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G.U.テクノロジーズに聞く。「お金のデジタル化」が変える取引の未来

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数年前に一気に拡大した「暗号資産」。多くの「億り人」を生み出したのと同時に、様々な事件が発生したことで、「なんとなく怪しい」「なんとなく危ない」という印象を抱いている人は未だにいるかもしれない。

当時はボラティリティの高さから「投機商品」としての側面に注目が集まった暗号資産だが、現在は「お金をデジタル化する技術」として再び注目を集めている。海外では既に法定通貨をデジタル化する取り組みが始まっており、続々と実証実験が行われている。

日本の現状はどうなのだろうか。そして、お金がデジタル化することで、私たちの生活はどう変わるのか。今回は金融機関向けにステーブルコインの発行・管理システムを開発しているG.U.テクノロジーズの代表取締役CTO 近藤秀和 /代表取締役CEO 稲葉大明に話を聞いた。


近藤秀和
G.U.テクノロジーズ株式会社 代表取締役CTO 兼 Japan Open Chainファウンダー
早稲田大学大学院卒工学博士。大学卒業後ソニー株式会社を経てLunascape株式会社を設立、現在G.U.Labs代表。2002年 情報処理学会「Best Author賞」受賞。2004年 IPA 未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエーター認定。2005年 経済産業省よりソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー受賞。2007年 Microsoft Innovation Award受賞。 2008年 Business Week誌から「Asia’s Best Young Entrepreneurs」に選出。2011年 AERA誌により「日本を立て直す100人」に選出。

稲葉大明
G.U.テクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 兼 Japan Open Chainファウンダー
早稲田大学理工学部数学科卒。一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略コース修了(MBA)。都市銀行にて法人担当経験後、日本リスク・データ・バンク株式会社(代表取締役副社長)にて、信用リスクモデル・AIの開発、銀行向けソリューション企画開発を担当、口座情報の動態分析ソリューション開発提供業務に従事。2020年にG.U. テクノロジーズ株式会社設立。
共著書:「中小企業格付け取得の時代」、「実践オペレーショナル・リスク管理」、「人工知能と銀行経営」(共に金融財政事情研究会)

INDEX

web3は何がすごいのか
金融革命により起こる銀行の変化
日々の生活で利用できる「ステーブルコイン」とは
お金がデジタル化するメリットと超えるべき課題
よりお金が便利に。「プログラマブルマネー」の恩恵とは
ここがポイント

web3は何がすごいのか

――お金のデジタル化とweb3という言葉をよく耳にしますが、まずはweb3がどのようなものか教えてください。

近藤:web3は概念や世界観のように語られることが多いですが、その本質は技術の話です。もともとはエンジニアが使う「web3.js」というツールが名前の由来であり、「web1」「web2」に続く3世代目の技術を意味しています。web1は情報発信、web2はリアルタイムの双方向通信、そしてweb3の特徴は「分散」です。

分散台帳という概念を作り、管理者がいなくても分散データを使って事実確認できる(ブロックチェーン)技術から生まれたのがビットコインをはじめとする仮想通貨。そしてweb3によって起きたのがID革命です。それまでは管理者がIDを管理していましたが、台帳が分散し、信頼性を担保できるが故に管理者がいなくても、IDが成立するようになりました。

これにより政府や銀行といった中央集権的な「管理者」がいなくても成立する通貨、仮想通貨が生まれたのです。これまでも、SuicaやiDのような仮想の通貨のようなものはありました。それらと比較しビットコインの何がイノベーティブかというと、中央銀行が発行していない通貨を政府が認めたということ。本来なら、通貨を作るのは犯罪です。そうであるにもかかわらず、仮想通貨で支払いができるということは、国がその存在を認めたことになります。

――ID革命が起こったことで何が変わるのでしょうか。

近藤:決済と認証が可能になり金融革命が起こります。web2でもオンライン決済はできましたが、裏側でクレジットカードなどの別のシステムを使っていましたよね。それは、web2自体に決済機能がなく、中央集権化し管理する必要があったからです。一方でweb3は、分散台帳により信頼性と透明性を高めることができるため、決済機能を標準で備えることができ、別のシステムを必要としないのです。決済と同じように、web2では認証のために別のシステムが必要でしたが、web3では認証システムを使わずとも様々な認証が可能になるのです。

これらは非常に大きな変化です。決済や認証に別のシステムが不要になることで、金融システムが大幅に効率化され、送金や振込の手数料が無料になるなど、既存の金融のビジネスモデルを変革する金融革命に繋がっていきます

金融革命により起こる銀行の変化

――手数料が減るとなると、銀行に大きな影響が起きるのではないでしょうか。

近藤:確かに振込などの手数料だけを見ると、銀行にとってはマイナスかもしれません。しかし、銀行にとって手数料ビジネスは本業ではありませんし、お金がデジタル化することで新たなビジネスモデルを生み出すことも可能になるはずです。私達としては銀行と協力しながら、一緒に新しい未来を作っていきたいですね。

また、一回の手数料が1000分の1になったとしても、手数料が下がったことで送金する回数が1000倍になれば、総額は変わらないですよね。加えて、人件費や間接コストも抑えられるため、全体で見ると銀行にとってもプラスになると考えています。

――分散の話に戻りますが、分散により管理者がいなくても通貨が成立するとなると、日銀など信用を担保していた機関はどうなるのでしょう。

近藤:すぐに何かが変わることはありません。技術的に可能であることと、仕組みとして成立することとでは話が違います。ビットコインをはじめとするこれまでの仮想通貨も、技術的には成立していましたが、トラブルが後を経ちませんでしたよね。

技術的に管理者が必要なくとも、誰かが管理しなければ仕組みとしてはうまくいかないのです。また、web2で決済を行う場合、サーバーがある国の法律や税が適用されますが、分散されているとどの国の法律を適用していいか分かりません。

それではいつまで経っても公的なお金として利用できないため、仕組みとして成立するには分散すればいいわけでもないのです。私達が開発している「Japan Open Chain」も、まずは日本の法律に合わせて使えるweb3技術をコンセプトに開発してきました。

――分散することによる課題もあるのですね。

近藤:分散させることで、技術的な問題も発生します。「分散」と「スピード」と「セキュリティ」を並立させるのは難しいと言われていて、あまりに分散してしまうとスピードが落ちますし、分散が少ないと信頼性が低下してしまうのです。

そのため、私たちはスピードを維持しつつ信頼性を高めるために、「Japan Open Chain」では管理組織を国内の信頼できる21社に絞ることにしました。

日々の生活で利用できる「ステーブルコイン」とは

――ステーブルコインについても教えてください。

近藤ステーブルコインとは、取引価格を安定させるために、法定通貨などの価格と連動するように設計された仮想通貨のことです。たとえばビットコインは、価格が大きく変動するため投機商品としては魅力的でしたが、普段の買い物で使うにはリスクが高すぎます。たとえば、かごに入れた瞬間は100円だったものが、支払いの瞬間に150円になったら困りますよね。法定通貨と連動し、価格が大きく変動しなくなってはじめて安心して日常生活でも利用できるようになります。

日本では2022年に、改正資金決済法が可決され、銀行がステーブルコインを発行できるようになりました。これは先進国の中でも初めての取り組みで注目を集めており、これからの日本が仮想通貨先進国になる可能性を示唆しています。

――今でもスマホで電子決済ができると思いますが、ステーブルコインが発行されると何が変わるのでしょうか?それらとはどう違うのでしょうか。

稲葉:現在、スマホで電子決済をする場合は、お店がサービスを導入していないと決済できませんよね。PayPayアプリしか持ってない方は、楽天ペイしか導入してないお店では決済ができません。これがステーブルコインになると、現金と同じ様に原則全てのお店で電子決済が可能になるわけです。

加えて、国が信用を担保している通貨と同様なので、ビジネスでも利用可能になります。海外通貨と連動するステーブルコインの発行や、円貨ステーブルコインの海外送金も可能になっていきます。

――日本の銀行で他国の通貨も発行できるのでしょうか。インフレを産んでしまうと思うのですが。

稲葉:他国の通貨も発行が可能になります。ですが決して日本の銀行がゼロから外貨を発行するわけではありません。銀行が保有しているドルやユーロなどの外貨の分だけステーブルコインを発行することができるのです。昔は、兌換紙幣(だかんしへい)[1]として発券主体が保有する金や銀の量と同額の紙幣を発行していました。それと同じように、現在手元にある外貨の分だけデジタルに置き換えて発行するだけなので、実際に存在する外貨以上の仮想通貨[2]が発行されることはなく、インフレなどにはつながりません。

[1]兌換紙幣・・・発券主体が保有者の要求に応じて同額の金や銀と引き換える約束をもとに発行した紙幣。現在使われている日本銀行券(日本円)は不換紙幣で、発行主体である日銀は同等の金などを保有しているわけではない。
[2]仮想通貨・・・ステーブルコインは、改正資金決済法では、仮想通貨、暗号資産ではなく電子決済手段と位置付けられている

お金がデジタル化するメリットと超えるべき課題

――web3によりお金がデジタル化することで、ビジネスにどんなメリットがあるのか教えてください。

近藤:ひとつは世界中に商圏を広げられること。日本にいると、銀行口座を持つことは当たり前に思うかもしれませんが、世界に目を向けてみると、口座を持っている人口は全体の半分以下です。口座がなければネット決済ができないため、これまでは彼らにオンラインでものを売ることができませんでした。

しかし、web3によってお金がデジタル化すれば、スマホを持った時点で誰もが口座を持ったことになります。これまで商圏にいなかった人たちにアプローチできるようになるため、市場が爆発的に拡大するでしょう。

――他にもお金がデジタル化するメリットはありますか?

近藤:犯罪を抑止できることです。犯罪で得た収益を使うには、持ち主を分からなくするためにマネーロンダリングが行われます。仮想通貨が誕生した時も、マネーロンダリングの懸念は叫ばれました。

しかし、お金がデジタル化されることで、履歴が追えるようになり、出自まで全てが管理できるようになります。何をして得たお金なのか、誰の手を渡ったお金なのか履歴が残ると、これまでよりもマネーロンダリングが難しくなり、犯罪の抑止力になると考えています。

――お金を完全にデジタル化するために解決すべき課題も教えてください。

近藤:一つはセキュリティです。現在のバンキングシステムはハッキングの脅威に対して堅牢に守られていますが、それと同等のセキュリティシステムがスマホにも実装されなければなりません。また、スマホが銀行口座になるようなものなので、落とした際にすぐに口座を止められるような仕組みも必要です。

もう一つはユーザビリティですね。お金は誰もが毎日のように使うため、使いやすいものでなければなりません。現在の仮想通貨はIT感度の高い人しか使っていないため、子供でもお年寄りでも簡単に使えるような操作性が必要になるでしょう。

よりお金が便利に。「プログラマブルマネー」の恩恵とは

――お金がデジタル化することで、私たちの生活に起きる変化も教えてください。

近藤:仮想通貨は「プログラマブルマネー」とも呼ばれており、お金をプログラムで扱うことが出来るようになります。身近な例で紹介すると、年間で12,000円のお小遣いを、プログラムで毎月決まった日に決まった口座に1,000円ずつ移すことができます。現金でお小遣いを渡そうとすると、毎月渡さないだめですし、忘れたり日にちがずれたりしてしまうことがありますが、1度プログラムを設定すれば、お小遣いに気を取られることがありませんよね。

これは単純な例ですが、プログラミングの知識がある人なら、もっと複雑な設定も可能で、様々な場面でよりお金を使いやすいものできるでしょう。

また、送金にかかる手数料が著しく下がることで「1円保険」などの新しいビジネスも可能になります。これまでは振込手数料が数百円かかっていたため、実質そのようなサービスは不可能でしたが、今後はアイディア次第で新しいビジネスも生まれてくるでしょう。

――最後に、これから政府などとの調整が必要なビジネスに挑戦する方へメッセージをお願いします。

近藤:私がweb2時代に起業した時は、逆風の時代でした。当時のITベンチャー企業は大企業や政府からの信用がなく、対立構造のようになっており、大きな取り組みをしようとするのは本当に大変でしたね。

しかし、今は違います。大企業も政府もベンチャーやスタートアップの存在を認め、必要性を感じてくれています。以前に比べれば、他の企業や団体と手を組んで取り組みを進めるのは遥かに容易だと思います。

そして、web3時代は、社会にとって重要なことさえできれば、仮に売り上げにならなくたって大きな問題にはなりません。本当に価値ある取り組みならば、それに共感して多くの方がスポンサーになってくれるでしょう。

DAO[3]などが成立する現在は、これまでの「株式会社」という仕組みに囚われる必要はないので、新しい取り組みを始める方は、自分を信じて貫いてほしいと思います。

[3] Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)・・・特定の所有者や管理者が存在せずとも、事業やプロジェクトを推進できる組織

ここがポイント

・web3は「ID革命」で、分散台帳により信頼性と透明性を高めることができるため、決済機能を標準で備えることができるようになった
・決済や認証に別のシステムが不要になることで、金融システムが大幅に効率化され、既存の金融のビジネスモデルを変革する金融革命に繋がっていく
・ステーブルコインが発行されると、現金と同じ様に原則全てのお店で電子決済が可能になる
・ステーブルコインは外貨も発行が可能だが、銀行が保有しているドルやユーロなどの外貨の分だけしか発行することができない
・web3によってお金がデジタル化すれば、スマホを持った時点で誰もが口座を持ったことになり、これまで商圏にいなかった人たちにアプローチできるようになる
・お金を完全にデジタル化するにはセキュリティとユーザビリティの課題を解決する必要がある


企画:阿座上洋平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:阿部拓朗