TO TOP

近代日本を牽引してきた東京大学と丸の内エリアが生み出す、新たなイノベーション【東大Week@Marunouchi DAY1】

読了時間:約 14 分

This article can be read in 14 minutes

2022年10月21日、国立大学法人東京大学と三菱地所株式会社は産学協創協定を締結した。本協定では、気候変動やエネルギー問題・少子高齢化・感染症拡大による価値観の変化など、複層化する社会課題の解決に向けて、日本の学術を牽引してきた東京大学と、日本のビジネスを牽引してきた丸の内エリアを本拠地とする三菱地所が組むことで、本郷から大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、本丸エリア)をイノベーションの拠点とすることを目指す。

そんな産学協創協定の第一弾の取り組みとして2022年12月19日〜21日に「東大Week@Marunouchi」を開催。協創の取り組み概要からポストコロナにおけるまちづくり、各者トップによる対談、各専門分野にまつわる教授の講話まで、新たなアイデアにつながる良質な刺激を得られるイベントとなった。

今回はその中から1日目に開催された「本丸エリアの将来像」「よりよい未来の創造へ、産学連携による新たな産業の核を創出するために」の2セッションをご紹介。最先端の知とビジネスの掛け合わせで生まれる新たなイノベーションの灯火を感じてほしい。

INDEX

第一部 大学と民間企業の新たな連携を生み出す、三菱地所と東京大学の協創事業
これからの世界で問われる、豊かな街とは
日本学術とビジネスを牽引してきた本丸エリアの変遷
第二部 より良い未来の創造へ、産業連携による新たな産業の核を創出するために
若手が連携する後押しとしての意義がある、産学連携
大学側と産業界側の間を行き来し合うことで生まれる新たなイノベーション
境界を取り払うアートやデザインを空間づくりに取り込む
ここがポイント

第一部 大学と民間企業の新たな連携を生み出す、三菱地所と東京大学の協創事業

第一部では、協創のコンセプトである「本丸エリアイノベーションオーバル」について、エリアの歴史も紐解きながら、これからのまちづくりの在り方・社会の在り方が語られた。

浅見 泰司
東京大学 副学長 / 大学総合教育研究センター長 / 大学院工学系研究科 教授

横張 真
東京大学 大学院工学系研究科 教授

松本 高徳(モデレーター)
三菱地所株式会社 コマーシャル不動産戦略企画部 ユニットリーダー

松本(司会):まずは産学協創協定の概要についてお話させていただきます。本郷から大手町・丸の内・有楽町までのエリアを“本丸エリア”と名づけ、10年間東京大学と三菱地所で連携事業を進めていく予定です。「ポストコロナを見据えた次世代まちづくりの研究と実践」「スタートアップの成長を加速するエコシステムの形成」「人材育成」「スマートシティの深化」の4つのテーマに基づきながら、“本丸エリア”を新たなビジネス創造の拠点とする予定です。知の拠点である本郷エリアとビジネス拠点である丸の内エリアを掛け合わせながら、この地域をイノベートするビジネスを創っていくことが特徴です。

松本:次に実際にどのような体制で実行していくかというお話をしたいと思います。今回は「ARISE City」という総括寄付講座と、より専門的な検討やアクションを推進する3つのワーキングについてお伝えします。1つは知の交流拠点を形成していく「共創ワーキング(共創WG)」、もう1つが利用者目線でのDXサービス提供をアクションとして起こしていく「共感ワーキング(共感WG)」、最後にGX*による社会デザインを変革していく「共生ワーキング(共生WG)」の3つです。ここからは横張先生、「ARISE City」について教えていただけますか?

*GX(グリーントランスフォーメーション)

横張:ARISEは新しいまちづくりの視座や目標の頭文字なのですが、“Agile”や“Redundant”、“Inductive”、“Seamless”、“Ecological”といった視座に基づいて、“Artistic”、”Resilient”、“Inclusive&Diverse”、“Smart”、“Emotional”なまちづくりを目指そうという意味を込めて名づけました。

これからの世界で問われる、豊かな街とは

松本:世の中もコロナウイルスを抑え込むよりも、疫病と共存していく社会を目指す方向になっていますが、改めて今回「ポストコロナにおけるまちづくり」とテーマ設定した背景や課題意識を教えていただけますか?

横張:コロナウイルスもそうですが、その他の感染症や気候変動、自然災害、世界的な政情不安定化、食料やエネルギーの供給不安など、現代は過去のものと思われてきた社会課題が再び顕在化しています。その一方でICTやスマートモビリティ、再エネの分散型グリッドなど、課題解決の技術が数多く出てくるようになりました。これだけ技術が発達すると、必ずしも全ての機能が都市に集積しなくてもいい。見方を変えると「新しい時代の都市の在り方」を考えなくてはいけない時代になっているとも言えます。今まで以上にイノベーティブな考え方が求められる時代にあって、都市に求められる役割とは何かを考えていく必要があると思います。

松本:働く場所が選べる人も増えてきていますが、まちづくりのアプローチから本丸エリアの意義はどのように答えを出していくべきなのでしょうか。

横張:今までは「あなたと私は違う」「御社と我が社は違う」とお互いの違いに着目して「じゃあ、それぞれ別々の道を行きましょう」と各々進んできました。都市でいうと、まずはどこまでが都市なのかと線引きをして、さらにその中を様々な用途に切り分けるという流れが一般的でした。しかし、人口減少により今後縮退が進む社会においては、むしろお互いの類似性に注目して、共通項をベースにまとめる世の中になっていくと考えています。それは人や街、企業においても同じこと。何かが尖っているが、何かが欠けている人や街とも、まずはお互いの共通項を見出すことが問われます。一方で、尖っていたり欠けていたりする部分に関しては、多少我慢しながらもそれを個性として尊重し、お互いに補足し合っていくことが問われる。さらには、その背景として、社会をリードしているという“プライド”や“豊かさ”、この2つの精神を持つことが、“尊重”と“我慢”を生むのではないでしょうか。この順序で考えていくことが、これからのまちづくりの考え方ではないかと思っています。

松本:いま仰っていただいた考え方でまちづくりを考えた場合、世界で先進的な事例はあるのでしょうか?

横張: Jane Jacobsという1960年代前半にアメリカで活躍した都市思想家・都市運動家についてお話しさせてください。彼女は、戦後世界で最も豊かな国になった当時のアメリカで、人が本当に豊かに暮らせる街というのは、「用途の混在」「小さな街区」「年代・状態の異なる建物の混在」「多様な目的を持った人々の混在」の4つが必要だと唱えました。その彼女が晩年、理想に一番近い街だとして移り住んだのが、カナダのトロントでした。彼女の家から中心街までは大体2〜3kmで、その間には大学や美術館があり、多民族が暮らすコンパクトな街です。トロントは人口の約47%が移民で、100以上の言語が話されている世界で最もコスモポリタンな街のひとつであると言われます。また、バッハを弾かせたら未だに右に出る人はいないというGlen Gouldのような奇才を生み出した街でもあります。こういう街のあり方を、Jane Jacobsは理想としていたのです。

松本:単に混在させてもなかなか良い融合が生まれないと思いますが、よい混在を創るには何が必要なのでしょうか?

横張:まず、“混在”や“イノベーション”は創るものではなく、偶発的なものだと思っています。ただ、それを誘発するような仕掛けや街の仕組みはできるはずなんですよね。例えば、丸の内仲通り全体を公園のようにした「Marunouchi Street Park」は、上手くいっている社会実験のひとつではないでしょうか。上の写真は1週間ほど前に撮ったのですが、多くの方が訪れている様子がわかります。しかし、視点を変えると一般の方がいるのは仲通りだけで、他の通りは、いまだに一般の方が入りづらい境界線ができてしまっている。ここをどう変えていくかが今後の課題ですね。発想でいうと日本家屋がいい例で、日本家屋は時間帯や用途等によって襖の立て方を変えることで、間取りを柔軟に変えられますよね。こういう発想をいかにまちづくりに持ち込めるかが重要なんです。これは本丸エリア全体にもいえること。もともとあった境界からみんなが出てくることで、様々な要素が融合し、周囲のエリアとリンケージを作れるようになります。この中でInclusionとDiversityをベースとしたイノベーションがどのように喚起できるかということが問われていくのだと思います。

日本学術とビジネスを牽引してきた本丸エリアの変遷

松本:ポストコロナでのまちづくりについて話していただいたので、ここからは本丸エリアがどういう個性を持っているかについて伺いたいと思います。浅見先生、今までの本丸エリアの産業や歴史について教えていただけますか?

浅見:東京大学は1877年に神保町あたりに創設、その後1885年に今の本郷へと移転してきました。明治時代は欧米の技術をいかに導入するかが重要だったものの、高度成長期に入ると高品質・大量生産を求められるように。さらに現在は問題発見、課題解決ができる人が求められるようになりました。一方、丸の内エリアでは三菱2代目社長の岩崎弥之助は明治政府の要請に応じ一帯の払い下げを受け、1894年に三菱一号館が建設され、1914年に東京駅が開業。そこにロンドンの金融街を参考してビジネス街「一丁倫敦(いっちょうロンドン)」をつくりました。正に学問とビジネスの中心地として日本の近代化を牽引してきたのが、この本丸エリアといえるのではないでしょうか。

浅見:当時はライフスタイルも大きく変化していきました。戦前までは家制度が中心だったものの、戦後は核家族になり、勤労世帯は都心よりも少し離れた住宅地で過ごして、庭付き一戸建てを建て悠々自適のリタイアライフを迎えることが幸せとされてきました。しかし、現在は“老人介護ホーム”や“親子互助マンション”、“農家町家回避”など、暮らし方が多様化。更に、リモートワークが進み、どこでも居住できる時代になりました。こうした時代になると「もう中心地は不要なのか」と問われることもありますが、私はあえてノーと言いたい。エリアにその土地にあった特徴を持たせることで中心地はまだその役目を果たしていけるものだと思っています。

松本:お二人とも専門的な視点からのご意見ありがとうございました。最後に今回の産学協創協定、この本丸エリアに対する期待についてお聞かせください。

横張:本丸エリアは150年近く日本のビジネス・学術を引っ張ってきたトップランナーが揃っている地域。我々には次の150年を牽引していく責任があると思っています。ただし、牽引の仕方がこれまでとはガラッと変わるのがこれからの時代。新しい牽引の仕方はこうなんだ、新しい社会はこうあるべきなんだと示していくのが、産学協創の根底にあるのではないかと考えています。

浅見:リモート社会での都心のあり方やイノベーションの起こし方、そういうものが10年後には本丸エリアにあることを目指して進めていきたいです。大学と企業が融合して、学生と社会人がディスカッションをするような“次世代のまちづくりの模範”を作っていきたいと思っています。

第二部 より良い未来の創造へ、産業連携による新たな産業の核を創出するために

第二部は、東大発のスタートアップを700社に増やすとコメントを出した東大の藤井総長と、街としてスタートアップエコシステムの構築を目指す三菱地所の吉田社長によるトークサロン。本丸エリアでのイノベーション創出のカギを探る。

藤井 輝夫
東京大学 総長

吉田 淳一
三菱地所 執行役社長

鎌田 富久(モデレーター)
TomyK Ltd. 代表

若手が連携する後押しとしての意義がある、産学連携

鎌田:最初にお二人が最近力を入れている分野や気になっているホットトピックについて教えていただけますか?

藤井:2021年に「UTokyo Compass」という東京大学の新たな基本方針をリリースしました。その中で「Green Transformation(GX)」や「Diversity&Inclusion」などに注力しています。今は社会全体で非常に難しい課題に直面している中で、これからどうすべきか考えるときです。大学は学知を生み出す場所なので、学内と学外の皆さんと対話をしながらそういった課題に取り組み、社会の在り方について考えていければと思っています。
また最近話題に上がりましたが、女性教員を300人増やす計画を発表しました。本学では2027年までに女性教員比率25%とする目標を掲げています。なお、学部女性学生はまだ20%ということもあり、Gender Diversityもしっかりと進めていきたいと思います。

吉田:ここ数年はコロナによって否応なしにDXが進み、バーチャルの良さを積極的に活用する一方で、リアルのありがたみも再認識しました。
最近、特に若い人たちは自発的に学んでいく力を持っているなと感じています。今は欧米を模倣して改良するのではなく、新たな価値を創造していく時代。それを切り開いていく人たちのメインは若い人だと思っています。そういう人たちの学びを社会全体でいかに高めていくかが大事だと思いますが、産学連携はそこに非常に大きな力を持っているので後押ししていければと考えています。

大学側と産業界側の間を行き来し合うことで生まれる新たなイノベーション

鎌田:ここInspired,Labでも多くの方々が戻ってきて、スタートアップの皆さんの交流も増えてきました。本丸エリアでスタートアップをもっと増やしていきたいとのことですが、東大発スタートアップが2022年3月末で478社。以前2030年までに700社まで増やしたいとのコメントもありましたが、東大の中で特にこの辺に力を入れたい、強化したいといった分野はありますか?

藤井:年間の増加数を見ても、700社という数値は現実的に手が届く目標値と感じており、上方修正をしていこうと思っています。東京大学には広く深い専門性があるので、まずはDeepTech系でしっかりとしたスタートアップを増やしていければと思っています。大学としてはファシリティを含めたサポートを行い、スタートアップを作っていける体制を整えていくつもりです。その後はグローバル展開。先ほどDiversityの話もしましたが、グローバル展開するときには、ぜひ女性の起業家の後押しもしていきたいと思っています。

鎌田:以前はネット系のスタートアップが多く、ネットの中で検討・実装が完結していましたが、DeepTechスタートアップには実証実験を実社会でやりたいというニーズがありますよね。

藤井:街そのものをテストサイトとして活用できると、スタートアップや大学としてもとてもありがたいと思います。

鎌田:自動運転とかドローン、空飛ぶ車みたいなものが出てきていますが、本丸エリアで三菱地所の力を借りることは可能なのでしょうか?

吉田:大手町・丸の内・有楽町は法人の土地所有者が多いので「大丸有協議会エリアマネジメント協会」を組織し、ここで各団体・権利者とこの街をどういう風により良くしていくかという話の中で、街中で実証実験も色々とやらせていただいています。色んな方の協力を得やすいエリアでもあるので、こんなことができたら面白いということをおっしゃっていただけると三菱地所としても色々と働きかけができると思っています。

鎌田:スタートアップにも大学にも素晴らしい研究がたくさんありますが、ビジネスと研究・シーズの両方を繋ぐ人材がボトルネックになっているのが現状です。大学の研究成果を外に出すことをより積極的に行うのもいいと思うがどうでしょうか?

藤井:2000年代から日本でスタートアップを増やしましょうという話がずっとありましたが、その間をつなぐ人がいないことが課題でした。ただ、その頃との違いは東大発のスタートアップだけでも470社以上の集団が形成されていることです。大学側と産業界側の間を行き来しながら、シリコンバレーのように、スタートアップで様々な経験をした人が他のスタートアップを手伝うような動きを生み出していきたいですね。

吉田:産業界側でも今、アフター5にビジネスパーソンが周辺から集まり「こんなアイデア面白いよね」といった偶発的な話し合いが行われており、これをビジネス化するのにアクセレーターがアドバイスを送る取り組みも進めています。そこに、さらにいろんな大学が加わり、連携しながら進められるようになるとこの協定がいい意味で活きてくるのかなと思っています。

境界を取り払うアートやデザインを空間づくりに取り込む

鎌田:最近、研究やビジネスの分野でもアートやデザインの話が重要になっているように思いますが、この点についてお二人はどのようにお考えですか?

藤井:20世紀は供給側の都合により大量生産の時代でしたが、これからは一人一人のwell-beingの実現という意味でも、受け取る側が何が欲しいかを考える必要がありますよね。そういう観点ではデザイン的な視点や文化・歴史のバックグラウンドを意識しながらニーズに応えていく、あるいはその考え方をリスペクトしながら価値を創り上げていくことが重要になっていくのだと思います。最近は藝大の日比野学長とも、技術を社会実装していく上でアートやデザインの観点が必要で、一緒に何かできる形を探していきたいという話をしているところです。

吉田:藝大とは16年くらい前から「GEIDAI ARTS in MARUNOUCHI」というイベントを年に1回1週間ほど開催しています。アートというのは我々の事業分野であるオフィスの空間作りにおいても重要で、人間の心理に何かしら影響を及ぼすこともあれば、インスピレーションを与えることもあります。例えば今、常盤橋に390mの超高層タワー(Torch Tower)を計画していますが、存在感の強いタワーへの出入りを1階からエレベーターに乗るだけではなく、緩やかな坂を登って5階まで行けるように設計したり、その間の空間も自由に外から出入りできるようにしたりとデザイナーさんに工夫してもらっています。有楽町エリアのアートの取り組みも含めて、アーティストが丸の内に来るとなんかいい刺激を受けるよねと言ってもらえるような、ビジネス以外の人も集まれる街になれたらいいなと思っています。

鎌田:会場QAも見ていきたいと思います。
Q1;東京大学の都市工学専攻の学生からの質問ですが、「都市」を専攻する学生に期待することがあれば教えてください。

藤井:都市は人々の生活に直接関わっており、様々な技術をどう都市に埋め込むのか、環境面も含めて様々な問いを立てられると考えています。大局的・多面的な視点から問いを持ちながら活動していただけると良いと思います。

吉田:日本では、公がグランドデザインを立てていきますが、規制が多い。地域の良さを活かしたまちづくりを進められるような動きを期待しています。

鎌田:興味深い質問が来ています。
Q2;スタートアップは時代の変化に即応しやすいと思いますが、大きな組織では対応に時間がかかると言われています。東京大学・三菱地所も大きな組織ですが、トップとして心掛けていることがあれば教えてください。

藤井:「前例がないからやってみよう」という心持ちが重要と思います。学生も含めて、大学にいる間に積極的にチャレンジしてもらえるような場を作っていきたいです。

吉田:任せることが大切。仮に失敗したとしても、組織として次につなげることを評価しています。昭和の人は口を出しすぎないようにとよく言っています。

鎌田:すばらしいですね。日本の総人口の中央値が48.4歳で世界一高いことから、若い人の意見を積極的に聞くことが肝要と私も思います。
Q3;まちづくり領域の人材育成は変わっていくのでしょうか。

藤井:街はあらゆる要素を包含しているので、多くの視点から、様々なサービスやプロダクトを検討できる機会があることは非常に良いことだと思います。

吉田:街における快適・安全性はハードだけではなく、ソフト面や人と人とのネットワークを活用して維持していくことが必要。DX含め、スタートアップの方々とも連携してまちづくりを進めていきたいです。

鎌田:自動車業界でも、TOYOTAさんがハードウェアは検証に時間がかかるので、ソフトウェアで先にシミュレーションするなど、ソフトの重要性が増してきています。まちづくりでもソフトウェアが先行する時代が来るのかもしれませんね。

Q4;文系の社会実装について意識されていることはありますか。 SDGs含め、哲学・倫理を企業が必要とする時代になってきていますね。

藤井:理系だけでは社会実装は厳しく、制度設計・仕組みづくりも必要となってきますので、文系の成果は非常に重要です。東京大学の子会社で、ミクロ経済を活用して制度のインパクト分析等をしているコンサル会社もあり、様々な活躍のシーンがあると思います。

吉田:共感されるようなまちづくりが益々求められていると実感しており、人の心理を起点とした研究も重要だと感じています。

藤井:これまでは経済成長の中で物質的充足を人類は追い求めてきましたが、その限界が見えてきて、改めて「価値」を考え直す時代に来ています。テクノロジーだけではなく、哲学や倫理面など、文系的なアプローチや議論もこれからは必要ですね。

鎌田:スタートアップ界隈においても、ソーシャルインパクトは話題に上がっており、売り上げ利益だけではない社会的インパクトも評価するべきとの議論がなされています。

鎌田:最後に産学連携協定について今後の期待を教えてもらえますか?

藤井:私は以前から東京大学の先生方の研究をいろんな方と共有できる機会を持ちたいとずっと思っていました。今回産学協創協定という形が整ってこんな形でイベントができたのは本当に嬉しいです。
この本丸エリアは日本の近代国家を作り上げてきた地域。明治時代も“業を起こす”と言われてきましたが、これはお金を儲けて自分が裕福になるというのではなく、みんなでリソースを持ち寄って社会の為になることをしようという考えがあったと思います。150年を経てそういう発想でいろいろな知恵を持ち寄って、社会あるいは世界のためになる起業を考えていけたら本当に素晴らしいことだと思っています。

吉田:我々はこれまで日本を引っ張ってきたと自負していても、それはビジネス偏重型だったと思っています。これからは大学側と協力しあって、社会課題を発見し、解決策を示していけるような育て方をしていく必要があると思っています。もっと人や文化、感性がぶつかり合って偶発的な価値が生まれていく街になるためにお互いに刺激しあえる関係性を築けていけたらと思っています。

ここがポイント

・本丸エリアは、学術・ビジネスにおいて近代日本を牽引してきた
・次世代のまちづくりのあり方が、本丸エリアから示される
・三菱地所と東京大学は、大手町・丸の内・有楽町エリアの企業等と連携し、イノベーションを加速する