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「日本一もったいないをなくす会社」を目指すバイオマスレジン南魚沼。お米から作るプラスチックという挑戦

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ブームやトレンドは周期的に訪れるというが、環境問題に対する社会意識の高まりもまた同じ。15年近くひとつのテーマを研究し続け、米穀や廃棄される食料品などからバイオマスプラスチックを開発する株式会社バイオマスレジン南魚沼代表取締役の神谷氏はそうした波に翻弄されながらも、一貫して研究開発に取り組んできた。その道のりはまさに粒々辛苦。しかし近年SDGsの提言とともに、世界規模で環境問題に焦点が当てられ、市場の潮目が変わってきた。その流れを受け再生可能資源を有効活用し、同時に日本の農業をも真剣に考える神谷氏の事業が再注目されている。今回はR&D、製造業、環境問題、社会問題、地域問題、フードロス、スタートアップといったさまざまな複合要素を絡めながらアプローチする彼らの取り組みと事業継続についてのヒントを伺った。

INDEX

日本一もったいないをなくそうとする会社
時代とトレンドの波。幾多の失敗を経て得たのは「相手に振り回されないこと」
目の前にある課題こそ、ストレートには解決できないもの
ここがポイント


神谷 雄仁
商業施設開発のコンサルタント、食品商社で化粧品・健康食品原料の開発などを経て
バイオマス関連事業に参加し、2005年に前進となるバイオマステクノロジー社創業。
2017年11月、バイオマスレジン南魚沼を設立。2020年3月には、バイオマスレジン
ホールディングス設立し、CEOとして現在に至る。

日本一もったいないをなくそうとする会社

神谷:我々の取り組みに対する意見に、「お米をプラスチックにするなんてけしからん」とおっしゃる方も中にはいらっしゃいます。美味しく食べていただきたいと農家の方々が丹精込めて育てあげたお米ですからね。しかし実際のところ我々の技術は本来廃棄処分されるはずだったものを捨てることなく、新たな何かに置き換えるためのもの。ですから国内有数の米所である南魚沼市(新潟県)での事業が実現しているんです。そうお話しすると「ああ、そうか」とご理解いただけます。

国内における食糧米生産量1位を誇り、全国で年間800万トンの約8%を収穫する新潟県。そのうち、仮に1%が廃棄されても相当な量になります。生産量2位の北海道、3位の秋田県もまた同じように食用可能にも関わらず廃棄されてしまう食糧米のフードロスは頭を悩ませる課題のひとつである。

そうして廃棄されるはずだった米穀などを再利用し、新たなプロダクトとして再生させる原料となるのが神谷氏の手掛ける「バイオマスレジン」。これは汎用プラスチックと比べ、コストや成形性、強度などがほぼ同等ながらも廃棄された米や木粉、竹などの植物原料などを活用した純国産性のバイオマスプラスチックだ。

神谷:我々はいわば「日本一もったいないをなくそうとする会社」。ロスになった食糧米以外にも台風などの水害で水をくぐってしまった出荷前の米や日本酒の醸造過程で削られる米粉なども再活用しています。そうした再活用の可能性は、日本のローカルのあちこちに眠っています。たとえば九州では籾殻や稲藁を牛の餌にしていますけれども、他の地域ではおそらく廃棄されているでしょう。そうしたローカルの知識を他の地域にも展開するなど、廃棄される資源の再利用の可能性を模索し続けています。

時代とトレンドの波。幾多の失敗を経て得たのは「相手に振り回されないこと」

同社の独自技術が評価され、2020年7月より全国の郵便局にてバイオマスレジンで作られたレジ袋の使用が決まった。今後の普及に向けての一歩だ。また食料由来であることから口に入れても問題のない高い安全性が広く認知され、ここ数年インバウンド層における同素材使用のおもちゃの購買ランキングは世界的に有名なキャラクターブランドをおさえてトップを飾り続けている。しかし当然のことながら華々しい現在の状況に至るまでには風当たりの強い時期が長く続いた。

神谷:2015年にSDGsが提唱されて消費者や企業の方々の意識が変わり始めましたが、それまでは十分な技術的ポテンシャルを秘めながらも、技術を活かせる場所がなかなか見つけられない時期が続きました。日本のものづくりは100点でもだめで、120点を取らないと採用されません。スタートアップに関わるみなさんが共通して感じると思いますが、新しいものに対する許容範囲って狭いですよね。製造業や素材産業のようにR&Dが大変で、研究開発が先行する分野には特にそういう側面があります。すごく封建的で保守的。入り口での受けが良くても、話が進むうちに技術の特性がネガティブファクターに転じたり、既存のものさしでジャッジされてしまったり。だからといって解決できることでもないとなるとお手上げ。そんなわけで、2年に1回は心が折れてました。もうこれ以上続けられない、と。

創業当初は「愛地球博(愛知万博)」が開催され、生分解プラスチックが広く一般にも知られるようになった、いわば「環境ブーム」。その当時から新潟県の一部でバイオマスを活用した指定ゴミ袋を使用するなど、町のお土産屋さんにもその手の商品が並んだ。しかし特定のエリアでの限定販売など、広く商品が行き渡らないうちにブームが廃れるなど、なかなか技術が定着することはなかった。これぞ、と思った矢先にリーマンショックで経済が破綻することもあった。

神谷:長い付き合いの方から「よく事業続けられたね、奇跡だね」なんて言われることもありますが事業を諦めなかったのは、他人から評価いただけたことに活路が見出せると思えたから。特に全く畑違いの方々の助言が効果的でした。農家のおじいちゃんや町工場のおやじさんがふと漏らした一言なんかがそうですね。我々は当然技術面をすごく突き詰めますが、視野だけは広く持っておきたいので、(我々の技術の)出発点となる原料にもすごく詳しくなっていかなきゃいけない。そうなるとお米農家さんと一緒にお米を作るところから始めたり、林業の方に連れ立って山の奥に入っていったり。疑問が残るといけないので、自分自身がわかるまで上流から下流まで徹底的に把握したいなと。そうしたことを続けて深い関係性に入り込んでいく中でこそ、気づかされたことがいっぱいありましたね。

神谷:それともうひとつ。いろいろと揉まれたり失敗したりするうちに、できたことできなかったことがクリアになり、社会情勢や周囲の環境に流されずに意識的に自分たちでしっかり(市場を)捉えていこうと思うようになりました。相手側に振り回されてしまうと本来自分たちがやりたいことや、やらなきゃいけないこととの優先順位がめちゃくちゃになってしまいますから。

さらに事業の心構えとして「力を入れすぎずに準備することも大事」だと神谷氏は話す。バッターボックスに立った時にしっかりと球を振り切れるよう、タイミングを逃さないために。

神谷:成功されている方に学ばせていただくと、みなさん「いまだ!」というタイミングがあるのだとおっしゃられます。それを逃さない。「その時」のために動けるよう、準備が大事。事業を起こしたばかりの頃はHOWTO本を読んで、なにがなんでも自分でいい環境を作るために努力することが絶対的な近道だと思ってさんざんやりましたが、世の中そんなにうまく回るものじゃない。勉強も努力も前提ではありますが、それを超えたところでなにか支援してもらえる流れみたいなものはあるような気がします。あまり構えずにいると、お金だって集まる時には集まるもんです。

目の前にある課題こそ、ストレートには解決できないもの

神谷現代に残されている課題は、理由があって解決していないもの。何かしらのストレートなアプローチは今までに誰かが取り組んでいるはずです。ですから複数のストロングポイントをもって対峙しなくては(解決が)難しい。オープンイノベーションはまさにそうした解決手段ですよね。となれば自分たちの立ち位置を頑なに決めすぎずに、考える余白のある、あらゆる意見を自由に取り入れられる状態を保つことが大事になってくるんじゃないでしょうか。

僕らは製造業、工業、農業と複数のジャンルをタイミングごとに跨ぎながら商品を製造し、プラスチックの問題に対峙してきましたが、今後はさらに日本の農業についても真剣に考えていきたいと思っています。データを見ると食の多様化を受けて前回のオリンピックから2021年のオリンピックまでの間に、日本人の米の消費量は約半分に落ち込みました。全国の耕作放棄地は埼玉県に相当する面積を超えたと言われますが、だからと言って米食を強制できるわけではありません。そこで最初から工業用途の米を作る事業モデルを立ち上げて、若手の農家の方達と新たな取り組みを始めました。おいしい、味の良い米作りは骨が折れますが、工業用ですから効率的にやりましょうと。この取り組みの中で、農業全体のバックアップができたらなと思っていますよ。

それにサーキュラーエコノミーとして、米作りは弥生時代に稲作文化が根付いて以来2500年ほど続いているものなので、そのポテンシャルをもったビジネスモデルも作っていきたいですね。まずは2025年までに10万トンのバイオマスプラスチックを生産できるような体制づくりから。そのあとは、まあ、アジアを代表できる素材として国際的な拠点を確立させていきたいですね。

ここがポイント

・「バイオマスレジン」は汎用プラスチックと比べ、コストや成形性、強度などがほぼ同等で、廃棄された米などの植物原料などを活用した純国産性のバイオマスプラスチック
・ロスになった食糧米以外に、水害で水をくぐってしまった出荷前の米や日本酒の醸造過程で削られる米粉なども再活用している
・製造業や素材産業のようにR&Dが大変な領域は、新しいものに対する許容範囲って狭い側面もある
・事業を諦めなかったのは、他人から評価いただけたことに活路が見出せると思えたから
・視野を広く持っておくためには出発点となる原料にも詳しくなっていかなければならない
・社会情勢や周囲の環境に流されずに意識的に自分たちでしっかり捉える
・現代に残されている課題は、理由があってストレートには解決できないもの


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:小池大介