化、強靭な地域農業という5テーマが挙げられ、栽培技術よりも農業で収益を計上するための販売や、新たな取り組みを重視した格好になっています。輸出は海外ニーズに合わせた重点品目の生産体制の構築がターゲットとなっており、収穫や流通にスマート農業を導入する取り組みが採択されました。新サービスとしては農機シェアリングが取り上げられています。

ベンチャーと自治体・大企業との連携も活発化

こうした動きに伴った形でベンチャー企業と自治体・大企業との連携も活発に行われています。
自律走行型農業ロボットを開発するレグミンは、ネギの産地として有名な埼玉県深谷市と提携し農作物の受託サービスを加速させています。プランツラボラトリーは東北電力と提携し、「創・省エネ屋内農場システム」という新たなソリューションシステムを開発、年間を通じて安定した農作物の栽培を目指しています。
国内最大級の産直アプリを提供するポケットマルシェはUPDATER(アップデーター)と連携し、農地の上に太陽光発電設備を設置し、電気と食材を同時に作るソーラーシェアリングを進めます。耕作放棄地の活用にもつながります。銀座農園はマルチユース型農業ロボットに、ゼンリンデータコムが保有する地図データを組み込み、農業を始めとする第一次産業などに向けて新たなソリューションの開発を目指します。
農業分野でもベンチャーの台頭が加速する中、今回は経営・生産プラットフォームと流通プラットフォームの領域から5社を紹介します。

予測分析で植え付けから収穫までの生産性を高める

ListenField(リッスンフィールド、名古屋市中村区)は植え付けから収穫までの生産性を高める予測分析プラットフォームを提供しています。農家や研究者、工場などの情報を共有し、データ主導型の提案を行うことによって、生産計画の最適化や運営コストの削減を可能にします。大手農業機械メーカーから出資を受け、作物収穫の向上と薬剤や肥料などの使用量を最適化する技術を共同開発しました。東南アジア諸国での展開を目指しています。

みかんの腐敗率が3分の1に低減

タベテク(東京都千代田区)はプラズマ殺菌技術を活用し、薬剤不要・常温保存で農作物の鮮度維持に取り組む研究開発ベンチャーです。みかんの常温保存について、3カ月間の実証実験を行った結果、装置を使用した場合は、通常の保存に比べ、腐敗率を3分の1に低減することに成功しました。現在は、パレットの隙間に複数の小型プラズマ装置を設置する方式の試作機の開発を進めています。

山梨県産シャインマスカットの輸出量の7割を占める

アグベル(山梨市)はシャインマスカットの生産を行っています。現社長はリクルートを退社しぶどう農家の3代目を継承、果樹生産のイノベーションを起こすため2020年に創業しました。近隣農家を巻き込んで出荷組合を作り、民間では日本初となる選果場を設立するなどして新たな流通網を創出することに成功しています。シャインマスカットの生産量はすでに山梨県で一位となっており山梨県産シャインマスカットの輸出量の7割を占めています。

農園栽培をアプリで疑似体験

Root(ルーツ、神奈川県南足柄市)は家に居ながらにして、農園での栽培をアプリ経由で疑似的に体験できるスマート体験農園システムによって、一次産業の六次産業化を図っています。アプリの機能としては、畑の様子が分かるのはもちろん、収穫や開花のシミュレーション、天気データなどがあります。また、ゲームのように畑を歩きながらユーザーと農園がビデオ会話できるシステムや、ヤギや野菜と会話するAIチャットも実用化しています。

二番茶以降、経営者は現場に張り付かなくて済む

テラスマイル(宮崎市)は農業経営に特化したデータ分析サービスと、クラウドの情報基盤を活用したシステムインテグレーションを提供しており、作業の効率化に貢献しています。例えば茶摘みの場合、年に4回行い経営者が現場に張り付いていたことが多かったのですが、一番茶の時にデータを社内で共有して、二番茶以降はどう働けば収益性が上がるのかというワークショップを実証した結果、経営者が張り付くケースはゼロになりました。
今後の農業は「日本式農業」がキーワードになると思っています。生産から品質モニタリング、小売りに至るまでのバリューチェーンの中で、安心・安全なものを届けるという日本ならではの仕組みです。日本の農産物輸出に占めるアジア向けのシェアは拡大しており、高所得者層も増えている点を踏まえると、日本式農業をアジアに広げていくことが勝ち筋につながるのではと思っています。それに向けてアグリテックベンチャーの働きは重要な役割を果たすといえるでしょう。

青砥 優太郎(あおと・ゆうたろう)
デロイトトーマツベンチャーサポート
早稲田大学教育学部英語英文学科卒。2014年株式会社光通信に入社し、営業・財務を経験後、ベンチャー企業との商品企画・開発やベンチャーファイナンスを実施。その後、グループ内の子会社取締役に就任し、海外ベンチャー企業との協業や新規事業立ち上げに従事。2019年7月デロイトトーマツベンチャーサポート入社し、大企業の成長戦略立案や新規事業創出を実現しながら、農業分野における事業創出等も実施。