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日本こそドローンが活躍する可能性が高い。インド発の無人ドローンソフトウェアメーカーVyorius社CEOが語る、現状と未来

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沖縄県恩納村に、世界中から集結した優秀な研究者によって、物理、化学、生物学、神経科学などの先進的な科学技術研究が行なわれている大学院大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)がある。

そんなOISTに2023年より拠点を構えたスタートアップがVyoriusだ。同社は2021年にインドで設立し、ドローンを中心とした無人ロボットのソフトウェアを開発・提供し、すでに世界各国で事業を展開している。今回はVyoriusのCEOかつ創業者であるニシャント・シン・ラナ氏に、世界から見たドローン事業の現状や課題、Vyoriusのプロダクトの特徴、日本に拠点を構えた背景などを伺った。

ニシャント・シン・ラナ
Vyorius CEO
2017年にインドのデリー工科大学を卒業。在学中の起業経験などを経て、2019年にドローンをはじめとした無人ロボットのソフトウェアを開発するVyoriusを創業。新型コロナウイルスによるパンデミック下では、南アジア初の商業用ドローンによるワクチン配送を指揮し、インド奥地へのワクチン輸送を成功させた。その後、2023年度のOIST Innovationアクセラレータープログラムに採択され来日。現在は沖縄にて、資金調達や日本での顧客・パートナー開拓を進めている。

INDEX

世界的に広がるドローン活用。日本でも大手企業が事業参入
現状におけるドローンの課題は、飛行時間とコネクティビティ
Vyoriusが展開するドローンソフトウェアの競合優位性とは
日本は、ドローンが普及する可能性が非常に高い国
ここがポイント

世界的に広がるドローン活用。日本でも大手企業が事業参入

ーー日本や世界における、ドローン業界の現状を教えてください。

まだ爆発的な普及にまでは至っていないものの、世界各国のドローン市場は確実に拡大を続けています。特に近年のインドでは、ドローン関連の規制が緩和されはじめており、農業の現場だけでも現在約2万2000台ものドローンが稼働している状況です。最近は、農業だけでなくロジスティクス業界でもドローン活用が広がっています。

日本においては、感覚的ではありますが「いかに安全にドローンを運用するか」という点に焦点が当たっているのではないかと思います。2022年の末にレベル4(人がいる場所で、補助者がいなくともドローンの目視外飛行が可能となる段階)が解禁となったこともあり、安全性が保たれるオペレーションが非常に重要視されています。すでにご存知かもしれませんが、ヤマト運輸やANAもドローンを活用したロジスティクス事業に参入しており、特に島と島をつなぐ輸送に目が向けられているようです。今の状況を見ると、日本におけるドローン市場の拡大余地は非常に大きいと感じますね。今後は、「災害対策」や「公共安全」といった場面でドローンが活用されていくのではないかと予測しています。

ーー国によって、ドローンの使われ方や注目のされ方が異なることはありますか?

その国が抱える課題や解決したい社会問題、またそのときの取り巻く環境などに応じて使われ方が異なる、ということはあり得ます。ただ国によって明らかに使われ方が違うということはあまりなく、「農業やロジスティクスに活用されることが多い」など類似点も見受けられます

現状におけるドローンの課題は、飛行時間とコネクティビティ

ーー現在、ドローンにはどんな課題があると感じていますか?

まず、ドローンはあくまで道具であって、社会問題をすべて解決するソリューションではないということは前提としてお伝えしておきたいです。何らかの問題を解決する1つの手段としてドローンがある、と捉えてください。

そして、ドローンに限らずすべての道具には限界があるものです。我々は今、主に2つの限界に直面しています。まず1つは「飛行時間」です。ドローンは無限に飛行できるわけではなく、時間に限りがあります。もう1つは「コネクティビティ」で、遠くに飛んでいってしまうとネットワークへの接続ができず、データ取得が難しくなります。たとえば、もし政府が災害対策にドローン撮影を活用するとなると、やはり映像はリアルタイムで見たいものですよね。ただ現状の課題を考えると、これを実現するのはもう少し先になるのかなと思います。

ーーそのような課題がある中で、Vyoriusが提供するプラットフォームにはどのような利用メリットがあるのでしょうか?

ドローンの登場により世の中はとても便利にはなりましたが、現状ドローンは人間が行っている作業の30%程度しか削減できていません。そこで我々は自律型ドローン(パイロットが積極的に飛行に関与しないドローン)の開発にフォーカスし、いかにこの数字を上げていけるか挑戦しているところです。

ドローンをもっと稼働させるためには、2つのことが重要だと考えています。1点目は、システムを活用して人とドローンの関わりを減らすこと。そして2点目は、人とドローンの関わりを減らすためにセキュリティを強化することです。

ーーいま話に上がった「自律型ドローン」は、どのような用途で使われるものなのですか?

たとえば現在は、シンガポールの企業と貨物船のプロジェクトを進めています。これまでは、貨物を港から大きな貨物船に移動させる際には小さなボートを使って人力で運んでいました。この仕事を自律型ドローンで無人化したいと考え、50〜150kgの貨物を6つのドローンで運ぶシステムを開発・導入しました。

ーー自律型ドローンが普及すると、社会にどのような利益がもたらされるでしょうか?

第一にコスト削減につながります。人件費が削減できるほか、ドローンは化石燃料ではなく電気で動くためエネルギー代も節約できます。そして第二に、作業時間が短縮できます。我々はコロナによるパンデミックの際、インドの奥地にドローンでワクチンを輸送するというプロジェクトを行ったのですが、通常であれば1時間以上かかるところを16分で運ぶことができました。このように迅速な対応が必要なシーンでは、ドローンはとても役立つと考えています。さらに第三として、スケールしやすいというメリットもあります。5つのドローンでできるシナリオを、そのままさら複数台にも対応させる、といったことが容易にできるのはドローンならではの特徴だと考えています。

Vyoriusが展開するドローンソフトウェアの競合優位性とは

ーー世界にはさまざまなドローンメーカーやソフトウェア企業があると思いますが、それらとVyoriusが提供するプロダクトにはどんな違いがありますか?

そもそもドローンは、非常に多様なニーズがあるプロダクトです。タクシー会社を想像してもらえると分かりやすいと思うのですが、一口に「タクシー」と言っても、長距離を走るタクシーもいれば短距離タクシーもいて、さらにラグジュアリーなタクシーやサファリを走るタクシーもあって……と、実はさまざまな種類に分かれていますよね。それはドローンも同じで、飛行時間も積載容量も異なるさまざまな種類のドローンが稼働しています。

そのような現状がある中で、今あるドローン企業は「自社で製造したドローン」や「自社開発のソフトウェア」しか管理できないことがほとんどです。それに対して我々は「どんな企業が作ったドローンやソフトウェアであってもマネジメントできるプラットフォーム」をゴールに見据えて、ソフト開発を行っているんです。それが競合と当社の大きな違いだと思います。このプラットフォームを開発するためには、どんなハードウェア・ソフトウェアであっても統一したプラットフォームで操作できる仕様にすることが非常に重要です。またコネクティビティに関しては、Wi-Fiでの接続だけでなくラジオ波や衛星、4G、5Gなどどんな電波にもつなげられるプラットフォームである必要があります。これらを実現できるのが、Vyoriusの強みです。

また、我々はデータを扱う企業であることも大きな特徴です。これまでの事業活動の中でずっとデータを収集してきたため、オペレーションなどに関するデータの分析ができています。「ドローンを飛ばした距離」や「どれだけ効率的に飛ばせたか」といったデータは、今後大いに活用できるでしょう。

さらに、我々は非中央集権型のシステムを採用しているという特徴もあります。たとえばネットワークに障害が起きた際は、先ほどご紹介したようにラジオ波や衛星、有線、4G、5Gなどどんな電波も活用でき、それらを自動的に切り替えることができます。そのため有事の際や、インターネットが届きにくい海を渡る場面などでも、問題なくドローンを稼働させることが可能なのです。

ーー現在のVyoriusは、どのような事業フェーズにありますか?

当社はすでにインド、マレーシア、アメリカ、ドイツで事業を展開しており、プロダクトもある状態です。取引企業は農業関連の企業やロジスティクス企業、調査会社、製造会社など多岐にわたります。今後は日本にも進出したいと考え、OISTにオフィスを設けさせてもらいました。日本事業としては、現在シードラウンドにあるという状況です。

日本は、ドローンが普及する可能性が非常に高い国

ーー日本に拠点を置こうと考えた理由やきっかけを教えてください。

冒頭でお話ししたとおり、日本のドローン市場はとても高いポテンシャルを持っています。具体的に言うと、日本はたくさんの島で構成されている島国ですよね。そのため物流のニーズが非常に高く、それに伴って物流インフラも整っているため、ドローンが活躍する可能性がかなり高いのではないかと考えています。

また日本は少子高齢化という深刻な社会問題を抱えており、特に農業は労働力不足に悩んでいます。この問題もドローンで解決することができるため、やはり可能性が感じられます。現在の日本は、ドローンとの親和性が非常に高いんです。

ーー現在OISTで活動しているかと思いますが、どんなメリットを感じていますか?

まず何より、いろいろな人と出会えたのが大きな利点でした。日本のことをあまり知らない我々の生活面をサポートしてくれる人や、日本でのビジネス展開に協力してくれる人など、多くの方が「助けてあげよう」という積極的な姿勢で支えてくれていて、本当に助かっています。

また「OISTでスタートアップを展開する」という、ある種“お墨付き”がある状態でビジネス展開ができるため、取引先から信頼してもらいやすいというのも大きなメリットでした。

そして研究室や他のスタートアップなど、専門的で質の高い情報を持っている人がすぐ近くにいるというのも、非常に恵まれた環境だなと感じます。さまざまな専門家に気軽にアプローチできるため、仕事が捗りやすいですね。

ーー日本で事業を展開していく上で、どんな企業・団体と協業していきたいですか?

まずはドローン本体を製造してくれるメーカーと出会えたら嬉しいです。ドローンを必要としている農業やロジスティクス企業にも、積極的にアプローチしていきたいと考えています。

ーー現在思い描いている夢や目標があれば、教えてください。

我々がVyoriusを立ち上げた背景には、「アクセシビリティを改善したい」という思いがあります。食べ物、ヘルスケア、情報……などどんなことにも言えることですが、人間には「より早くそれを手に入れたい」という欲求があります。その欲求に応えるには、ドローンによるアクセシビリティの改善が大切だと考えています。より便利で誰もが生活しやすい世の中を、ドローンで作っていきたいですね。

ここがポイント

・ドローン市場は世界全体で順調に拡大中。日本でもレベル4が解禁され、大手企業が事業参入するなど盛り上がりを見せている
・ドローンには「飛行時間」と「コネクティビティ」に限界があり、その改善が急がれている
・Vyoriusは自律型ドローンにフォーカスし、またどんなハードウェア・ソフトウェアのドローンも管理できる総合プラットフォームを開発する企業である
・自律型ドローンには「人件費やエネルギー費の削減」「輸送時間や移動時間の短縮」「スケールのしやすさ」といった活用メリットがある
・日本には多くの島があり物流ニーズが非常に高いこと、また少子高齢化による労働力不足という課題を抱えていることから、世界的に見てもドローンとの親和性が高い国である


企画:阿座上洋平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:VALUE WORKS
撮影:阿部拓朗