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「b8ta」は2020年好調な滑り出し。コロナ禍で苦戦をするメーカーの商品開発の助けに

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2020年、新たな小売サービス業態であるRasS(Retail as a Service)のパイオニア「b8ta」が日本初上陸し、小売業界で注目を集めたのは記憶に新しいだろう。本メディアでは、店舗開業に先立ちb8ta Japan代表の北川卓司氏に日本における事業展開についても伺った

2020年を振り返ると、コロナ禍によって小売業界全体が大きなダメージを負った年となった。新型コロナウイルスの影響で外出する人が減り、オンラインでの購入で済ませる人が増える状況下において、果たしてb8ta日本上陸の滑り出しはどうだったのだろうか。
今回は改めて北川氏に2020年を振り返ってもらった。どのような商品が注目され、ユーザーからの反応はどうだったのか。

INDEX

コロナ禍でも「想定内」。順調な滑り出しの日本進出
今年b8taで印象に残った商品は?AIペット、スマートウォッチ、抹茶スイーツ……
出店企業にもより高い価値を提供できる会社を目指して
ここがポイント

北川卓司
2004年PR会社入社後、IRコンサルティング会社、スタートアップのCEOを経て、フランスのEMLYON経営大学院でMBAを取得。 2015年ダイソンにリテールマネージャーとして入社し、世界初の旗艦店を表参道にオープン。東京統括部長を経て、2019年11月 より現職。

コロナ禍でも「想定内」。順調な滑り出しの日本進出

――2020年は新型コロナウイルスの影響で小売業界は大変でしたが、b8taはどうだったのでしょう。

北川コロナ禍によって、来店客数の大幅減やそれを見越しての出店企業の伸び悩みなど、事業の影響は避けられないと、正直覚悟していましたが、思いのほか来店客数は落ち込まなかった印象です。新型コロナウイルスの感染が拡大し、GoToキャンペーンも中止され、もっと来店客数が劇的に減るかと思ったのですが、そんなこともありませんでした。旅行にいけなくなったことにより、逆に都内に人が残っているのが要因かもしれませんね。

――想定の範囲内だったと。

北川:そうですね。一般的に店舗は、オープン直後にたくさんの来店があり、2-3ヶ月もすれば来店客数が安定、クリスマスや年末に向けてまた増えるものです。コロナ禍の影響は多少あったものの、b8taも同じような来店客数の推移だったので、想定していた通りでした。

――新宿と有楽町に2店舗展開していますが、客層の違いはあったのでしょうか。

北川:こちらもそれぞれ想定していた客層でしたね。新宿店は女性が、有楽町は男性のビジネスパーソンが多く来店してくれました。オープン時はいずれも1,000名以上の方が来店してくださり、

――来店客の反応についても教えて下さい。

北川:お客様の反応は様々でしたね。b8taでは、その場で買えない商品もあるので、その点は残念だというお客様もいました。その一方でクラウドファンディングを実施している途中の商品を実際に触れることができて、自信をもって支援できると喜んでいるお客様もいらっしゃいます。CAMPFIRE との提携も実現したので、これからクラウドファンディング中の商品は増やしていこうと思います

――出店企業の反応はどうでしょうか。

北川:b8taの売りでもある、店舗の定量的なデータに対してはもちろん喜んでもらっていますが、定性的なフィードバックについても「面白い声が集まっている」と喜びの声を頂いています。オンラインショップではなかなか聞けない「購入しない理由」も集められているので、商品の改良や販売の仕方に活かしてくれているようです。

例えば、出店しているアクセサリーブランドでは、売れない理由として長さや大きさを想定していたのですが、お客様からは「重い」という声が挙がりました。ブランド側では全く意識していないポイントだったようで、とても喜んでもらえましたね。

今年b8taで印象に残った商品は?AIペット、スマートウォッチ、抹茶スイーツ……

――オープンして数ヶ月経ちますが、どのような商品が売れていますか。

北川:販売を目的とした店ではないので、正直何が売れたのかはあまりフォーカスしていないのですが、強いて言うなら、b8taでしか販売していない商品、日本初の商品はよく売れました

ただ、特定の商品というよりも、店内の商品を満遍なく見て頂けたのは嬉しい誤算でした。入り口に近いエリアだけでなく、奥の商品にも注目してもらえたようです。店内はセンサーを配置しており、来店客の動きをヒートマップで見られるようにしているのですが、客足の少ないエリアは配置換えなどして見てもらえる工夫を施しています。それが成果として現れたのは嬉しいですね。

――以前取材させて頂いた時は、「日本の伝統工芸品にも力を入れていきたい」とお話していましたが、実際にはどうでしょうか。

北川:伝統工芸品の中には、販路を広げることに抵抗を感じている企業さんもいるので、そこはこれからも力を入れていかなければいけないと思っています。墨田区の町工場とコラボしてイベントを開催できたのは、いいチャレンジになりました。それまで特定のファン層に支持されてきたブランドや、機会が少なく日の目を見てこなかったブランドに注目が集まったので、これからも続けていきたいですね。

――印象的な商品があれば教えて下さい。

北川:海外から日本に参入するのに活用してくれる事例が多かったのですが、その一つにキックスターターで6,400万円以上集めたAIペットの「モフリン」という商品があります。日本でもクラウドファンディングを継続していて、今でも問い合わせが止まりません。

他にも、摂取カロリーが計測できる「GoBe3(ゴービースリー)」という時計も印象に残っています。生産数が安定しないため、量販店で売るには不安があるとのことで、日本ではまずb8taで売っていただくことになりました。b8taへの展開後には、サイトのトラフィック数が20~30倍に跳ね上がったと喜びの声を頂いています。

日本の商品ですと「千休」という、抹茶ブランドの商品が印象的です。それまでの顧客層は若い女性が9割だったのですが、b8taに置いて頂いたことで40代以上の男女にリーチできたとの声を頂きました。

――b8taを活用することで顧客層が広がることも期待できるんですね。

北川:これは私も驚きましたが、本当に幅広い年齢層の方にご来店頂いています。先日私が店を訪れたときは、70代くらいの方が買い物を楽しんでいました。10代の若年層はまだ少ないので、今後はそこにもリーチできるような施策を練っていきたいですね。

出店企業にもより高い価値を提供できる会社を目指して

――2020年はコロナ禍の中でも好調な滑り出しだったようですが、課題として感じていることがあれば教えて下さい。

北川:強いて言うなら、もっと海外の製品を並べたかったとは思います。今年は新型コロナ感染症対策によって海外との人の往来に制限が加わったことも影響し、海外企業が日本に進出しにくい年だったとは思いますが、もし来年以降、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、海外との人の往来が緩和されるようであれば、日本で見たことのない商品をもっと並べていきたいです。これから私達と同じような業態が増えていくと予想していますが、商品ラインナップの違いで差別化を図っていきたいですね。

――b8taを活用して日本から海外に進出したいという企業もいるのでしょうか。

北川:仰るとおり、商品の海外展開を目的にアメリカのb8taに商品を置きたいという問い合わせは何社からか頂いております。しかし、現在はカリフォルニアがロックダウンするなど、アメリカは厳しい状況です。将来的には海外進出の際にb8taを活用して頂きたいですが、いつ始めるのかタイミングを測るのが難しいと思っています。

――海外の商品の他にも、これから充実させたい商品カテゴリーがあれば教えて下さい。

北川:現在、クラウドファンディングの商品を目当てに来店してくださるお客様が多いので、今後もクラウドファンディング中の商品を充実させていきたいです。
例えばMakuakeで8,400万円の支援を集めたジャケットを展示していたのですが、それを見に来るお客様も多かったです。手に触れられる商品であれば、ジャンルは問いません。強いて言うなら価格帯は重要ですね。500円くらいの商品であれば、わざわざ手に取らなくても購入すると想うので、数万円はするような商品がいいと思います。現在はCAMPFIREと提携していますが、今後は他のクラウドファンディングサービスとの連携も進めていきたいと思います。

そのほかのジャンルとしては、最近ではBtoBのサービスにもチャレンジしてみました。第一弾として、「Statista」に出品いただいてます。興味のある方は名刺を箱に入れていってもらったのです。何枚か名刺が入っていたので、それでリード獲得にもなって出店企業様にも喜んでもらっています。

――出店企業向けのサービスにも力を入れているんですね。

北川:コロナ禍が落ち着いたら、出店企業様を集めて繋げる「b8ta会」も開きたいと企画しています。カテゴリー別に集まってもらえれば、面白いコネクションができるのではないかと思いまして。顧客のデータを提供するのは当たり前ですが、それに加えて出店企業様に新たな価値を提供していきたいですね。

――最後に今後の展望を教えて下さい。

北川:私達はオンラインとオフラインの垣根をなくすために始まったビジネスなので、私達の仕組みを一般的な店舗に広げて生きたいと思っています。私達が使っているセンサーや、それを管理している裏側のソフトウェアを他の店舗に販売していくモデルを想定しています。将来的には「b8ta化」された店舗を普及していきたいと思っています。

ここがポイント

・来店客数の推移だったので、想定していた通りで、コロナ禍による来店客数は落ち込まなかった思いのほかなかった
・クラウドファンディングを実施している途中の商品を実際に触れることができて、自信をもって支援できると喜んでいるお客様も
・定性的なフィードバックとして、オンラインショップではなかなか聞けない「購入しない理由」も集められている
・特定のファン層に支持されてきたブランドや、機会が少なく日の目を見てこなかったブランドに注目が集まった
・商品の海外展開を目的にアメリカのb8taに商品を置きたいという問い合わせも来ている
・今後はセンサーや、それを管理している裏側のソフトウェアを他の店舗に販売していくモデルを想定している


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:戸谷信博