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2025年に向けて加速する、自動運転の社会実装。ティアフォーが車両生産に挑む理由

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世界中で実現に向けて技術開発が進められている自動運転。日本でも、実証実験が各地で盛んに行われており、2023年4月には改正道路交通法が施行され、特定の条件下であれば無人のバスなどが走行可能になった。自動運転のバスを、私たちが日常的に使うようになる日も近づいてきている。

そんな自動運転のクルマに必要不可欠なのが、「アクセルを踏む」「ブレーキをかける」といったクルマの動きを制御する自動運転システム。ティアフォーは、このシステムに組み込まれる自動運転用ソフトウェア「Autoware(オートウェア)*」の開発を主導している。「Autoware」はオープンソースとして公開されているのが特徴で、世界各地のパートナーと協力して自動運転技術の社会実装を推進している。

主にソフトウェアの開発を行ってきたティアフォーだが、2023年6月に車体架装メーカーのトノックスと協業し、自動運転EVの生産に乗り出すことを発表。ソフトウェアの開発のみならず、車両の生産にも挑戦するという。なぜ今、車両生産に取り組むのか、自動運転の未来をどのように考えているのか、CSOの三好航氏に話を伺った。

*LinuxとROSをベースとした自動運転システム用オープンソースソフトウェア。 AutowareはThe Autoware Foundationの登録商標。

三好航
株式会社ティアフォー 経営戦略室 CSO
三菱商事に入社後、海外の大型鉄道建設プロジェクトなど主に都市インフラ案件の事業開発と実行に従事。ハーバードMBA取得後、YCPに入社し、ファンド投資案件でのDD・PMIや戦略策定を主導。2020年にTIER IV入社し、主要プロジェクトのマネジメントや経営基盤の構築に携わる。2022年5月より経営戦略室室長として事業開発とプロダクト開発を牽引。

INDEX

自動運転サービスは、2025年までに50ヵ所で実現予定
供給元がいないなら、自分たちが作って市場を盛り上げたい
ソフトウェア会社だからこそ、車両を作って技術を磨くべき
自動運転の普及のために、まずは見て乗ってもらう
スタートアップならではのスピード感を保つため、リスクの許容も重要
ここがポイント

自動運転サービスは、2025年までに50ヵ所で実現予定

——自動運転という言葉自体はよく聞くようになりましたが、詳しく知らない人も多いと思います。まずは、自動運転を取り巻く状況を教えてください。

三好:日本では、2025年までに50ヵ所程度、2027年までに100ヵ所以上の地域で、無人の自動運転移動サービスの実現を政府が掲げています。現在は、そのロードマップに沿って、規制の作り込みや技術開発などが進んでいます。

海外に目を向けると、国によって自動運転の状況はさまざまです。日本の場合は、最初はバスのような公共交通機関を決まったエリア内で運用していくことが想定されていて、ヨーロッパでも日本に近いかたちで自動運転が導入されるのではないかと思われます。一方で、アメリカの場合は、「ロボットタクシー」というものを民間主導で行おうとしていて、サンフランシスコやテキサスで一部実装が始まっています。中国もアメリカに近いかたちで導入を進めています。

——日本では2025年までに50ヵ所程度での導入とのことですが、現時点ではどれくらい進んでいるのでしょうか?

三好:実証実験は5年ほど前から各地で行われています。実装するとなるとコストも時間もかかるので、実証実験を行いながら「実際にどこで導入できるのか」を見極めている段階です。最終的には、自動運転でどこでも自由に移動できる状態が理想ですが、2025年時点では、決められたルートや区画で導入するのが主流になると思います。

——自動運転を実装するとなると、どのようなプレイヤーが関わってくるのでしょうか?

三好:車両に関しては、車両を作って仕上げる会社と当社のように自動運転のシステムを作る会社、大きく2つのプレイヤーがいます。実装するにあたっては、自動運転をサービス化する交通事業者(ソフトバンク子会社のBOLDLYなど)、自治体、その地域のバス会社などが関わってきます。

——さまざまなプレイヤーが関わってくるなかで、2025年に向けた貴社の戦略を教えてください。

三好:2025年時点では、自動運転のサービスが完成しているわけではありません。大手の自動車メーカーなどが自動運転車両を生産し、それを私たちが日常的に使うようになるのはもう少し先です。当社はその過渡期において、橋渡しのような役割を担いたいと考えています。

供給元がいないなら、自分たちが作って市場を盛り上げたい

——自動運転ソフトウェアを作っている会社はいくつかありますが、そのなかでのティアフォーの特徴を教えてください。

三好:自動運転ソフトウェア「Autoware」をオープンソースとして世界に公開していることです。ソースコードレベルで公開しているので、他社が「Autoware」を使ったり、カスタマイズしたりすることもできます。ほとんどの会社は自社で作ったソフトウェアをライセンスとして持っているので、当社のようにソースを公開しているのは非常に珍しいです。

なぜ公開しているかというと、当社をはじめとしたスタートアップ企業はGAFAMのようなビッグテックと真っ向勝負しても勝てないからです。一社で自動運転ソフトを作り込むには莫大なリソースが必要ですが、オープンソースにして他社と協力すれば、よりよいものを早く作ることができます。また、同じようなシステムが何十個もあるよりも、共通化した方が自動運転の社会実装が進むとも考えています。

——2023年6月には、車体架装メーカーのトノックスと協業し、自動運転EVの生産に乗り出すことを発表されました。なぜ、ソフトウェアの開発のみならず、車両の生産にも取り組むのでしょうか?

三好:現在、自動運転車両は市場に需要はあるものの、供給元がいないという状況です。それならば、数百台、数千台という規模ではありますが、私たちが車両を作ることで市場を盛り上げたいと考えました。

ただ、私たちはあくまで市場を盛り上げることを目的としています。市場が成熟したあとの車両生産はそれを得意とする自動車メーカーに任せ、私たちは生産のサポートもできるソフトウェア会社になることを想定しています。

——ガソリン車ではなくEVなのはなぜですか?

三好自動運転は、ガソリン車よりもEVの方が相性がいいんです。ガソリン車は内燃機関(エンジン)により動きますが、それ自体はアナログな仕組みです。そのため、ソフトウェアで動きを制御する際、電子信号を送ってから動きに反映されるまでにわずかなタイムラグが生じてしまいます。一方、EVであれば電子信号の指示が即座に反映されます。

——EVに関する知見はどのように得ているのでしょうか?

三好:中国の電気自動車メーカーBYDと協力関係を築いています。BYDは現在、EVの販売台数ではテスラに次いで世界2位。信頼できる会社からベースとなる車両の提供を受けることで、車両側のトラブルをできるだけ回避しています。

ソフトウェア会社だからこそ、車両を作って技術を磨くべき

——ソフトウェア会社がハード(車両)に取り組むうえで、意識していることを教えてください。

三好:ソフトはハードと組み合わせて初めて役に立ちます。だからこそ、ソフトウェア会社である我々もソフトとハードのインテグレーションまでしっかり確認すべきですし、そうすることによってソフトウェア会社としての価値も上がると考えています。

ただ、実を言うと、当初は数千台規模の生産を考えていたわけではありませんでした。実際に車両を作って技術を磨く必要があるとは考えていましたが、もっと少ない規模の生産を想定していたんです。しかし、既存の自動車メーカーからはなかなかEVが市場に投入されず、それなら我々がEVを作ろうとなりました。

——自動運転車両を作るとなると、走行に関する厳しい検証も必要です。ソフトウェア会社として、どのように検証に取り組んでいますか?

三好:自動運転の検証はさまざまなプロセスがありますが、大まかに言うと、まずクラウド環境でシミュレーションをして、そのあとに現場でテスト走行をします。私たちソフトウェア会社の強みは、クラウド環境での検証でしっかりとバグを発見して潰せることです。そうすることで、現場でのテストの工数や時間を減らすことができます。

また、当社ではエンジニアも現場でのテストに参加して、実際に車にも乗っています。ただコードを書いてソフトウェアを作るだけではなく、現場に根ざしてやっていることも当社の特徴ですね。

——他社と協働するうえで、大事だと思うことを教えてください。

三好:かなり試行錯誤して現在のビジネスのかたちにたどり着いているので、うまくいくまでの忍耐力は必要だと思います。たとえば、他社と組む際にコスト面を優先してクオリティを妥協してしまうと、結果的にトラブルシューティングに工数がかかってしまいます。何度も失敗しながら、どこと組んでどんな事業をやるのかを見極めることが大事ですね。

自動運転の普及のために、まずは見て乗ってもらう

——2030年までくらいのスパンで見たとき、自動運転はどれくらい社会に浸透していると考えていますか?

三好:2025年時点では限定的な地域で実装されている程度だと思いますが、2030年頃には多くの人が一度は自動運転車両を見たり乗ったりしたことがある世界になっていてほしいですね。そして、それらの車両にティアフォーのシステムが搭載されていて、日本だけでなくグローバルでも高いシェアを持っているというのが目指している未来です。

——日本では自動運転車両以前に、そもそもEVをあまり見かけません。海外ではEVが普及しているのでしょうか?

三好:中国はたくさん走っていて、2022年のEVの販売台数は全体の26%を占めています。アメリカも、サンフランシスコあたりではEVの比率が高いです。それに比べると日本は遅れているので、EVの普及にはもう少し時間が必要ですね。

——日本でEVや自動運転車両の需要を上げて普及させるためには、何が必要だと思いますか?

三好:自動運転は、過疎地域における交通弱者や、バスのドライバー不足といった社会的課題を解決できる技術です。導入するためにはEVが必要不可欠なので、EVと自動運転がかけ合わされば、需要は高いと思います。

それと並行して、多くの人に「自動運転っていいね」と思ってもらうために、実際に走っているところを見てもらったり、乗ってもらったりすることが重要です。お台場などではゲストを招いた実証実験を行っていますが、皆さん最初は驚いた反応をするんです。ですが、すぐに自動運転車両に慣れて当たり前のように乗っています。きっと、日常的に自動運転車両が走り始めたら、すぐにそれが普通になっていくのではないかと思います。

——地域の課題は千差万別だと思いますが、どういった地域や課題にフォーカスして進めていこうと考えていますか?

三好:今は探っている段階ですが、まずはある程度の人口規模がある郊外で、かつ公共交通の需要がある地域で実証実験をしています。こうした地域でうまくいけば、同程度の規模の自治体などで横展開していく予定です。

より人口規模の小さい過疎地は、技術的に自動運転を導入することは可能ですが、事業性の確保が難しい。逆に大きい都市は公共交通がある程度あり、ドライバーもそれほど不足していません。そのため、過疎地や大都市に広げていくのは、中規模の地域で事業が軌道に乗ったあとと考えています。

——自動運転に対して、「事故が起きるのでは」という不安や心配の声もよく聞きます。

三好:近年は年間約30万件の交通事故が起きているのですが、そのうち9割くらいはヒューマンエラーが原因です。それを自動運転で解決できれば、むしろ安全性は高まるのではないかと思います。もちろん、100%安全というのは難しいので、自動運転でも何かしらのエラーが起きる可能性はあります。しかし、ヒューマンエラーと天秤にかけたときに、いずれは自動運転の方が安全になる可能性は高いと思います。

スタートアップならではのスピード感を保つため、リスクの許容も重要

——スタートアップはある程度のリスクを許容できるからこそ、スピード感ある動きができると思います。逆に、大企業のようにリスクを極力減らそうとすると、スピード感がなくなるとも言えます。リスクとスピード感はトレードオフなのでしょうか?

三好:おっしゃる通り、大企業と同じレベルでやっていてはスタートアップの良さが出ないので、譲ってはいけないラインと、妥協できるラインを見極めようとしています。たとえば、人の生死に関わる部分は完璧を追求しますが、デザイン性や乗車時等の快適性といった部分は少し妥協するといった具合ですね。当社には大手自動車メーカー出身の社員もいるので、大企業ならではの基準は参考にしつつ、スタートアップならではの意見も取り入れて、そのラインを経営マネジメント層で決めています。

——理想は完璧だけど、ある程度妥協しながらスピードを上げることも必要ということですね。

三好:そうですね。実際は、「早く自動運転を導入するために、どこを許容できるか」を、当社のお客様である交通事業者や自治体の方と相談しながら進めています。

——ソフトウェアのスタートアップがハードに取り組む意義を教えてください。

三好いいソフトウェアを作っても、社会実装されなければ意味がありません。社会で使われるソリューションを提供するためには、ハードにも挑戦しなければならないと思っています。

——とはいえ、ハードに取り組むことはお金も必要になると思います。資金面ではどのように折り合いをつけていますか?

三好:資金調達に関して言えば、株主や投資家に対して、結果を出すのに計画通りに進まないことがあったり、想定より時間がかかることもあると理解してもらうことが重要です。ほかにも、国のプロジェクトに参画して資金を確保することもあります。こうした資金確保と並行して無駄な支出を省くなど、コスト削減にも力を入れています。資金のやりくりは、経営陣の腕の見せ所ですね。

ここがポイント

・2025年までに50ヵ所程度、2027年までに100ヵ所以上の地域で、無人の自動運転移動サービスの実現を政府が掲げている
・2025年時点では、決められたルートや区画で導入するのが主流になる
・ソフトウェアをオープンソースにしている理由は、スタートアップ企業がGAFAMのようなビッグテックと真っ向勝負しても勝てないから
・ソフトウェア会社はソフトとハードのインテグレーションまでしっかり確認すべきで、それによってソフトウェア会社としての価値も上がる
・他社と組む際にコスト面を優先してクオリティを妥協してしまうと、結果的にトラブルシューティングに工数がかかってしまう
・いいソフトウェアを作っても、社会実装されなければ意味がない。社会で使われるソリューションを提供するためには、ハードにも挑戦しなければならない


企画:阿座上洋平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:溝上夕貴
撮影:幡手龍二