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「日本のコンテンツとコラボしたい」折り曲がるスマホを開発した中国発スタートアップ、Royole(ロヨル)が日本に進出した理由

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スマホやパソコン、テレビに屋外の巨大スクリーン、日常生活で一回もディスプレイを目にしない日はと言えるほどディスプレイは世の中に溢れている。

そこで一つ思い出して欲しい。平面以外のディスプレイを目にすることはほとんどないだろう。私たちが目にするディスプレイのほとんどは平面を前提にして開発がされている。

しかし、その常識を覆すスタートアップがある。それが中国発のスタートアップ「Royole(柔宇科技)」だ。

2012年に創業されたこの会社は、世界初の厚さ0.01mmのフレキシブルディスプレイを開発し世界から注目を集めている。最近ではコラボした、ディスプレイ付きのバッグがルイ・ヴィトンから発表されたことでも話題となった。

そんなRoyoleが今年の1月、アメリカ、中国に続く3カ国目の拠点として日本に子会社を設立した。日本の技術とコラボして、新しい製品の展開を狙っている。今回はRoyoleの日本支社の責任者を務めるコウ氏に、フレキシブルディスプレイの可能性と、これから実現したい社会について話を伺った。

INDEX

曲線は神の領域。ディスプレイの進化を数十年早めたRoyoleの技術力
あらゆる曲面がビジネスチャンスに。Royoleが注力する6領域
日本進出の決め手となったのは魅力的な技術とコンテンツ
ここがポイント


高 龍
ロヨルジャパン株式会社 ジャパン ゼネラル マネジャー
2008年に来日。システムエンジニア出身で、日立、NEC、東芝など大手企業のシステム開発の現場で活躍。2014年、中国有線通信最大手のチャイナテレコム(中国電信)入社、日本支社のアカウントマネージャーを務める。
2019年に日本子会社の責任者として、Royole(柔宇科技)に入社。

曲線は神の領域。ディスプレイの進化を数十年早めたRoyoleの技術力

オフィスを訪れると、未来を想像させるRoyoleのプロダクトの数々が点在していた。コウ氏はその中からいくつかの商品を紹介してくれた。

まず紹介してくれたのが超薄型の電子ペーパーキーボード。普段は本体の筒に収納しながら、使うときだけキーボードを引き出し、使い終わったら再び巻き取って収納ができる。Bluetoothでスマホやタブレットと接続できるため、外出先でキーボード入力したい方にとっては重宝するプロダクトだ。

次に紹介してくれたのは電子手書きノート「RoWrite(ローライト)」。ノートパッドの上に普通の紙を置き、専用のペンでも手書きすれば、書いた内容が全てデジタルで保存され、スマホやPCで確認できるプロダクトだ。保存されるのは書かれた内容だけでなく、書いた手順やスピードまで全て再現される。後から自由に編集でき、色も変えられるため、アイディアの保存や作画に便利だろう。

3月25日にはオンラインの形で折り畳めるスマートフォン「FlexPai 2」が発表されている。

Royoleの製品を熱心に紹介してくれたコウ氏は、意外にも昨年入社したばかり。しかし、入社前から長年Royoleの製品を使い続けるファンの一人でもある。2015年にCEOのビル・リウ氏と語りあった、日本支社を立ち上げるという夢が遂に実現したようだ。

社員であり、長年のファンでもあるコウ氏はRoyoleの凄さを語る。

コウ:フレキシブルディスプレイは、当社のCEOビル・リウがスタンフォード大学の博士課程に留学中に思いついたアイディアです。折り曲げられて、自由自在に形を変えられるディスプレイを作れば、社会に大きなインパクトを与えられると思って開発を始めました。専門家から言わせれば、このアイディアは豆腐の上にビルを建てるとの同じくらい難しく、量産までには30年はかかるとさえ言われたほどです。それをリウはわずか数年で実現し、事業化まで実現しました。

数十年はかかると言われたアイディアの実現の裏には、ふたつのコア技術が存在する。

コウ:ひとつは特殊な有機ELディスプレイの技術です。通常の液晶はガラスを使用するため厚みがあり、重量も増えてしまいます。しかし、私達は世界で最も薄い0.01mmで軽量な有機ELを開発しました。もうひとつがフレキシブルセンサーの技術。薄くて透明で曲げられるセンサーの技術です。これにより、ほとんど全ての材質にセンサーを取り付けられます。例えば木材の下にセンサーを取り付ければ、普通の机に見えるのに、スマホのタッチパネルのように操作できる机も作れるのです。マルチタッチにも対応しているので、操作の幅もぐっと広げられます。

世界で唯一の技術こそが、グローバル環境での大きな競争力になっているとコウ氏は語る。

コウ:Royoleは多数の世界初の技術を持っています。先程お伝えしたコア技術の他にも、研究所では多くの世界初の技術が開発されているのです。他社にコピーできない技術力が私達の最大の競合優位性になっています。サグラダ・ファミリアの製作者ガウディは「直線は人間のものであり、曲線は神のものである」という言葉を残しています。曲線は扱う私達の技術は、まさに神の領域と言えるかも知れません(笑)。

あらゆる曲面がビジネスチャンスに。Royoleが注力する6領域

どんな曲面にもセンサーとディスプレイを取り付けられるなら、ビジネスは無限大に展開もできそうだ。現在は特に6つのセクションに注力して、技術の導入を行っていると話す。

コウ:現在、注力しているのはモバイル端末、交通、エンターテイメント・メディア、スポーツ・ファッション、オフィス、スマートホームの6セクションです。それぞれのセクションでグループに分かれ新しいビジネスを展開しています。モバイル端末は、折り畳めるスマホ「FlexPai」が日本でも話題になったため、目にした方も多いかと思います。
ファッション・スポーツのセクションでは、幅広い動きが見られます。例えばディスプレイをつけた服や帽子を開発し、スポーツ観戦の際に応援グッズとしても利用できます。中国の大手スポーツメーカー「李寧(リーニン)」ともコラボしており、今後はスポーツギアの様々な展示方法にも活用する予定です。ルイ・ヴィトンとコラボして作ったディスプレイつきバッグは、2020年春の新作として日本でも大きな話題を呼びました
交通セクションでは、ダッシュボードにディスプレイを取り付けた車の開発を進めています。他にも飛行機の座席の後ろディスプレイに私達の商品を利用したいという会社も現れています。ガラスを使った液晶に比べて大幅に軽量化でき、スピードアップや燃費の改善ができるからです。他にも座席上部の荷物入れの部分にディスプレイを取り付け、広告を流すアイディアも実現しそうです。

現在は領域を絞ってビジネスを展開しているが、将来的にはありとあらゆる曲面がビジネスチャンスを生むと語った。

コウ:私達のディスプレイは、半径1mmの棒に巻きつけられるほど曲げられます。つまりこれまでディスプレイにできなかった曲面全てに、私達のセンサーやディスプレイが取り付けて情報や広告を流すことが可能なのです。
今後はさらに幅広い業界に適用して、人工知能などの新しい技術との融合も図っていく予定です。

日本進出の決め手となったのは魅力的な技術とコンテンツ

現在は日本の拠点で一人セールス・マーケティングを行うコウ氏。日本でビジネスを始めて、中国との商習慣や国民性の違いに驚いたと言う。

コウ:日本は信用社会なので月末締めが当たり前ですが、中国では月末締めは聞いたことがありません。代金の半分を前金で払って、残りは出荷前などに支払うのが一般的です。そのため中国本社に、月末締めの概念を理解してもらうのは少し大変でしたね。

一方で、弊社の商品を見たときの日本の方々の反応は嬉しいですね。いいものに対して素直に称賛の声を頂けます。海外ではプライドが高いのか、すごいと思っても反応を表に出さない国もあるので、日本でのセールスは楽しいです。

創業時に中国とアメリカを構えたRoyoleが、拠点を置く第三の国として日本を選んだのにはいくつか理由があるようだ。

コウ:日本に拠点を構えたのは、日本の技術やカルチャーとコラボしたいと思ったからです。日本には高品質な家電や電化製品を作る技術があります。そのような技術と組み合わせて、新しい商品を作っていきたいと思います。
また、私達はハードウェアの会社なので、ディスプレイに映し出すコンテンツが必要です。日本にはゲームやアニメなど、魅力的なコンテンツが数多くあるため、それらとコラボしていきたいですね。既存のコンテンツを映し出すだけでなく、曲面ディスプレイだからできる新しい表現方法やコンテンツが作り出せたらと思っています。

既に日本でも多くのメディアに取り上げられているRoyoleだが、日本での本格的なビジネス展開はこれからだ。今後、日本でも曲面ディスプレイや画期的な商品を目にする機会が増えていくだろう。Royoleの技術が、私達の生活をどのように変化させていくのかが楽しみだ。

ここがポイント

・「Royole(柔宇科技)」は世界初の厚さ0.01mmのフレキシブルディスプレイを開発し世界から注目を集めている
・フレキシブルディスプレイは「特殊な有機ELディスプレイの技術」「フレキシブルセンサーの技術」がコアになっている
・今後はモバイル端末、交通、エンターテイメント・メディア、スポーツ・ファッション、オフィス、スマートホームの6セクションに力を入れる
・日本進出を決めたのは「日本の技術やカルチャーとコラボしたい」と思ったから


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:戸谷信博