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小さな不満からイノベーションの種を発掘するInsight Tech。リブランディングとともに進めた組織づくりとは――Founders Night Marunouchi vol.24(オンライン)

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2021年3月10日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました(前回のイベントレポートはこちら)。このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者から学びを得るもの。

今回登壇いただいたのは、Insight Tech代表取締役社長CEOの伊藤友博さん。同社は、生活者の日常にある不満を買い取るサービス「不満買取センター」を開発・運営しています。

伊藤さんは三菱総合研究所に長年勤め、ビッグデータマーケティングやAIを活用した新事業開発を牽引。その後、Insight Techに代表取締役社長CEOとして参画しています。

どのような経緯で大手企業からスタートアップのCEOに転身したのか。不満買取センターを軌道に乗せるまでにどのような苦労があったのか――。Peatix Japan シニアコミュニティマネージャーの畑洋一郎さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務め、同社が社内のビジョン共有のために行ったリブランディングについて伺いました。

INDEX

生活者の「不満」がイノベーションの種に変わる
リブランディングと組織開発を通じて、士気を高める

生活者の「不満」がイノベーションの種に変わる

「声が届く世の中を創る」

イベントの冒頭、Insight Techがなぜ「不満」を通じて新しいニーズを生み出しているのか、その理由について伊藤さんは語ってくれました。不満とは、現実と期待のギャップから生じるもの。その期待に応えられたら、不満をイノベーションの種に変えることができると言います。つまり、未充足ニーズが隠れている、新たな原石といえるのです。

また昨今、モノからコトへとマーケティングのトレンドが変化し、不満データの需要がますます高まっていると強調します。伊藤さんは音楽にたとえて説明してくれました。

「これまでの時代は、プロダクトのスペックが価値を生み出していました。たとえば、スピーカーであれば『200wのスピーカーがほしい』『スイッチが押しにくい』など、プロダクトの改善ニーズが強かったんです。しかし、現在はモノや情報が溢れ、コトに価値が見いだされています。『お風呂に入りながら音楽を聞きたい』『友達と会話をしながら、音楽を聞けるようにしたい』といった未充足ニーズが高まっています。これらの変化から、日常で生まれるコトへの『不満』がイノベーションの種につながると考えています」

同社が集める不満データは、不満買取センターにアプリ登録を行っているユーザーが、日々の生活で感じた不満を投稿したもの。AIが投稿内容を査定し、内容に応じてポイントがもらえます。500ポイント貯めると、500円のアマゾンギフトコードと交換可能です。2021年2月15日時点で、不満投稿は累計2000万件を突破。アンケート形式ではなく、あえて投稿形式にすることで、より気軽に日常で感じたリアルな不満を集められるといいます。


不満買取センターの仕組み

不満を軸としたサービスを提供する同社。伊藤さんが創業をしたわけでなく、もともとエン・ジャパンのグループ会社として設立されました。伊藤さんは当時、経営層での挑戦ができるキャリアを模索する中で、株式会社不満買取センター(現Insight Tech)と出会ったそう。代表取締役CEOへの就任を打診されたとき、ある提案をしたと語ります。

「代表に就任する条件として、社名を含めたリブランディングを提案しました。不満買取センターにコミットしていくうえで、AIやビッグデータなどテクノロジーを活用して世の中にイノベーションを起こす事業にしたいという思いが強くあったからです。

しかし、株式会社不満買取センターという名前では、社会的にどのような価値を生むのか分かりづらい。また、社員を見ていると、会社としての明確なビジョンが提示されていないがゆえに、不満買取センターを運営することが目的化している印象を受けました。そこで、経営者になる覚悟として、リブランディングを提案しました。新しい社名には、『物事を深く洞察し、テクノロジーで多様な課題を解決する』という意味を込めています」

リブランディングと組織開発を通じて、士気を高める

ここで、モデレーターの旦部からは「リブランディングしたとはいえ、社員に定着するまでは時間がかかると思う。苦労した点はありますか?」と疑問が投げかけられました。

「ご指摘の通り、言葉を掲げたとしても、成功体験が社員にないので、定着するまでは時間がかかりましたね。それぞれの社員はプロフェッショナルなスキルを持っていますが、職種を超えたもの同士のコミュニケーションが少ないことが、最初は特に大変でした」

そこで、伊藤さんは最初に自身が新たなビジョンに基づいて意思決定をするということを、周囲に見せていきました。ゴールが明確になり、みんなが共通認識を持つと仕事がしやすくなる、成果が生まれていくという実感を持ってほしいと考えたそうです。

また、コミュニケーション面では、職種ごとの思いや課題などを把握するため、1on1を丁寧に実施。吸い上げた意見を、会社の方向性や事業に反映させていきました。

「対面でのやりとりが難しくなったコロナ禍においては、職種を横断したプロジェクトチームを5~6個立ち上げました。そして私が全プロジェクトチームに入り、事業を成長させることを目的に、部署間のコミュニケーションを半ば強制的に促進させました。その結果、コロナ禍でも事業を成長させることができ、社内の風通しも良くなった印象があります。

もちろん、小さな会社であるがゆえにさまざまな制約があり、やりたくても実施できなかった取り組みもあります。会社が進む方向性とマッチせず、離職してしまう社員が出て、悲しいこともありました。しかし、これまでの歩みの成果もあり、事業成長を喜びに感じてくれている社員も増えており、私自身も挑戦して良かったと感じています」

同社は現在、不満買取センターで得られた知見をもとに、サービス展開に注力。VoC(Voice of Customer)のテキストをAIで解析し、お客様の意見やサービスの課題を可視化することで、企業のマーケティングに貢献する「アイタスクラウド」などを展開しています。

今後は、生活者の声をもとに、ビジネスでは解決できない社会課題にも踏み込んでいきたいと語る伊藤さん。最後に「1社でできることは限られているので、さまざまな企業と連携し、価値を共創するハブになっていきたい」と語り、イベントは締めくくられました。

●転載元記事:https://www.egg-japan.com/event_report/4461