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Torch Tower「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」20カ年計画遂行の裏側。 人生とともに進めた、たくさんの回り道。

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2027年度、かつての江戸城の玄関口である東京・常盤橋に新しい街が誕生する。その名も「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」。日本を明るく照らす灯り(torch)でありたい。そんな願いが込められ、ここを新たな日本の観光の中心地であり、新時代のビジネスの拠点とする開発計画が進められている。

それに伴ってTOKYO TORCHが位置する、大手町、丸の内、日本橋、八重洲に四方を囲まれた結節点である「常盤橋」エリアもまた大きく変わろうとしている。本計画では2027年度の街区全体完成に向け、日本のインフラを支える変電所、下水ポンプ施設を含めた公共施設の刷新、2021年には同エリア内に複合施設「常盤橋タワー」が竣工予定。

およそ20年におよぶプロジェクトの初期から関わる同部統括・谷沢氏に、超長期プロジェクトにおける潤滑な進め方、プロジェクト成功に繋がる「ファン」の増やし方、そしてコロナによってその意義が問われるオフィスのあり方を伺った。

INDEX

デベロッパーの考える、アフターコロナのオフィスの意義
まちづくりはファンづくり
時代を受け入れるための半計画的「余白」
ここがポイント


谷沢直紀
TOKYO TORCH事業部 開発企画ユニット 統括
2001年三菱地所株式会社入社。ビル営業部、札幌支店を経て、2012年よりTOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)を担当。TOKYO TORH事業部在席中に総務部(本社移転プロジェクト)、DX推進部、コマーシャル不動産戦略企画部を兼務。

デベロッパーの考える、アフターコロナのオフィスの意義

――TOKYO TORCHでは「日本を明るく、元気にする」というミッションを掲げています。地域創生や関係人口などのワードは依然として注目され続けていますが、なぜこのプロジェクトでも「地域」に軸足を置くことになったのでしょうか。

谷沢:自宅を含め、自由にどこででも働ける時代だからこそ「自分のワークプレイスやホームプレイスはここ」という愛着の湧く場所の必要性をチーム内で話していました。そのイメージは、全国各地から東京へ集まる就業者の方々それぞれの生まれ故郷のような、親しみのもてる場所です。仕事場やその周辺エリアを「もうひとつの地元」として親しんでいただくためには、日本各地の地域の魅力が発信される場所であるべきなのではというところから始まっています。

――コロナ禍以降、オフィスの存在意義が一層議論されるようになりましたが、その影響がある以前から「仕事以外の価値」について検討されていたということですよね。

谷沢:そうですね。当社の本社移転(2018年)の際、最先端のワークプレイスはこうなんじゃないか、という仮説をたてていましたので。コロナ禍の影響でそれが実証される一方で、新たなワークプレイスのベーシックについても議論中です。まずは共用空間のソーシャルディスタンス対策として非接触や消毒、オープンエア空間の確保等が挙げられますが、最終的にそれらが当たり前になった上で「どう(人が)集まるか」という話になるかと。

企業にとってのオフィスの意義を考えるとアイデンティティや文化を長期的に発信し続けていく場ということだと思います。今すぐにではないでしょうが、各社それぞれのタイミングで移転に踏み切るとき、絶対にそこに立ち返ると思うんです。その時の立地として、日本の地域と繋がっている場所、もしくは人が集まってくる場所が選ばれやすいんじゃないかと思います。

――それでは、オフィスの利用手段も変わりそうです。従来のテナント方式以外の提案も考えられているのですか。

谷沢:はい。デベロッパー側から『新しい貸し方』を提案し、ワークプレイス利用者の方々が活動しやすいサービスを作っていく必要があると思います。

まちづくりはファンづくり

――向こう十数年先、行きの見えないなか本プロジェクトに取り組むにあたっては、社内外の人をどんどん巻き込むことを意識されたのだとか。

谷沢:そうですね。このプロジェクトが動き出したのは今から約10年前の2010年頃です。『その当時に20年後に完成するプロジェクトをイメージして、動き出す』というのがこの部署に配属されたときの最初のミッションです。年齢で言うと30歳。「20年後、君が50歳になるまでのプロジェクトを考えなさい」って言われたんですね。自分自身想像がつかないですし、周りの人たちも「そんな先のことわからないよ」と取り合ってもらえない。そんな状態でしたけど、まちづくりを始めるってなったらその街のことだけやっていてもしょうがない。誰かを引っ張ってこなきゃいけませんし、(人を)引っ張ってこられる環境を作らなきゃいけない。そうすると、とにかく活動の幅を広げないと、目の前の話だけ的になってしまう。チームメンバーと話していたのは、そういうことですね。

――そうした動きが、他の社員の方からすると「自由」に見えたとのことですが。

谷沢:このプロジェクトに名前がつく前から関わっていますが、今に至るまで総務部(本社移転プロジェクト)やDX推進部、コマーシャル不動産戦略企画部(開発戦略の企画・立案)など、いくつかの部署を兼務させてもらいました。本社移転プロジェクトでは常盤橋タワー(2021年6月竣工)やTorch Tower(2027年度竣工)につながる実証実験を組み込み、その成果をプロジェクトに活かすために動くことも。

この一連の動きの中で何が大事かと言うと、いわゆるゲートキーパーとされるポジションに立つことです。そうすると、いろんな情報が入るし、「この人がこの部署にいるから」と相談がくる。普段から「全部繋がっている」とはよく言いますが、まさにそういうことです。そうやってプロジェクトに対して親身になってくれたり、興味をもってくれたりする味方がたくさんいないと、絶対(にプロジェクトは推進)できないです。

――地域の方との親交を深める際にも、そういった幅広い守備範囲で活動する姿勢がいい方向へと繋がったとか。

谷沢:そうですね。いきなり売り込むよりも、たとえばふるさと納税に詳しくなってから地方の方々が集まる会合にひたすら参加するだとか。いわゆる「謎のミッション」を本業以外に背負って活動すると、だんだん関係する人の喜びどころが掴めるようになる。部署全員がそうやって活動するうちに、個人の力以上にストレッチして活躍します。これは歴代の部長が培ってくださった技ですね。

時代を受け入れるための半計画的「余白」

――プロジェクトがようやく中盤戦に差し掛かった今、これまでを振り返って教えてください。なぜこのようにかなり息の長い大規模プロジェクトながらもコンセプトと内容にブレが生じずに順調に進行したとお考えでしょうか。

谷沢:時間に換算すれば折り返しですが、私からするとまだ始めたばかりで、ようやくやりたいことを明確に言語化できるようになったばかりの状態です。当初はコンセプトひとつとっても全然固まっていなかったので、そのまま進めていたらひどいことになっていたでしょう。

結局のところ、なにか仮説づくりのために仮のコンセプトを、さらに仮で何段階かまとめ、それを外部の人の反応や意見を伺いながらブラッシュアップする。ひたすらその作業を取り組んだ結果が今に繋がっている気がします。その試行錯誤すらなければ、たとえばその分野でとにかく有名な人を集めるといった間違った方向に進んでいたかもしれません。

――となると、一番大事なのはコンセプトを完璧な状態に仕上げることではなく、仮の状態でもひとまずかたちにすることなのですね。

谷沢:そうすることで、話を聞いたくれた社内外の方々から、どこに違和感を感じるのかといったフィードバックをいただきやすくなり、先へ先へと話が展開するんでしょうね。これはあくまでも一つの事例ですが、我々の取り組みのひとつで、都内の中学生向けに出張授業を行っています。2時間の授業枠を頂いてグループディスカッションを行いました。その大半は中学生らしいものですが、中には核心をつかれるような「日本の中でも、特に地方の魅力を発信したほうがいい」との意見もあって。都内で生活する10代の世代にとっても日本の魅力発信のヒントが地方にある、と考えられているのは意外でした。

――それは想定外の気づきですね。そうしたリサーチなども含めて、プロジェクト全体でも動きを制限することなく、柔軟であることを意識されていたんでしょうか。

谷沢超長期的なプロジェクトであればあるほど、自由な動きをするほど照準は定まっていくでしょうし、「今」の当たり前をプラン化したり、計画に落とし込んだりするだけでも凝り固まってしまう方がリスクです。

僕自身がというよりも、このプロジェクトの性質ですね。歴史的な背景はあれど、土地の印象がない空白地エリアの開発に日本で一番大きくて高い、公益的なプロジェクトの設計というお題に応えるために、過去の事例の延長上で進めるのは明らかに間違い。その分、多分な回り道を推奨すべきです。

Torch Tower(2027年度竣工)については、まだ余白を残しながら企画を進めていますよ。今後、技術が発展して、たとえば人がドローンで出社するような未来がくれば、その公道が必要になる。そうした「SFチック」なものでも、現実的に追加設計する余地があります。そうした来るかもしれない、来ないかもしれない未来のことを真面目に考えて、検討していく必要がある。だからとにかく思いつくことを書き出して、可能性を探る必要があり、その手の研究をし始めると、自然とあちこちに手を伸ばさざるを得ない。そういうわけで、社内でもまあ、「自由だなあ」と思われているんでしょうね。

ただ、それはすべて先行きの見えないプロジェクトをよりリスクを少なく、理想に近い状態で進めるための戦略なのです。

ここがポイント

・2027年度、かつての江戸城の玄関口である東京・常盤橋に「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」が誕生する。
・仕事場やその周辺エリアを「もうひとつの地元」として親しんでいただくためには、日本各地の地域の魅力が発信される場所であるべきという考えから始まっている。
・コロナ禍以前からオフィスの存在価値を考え、自社の本社移転(2018年)に仮説を立て実証実験として活用
・「20年後、君が50歳になるまでのプロジェクトを考えなさい」というのがこの部署に配属されたときの最初のミッション
・ゲートキーパーとされるポジションに立つことでいろんな情報が入り、相談がくる
・超長期のプロジェクトは、なにか仮説づくりのために仮のコンセプトを、さらに仮で何段階かまとめ、それを外部の人の反応や意見を伺いながらブラッシュアップする必要がある
・超長期的なプロジェクトであればあるほど、自由な動きをするほど照準は定まっていく


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:中野修也