2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。2021年6月、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂し、欧州ではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の法規制がスタート。世界全体でISSBなどの国際サステナビリティ基準に応じ、企業の温室効果ガス排出量削減の必要性が加速している。
そんな中、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対策を講じる革新的なテクノロジーで、気候変動の問題解決に挑むクライメートテック(Climate Tech/気候テック)企業が世界中で増えている。
代表として挙げられるのは、電気自動車や代替燃料、高速充電ステーション開発、建物の断熱や高効率空調、エネルギー・資源効率の高い製造プロセス、代替肉などの代替食品や精密農業などだ。 2050年までのCO2排出量ネットゼロを目指し、様々な分野でクライメートテック企業が問題解決に取り組んでいる。
今、世界中で注目されるクライメートテックについて、東京大学 産学協創推進本部FoundX ディレクターを務める馬田氏にお話を伺った。今注目している分野は?現状の課題は?これから日本のクライメートテックが発展するために必要なことは?などのトピックスを取り上げながら、2024年に起こることを予測していく。
馬田隆明
東京大学 産学協創推進本部 FoundX ディレクター
日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。
INDEX
・再生可能エネルギーをどこまで増やせるかが、課題
・今後事業を起こすなら、安全保障を意識した領域が狙い目
・技術サイドとビジネスサイドの協業が、クライメートテックの発展を加速させる
・クライメートテックの魅力は、注目度の高さと伸び代の大きさ
・ここがポイント
再生可能エネルギーをどこまで増やせるかが、課題
ーー今クライメートテックで注目されている分野は何でしょうか。
まず整理をすると、2050年までに温暖化効果ガスの排出量をネットゼロ[1]にする、という最終目標を達成しようとしたとき、私たちがやるべきことは大きく2つあって、有効な既存の技術をデプロイメント(展開)して炭素排出量を急速に減らすこと、そしてネットゼロのために最終的に必要となる革新的技術の実用化に取り組むことです。
2030年にもマイルストーンが設定されているので、直近の数年間は太陽光やその他の既存技術をいかに早くデプロイメントしていくかが対策の中心となるでしょう。たとえば、再生可能エネルギーの普及や、建築物の断熱性能を上げてエネルギー効率を上げることなども有効とされています。こうした領域では最先端の技術を開発するというよりも、既存の技術のデプロイメントを凄いスピードとスケールで行っていけるか、そのための資金を集めてビジネスモデルをどう構築するかが勝負です。一般的には大企業が得意とする領域や戦い方ではありますが、スタートアップへの投資額が大きくなってきている今、スタートアップでも取り組める領域が増えてきているのではないかと思って、注目しています。
2050年までのタイムスパンでみると、CO2排出が多いけれど炭素排出削減が難しいとされる、鉄鋼分野やセメント分野などに対して、革新的技術で挑むスタートアップが求められています。そのほか、アメリカが手がけようとしている、クリーン水素、洋上風力、地熱発電、長期エネルギー貯蔵技術(LDES)、直接空気回収技術(DAC)……なども、勝負がまだついていない領域だと思っています。
ーー「再生可能エネルギーをいかに増やすか」という観点での動きが多いのでしょうか。
そうですね。世界全体で見たときには、クリーンなエネルギーをどこまで増やして、うまく運用できるかは一番レバレッジが効くところです。
たとえば鉄鋼分野ですが、現在の製鉄プロセスは温室効果ガスが大量に出てしまうため、電気を使うプロセスや、水素を使った新しい製鉄プロセスなども試されています。ただ、電気を使ったプロセスでは、その電気自体がクリーンでなければ温室効果ガスは十分に減ったとは言えません。
水素を使ったプロセスでもクリーンな電気が必要です。水素の一般的な製造過程では、水を電気分解してH2とOに分けます。現状ではその製造コストの大半がエネルギーなんですね。つまり、クリーンなエネルギーの費用が安くなればなるほど、クリーンな水素も安く作れるようになります。
電気の製鉄プロセスにせよ水素のプロセスにせよ、安価でクリーンなエネルギーが必要だということです。逆に言えば、クリーンなエネルギーが安くなると、クリーンな鉄鋼も安くなり、選ばれやすくなります。これは輸送分野も同様で、クリーンなエネルギーが安くなれば、バッテリーEVや燃料電池車の維持費用は安くなり、よりクリーンな車が選ばれやすくなって、温室効果ガスの排出量も減ります。
このように、クリーンな再生可能エネルギーを増やしていくことは、様々な領域に関わるレバレッジポイントとなります。
[1]ネットゼロ・・・大気中に排出される温室効果ガスと除去される温室効果ガスが同量でバランスが取れている状況
今後事業を起こすなら、安全保障を意識した領域が狙い目
ーー2050年までにCO2排出量ネットゼロを目指す中で、日本は今どんな状況ですか?
世界の動向を物凄い速度でキャッチアップしつつ、独自性を出そうと努力しているとも思いますが、まだ十分な対応ができていない部分もあるのではないかと思っています。GX(Green Transformation)という掛け声で、経済社会システム全体をグリーンに転換しようと取り組んでいますが、現時点ではその施策の多くが大企業向けになっています。
もちろんそれは重要ですが、より早く既存技術をデプロイメントしていくには、スタートアップのほうが力を発揮できる場もあるはずです。スピードとスケールは、スタートアップが本来得意とする領域だからです。
また2050年に向けて言えば、よりイノベーティブな技術に対して資金を向ける必要があり、スタートアップだからこそリスクの高い領域の研究開発ができるのではないかと思っています。アメリカには企業規模に関係なく助成・補助をするプログラムや、スタートアップを意識したプログラムが多々あり、その違いは結構大きいかもしれません。
ーースタートアップが直面するのは、やっぱり資金問題ですよね。
そうですね。たとえば事業の拡大期に工場を作らなくてはいけない状況で資金が無ければ、そもそも作ることができず、頓挫してしまいます。しかしたくさん作らなければ安くもならず、安くならなければ顧客は買ってくれません。だからやはり資金が必要なのですが、スタートアップは信用が十分ではないので、金融機関は大きな資金をなかなか貸してくれない。そうしたときのために、アメリカでは政府がローンプログラムを用意していて、資金とともに初期の信用獲得を支援してくれます。それに欧米ではフィランソロピー的な資金が、そうした拡大を援助してくれる取り組みも始まっています。日本に制度が何もないというわけではありませんが、現時点では手厚さに違いがあると言えるでしょう。
研究開発の資金でいえば、税額控除の問題もあります。日本にも「研究開発の税額控除」制度は存在していて、控除額も大きいのですが、多くの創業期のスタートアップは対象になっていません。なぜなら、創業期のスタートアップは赤字決算の会社が多く、法人税を払っていないので、控除対象になる税金がない、というケースが多いからです。結果的に研究開発の税額控除が適用されるスタートアップは少なくなります。
それに対してアメリカでは、創業して間もない企業向けには特別な研究開発の税額控除があったり、最近のグリーン関連の税額控除の一部では、その控除のクレジットを転売可能だったりするなど、スタートアップでも税額控除の恩恵を受けられる仕組みが整備されています。
税額控除は条件を満たせば適用されるものなので、補助金制度と比べて予見性が高いというのも良い点です。投資家も税額控除を期待してスタートアップに投資できるようになります。一方、補助金は審査に通るかどうかが最後まで分からず、予見性が低いというデメリットがあります。
これは補助金の問題にとどまりません。投資家は「補助金が取れて、事業がもう少し進んだら投資しましょう」という判断をしがちで、スタートアップは審査の結果発表まで資金調達にも動けなくなる、ということも起こりえます。しかも、補助金は年に一度で取れなかったりすると、資金調達が1年伸びてしまいます。
補助金はスタートアップにとってありがたいものではありますし、間違いなくあった方が良いのですが、スタートアップにとって利用し辛い点もあるので、補助金自体をうまく設計したり、頻度高く提供しながら、税額控除と組み合わせていくほうが良いのではないかと思います。
ーーそういった状況下で、日本ではこの領域のスタートアップがたくさん生まれているのでしょうか?
2023年は世界で約700社のクライメートテック企業が資金調達をしたと言われていますが、残念ながら、まだ日本はそう多くない状況です。ただ、日本でもGXスタートアップ予算が2000億円ほどつきましたし、支援は増えつつあります。それに現状スタートアップの数が少ないということは、これからこの領域で起業しようと考えている人にとっては大きなチャンスだということではないでしょうか。
ーー特に最近、クライメートテックで伸びている分野はどこなんでしょうか?
いちばんお金が動いているのはバッテリー分野ですね。単に作るだけではなく、バッテリーのリサイクルなどもです。それなりの規模の国だと、国に1社〜2社はバッテリー製造やリサイクルの企業がないと、いざというときに安全保障上の問題にもなります。そのため、各地域でスタートアップがいくつか出てきていますが、日本ではまだ多くありません。
他にも、再生可能エネルギーの発電や蓄電の分野も同様に、安全保障を考えたときに必要とされる領域です。再生可能エネルギーの普及で自国内でのエネルギー自給率を上げれば、年間約20兆円とも言われる、発電用の化石燃料の輸入額を減らすことができます。減った分を使って、よりグリーンな技術開発に投資できるかもしれません。
また日本の製造業がクリーンな製品を日本で作るためには、クリーンな電力を安価に手に入れる必要があります。それができなければ、iPhoneなどの最終製品の中に、日本製の部品が採用されなくなる、ということも十分にありうると思います。
太陽光や洋上風力などの再生可能エネルギーは、今後の日本にとってとても重要になるということです。浮体式洋上風力などは、海に広く面し、太陽光パネルを設置できる土地が比較的少ない日本においては、成功すればインパクトが大きい分野でしょう。スタートアップでは取り組みづらい分野ではありますが、バリューチェーンのどこかから入って、次第に事業領域を大きくしていく、という戦い方もできるのではないかと思います。
技術サイドとビジネスサイドの協業が、クライメートテックの発展を加速させる
ーー今後クライメートテック領域を盛り上げていくには、スタートアップ・大手企業・政府それぞれどのような動きが必要になるでしょうか?
供給・需要の両サイドからの動きが必要ですね。供給に関しては、まず技術や事業の供給、つまりスタートアップを多く輩出することが日本では重要だと考えています。そもそもスタートアップが事業を大きく成長させるためには、社会の大きな課題に取り組む必要がありますが、クライメートテックでは気候変動という世界規模の課題に取り組めて、うまくいけばグローバル市場へ出ていけます。つまり「日本からデカコーンが生まれうる領域」です。しかもその課題は一過性のものではなく、2050年のネットゼロ達成まで続きます。その後の温室効果ガスを減らしていくところまでを考えると、もっと長く課題はあり続けます。課題はビジネスチャンスでもあると考えると、それだけ大きな課題とチャンスがあり、しかも同時に世界に貢献できる領域がクライメートテックだということを、皆さんに知っていただきたいです。
そして需要に関しては、これは大手企業にぜひお願いしたいのですが、「環境によい製品を新しく買う」という買い手になっていただきたいです。需要がないと、供給も増えていかないからです。こうした需要を生み出すのも、とてもイノベーティブで、意義のある行為だと思います。日本の消費者も徐々にグリーンな製品を好み始めているように思うので、大手企業もぜひグリーンな製品の購入を進めていただきたいです。
政府には、この供給・需要両方の問題を解決できるような政策の立案が求められています。供給側には初期にかかるコストへの補助金を出したり、税学控除を行い、需要側にはグリーン購入を促す施策・政策を講じる、といった動きが2024年に出てくると、需給のサイクルがスムーズに回り、大きな流れになっていくのではないでしょうか。
ーー「鶏が先か卵が先か」という話になるかもしれませんが、三者のうち特にどこが変わると、サイクルがうまく回り始めると思いますか?
私がスタートアップ側にいるせいかもしれませんが、もっとも実現しやすくて大きなインパクトも見込めるのは、この領域のスタートアップを増加させる動きだと考えています。スタートアップ企業がクライメートテックにチャレンジすることで、大手企業は脅威に感じるはずです。事業面ではそれほど大きな脅威にはならなくても、スタートアップに人材が流れはじめたら、大手企業は動きを変えるでしょう。
これは当事者の起業家の皆さんには少し申し訳ない話ですが、もし起業してその事業が途中で失敗したとしても、ある程度まで成功すればそうした変化は起こせるし、ほぼ必ずどこかの企業に再就職はできるはずです。もちろん、成功すれば大きく社会を変えられます。だからこのクライメートテックの領域でスタートアップの挑戦が増えること自体が、日本社会全体を変えていく1つの大きなレバーにもなるのではないかと思うんです。
ーークライメートテック領域のスタートアップは、どうすれば増えるでしょうか?
この領域は非常に難しいので、やはりその業界のことをよく知っている人が起業したほうが良いでしょう。ただ、技術的にも「解決案を作れるのか分からない」というリスクや不確実性があります。また、巨額の資金を調達しながら急速に成長しなければならないので、業界知識や技術だけでは難しい、というのが正直なところです。
だから、IT系なども含んだスタートアップのCxO経験者や、シリアルアントレプレナーなど、スタートアップならではの資金調達や組織拡大のことを知っている方々がこの領域に入ってきて、業界知識を持つ人たちとチームを組むのが良いのではないかと思います。
また、投資家側が「この市場でこういうものを作っていきましょう」と能動的にカンパニークリエーションをする動きも、この領域では必要なのかなと思います。
ーークライメートテックのドメイン知識がある人と経営能力を持つ人を組み合わせられる柔軟さも、スタートアップの良さですよね。
そうですね。自由な発想で事業を考え、事業を成立させるために必要な人と技術、お金を集めてきて、指揮者のようにオーケストレーションすることは、スタートアップならではの魅力だと思います。大企業はお金がありますが、どうしても漸進的なイノベーションへの投資が多かったり、リスクが取れなかったり、自社の既存事業との衝突があったり、自社にある手札の中で物事を考えていかなければならないため、自由度はやや低い。一方、スタートアップは資金的な制約はあるものの、イノベーションのジレンマを超えていけるし、お金については外部から集めてくることができます。
私たちの支援先にも、そうしたことを見据えて、大きな機会のある領域で破壊的イノベーションを起こそうとしているスタートアップはたくさんいます。
ーーそのようなチームやスタートアップがある中で、30年先、40年先にまでインパクトを残すようなイノベーションを生み出すには、今後どのような方策をとるとよいでしょうか?例えば「イノベーションを狙いつつも、まずは小さく始めるのがいい」「最初から大きなホームランを狙うべき」など、教えてください。
少なくとも、大きなことをしようと思った方が良いようには思います。バットを振り抜かなければホームランは狙えません。それに意味のある大きなことをしようとする人材は希少なので、多くの支援を得られるのではないでしょうか。ただ、事業によっては小さくとも重要なところから入り込んで、そこから広げていくやり方もありだと思います。方法論については、海外を中心に事例とプラクティスがいくつか出てきているので、参考にするのも良いでしょう。
また、IT業界などで手腕を発揮してきた日本のシリアルアントレプレナーの方々が、クライメートテック領域に参入し始めているという嬉しい事実もあります。今後、この動きがもっと広がっていくといいですね。
クライメートテックの魅力は、注目度の高さと伸び代の大きさ
ーー2024年は、クライメートテック領域にどんなことが起こると期待していますか?
個人的には、国内スタートアップへの投資で、グリーン領域の投資の割合が増えていけばよいなと思います。現状は、グリーン領域への投資は全体のほんのわずかで、件数ベースだと1%程度かもしれません。これを10%以上に引き上げていけたらと考えています。社会的にとてもホットな領域ですし、投資家の皆さんも注目しているので、今挑戦すれば起業家としてかなり注目を浴びるはずです。
それと「デカコーンやユニコーンを狙う事業計画」が描ける人が増えることでしょうか。年間1億トンや10億トンのCO2を削減する手立てでなければ、現状の年間温室効果ガスの排出量である590億トンを0にすることはできません。日本は改善を重ねて省エネや省炭素を実現する、いわば1を0.9や0.8にすることが得意で、世界でもトップに近い省炭素の実績を上げてきています。しかし今回は目標が少し異なり、最終的には1をゼロにすること、あるいは1を0.1にすることです。そのためには全く新しいやり方が必要とされることも多く、その結果、たくさんの産業自体が大きく変わりうると思っています。そうした激変する領域が好きな方、全く新しいことをしたい方、社会に大きなインパクトを与えたい方、大きな夢を描きたい方は、クライメートテック領域は非常におすすめです。
ーークライメートテック領域を盛り上げるには、研究者と経営者がタッグを組むか、もしくは研究者が経営者になることが必要なのかなと思いました。そう考えると、大学の役割がとても重要になりそうです。
私も大学には非常に期待しています。これまでの大学発スタートアップは「最先端の技術をいかにコマーシャライズしていくか」といった議論が多く、それは確かに競争優位性にはなるのですが、スモールビジネスになってしまいがちで、スタートアップのように急成長するのはほんの一部の領域だけでした。しかしクライメートテック領域は新しい市場が急速に生まれつつあるので、「以前からある古い技術も、全く違う領域のこの技術も、新しい市場なら実は使えて急成長しうるのでは?」という議論も可能な領域ではないかと思っています。大学の先生方には「自分の持っている技術が脱炭素に役立つかもしれない」という視点を、ぜひ持っていただきたいです。
そしてビジネスサイドの方々には「この市場のこの事業が狙い目だから、適した技術を探してみよう」「この技術があれば、これくらいの市場規模にまで拡大するぞ」といったアンテナをたくさん張っていただいて、見込みがありそうならぜひ物怖じせずに、技術者に声をかけてほしいです。
ーー日本のスタートアップの勝ち筋は、どこにあると思いますか?
最近、勝ち筋にこだわりすぎなくてもいいのかなと思うようになりました。“日本の強みは?”と考えてしまうと、どうしても過去に目が行ってしまって、手札の中で勝負しようとしてしまいますよね。それはそれで既存の市場の中で性能を競う競争に勝つためには大切ではありますが、大きくなりそうな新しい市場があれば、過去がどうであろうと飛び込んでみて、そこから手札を集めて行ってもいいのではないかなと。そうして事業を進めていく中で、「そういえば、ここで日本の強みが活かせるんじゃない?」と、最初は気付かなかった隠れた手札や強みが見つかるかもしれませんし、むしろ、新しい市場の場合は、そうして一度深く入り込まないと、自分の持っている強みは見えてこないようにも思います。
事実、クライメートテック領域の海外スタートアップの製品に、日本の部品が数多く使われているという話も聞いたことがあります。でもその製品と同じことをしているスタートアップは日本にはいません。恐らく多くの人は気付いていないのでしょう。これからは「今まで自動車のために作っていた部品が、実は風力発電で使えた」なんてことが起こる可能性も十分にあります。日本の強みが活かせるポイントは後で必ず見つかるはずなので、過去に過剰に縛られずに、私たちの未来に必要なものは何か、を考えることが大切なのだと思います。「未来に生き、欠けているものを作る」というのが、スタートアップに求められる姿勢なのですから。
ここがポイント
・カーボンニュートラルの実現には、既存技術をデプロイメントすることと、まだ商用化されていないような革新的技術の実用化に取り組むべきことが必要
・クライメートテック領域はドメイン知識、経営スキル、資金力といった「総合力」が必要。そのため技術者や研究者、起業家、投資家といったチームが必要となる
・日本は改善を繰り返して省エネや省炭素を実現するのが得意なものの、根本的にやり方を変えてCO2排出量を大幅に削減する動きは不得意。逆に言えば、根本的にやり方を変えることができれば、デカコーンやユニコーンを狙える
・スタートアップ企業は「日本の勝ち筋はどこか」と考えるだけではなく、まずは拡大が見込まれる市場に飛び込んでみることが大切。その後、日本の強みが活かせるポイントを探していけばよい
企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:VALUE WORKS
撮影:阿部拓朗