2022年4月27日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.38」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。
今回ご登壇いただいたのは、株式会社MEME代表取締役の齋藤舞さんです。同社は子どもの金融リテラシーを向上させるお金の管理アプリケーション「manimo(マニモ)」を開発しています。デビットカードと連携することで、お金を使いすぎるリスクを最小限にしながら、子どもが自分でお金を使う体験が可能です。また、子どもが親のお手伝いをした際に、親子間で送金できる「お手伝い機能」も実装しています。
今回のイベントでは起業の経緯やその過程での苦労、また日本の金融教育市場が秘める可能性などを語っていただきました。モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志と、運営担当の鈴木七波です。
INDEX
・出発点は、異国の地で「財布の中の現金」のみで過ごした経験
・仲間に加わってもらうべきは、「本当に」同じ志を持っている人
・狙う市場のポテンシャルは、24兆円
出発点は、異国の地で「財布の中の現金」のみで過ごした経験
齋藤さんが金融教育に携わることを決意した背景にあるのは、育児を経験する中で感じた「お金に関する悩み」だと言います。
齋藤「2人目の子どもを出産して産休・育休をとっているときに、自分たちの収入や貯蓄、教育費などを計算していたら『あれ、全然足りない』と気づきました。そのとき「そもそも私自身がお金に関する知識を持っていない」事に気づかされ、『自分と同じお金の悩みを持つ親がいるのではないか』、あるいは『いまの子どもたちに、私と同じ悩みを抱えてほしくない』といった想いを持ち、子どもの金融教育に関する事業にチャレンジしようと思いました」
〈真ん中下:株式会社MEME代表取締役 齋藤舞さん〉
直接的なきっかけは育児を通じて感じた想いですが、金融教育に対する興味は「中学生のときからあった」と振り返ります。
齋藤「中学3年生のときに1ヶ月間、カナダへ留学したことがありました。現地のホストファミリーと生活する予定だったのですが、食事の提供と学校の送迎を拒否されてしまって……。
当時はまだ携帯やクレジットカードを持っていなかったので、財布にあった現金だけで1ヶ月間しのがなければなりませんでした。そのときに感じたのが『どうして親は子どもにクレジットカードを持たせてくれないんだろう』という不満です。『もっと自由にお金を使わせてほしい』と思いました」
育児をきっかけに金融教育への関心を深めた齋藤さんは、勤務していた貿易会社を辞めて独立。フリーランスとして金融教育に関するセミナーを手掛けていたそうです。その状況を襲ったのが、新型コロナウイルスの流行でした。
それまでオフラインで実施していたセミナーは、すべてオンラインへと移行。オンラインで金融教育の大切さを伝える難しさを感じるなか、家庭内でより実践的に「金融」を学ぶ手段を提供すべくたどりついたのが「アプリの開発」だったそうです。
仲間に加わってもらうべきは、「本当に」同じ志を持っている人
セミナーを手掛けていたとはいえ、金融領域の事業運営は未経験。また、「アプリ開発」は齋藤さんにとって初めての挑戦です。未知の領域かつ、コロナ禍が続く中での起業に踏み切ったのは、学生時代から「起業」に対する想いを持っていたからこそだと言います。
齋藤「起業には、学生時代から興味がありました。ある経営者のお話を伺いたくて、その方のメールアドレスを予想してメールを送ったこともあります。たまたま予想が当たって、連絡を取ることができ、実際にその方から経営に関するお話を伺うこともできました」
また、大きな一歩を踏み出せたのは、背中を押してくれたパートナーの存在も大きかったと齋藤さん。
齋藤「私が『起業したい』と言ったら、主人は『そう言うと思った』と後押ししてくれました。時間の使い方を自分で決められるのが、起業することのメリットの一つだと思います。いまは夕方に保育園のお迎えに行き、家事をして子どもを寝かしつけたあと、仕事を再開するような生活リズムです」
こうして2021年の3月にMEMEを創業。しかし、初めから順風満帆というわけではなく、特に仲間集めの過程ではトラブルも経験しました。
齋藤「起業するときに、ある大きな会社の社長さんへ『最初は経験者を雇ったほうがいいですか?』と相談しました。すると『事業を立ち上げる時期は、未経験でもいいから若くて志が同じ人がいい。経験者だと、これまでの方法で仕事をやろうとするから』とアドバイスしていただいて。
それを信じて同じ志の人を探していたのですが、その過程で『人を巻き込むときは、慎重になるべき』ということを学びました。表では『同じ志を持っています』と言っていても、なかには裏で別の目的を持っている方もいます。実際、この1年間でそういう人と何人も会いました。幸い、大きな問題にはなりませんでしたが、『誰を巻き込むか』には細心の注意を払わなければならないと思います。」
狙う市場のポテンシャルは、24兆円
子どもの金融リテラシーを向上させることを目的とした、お金の管理アプリケーション「manimo」は、2022年の夏頃にローンチ予定。現在はサービスサイトで事前登録を受け付けており、すでに大きなニーズの存在を感じていると言います。
齋藤「私たちの調査では、子どもを持つ親のうち約72%が『子どもがお金の管理能力を身につけること』はとても重要だと答えています。また『子どものお金の問題』に悩む人のうち、約86%が『解決策がない』と答えました」
海外はすでに、同様の事業を展開する「Greenlight(グリーンライト)」という企業がユニコーンとなっていたり、イギリス発の「GoHenry(ゴーヘンリー)」がユーザー数200万人を突破して、アメリカに進出したりしているそうです。
齋藤「オンライン課金に関するトラブルが増えているので、まずはこの課題を早急に解決していきたいと思っています。そして、『スマホを持っている10歳〜15歳の子ども』に対するアプローチしていきたい。
以前ゲーム会社の方とお話しする機会があったのですが、現金しか持っていない子どもがゲーム会社に問い合わせて『なんとか現金で課金させてもらえないか』とお願いすることがあるそうです。そういった子どもたちに対しても、『manimo』を提供していきたいと思っています」
齋藤「競合はプリペイドカードの事業者さんだと思われることが多いです。しかし、私たちの目標はあくまでも『金融リテラシーの向上』で、いま取り組んでいるペイメント事業はその手段の一つです。
最終的には子育て世代の決済サービスやエドテックなども含めた、24兆円規模の大きな市場にも事業を広げていきたいと思っています」
これまでの道のりを振り返りつつ、「事業は比較的順調に成長を続けています。今後はより広く、金融教育に関心を持つ事業者の皆さまとつながりたいです」と話す齋藤さん。合わせて「同業種、異業種に関わらず、女性起業家の方々ともより交流を深めたり、積極的にコミュニケーションしたりする機会をつくっていきたいです」と展望を述べ、イベントを締めくくりました。
▼当日のセッション
『親子で身に着ける金融リテラシー』
https://youtu.be/0oxNmyvd4eo