2021年6月30日(水)、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」とイベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。
今回登壇いただいたのは、株式会社バイオマスレジンホールディングス代表取締役CEOの神谷雄仁さん。同社は、お米に代表される国産バイオマス資源を使った、プラスチック樹脂原料「バイオマスレジン」の製造・販売をしています。
神谷さんは、2007年にバイオマスレジンホールディングスの前身となる、バイオマステクノロジーを創業。起業の準備期間を含めると約20年もの間、日本におけるバイオマス関連事業の創生期から、この分野の無限の可能性を信じて走り続けてきました。「プラスチックと農業におけるサーキュラーエコノミーとCO2削減を実現する」というビジョンを掲げ、お米由来の地球に優しいプラスチックの普及を軸に、急成長を遂げています。
今回のイベントでは、約20年間に及ぶ研究開発の中での苦労や今後のビジョン、そして事業拡大期において心がけていることなどを神谷さんに語っていただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務めます。
INDEX
・日本ならではの原料「米」で、バイオマスプラスチックを
・できることとできないことの明文化が重要
日本ならではの原料「米」で、バイオマスプラスチックを
バイオマスレジンとは、廃棄されるお米や竹、コーヒーなどの植物原料を使用したバイオマスプラスチックのこと。従来のプラスチックと比べてもコストや成形性、強度などはほぼ同等でありながら、石油系プラスチックの含有量を大幅に下げることができるため、地上の二酸化炭素の増減に影響を与えない「カーボンニュートラル」の性質を持つ素材です。
もともとは、食品商社に勤務していた神谷さん。あるとき、出張先の米国でとうもろこしを使ったプラスチックを作っている穀物メジャーの会社を訪れ、感銘を受けたことが、今の事業を立ち上げるきっかけになったと語ります。
米国ではとうもろこし、ブラジルではさとうきびを使ったバイオマスプラスチックも生み出されている中、日本ならではの原料を用いてバイオマスプラスチックを作れないか──。そう考えたときに、神谷さんは「米」に目をつけ、研究開発を始めました。
「2005年の愛・地球博を皮切りに、環境事業ブームが起こり、5社の合弁で会社を起業しました。しかし、技術が優秀であれば、世間から評価をされて事業が伸びていくという簡単な構造ではありません。研究開発の分野では、まだまだ新しいモノへの許容範囲は狭く、なかなか事業がスケールせずに仲間が離れていきました。3年に1回は心が折れていましたね。
なぜ続けられたのかというと、この仕事が面白くて、楽しかったんだと思います。大変なことは何度もありましたけど、できないことを解決するとか、知らなかったことを知って何かが変わる喜びとか、そういう一つひとつの嬉しい出来事が今につながっているんです」
神谷さんはその後、バイオマスレジンの製造に協力してくれているプラスチック成形メーカーや米作り農家など、さまざまな分野の方々と話をする機会を設けたそう。自分たちの技術に閉じず、広い視野を持つことで、事業展開へのヒントが得られないかと考えました。
できることとできないことの明文化が重要
その中で生まれた成功事例の一つが「地産地消モデル」と、神谷さんは語ります。い草や梅干しの種など、その土地で多く生産され、使われずに廃棄されてしまう原料を活用することで、販路を拡大していくもの。国内有数の米どころである南魚沼市に最初の拠点を構え、同市の指定ゴミ袋にライスレジンが活用されるといった実績が生まれています。
現在は東京本社の他に、滋賀県、福島県、熊本県などに拠点を構え、2021年に国内生産量1万トンを達成。2025年までに国内拠点を10ヵ所まで拡大することを目標にしています。
イベントはYouTubeでも配信しています 地産地消のモデルを実現していくためには、地元の人を巻き込む必要があります。そのときに神谷さんが意識してきたのは、ウィンウィンな関係を大切にすることです。事業の意義や影響を話し合い、各地域の事情に合わせてパートナーシップを結んでいきます。 「ウィンウィンな関係を作るために重要なのは、できることとできないことをハッキリと伝えることです。当社は、どんな作物もプラスチックに変えられる魔法の材料や技術を持っているわけではありません。“世の中のためになること”と“ビジネス”を共存させるために、できることとできないことのハッキリとした数値化・明文化を意識しています」 その他、同社のライスレジンは現在、赤ちゃんがなめても安全な「お米のおもちゃ」(ピープル社との共同開発)や日本郵便のレジ袋など、さまざまな場面で採用が進んでいます。
2030年までに、バイオマスプラスチックの国内出荷量を197万トンまで増やすという目標を掲げた日本政府。対して、日本有機資源協会が公表しているデータによると、2019年時点で出荷量はまだ5万トンにも届いていません。「日本でもさまざまなメーカーが生産量を向上すべく努力をしているが、目標にはほど遠い状況。競合他社をライバルではなくパートナーとしてとらえ、みんなで市場を作っていかなければならない」と神谷さんは強調します。最後に、神谷さんから今後の展望について語られ、イベントは締めくくられました。
「ライスレジンをアジアを代表するブランドにすること、そして世界で100年愛される企業になることを目指しています。今後は、東京都2個分の面積と言われている全国の耕作放棄地を水田に戻し、ライスレジン用の米作りを行うプロジェクトや、新たな素材の研究などの挑戦を続けていきます。東南アジアやアフリカなど、海外拠点の展開も注力していきたいですね」
▼当日のセッション
『お米や竹からプラスチックが!?バイオマス技術で「もったいない」を資源に変える。』
https://www.youtube.com/watch?v=Fnh6Gj-lxZc