2023年3月29日、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.48」を実施しました。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。
今回ご登壇いただいたのは、株式会社AIMS代表取締役の川又尋美さん。株式会社AIMSでは、独自に開発されたAIアルゴリズムを通じて、 瞳孔からストレス状態や神経年齢をチェックできるサービス『>AiLive』を提供しています。
「起業家になりたいと思ったことは一度もない」と話す川又さん。それでも、同社を起業するに至ったきっかけや動機は何だったのか。また事業を通して、どのような世界を実現したいと考えているのか。
モデレーターを務めたのは、The M Cube運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。
INDEX
・「女性が活躍する社会を作りたい」とAIを用いたサービスを開発
・瞳孔からのストレス検査で、体と心の痛みを可視化する社会へ
「女性が活躍する社会を作りたい」とAIを用いたサービスを開発
イベント冒頭、川又さんはAIMSを創業するに至った経緯を話しました。
川又さんは新卒で大手出版社に入社。その後、子どもを育てながら働くことへの難しさを実感し、「より女性が働きやすい社会にしたい」という思いが芽生えたといいます。
女性の社会進出に向けた活動が進むアメリカでビジネスを学ぼうと、二人の子どもを連れて渡米を決意。カリフォルニアにある大学UCLAに入学しました。そこで出会った弁護士のもとで修行することを決め、大学を3ヶ月で中退。その後4年にわたって、世界で戦えるビジネススキルを身につけるために、アメリカへの滞在を続けました。
20代前半で主婦のための広告代理店Lindoors株式会社を創業。自分の夢や気持ちに忠実に、決断を重ねてきました。「女性活躍」への想いの背景には、学生時代からの夢にも通ずる部分もあると言います。
株式会社AIMS代表取締役の川又尋美さん
川又さん「小学生の頃から、将来は先生になりたいという夢がありました。高校生まではバレー部のキャプテンで、高校にはスポーツ特待生として入らせてもらって。そのまま進めば、体育の先生にはなれるはずでした。
しかし、そこで悩んでしまったのです。毎日厳しく指導され、“強くなる”教育は受けてきたものの、生徒のポテンシャルを伸ばし、“幸せにする”教育の仕方がわからなかった。どうしたら一人ひとりがより能力を活かし、活躍できる社会になるだろう。さまざまな角度から考えを重ねた結果、経営者としてビジネスを学ぶことにしました。
『人のポテンシャルを最大限伸ばしたい』。そんな気持ちが『女性が活躍する社会を実現したい』という想いにもつながっているのかもしれません」
Lindoorsでアジア全体におけるプロモーションをリードするなか、世界を代表する企業が日本にはまだ数少ないことを実感したことが、AIMSを創業するきっかけの一つになりました。
川又さん「日本は他国と比べて高齢化が進んでいる国の一つです。今後も高齢者率は高まると予測されているなかで、『医療AI』の分野については、今後も発展する余地がありそうだと思いました。その分野であれば、世界に負けない日本オリジナルの技術が開発できるかもしれない。私たちが事業をすることによる成功や失敗は、他の国の参考になり、ゆくゆく世界に貢献できる事業になるはず。そう思い、創業しました」
日本に帰国後、2019年には「痛みのない社会をつくる」をミッションに掲げ、AIMSを創業。これからの時代を担う子どもたちを育てる女性に向けて、ストレス軽減を実現するためのサービス開発をスタートしました。
AIMSが開発する『AiLive』は、人の瞳孔からストレスやメンタルヘルスの状態がチェックできる「神経年齢の可視化システム」です。痛みや興奮状態、情緒不安定、ストレス、寝不足、緊張状態などを分析し、パーソナライズされた分析と解決策を提案します。
困難な問題や危機的な状況、ストレスに遭遇して、立ち直る力を養うことで、心理学などで用いられる「レジリエンス」が発揮できるようになる。『AiLive』の活用を通じて、一人でも多くの方にとってそれが当たり前になることを、川又さんは望んでいます。
瞳孔からのストレス検査で、体と心の痛みを可視化する社会へ
最新のAIアルゴリズムを活用し、サービスを開発している同社。しかし、開始当初はサービス開発の経験がほとんどなく、様々な苦労が伴ったといいます。川又さんは、これまでの苦い過去について、振り返りながら話しました。
川又さん「まず十分な資金がないなか、自分たちでハードウェアの開発からを始めなければなりませんでした。世の中にある瞳孔の測定器の値段は、およそ1000万円。高額であるがゆえに、現在は一部の医療機関でしか使われていません。
私たちも当初は、ソフトウェアAIを強みにし、ハードウェアの制作には資金をそこまで費やさなくてもいいと考えていました。ですが、そもそも必要最低限の機能に抑えた場合にどのようなプロダクトになるのか、それさえもまずは自分たちで作ってみないとわからない。
1000万の測定器をベースに、どうしたら小型化できるのか。どうにかして3Dプリンターを活用してつくりました」
多くの苦労を抱えながら、約4年間にわたって事業の改善を重ね、走り続けてきた同社。その過程において、学んだこともたくさんあったと話を続けました。
川又さん「最低でも売上のほとんどが1年半ストップしても会社が持ちこたえられるような、ファイナンスの体制を準備することは重要だと実感しました。また、まずは私1人が『最後までやりきる』という覚悟を持ち、それを日々の行動で示していくことで、はじめて誰かがついてきてくれる。たったの2年間でしたが、様々なことを実践の過程から学びました。
会社を続けられた理由の一つに、目指す場所に向かって『はしごをかけ続けた』ことがあったと感じています。考える前に、まずはやり始める。はしごをかけないと、何センチ足りないのか、つまり何があとどれだけ必要なのかわからないということも学びました」
イベント当日に共有した、過去の失敗から学んだことについてまとめた資料
現在は、大手企業と共同で新たなソリューション開発を進めたり、メディカル領域で新たな診療の開発を見据えた臨床実験を始めたりしているという同社。
川又さんは最後に、AIMSとして見据える今後の展望について語りました。
川又さん「2023年10月には、『AiLive』のさらなるバージョンアップを予定しています。ゆくゆくはハードウェアをなくし、片眼のみで検査可能にすることを実現したいです。
これまでの検証から、人間の痛みに対する新たな仮説も生まれています。たとえば、慢性的な痛みを持っている方はメンタルの不調が起因しているケースが少なくないこと。あるいは、痛みを訴える方のなかで身体的な痛みの波形が出ていない場合は、自律神経の乱れによって心の調子を崩していることが原因となっている可能性があることなどです。
今後も仮説検証を重ねながら、一人ひとりが体と心の痛みをより可視化できる世界を目指し、事業やサービスを成長させ続けていきたいです」
▼当日のセッション
『痛みのない社会を作る』
https://youtu.be/-ahEYELOlc4