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個人ワークはしない?!三菱地所が提案する次世代「ワーケーション」。南紀白浜、軽井沢のイノベーションの誘発を目指すワーケーション施設とは

読了時間:約 9 分

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リゾート地などの環境のよい場所で、休暇を兼ねてリモートワークを行う「ワーケーション」。「ワーク(Work)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせた欧米発の造語である。数年前から日本でも徐々に耳にするようになったワードだが、新型コロナウイルス感染症の流行により、リモートワークを余儀なくされる人が増えたことで、一気に注目度を集めている。

新たな働き方を提案し続けてきた三菱地所もまた、ワーケーションに取り組んできた一社。南紀白浜と軽井沢に施設を設け、単に働きやすいだけでなく、イノベーションを誘発するような環境を整えている。今回はワーケーション事業部の田村氏に、三菱地所が考えるワーケーションとはなにか、他社のワーケーション施設とは何が違うのか話を伺った。

INDEX

三菱地所が提案する「イノベーション創出型」のワーケーション
ワクワク感がイノベーションを生み出す原動力に
ポスト・コロナで大きく変わる「働き方」への価値観
軽井沢施設のハード設計
ここがポイント


田村可奈
三菱地所株式会社 営業企画部 新事業ユニット 
東京都出身。三菱地所株式会社入社後、自社物件のPM業務を経験。2015年から丸の内物件等のアセットマネジメント業務に従事しつつ、丸の内エリアの各種公的空間活性化・賑わい創出促進プロジェクトに従事。 2019年よりワーケーション事業タスクフォースチームに参画したことを契機に、現在は新しいライフスタイルに寄与する新商品開発チームに従事し、これからのライフスタイルを模索中。

三菱地所が提案する「イノベーション創出型」のワーケーション

これまで丸の内を中心に、新しい働き方を提案してきた三菱地所。あえて東京を離れ、飛行機や新幹線に乗って訪れなければならない場所にワーケーション施設を開設した狙いはどこにあるのだろうか。

WORK×ation Site 南紀白浜

田村「私達は『働くが変われば生きるが変わる』をワーケーション事業のスローガンとして掲げていますが、ワーケーションを始めた理由も、そこに集約されています。仕事をする時間は人生の中でも大部分を占めているので、働く環境が変われば人間関係やアウトプットも変わります。つまり魅力的な環境を提供することで、人、会社が元気になり、ひいては日本を元気にできる可能性があると考えています。
当社はこれまでは丸の内のオフィスビルを始めとして、様々な生活空間を提供してきたのですが、もっと「働き方」の可能性を広げたいと思い、ワーケーション事業をはじめました。今でこそ様々な企業様に提供しているワーケーションですが、最初は『働く人も、雇用する企業もより豊かになる、そんな働き方ができたらいいな』という着想からスタートした事業です」

ワーケーションという言葉が広がりつつある日本だが、その定義はまだ曖昧で、企業を始め、様々な立場の人が様々な意味合いで使っている現状がある。三菱地所が考えるワーケーションの定義は他とは少し異なる。

田村「一般的にワーケーションといえば、ノマドワーカーのようにPCだけを持って海や山など好きな所で旅(vacation)しながら働くイメージが定着していると思います。しかし、私達の考えるワーケーションは、“vacation”に限定せず、更に個人というよりはチームで働くことを想定しています。ですからワーケーション施設も、複数人のプロジェクトチームであえて場所を変えて施設を利用してもらい(location)、日常では生まれない会話や閃きを生み出し(communication)、イノベーションの創出を促し(innovation)その後のモチベーション向上に繋げる(motivation)、様々な“ation”を引き起こす“WORK×ation”、『イノベーション創出特化型オフィス』と位置づけています

たしかに今のワーケーションといえば、一人で都心を離れ、休暇を取りながら働くイメージが強い。三菱地所が従来のワーケーションとは違い、チームに向けて提案している理由について田村氏はこう語る。

田村「昨今、IT技術の進化は著しく、それに合わせて社会も大きく変化しています。コロナ禍が起きる前から、多くの企業がイノベーションを創出しなければいけないという問題意識を持っていました。私達も企業様の課題に対するソリューションを提供したいと思い、2年前にワーケーション事業に着手して出来上がったのが南紀白浜の施設『WORK×ation Site 南紀白浜』です。
世の中では、“ワーケーション”というと、個人で自由に働くワークスタイルの極み、のような捉え方をされることが多いですが、当社のワーケーションプロジェクトチームメンバーとしては、“イノベーション”を起こすためには、やはり人と人との深いつながりや、深いコミュニケーションによるチームの一体感が大切なのでは、と考えており、“チームや組織の結束力を高めることができる商品”とすることを軸に商品設計をしてきました。
ご利用いただいたお客様から好評で、リピーターになって下さる方もいらっしゃり、南紀白浜施設での経験も踏まえて新しく開発したのが軽井沢の施設、『WORK×ation Site 軽井沢』となります。
実際に施設を活用してくれたお客さまからは、『普段よりも、一歩踏み込んだ議論ができた』『チームの仲が親密になり、生産性があがった』等、嬉しいお声を頂いています」

ワクワク感がイノベーションを生み出す原動力に

三菱地所の施設は「イノベーション創出特化型オフィス」としての機能を十分に果たしているようだ。しかし、なぜワーケーション施設に来ると議論が促進されるのだろうか。田村氏は非日常感に要因があると分析している。

田村「もちろん普段のオフィス街でもイノベーションは創出できますが、オフィスを離れ非日常的な空間にいることが、高揚感やリラックス効果をもたらすと共に、チームメンバー間の会話を弾ませ、アイディアのフックを創出するのだと思います。東京から南紀白浜施設へ行くには、羽田空港から1時間ほど飛行機に乗り、南紀白浜空港からはヤシの木が並ぶ道を車で5分くらい走ります。施設ではすぐにPC作業に入れますが、近場のビーチを散策したり、美味しいBBQをみんなでワイワイ食べたり、温泉に入ったりして、日常のオフィスではしない体験も、皆様であわせて実施いただくことをお勧めしています。チームの結束力が上がり、気分が高揚した状態で議論することで、腹を割った活発な議論ができ、通常時以上の成果が出せるチームになるのだと思います。私達のプロジェクトチームでも自分達でワーケーション体験をしていますが、その効果を自ら体感済です。
また、現地でしかできないCSR活動が実施可能なのも、利用企業様にとっての大きな魅力だと思っています。ワーケーションをしながら、企業価値向上に繋がるボランティア活動等に参加することで、行先の地域に貢献することが可能です。地域貢献の観点は、当社のワーケーション事業のキーワードになっており、施設の商品設計にもその点は色濃く反映されています。施設内に議論ができる空間はあっても、レストランや宿泊施設はあえて設けていません。周辺のレストランやホテルを活用してもらうことで、地域との交流を生み出し、地方創生にも繋げることが狙いです」


南紀白浜の白良浜にて

自然があふれる周辺環境だけでも非日常感を味わえるが、施設の内装にもイノベーションを生み出すための仕掛けがあるという。

田村「オフィス街ですと都会的な雰囲気やラグジュアリーな雰囲気のオフィス空間が好まれますが、ワーケーション施設では遊びを効かせてワクワクするような空間を意識しました。例えば軽井沢の施設には3つの執務室があるのですが、それぞれが個性的な空間なため、その特徴を生かした部屋づくりをしています。
セミナーなどに使いやすい執務室や、個人ワークに向いている執務室など目的に合わせて部屋を使い分けてもらえます。また、ブレストの息抜きに使えるフリースペースもふんだんに備えています。
立地もよく、10分も歩けば美味しいお店がある旧軽井沢銀座商店街がありますし、近くにはカーリング場もあります。某大手IT企業さんなども、チームビルディングアクティビティとしてそこでカーリングをし、チームの結束を高めているようです。様々なアクティビティを含めた体験全体がワーケーションだと思っているので、ぜひアクティビティも楽しんで頂きたいですね」


WORK×ation Site 軽井沢の遊び心のなるイス

ポスト・コロナで大きく変わる「働き方」への価値観

コロナ禍が起きたことで、私達の「働き方」に対する意識は大きく変わった。これまで一向に普及しなかったリモートワークも半強制的に広がり、働く場所の選択肢がぐっと広がった。いずれ事態が収束したとしても、コロナ前の働き方に完全に戻ることはないのではないか。田村氏はコロナ禍による働き方への変化をどのように見ているのだろうか。

田村「テレワークやウェブ会議の普及を受け、確実に世の中の働き方に関する意識は変化していると思います。ワーケーションについては、コロナを経て、政府からも『ワーケーション』というワードが発せられたこともあり、多方面からお問い合わせを頂いている状況でして、世の中の関心が高まっている印象を受けています。ただ、昨今メディアで取り上げれられている“ワーケーション”の論調としては、やはり“個人が旅するように働く”、個人の観光力の延長のような文脈での発信が多いこと、そして、“ワーケーション”という言葉の定義が曖昧なまま、政府(供給者)からの後押しばかりが先行しており、実際にワーケーションを働き方として導入する可能性がある需要者サイド(利用企業)の皆様の理解が追い付いていない点が、課題だと感じています。
実際に企業がワーケーションを導入しようと思っても、“従業員が遊びに行くため”に会社の経費利用を許可してくれる企業様は、現状の日本文化や、日本企業の人事制度的にも、一部の自営業等の本当に自由度の高い環境下にいらっしゃる方以外、ほとんどいらっしゃらないと考えています。そういった企業宛に、“社員に旅をさせて、ワーケーションを企業として導入しましょう”、と声をかけても、ただの追加経費と認識されてしまい、全く企業様の心には刺さりません。現代の日本企業様にワーケーションを取り入れていただくためには、“ワーケーション”は、“vacation”に限らない、様々なメリットを生み出す“働き方(=勤務時間)”である、ということの理解を深めていただくこと、そして中期的には、”ワーケーション”の効果を実感いただいた上で、各社様内にて人事制度改革を推進し、“管理職の目の届かない場所で働くこと”にへの理解や、折り合いをつけていただく必要があることが課題だと思っております」

ワーケーションを取り入れることは、イノベーションを生み出すこと以外にも企業のメリットに繋がると言う。

田村「コロナ禍の影響で、働き方の柔軟さを許容する企業が増えていくと思いますし、それは企業の雇用競争力の強化にも繋がると思っています。『うちの会社ではこんな施設でワーケーションも実施可能』『○○の地域と連携してCSR活動も実施しています』と言えることは、企業価値を高める効果が期待できます
それに加えワーケーションを体験した社員の方に有意義だったと感じていただければ、社員の企業満足度向上に繋がり、その声がまた優秀な人材を集めます。チームビルディングが、生産性向上にもつながることで、社員・企業双方がハッピーになれる可能性を秘めていると思います」

田村氏はさらに、未来のオフィスのあり方についてこう変化すると続けた。

田村「ポスト・コロナにおいては、事態の収束後も、以前のように全ての会議がリアル開催される社会には戻らないのではと思います。引き続きコミュニケーションの方法としてウェブ会議を選択するシーンは残り、リアルで会議することの特別感が増すのではと思います。深い、クリエイティブな議論を目的に社員がリアルな世界で集まる機会には、せっかくだから非日常的で、特別な空間を使おうと。そんな時の選択肢として、当社のワーケーション施設が選ばれるのが当たり前になると嬉しいですね」

田村氏はオフィスのあり方の変化だけでなく、個人のライフスタイルも変化すると仮説を立てていた。

田村「今でも既に都心と地方で2拠点生活している方もいますが、将来的には2拠点生活をする人がもっと増えるのではないかと思っています。そうなったときには、企業は都市部に構えているセンターコアオフィス(本社ビル)の他に、2拠点目付近でも働ける場所を求めるはずです。
ワーケーション施設は、そのようなニーズの受け皿になる可能性も秘めていると感じています」

最後に、ワーケーション事業の今後の展望についても語ってもらった。

田村「今は南紀白浜と軽井沢の2拠点だけですが、これからも施設は増やしていくつもりです。オフィス街と地方都市とのハブとなり、様々な方のニーズを拾っていき、よりよい『働く時間』をご提供できるような施設を作って行きたいですね。」

軽井沢施設のハード設計

軽井沢の施設の設計を担当した株式会社田邉雄之建築設計事務所の田邉氏は、施設の設計についてこう話してくれた。

田邉「この施設はもともとはバブルの頃、2004年に竣工したイタリアンレストランでした。時代を感じさせる意匠が残っていたので、リノベーションを設計する際もそのあたりをあえて残しています。設計する中で、大きく変わったのはエントランス部分です」

田邉「軽井沢で有名な六本辻ラウンドアバウトに面しているにも関わらず、これまで六本辻の側には入口がありませんでした。ですので、そこにエントランスを新たに設けました。
その他、天井が面白かったのであえて吹き抜けにしたり、東屋をランドマークとして新しく建築しました。3つのオフィス空間に加えて、外の東屋があることで、様々な姿勢が誘発され脳が活性化させていくはずです」

ここがポイント

・ワーケーション事業のスローガンは『働くが変われば生きるが変わる』
・魅力的な環境を提供することで、人、会社が元気になり、ひいては日本を元気にできる可能性がある
・様々な“ation”を引き起こす“WORK×ation”、『イノベーション創出特化型オフィス』と位置づけている
・“イノベーション”を起こすためには、人と人との深いつながりや、深いコミュニケーションによるチームの一体感が大切
・地域貢献の観点もワーケーション事業のキーワード
・ワーケーション施設では遊びを効かせてワクワクするような空間を意識
・ワーケーションの導入は、企業価値を高める効果が期待できる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介