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「CEATEC 2019」三菱地所のオープンイノベーションの取り組み。デベロッパーもハードからソフトへ

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2019年10月15日~18 日に幕張メッセで開催された「CEATEC 2019」に出展した三菱地所株式会社。テーマには「技術と未来が交差する。新しい匂いのする街、丸の内」を掲げた。

三菱地所は本メディア名にもなっている「xTECH(クロステック)」のミッションの元、これまでの不動産業に囚われず、様々な企業同士の交わりを生み出す新事業創造を、ビルやシェアオフィスなど「ハード」に留まらず、実証実験の提供やミートアップイベント、コミュニティといった「ソフト」まで含めて推進している。

INDEX

スタートアップや大企業が行き交う街づくりのための仲間探し
100年以上丸の内を開発してきた三菱地所の想い
街づくりからオープンイノベーションを生み出す取り組み
大企業同士の連携を図るTMIPの設立
三菱地所自身も率先してオープンイノベーションを推進
ここがポイント

スタートアップや大企業が行き交う街づくりのための仲間探し

昨年に続いてのCEATECへの出展の狙いは、大手企業・スタートアップ・行政など問わず、一緒に「街」を盛り上げていくための「仲間集め」にあるという。

CEATEC2019では、大規模リノベーション工事中の大手町ビルをモチーフにしたブースを構え、丸の内エリアで実導入されているSEQSENSE 社製の自律移動警備ロボット「SQ-2」や、ソフトバンクロボティクス社製の AI 清掃ロボット「Whiz」などの複数ロボットが展示された。

関連記事:三菱地所が丸の内で描く「ロボットと共存する未来」

ブースではロボットの展示に加え、ミニセッションも実施。こちらは、三菱地所が運営する国内外のスタートアップ企業を対象としたコラボレーションプラットフォーム(EGG JAPAN・Global Business Hub Tokyo・FINOLAB・Inspired.Lab)の入居企業や出資先スタートアップ企業が登壇するものだ。来場者は着席し、ミニセッションに耳を傾けていた。

100年以上丸の内を開発してきた三菱地所の想い

ここからは、CEATEC 期間中10月18日に行われた千葉 太氏(三菱地所 執行役専務)が登壇したカンファレンスについて触れていく。100年以上にわたって街づくりを行ってきた三菱地所が、これまでどのように街を盛り上げてきたか、そしてこれから「Society 5.0」を見据え取り組んでいく「OPEN INNOVATION FIELD」がテーマだ。

千葉 太
三菱地所株式会社 代表執行役執行役専務(ビル業務企画部、ビル運営事業部、街ブランド推進部、美術館室、ビル営業部、xTECH営業部担当)
1984年、三菱地所入社。横浜支店長、執行役員を経て、2015年に執行役員兼(株)三菱地所プロパティマネジメント代表取締役社長執行役員就任。
2019年4月より現職。

カンファレンスの冒頭では、丸の内エリアがこれまでどのような都市開発の変遷をたどってきたのかが紹介された。丸の内エリアは、約123ha、東京ドーム約26個分の面積に115社もの上場企業が本社を置き、約28万人もの人が働く世界屈指のビジネス街だ。三菱地所は丸の内エリアにある約100棟ものビルのうち、約3分の1のビルを所有又は運営している。

そんな丸の内のエリア開発は、1890年に明治政府からの要請を受け、丸の内一帯の土地の払い下げを受けたことによって第一次開発が始まった。1960年代には高度経済成長期に合わせて、オフィスを大量供給するための第二次開発が行われた。そして現在行われているのがビルなどハードだけでなく、ソフトまで含めた両面からの開発を行う第三次開発だ。

それまでオフィス特化型の街づくりを行い、「働く場所」としてブランドを築いてきた丸の内だが、それだけではいけないとの想いから始まったのが第三次開発。訪れた人が楽しめるようなイベントを開催する「賑わい機能」や、美術館などの文化的な趣きを残す「文化・観光都市機能」など、多角的な機能が街に実装されつつある。他にも「就業支援機能」として託児所や、外国人の方が安心して通える医療クリニックを構えている。

そして、いま特に三菱地所が注力する取り組みの一つが今回のテーマでもある「産学連携・インキュベーション・イノベーション機能」。イノベーションエコシステムを構築することで街づくりを行う取り組みだ。

千葉「エコシステムとは生態系のことです。イノベーションエコシステムとは、起業家を始め投資を行うVCや、弁護士・会計士などイノベーションに関わる様々な人達が循環しながら新しい価値を生み出す仕組みです。

これまでの20年は丸の内エリアを『開かれた街』へと変化するための再開発でした。しかし、これからの20年はイノベーションエコシステムを構築し、丸の内を創造的なイノベーションが生まれる『OPEN INNOVATION FIELD』にするための開発を行っていきます」

街づくりからオープンイノベーションを生み出す取り組み

オープンイノベーションとは大手企業やスタートアップ、行政やアカデミアなど複数の事業体が連携をしながら新しい価値を創造していく取り組みだ。IT技術の急速な進化やグローバルでの競争激化、製品ライフサイクルが短命化してきていることにより、自社リソースだけでイノベーションを起こす自前主義には限界が訪れている。そのため外部の技術やアイデアを活用しなければ、これからの競争を生き残っていくのは難しい。三菱地所はそんな危機感を持つ企業同士が活発に交流し、永続的にイノベーションが創発される街を目指している。

三菱地所は企業がオープンイノベーションを起こすための施設を4つ運営している。その一つが「EGG JAPAN(エッグジャパン)」。ビジネス開発オフィスと会員制ビジネスクラブ「東京21cクラブ」で構成されており、海外の成長企業や国内の最先端スタートアップの成長の拠点になっている。年間で250を超えるイベントを開催しており、さまざまスキルやナレッジの共有の場としても活用されている。

EGG JAPANの提携施設として位置づけられているのが「Global Business Hub Tokyo(グローバルビジネスハブ東京)」だ。三菱地所がこれまでEGG JAPANの運営で培ってきたスタートアップのニーズを反映させ、2016年7月に開業した大型施設で、入居している企業の約7割が海外の企業で、入居と同時に東京21cクラブにも入会できるほか、200名規模のイベントスペースを有しているのが特徴だ。

ファイナンシャルテクノロジーでイノベーションを生み出す拠点施設と位置付け整備したのが「FINOLAB(フィノラボ)」。主にフィンテック領域のスタートアップが集まり、成長の場として活用している。世界有数の国際金融センターである東京・大手町という街の特性を活かしており、当初想定を大きく上回る入居希望が殺到したこともあり、開設後すぐに施設の増床を行った。

2019年にオープンした最新の施設が「Inspired.Lab(インスパイアード・ラボ)」。AIやIoT 、ロボティクスなど最先端技術を用いた企業が利用している。ロンドンやシリコンバレーといった世界の有力スタートアップが集まるエリアに倣い、音楽と美味しいコーヒーも楽しめる。共創を生み出すために至るところにホワイトボードを設置し、オープンスペースで打ち合わせできるような仕組みを作っている。デジタルな時代だからこそ、アナログ的に顔を合わせることを重視している。さらには3Dプリンターやレーザー装置のあるメーカーズスペース(工房)があり、この場で試作品などが作れるようになっているのも特徴だ。

4つの施設全体で約150社ものスタートアップが入居しており、それだけでも共創の拠点になりつつある。また、ワークスペースの提供に留まらず企業同士のマッチングイベントや、実証実験を支援する取り組みも行っており、ハード・ソフト両面から多角的にスタートアップの支援を行っている。

千葉「私達の取り組みは日経産業新聞にも取り上げてもらいました。記事の最後には『大企業、スタートアップ、VCが融合しあう新たな生態系の形成が始まっている』と締めくくられています。まさに私達が目指しているものが形になりつつあると嬉しく思いますね」

大企業同士の連携を図るTMIPの設立

大丸有エリアのオープンイノベーションフィールド化を加速させる協議会組織、「Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)」が設立された。大企業を会員とし、パートナーとなるベンチャーキャピタルやアカデミア、行政と連携しながら、新たなイノベーションを創造するためのプラットフォームだ。TMIPでは、会員企業の提携先探索から実証実験の実施までを行う「アーバンラボ」をプログラムとして提供している

千葉「『アーバンラボ』では産官学の幅広いネットワークから提携先候補を提案して面談をアレンジし、プロジェクトが立ち上がった後には丸の内エリアを使ってニーズの検証までを可能にします。さらにまちづくり団体と連携しながら警察や行政などとの行政協議を支援することで、通常個社単体では実施が難しいような実証実験を実現していきます

例えば公道での自動運転バスの走行や、セグウェイ走行の実証実験などは実験をするまでに1年以上の時間が必要になるものもあります。日本は法律で決まっていないことは、基本NGなため一つずつ行政などと連携しながら実証実験の条件をクリアしてかなければなりません。TMIPは行政をパートナーに迎え、これをサポートする組織です。
さらに、これらの活動などを通じて『アドボカシー(政策提言、規制緩和支援)』も行っていく予定です」

三菱地所自身も率先してオープンイノベーションを推進

丸の内エリアにおけるオープンイノベーションのエコシステム形成に向け力を注ぐ三菱地所だが、自社でのオープンイノベーションも積極的に進めている。新規事業を創出するためにコーポレートアクセラレータープログラムを実施するなど、スタートアップとの協業機会を積極的に拡げながら新しい価値作りを行っている。

また、スタートアップ投資へも積極的だ。2019年には投資額が累計100億円にもなり、幅広い分野への投資を行っている。一例としては、シンガポールのスタートアップと共同で「Hmlet Japan(ハムレットジャパン)㈱」を設立しCo-living事業に参入した。また、国内スタートアップとの共同事業として高糖度ミニトマトを生産する「㈱メックアグリ」を設立し農業事業にも参入するなど幅広い領域においてスタートアップとの協業を図っている。

千葉「今後の展望としては『東京駅前常盤橋プロジェクト』を進行しています。2021年に高さ212m、2027年には高さ390mの新しいビルを完成させる予定です。それらの施設を利用することで、『Society 5.0』を見据えた『実証実験型』×『外部協業型』のプロジェクトを強化していきます

100年以上街づくりを行ってきた三菱地所だからできるスタートアップ支援がある。そして国内や海外のスタートアップが丸の内に集まることにより、丸の内はよりチャレンジングで魅力的な街になっていくだろう。

ここがポイント

・三菱地所が「技術と未来が交差する。新しい匂いのする街、丸の内」をテーマに「CEATEC 2019」に出展
・出展の目的は一緒に「街」を盛り上げていくための「仲間集め」
・現在、丸の内ではビルなどハードだけでなく、ソフトまで含めた両面からの開発を行う第三次開発が進められている
・これからの20年はイノベーションエコシステムを構築し、丸の内を創造的なイノベーションが生まれる『OPEN INNOVATION FIELD』にするための開発
・オープンイノベーションのエコシステム形成に力を注ぎ、『Society 5.0』を見据えた『実証実験型』×『外部協業型』のプロジェクトを強化していく

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:河合信幸