TO TOP

丸の内を「エンジニアが働きやすい街」へ。現役スタートアップ人事が語るエンジニア採用の秘訣と三菱地所がdivと手掛ける新たな一手

読了時間:約 9 分

This article can be read in 9 minutes

今やテック系のスタートアップに限らず、多くの企業にとって「エンジニア採用」は最重要課題の一つだ。いかに優れたアイディアがあろうとも、それを作り出すエンジニアがいなければ絵に描いた餅にすぎない。エンジニア採用の成否は事業の成功を左右すると言っても過言ではないだろう。

しかし、依然Webエンジニアの数は不足しており、多くのスタートアップがエンジニアの採用に苦戦している。今回はスタートアップがエンジニア採用を成功させるために何が必要なのか、Holmesの増井隆文氏、divの内藤誠氏、三菱地所の岩本祐介氏に話を伺った。

増井氏はHolmesの社員が10人ほどのタイミングにジョインし、約50人の組織にまで成長させた凄腕人事だ。大企業、メガベンチャー、そしてスタートアップと様々なバックグラウンドを持つ増井氏は、エンジニア採用で何を大事にしているのだろうか。

またプログラミングスクール「テックキャンプ」を運営するdivは、丸の内で三菱地所とエンジニア採用を支援する新たな取り組みを始める。テックキャンプの卒業生を、インターンとして丸の内のスタートアップとマッチングするプロジェクトだ。それにより、スタートアップのエンジニア採用はどのように変わっていくのか。3名の鼎談をお届けする。

INDEX

社員数を「10人→50人」に。エンジニアの開発組織をつくり、サービスを成長させられた秘訣
ビジョンマッチを促進する「インターン制度」
丸の内を「エンジニアが働きたい街」に
ここがポイント


増井隆文
株式会社Holmes 採用責任者
NTTデータ人事部にて制度企画と運用及びグループシェアードサービスを推進後、HRビジネスパートナーとして外資系製薬企業のMR部門人事を経験。グリー株式会社にてゲーム運営子会社の人事マネージャーや広告メディア事業子会社の人事部長として新規事業や事業再編を推進し、2019年2月からHolmesに採用責任者として参画。


内藤誠
株式会社div 取締役
2000年、株式会社フェニックスに入社、日本・アジア地域の営業統括として従事。
2017年4月株式会社div入社。TECH CAMP事業責任者を経て2018年1月当社執行役員に就任。営業・教室運営・キャリアサポート・カスタマーサポート・拠点開発を統括。2020年6月div取締役就任。


岩本祐介
三菱地所株式会社 xTECH運営部
2002年三菱地所株式会社に入社。複合ビルのプロパティマネジメント業務や新築ビルの立上げ業務に従事。その後、広報部を経て、ビル営業部にてイノベーション拠点「Shin Tokyo 4TH」の商品企画・テナントリーシングを担当。現在は、xTECH運営部にて国内外成長企業の誘致を担当。

社員数を「10人→50人」に。エンジニアの開発組織をつくり、サービスを成長させられた秘訣

まずは、契約マネジメントシステムの開発を行うスタートアップ「Holmes」の増井氏に、エンジニア採用の秘訣を伺う。NTTデータ、グリーで人事として腕を奮ってきた増井氏は、これまでの経験をどのように活かしているのだろうか。

増井:NTTデータは金融など重厚長大なインフラシステムのSI開発ですし、グリーはフロントの開発といってもエンタメ領域なので、今の会社とは全く求職者の思考が異なります。同じエンジニア採用と言っても、これまでの経験がそのまま使えるわけではありませんでした。Webエンジニアに、いかに契約マネジメントシステムという新規サービスを開発することの面白さや、これからの可能性を伝えるかは苦労しましたね。
強いて言うなら、社会的意義を感じてもらうことについてはNTTデータ時代の経験が活きていると思います。NTTデータのエンジニアたちは「国を支える官公庁や金融インフラを作っていること」「新興国にもシステムを提供して日本の技術を世界の発展に役立てていること」にプライドを持っていました。同じようにHolmesが開発する「ホームズクラウド」が「契約を最適化する革新的なサービスであること」「契約ライフサイクルマネジメントが事業運営を根本的に支えられるサービスであること」に、社会的意義を感じてもらうようにしました。

志やビジョンへの共感を大切にし、採用活動を行ってきた増井氏。しかし、営業や事業開発の人材に比べて、エンジニアたちにはビジョンの話があまり刺さらないことに葛藤も感じているようだ。

増井:IT業界で長く働いてきましたが私自身SEの経験はありません。いわゆるBizdev人材は革新的なビジョンの話にあからさまにワクワクしてくれるのですが、エンジニアは反応が薄い傾向があり違和感を感じていました。そんな時に縁あって、優秀なVP of Engineeringを採用することができたため、一気にエンジニア採用が加速しました。CTOとVPoEが技術的な魅力を打ち出し、採用責任者の私が会社のビジョンを伝え「一緒にこのビジョンを実現し、新しい社会を創りませんか?」と訴えるのです。ビジョンに共感してくれる人材だけで少数精鋭のチームを作ろうと決断したため、採用メディア(Wantedly)やオウンドメディア、動画の活用など、価値観を伝えるために最大限の努力はしてきたつもりです。

Holmesのすごい所は、エンジニアを採用できていることはもちろん、エンジニアたちが辞めていかないところだ。増井氏が採用活動を担うようになってから、退職したエンジニアは1人だと言う。そこにはどのような秘策があるのだろうか。

増井:CTOとVPoE、そしてスクラムマスターなどが主体となって、開発チームの心理的安全性を確保しながら業務に集中できる環境を作り出していることが最大の要因だと考えています。エンジニアは、基本的に向学心の強い人が多い職種です。そのため、入り口は価値共感でも、長く働くにはエンジニアとして腕を磨ける環境でなければいけません。私達は目標設定を半期毎にしっかり実施し、アーキテクチャやフレームワークなど、開発環境も最適でモダンなものを選んでいます。COVID-19感染拡大の影響を受けて、企業におけるリモートワークやDXの必要性が叫ばれる今の時代、契約に関する領域でもSmartContractやAI、ブロックチェーンなどの最先端技術をどのように実用化するべきかは、検討しなければならない重要な課題です。中長期的に見ても、エンジニアにとって挑戦的な環境は整えられていると思います。
ただし、エンジニアが満足する環境を作る一方で、割り切りも大事だと思っています。私がジョインしてからまだ2年しか経っていないため、これから辞める人もいるかもしれません。現に「創業当初と雰囲気が違ってきた」「階層組織になって創業者と距離が遠くなってきた」という声も耳に入ってきていて、窮屈な感覚を抱きはじめたエンジニアもいるようです。
組織が大きくなれば体制や雰囲気も変わりますし、社員数が10人の組織と50人の組織では求められる人材も違うので仕方がありません。私の人事経験から誰もが満足できる組織を作るのは無理だと思っています。大事なのは「ビジョン・ミッションの実現に向けて誠実で愚直に仕事をしている社員」にとって、働きやすさと働きがいを提供できる組織づくりなのではないでしょうか。

増井氏は組織が成長していく中で、人材が入れ替わっていくことも受け入れているようだ。しかしその一方で、「長く働く人材」がいることの重要性についても語る。

増井仕事の内容や会社の状況に働きがいを求めている人は、それらが変化すれば辞めていきます。しかし、会社のビジョンに共感している人は、会社の状況が変わってもブレずに仕事ができるものです。そのため長く働いてもらうには、本当にビジョンに共感してくれているのか見極めが重要ですね。
特にスタートアップのサービスは、成長していくほど複雑になっていきます。サービスの成長に併せてスキルを持ったエンジニアを採用するのも大事ですが、初期の頃から知っている叩き上げの人材がいることも重要です。サービスを長期的に発展させていくには、長く働ける環境づくり、エンジニアが成長できる環境づくりもしていかなければなりません。

ビジョンマッチを促進する「インターン制度」

「ビジョンへの共感」を重視して採用に成功してきたHolmes。しかし、それは言うほど簡単なことではない。これまでも「ビジョンマッチ」の重要性は長らく語られてきたが、未だに成功した企業は限られているのも事実だ。その背景についてdivの内藤氏はこう語る。

内藤:数年前からビジョンマッチが重要だと言われるようになり、スタートアップでは「リファラル採用」を行うケースが増えてきました。知り合いからの紹介なので、バックグラウンドも分かり安心して採用できるからです。しかし、いくら知り合いからの紹介とは言え、その人をカジュアル面談などの短時間で理解するのには限界があります
それは人材紹介も一緒です。どんなに会社のことを説明し、求職者から話を聞いても、採用してみないと分からないことがあるものです。特にエンジニアの方は、面接だけではなかなか人柄などが見えません。
これは求職者、採用する企業のお互いに言えることです。
そのため、もっと会社の雰囲気を知る機会が必要だと思い、この度、丸の内で三菱地所さんとテックキャンプの卒業生が企業でインターンできるプロジェクトを起案しました。インターンとして実際に働けば、会社のビジョンや雰囲気もより深く知ることができるので。

今回のエンジニアインターンのプロジェクトは、三菱地所からの発案だという。どのような狙いがあったのだろうか。

岩本:もともとは有楽町エリアを今後どのような街にしていくのか、というところから話が始まりました。丸の内エリアや大手町エリアは再開発も進み、大手企業やFintech企業をはじめとしたBtoBスタートアップが集まる街として個性を確立してきましたが、今後再開発を行っていく有楽町エリアは「人が主役・人が輝く街」にしたいと思ったのです。また、オープンイノベーションを活発にするという意味でも、「エンジニアが働きたいと思える環境を作りたい」という観点から、テックキャンプさんにご出店頂いた「Shin Tokyo 4TH」(新東京ビル4階リニューアル)の商品企画を行いました。
そうは言ってもエンジニアの皆さんには丸の内は「大手企業の街」というイメージが定着しているため、なかなか馴染みがありませんし、丸の内で働くイメージを持ってもらえません。それならばと、「丸の内でエンジニアを育て、丸の内の企業とマッチングしていこう」と話が進んでいきました。この街で育ったエンジニアはこの街のことをきっと好きになってくれ、エンジニアが定着すれば丸の内が「新しいサービスが生まれる街」になると思ったのです。
これまでスタートアップといえば渋谷、六本木、最近なら五反田というイメージをもたれていましたが、そこに丸の内も加えたいと思っています。

内藤:確かにこれまでテックキャンプの卒業生たちは都内では、渋谷・六本木の企業を中心に輩出してきました。しかし、これまで機会が少なかっただけで、卒業生の中には丸の内で働きたいと思っているエンジニアも大勢います。ここ丸の内のスクールだけでも、毎月50名くらいのエンジニアが産まれているので、彼らに丸の内の企業と会える機会を作っていきたいですね。
既にエンジニアインターンプロジェクトに賛同頂いている企業も多くいまして、社員数が10名くらいの会社でもインターンを受け入れたいと言ってもらっています。企業としてもエンジニアを見極める期間を作れるため、採用のギャップを無くすと期待してくれているようです。

丸の内を「エンジニアが働きたい街」に

今や全国にスクールを構えるテックキャンプだが、丸の内校に通う生徒は場所柄、会社で働きながら学んでいる方が多く時間を工夫しながら積極的に学んでいる人が多い印象だと内藤氏は言う。

内藤:丸の内校に通う生徒は、もともと会社で働きながら学んでいる方が多く、学ぶ意識がとても高いです。自分たちで学んでいく姿勢があるので、サポートがいらないくらいですね。前職とのスキルを掛け合わせて、即戦力で働ける方も多いと思います。
テックキャンプを卒業したからといって、必ずしもエンジニアになる必要はなくて、コーディングの知識を営業やディレクションに活かせば可能性が無限大に広がります。卒業後はエンジニアとして働きたいという方が多いですが、将来的に「サービスを作りたい」、「社会課題を解決したい」という方も少なくありません。

岩本:内藤さんがおっしゃるような方が三菱地所のインキュベーション施設などを使ってこの街で成長していければ、良いエコシステムが産まれていくと思います。

増井:テックキャンプを卒業して、丸の内の会社でスキルを磨き、丸の内で起業、その会社に丸の内の大手企業が投資するというエコシステムはとてもロマンがあると思います。Holmesもその一翼を担えるといいですね。

これから本格的にインターンの取り組みを始める両社。どのような展望を持っているのだろうか。

内藤:具体的には2022年までに年間1万人ずつエンジニアを輩出していきたいと思っています。今はスタートアップの数に対して、本当にエンジニアが足りていません。インターンの制度をスタンダードにして、もっとスタートアップで働くエンジニアを増やしていきたいと思っています。
いずれは丸の内にテックキャンプの卒業生が増え、卒業生同士でリファラルが起きるようになると嬉しいですね。エンジニアがいることで、「新しいものが生まれる文化」が醸成されていくと思います。丸の内が「新しいものが生まれる街」になっていけばいいと思います。

岩本:この街の多様性を広げていくには、次の時代の主役となりうる会社・人に、街に入ってきてもらわなければいけません。そのために、丸の内で働きたいというスタートアップやエンジニアをもっと増やしていきたいと思っています。この街で産まれて、この街で成長したという会社や、この街の会社を渡り歩くエンジニアが増えていくといいですね。
新しいサービスが生まれる街、日本で一番ビジネスが活発な街、エンジニアが活躍する街として世界で注目されるようになっていきたいと思います。

ここがポイント

・Holmesでは、Webエンジニアに「革新的なサービスであること」「事業運営を根本的に支えられるサービスであること」を伝え、社会的意義を感じてもらうようにしている
・エンジニアは革新的なビジョンの話への反応が薄いため、CTOとVPoEが技術的な魅力を打ち出し、採用責任者が会社のビジョンを伝えている
・エンジニアの退職が少ない理由は、開発チームの心理的安全性を確保しながら業務に集中できる環境を作り出しているため
・誰もが満足できる組織を作ることはできないため、割り切りも大切
・会社のビジョンに共感している人は、会社の状況が変わってもブレずに仕事ができる
・カジュアル面談などの短時間で理解するのには限界があるため、会社の雰囲気を知る機会が必要だ考え、エンジニアインターンのプロジェクトが起案された
・エンジニアが定着すれば丸の内が「新しいサービスが生まれる街」になる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:戸谷信博