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SNS投稿で特許がとれなくなる? スタートアップが取り組むべき”攻める”知財戦略の基本とは――Founders Night Marunouchi vol.27(オンライン)

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2021年5月26日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。

今回のイベントで語られたテーマは「知財戦略」です。

何年も汗を流しながら研究、開発してきたアイデアやプロダクト。それらはいつ、どんな形で盗用されてしまうかわかりません。大切なプロダクトや技術を「盗用されないように」するのが知財戦略です。しかし、知財戦略が大事だとわかっているものの、何から始めたらいいのかわからない……という経営者の方は多いのではないでしょうか。

今回は知財戦略のプロフェッショナルである、株式会社AI Samurai代表取締役社長の白坂一さんとMASSパートナーズ法律事務所共同代表パートナーの溝田宗司さんをお呼びして、スタートアップにおける知財戦略について語っていただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務めています。

INDEX

知財は“守る”ためではなく、“攻める”ためにある
大企業×スタートアップ、協業すべき企業の見分け方
スタートアップが「知財戦略」を学ぶためにできること

知財は“守る”ためではなく、“攻める”ためにある

「そもそも知財戦略とは『特許をとる』『商標をとる』ことだと思われがちですが、あくまで事業をうまく成長させるための手段にすぎないです」

イベント冒頭、そう語ったのはAI Samurai代表の白坂さんです。白坂さんは弁理士として知的財産分野を長年経験し、特許業務法人白坂を設立しました。2015年には「人間とAIの共創世界」をミッションとするAI Samurai(旧ゴールドアイピー)を創業。特許調査を行い、特許取得の可能性を評価するWebサービス「AI Samurai」を開発しています。

白坂「知財戦略といわれても、なかなかイメージできる方は多くないのではないでしょうか。企業の最終的な目的は『事業拡大』や『売上』だったりします。その目的を達成するための手段の1つとして、知財戦略を考える企業が今増えてきています。」


AI Samurai代表取締役社長の白坂一さん

白坂さんの発言に頷きながら「知財戦略は、発明を第三者から“守る”ものと思われがちですが、“攻める”ためにやるべき」と語るのは、MASSパートナーズ法律事務所 溝田さんです。

溝田さんは弁理士として日立製作所で知財業務全般の業務に従事。その後、弁護士資格を取得、法律事務所で経験を積み、2019年2月にMASSパートナーズ法律事務所を共同創業。知財に関して幅広くカバーしつつも、特にスタートアップの知財トラブルを専門としています。

溝田「知財が“攻める”ものというのは、事業拡大の起因になる可能性があるからです。

有名な事例でいうと、 Intelの知財戦略があります。同社はPCの開発におけるマザーボードの知財を台湾メーカーに提供。一方で、マザーボードに組み込む『CPU』に関する独自技術は、完全にブラックボックス化したのです。台湾メーカーがパソコンを大量生産するのに伴い、IntelのCPUも必ず使われるという仕組みを作り、ビジネスを拡大していきました」

大企業×スタートアップ、協業すべき企業の見分け方

スタートアップの知財トラブルを専門とする溝田さんは、近年の動向をみて「スタートアップの特許・商標はとっておくべきという認識が高まりつつある」と語ります。

しかし、現状はまだまだ知財戦略に関する理解を高めるフェーズにあると強調します。その理由として、事業拡大に向けたオープンイノベーション戦略や業務提携など、さまざまな形で他社と組む機会が増加するにつれ、知財トラブルも増えているからです。

溝田「提携前に最低限やっておくべきことは、コア技術の特許や商標をとっておくことです。契約上、技術やプロダクトが誰のものかを決めておかないとトラブルになります。

特に、昨今増えているオープンイノベーションの現場では、大企業は『スタートアップを囲いたい』、スタートアップは『可能性があるかぎりいろんな企業との提携を模索しながらスケールしたい』と思っている。その思惑の落としどころを見つけ、互いにウィン・ウィンとなるような契約をしないと、オープンイノベーションを成立させるのは難しいです」


MASSパートナーズ法律事務所 共同代表パートナーの溝田宗司さん

それでは、どのような企業と提携するとウィン・ウィンな関係性になるのでしょうか。白坂さんは見極めるときに、頭に入れておきたいことを教えてくれました。

白坂「親和性がある企業を見つけると、最初は大企業もスタートアップも『一緒にやりましょうか!』となりがちです。しかし、まずは技術を開発した際に、特許は共同でとるべきかという疑問は頭に入れておくべきです。また、共同で特許をとっていたメンバーが転職したらどうするかも考えないといけない。人の流動性で技術が流れ出る可能性は大いにありますからね。大手企業間の転職でも、たびたび情報漏洩に関する問題がニュースに出ていますよね。

協業する場合は一生その会社に“添い遂げる”か、それとも他社とも協業したいという“浮気心”があるのかを見極めて、特許戦略を構築することが求められるでしょう」

技術の流出は他企業との提携だけではありません。特にスタートアップでは、特許や商標に対する正しい知識がないために、特許がとれなくなるトラブルが発生しています。

溝田「スタートアップで多発しているのは、SNSにアイデアを公開してしまって特許出願ができなくなる事態です。大企業や公務員は規則でSNSが禁止されていることが多いですが、知名度や集客力が低いスタートアップはSNSを活用することがよくあります。

しかし、特許をとらずにSNSでアイデアを公開すると特許申請ができなくなります。なぜなら、特許法第29条第1項において、インターネットでアイデアが公開されていると“新規性”がなくなってしまうため、特許を受けることができないと記されているからです」

スタートアップが「知財戦略」を学ぶためにできること


 
ここまで知財戦略の重要性を語ってくださった白坂さんと溝田さん。イベント後半では、スタートアップの経営者がどのように知財戦略を学んでいくべきかといった内容が語られました。

溝田「実体験として学んでいくのが一番いいと思います。どうしても本だとわかりにくく、勉強がはかどらない。なので、証券の方の打ち合わせや監査法人の打ち合わせも経営者自身が出ることが大切です。その過程で、少しずつ学ぶのが近道ではないのでしょうか」

一方で、知財戦略を構築する上で、なりふり構わず特許や商標を取得すべきでないと、溝田さん。事業フェーズに応じて、優先順位を柔軟に変えることが求められると語ります。

溝田「売上が出ていない、資金調達をしていない中で特許を取得しても、特許貧乏になるだけ。資金がショートしては事業が継続できなくなります。バイオ関連など技術力で勝負をしないといけない分野では、売上に関わらず特許取得をオススメしています」

ただ経営者は時間が限られており、実体験として学ぶ時間を確保しづらいというのも事実。溝田さんと白坂さんは、専門家に頼る重要性も強調しました。今ではスタートアップ向けに比較的安価な値段で相談に乗ってくれる方も増えている他、東京21cクラブでも会員さんと会員の友人までを対象に、白坂さんに無料で相談ができる機会(東京21cクラブ無料相談会)を定期的に設けています。

また、白坂さんが提供するAI Samuraiでは簡単に特許取得の可能性(発明の新規性・進歩性)を評価。大企業の弁理士に多く活用されているAI Samuraiですが、個人でも簡単に特許関連業務が行なえるようなプラットフォーム化を目指していると白坂さんは語ります。

白坂「AI SamuraiはAIが自動で特許調査を行い、特許取得の可能性を評価するWebサービスです。特許庁が公開する特許公開公報と特許公報をデータベース化し、類似する先行技術の事例から出願予定の特許の登録が成立する可能性をランク別に評価。世界一速い検索、世界一簡単なAI特許評価システムを目指しています。このAI Samuraiを活用すれば、特許調査の時間を大幅に減らし、研究や開発に時間を割くことができるようになります」

新しい武器が生まれたら、知財戦略の考え方も大きく変わってくる。AI Samuraiもそんな存在になっていきたい――最後に白坂さんはそう語り、イベントは幕を閉じました。

▼当日のセッション
『AI×知財スタートアップCEOが語る!スタートアップの特許戦略 〜成功・失敗事例から学ぶ』
https://www.youtube.com/watch?v=rbse6N9VJOE

●転載元記事:https://www.egg-japan.com/news/4676