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「女性のためのビジネス」に焦点を。 フェムテック起業家とジェンダーレンズ投資家に聞く今までとこれから

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「Femtech(フェムテック)」という言葉を耳にすることが近年増えてきた。Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけ合わせて生まれた造語で、主に女性特有の健康課題を解消するために産まれる製品やサービスを指す。

2012年にデンマーク人の女性が生理周期管理アプリ「Clue」を開発し、資金調達に成功したことから“フェムテック”という言葉が認知されるようになったのが始まりとされている。今となっては、日本でも雑誌やメディアなどで目にする機会も多いだろう。

ただ、フェムテック領域での事業は今後成長が期待されているものの、未だに社会での正しい知識が広まらない領域であるのも事実だ。

今回は、女性のウェルネス課題を解決するべく世界初のオンラインストア「fermata store」を立ち上げたfermata株式会社代表・Amina氏、また長期的な社会課題解決に向けた投資やコミュニティづくりなどに携わる株式会社ゼブラアンドカンパニー共同代表・⽥淵良敬氏にお声がけをしての対談を実施。

双方から見るフェムテック領域での事業の現状と課題、そして迎える未来の展望について語る。


杉本亜美奈
フェルマータ共同創業者
1988年、千葉県生まれ。父の仕事の関係でタンザニアで育つ。英ユナイテッド・ワールド・カレッジに入学。ドイツの大学を卒業後、東京大学大学院で修士号を取得。その後、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学の博士号を取得。東京電力福島原子力発電所事故調査委員会のメンバーとして被災者の調査に関わったほか、日本医療政策機構にて世界認知症審議会の日本誘致プロジェクトも担当。


⽥淵良敬
株式会社ゼブラアンドカンパニー共同代表
約10年前から国内外でのインパクト投資に従事。その経験から投資実行と共に、投資後のビジョン・ミッションや戦略策定と、実行するための仕組みづくりや組織作り・リーダー育成およびインパクト指標を使った経営判断の支援を行う。グローバルな経験・産学ネットワークから世界的な潮流目線での事業のコンセプト化、経営支援、海外パートナー組成を得意とする。

INDEX

海外在住経験で育まれたウェルネスへの関心
言葉としての認知はあるが、形のみに留まってしまうジェンダーレンズの課題
「男女平等」と謳われるその取り組みは、真の平等なのか?
ここがポイント

海外在住経験で育まれたウェルネスへの関心

──まずはお二人の自己紹介からお願いします。Aminaさんはフェムテック領域で事業を展開されていらっしゃいますが、もともと関心の高いトピックだったのでしょうか?

Amina「実は、わたし自身、女性のウェルネスへの関心が昔から強いタイプではありませんでした。というのも、わたしは幼い頃アフリカで育っており、女性としてのアイデンティティよりもアジア人であるという事実に目を向けることが多かったんです。

アジアとアフリカ、いろいろな点での違いがありますが、わたしが関心を抱いたのは医療物資に対するアクセス。たとえば、アフリカでは命を落とす人も多い感染症“マラリア”の薬を、貧困層には処方しないという現場に出くわしたことがあります。その理由を現地の医師に聞いたところ、『外国籍の人や富裕層の国民に手渡すほうが高く売れるから』という回答がかえってきました。他にも、田舎の山奥にコーラは売っているのに、コンドームは売っていなかったことなども記憶に残っています。
医療へのアクセスに興味を持ち、イギリスで医療経済の博士号を取り、その後、特にタブー視されがちな女性のウェルネス分野へのアクセス改善に取り組みたくてfermataを立ち上げました

起業前に数年、孫泰蔵さんの経営するVCに関わっていた頃、サンフランシスコの“Modern Fertility”というフェムテックサービスと出会いました。それは自宅で女性ホルモンの値を測れるプロダクトで、そういった取り組みによって女性がライフプランを考える機会になることはとても有益だと思ったんですね。

世界でもまだ認知されていないフェムテック製品へのアジア地域でのアクセス改善だったり、タブー視されている女性のウェルネスに関するトピックを誰しもが普通に話したり考えたりできる世の中を作りたいと思うようになりました」

田淵 「僕も、アメリカ・東南アジア・ヨーロッパ・アフリカとさまざまな地域で暮らしきたので、Aminaさんの視点にはとても共感します。さきほどのヘルスシステムの話にも通じるところですが、日本は保障や制度がしっかりしている分、イシューを見つけづらい世の中なのかと思うことがあります。

公衆衛生の観点でいえば、アフリカでは石鹸やコンドームを手に入れることができずに暮らす人がいるなどの問題があり、そういったイシューに対して解決策を講じる取り組みをウガンダで行なったことがあります。

その後、東南アジアでのインパクト投資に従事するようになりましたが、いわゆるユニコーンを目指すための投資事業が多かったことに違和感を覚えるようになったんですね。具体的には、スケールすることを前提に提供されている資金に合う事業がどの程度あるのかと感じていました。

スケールや資金調達額に踊らされない、世の中の価値観をじっくり変えていくような事業にも価値があると思っているし、ジェンダーレンズ(ジェンダーへの正しい知識を基に、不当な格差なく事業や世の中を見つめる視点)はその最たるもの。そういった事業を支援したいと思い、ゼブラアンドカンパニーを立ち上げました」

言葉としての認知はあるが、形のみに留まってしまうジェンダーレンズの課題

──国内外共に、フェムテックを始め、ジェンダーレンズにまつわる事業は随分と成長を見せてきていますよね。お二人から見る現状はどのように映っていますか?

田淵 「ジェンダーレンズの考え方が世界各国に広がったと感じたのは、2017年末に起こったMeToo運動の際でした。日本ではSNS上の動きがありましたが、アメリカでは道に人が溢れるほどのオフラインでの大きなムーブメントでした。

実際、フェムテックという言葉が生まれた2012年のフェムテック事業投資額は全世界で62億円ほどでしたが、2019年には約1,000億円と大きな成長を見せています。そう考えると、やはり2017〜2018年のMeTooが社会にもたらした影響は計り知れないものでした」

Amina「時期を同じくして女性起業家や女性がファウンダーのVCも急増していますよね。近年まで、生物学的な仕組みが異なる男性が9割をしめるVCの世界では、女性の健康関連の事業の重要性や課題への理解が進まなかった。それは男性が悪いというわけではなく、課題感が本当に分からなかったのだと思います。それが“フェムテック”と定義されたことで投資しやすくなり、市場があることが数字として認識されるようになったため、事業としても立ち上がりやすくなったのかなと」

田淵 「VC業界は今でも女性がファウンダーという組織は2.4%ととても男性社会なんです。言葉の定義が生まれたことによる投資の障壁がなくなったのはその通りだと思います。

また、起業家に関しても事業を問わず、女性というだけで投資を受けにくい現実があったのも事実です。ゼブラアンドカンパニーを立ち上げるに際して各国の女性起業家とお会いしていますが、どの起業家も堅実で実直に事業と向き合っているのですごく信頼して投資できると感じています。資金調達が容易ではなく、男性起業家と比較してスタートアップ業界でのマイノリティを感じるからこその堅実さなのかもしれません」

Amina「よく友人のアーティストであるスプツニ子!と話していることなんですが、スタートアップにおける起業はRPG的ですよね。ストーリーの鍵となる情報をくれる村人、業界人やステークホルダーと出会えることができれば事業成長の引き金を引けるけれど、それが難しい限りは一生ゲームが進まないような。それで、女性起業家はキーとなる村人に出会いづらいところが難しい。

たとえば、フェムテックが話題だからといってそういった事業に着手する企業は増えてきているのですが、事業メンバーは女性社員のみで構成されることが多いです。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の観点を意識してのことだと思うのですが、女性社員だけで固めてしまったら知識や意識の変化は会社にも個人にも生まれない

D&Iは本来、女性社員、男性社員と切り分けることではなく、それらをフラットにして性別を問わず適材適所で共創するための取り組みであるはずなのに、曲解してしまっている企業があるのではと思います」

「男女平等」と謳われるその取り組みは、真の平等なのか?

──フェムテック然りジェンダーレンズ然り、言葉としての認知は広まっているものの、まだまだ認識や考え方に際しては成長の余地があるんですね。

Amina「男女平等というと、男性と同じ社会進出機会を女性にも創造しようという考えられることがあると思います。しかし、わたしはそれが完全に正しいとは思いません。

一例ですが、月経の面から身体の負担を考えてみてください。月経は、約一ヶ月リズムで周期的に起こる生理的出血ですが、その最中や前後では、メンタル面や体調面などの不調があり、その間、身体には大きな負荷がかかっているんです。

その月経の数を生涯で換算すると、昔の女性で平均で3-4人の子どもを産んでいた人で50〜100回ほど、現代の女性は500〜600回ほどと言われています妊娠や出産や更年期も身体への負担は大きい。生物学的男性に合わせて整えられた現代の仕事環境の中で、そもそも体の機能や一生のうちに経験する体の変化が異なる女性が働くことが本当にフェアなのかどうか疑問があります。

そう考えると、現在の凝り固まっている価値観や社会の構造自体を変化させていくということが本当の意味でのジェンダーレンズだと思うのです」

田淵 「ジェンダーレンズが進んでいるアメリカの事例を見ても、たしかに根本的な仕組みを変えることで社会をより良くしていると思います。不妊用の保険制度が生まれたり、休暇を取るための申請を容易にしたりと、小さな声を拾いながら仕組みを変えている印象です。

今後に向けては、まず課題や違いを可視化することから始めていくのが大切なのではと思っています。D&Iを発展させるにしても、取り組みを考える人は課題を理解せず、違いに目を向けず、ただ取り組んでいること自体に酔っている人もいるように感じられます。ですので、価値観がそもそも異なること、その違いに良し悪しはなく、違いを受け入れどうするのか、と考えられる人が増えるとより良い社会が作れるのではないでしょうか」

Amina「お互いに想像するだけではその知識を深めることはできません。共通認識を持ちながら、もう少しオープンに対話できる環境が生まれると良いですよね。たとえば、生理用の吸水ショーツとナプキンとを実際に見比べて、どちらがより利便性が高いのかと性別に関わらず、皆が話し合う時間があったら、社会の月経に関する理解は少し深まるかもしれないわけです」


fermata store
妊活サポートグッズ / 排卵日測定デバイス / 骨盤底筋トレーニングマシーン/ 吸水ショーツ

Amina「知らないこと、わからないことは罪ではありません。生物学的女性が生物学的男性のウェルネス課題を知らないように、誰しも他人が抱える課題は知らないのですから。知らないことを前提とした上で、どのように理解し合うのか。そのスタンスの変化が今こそ求められているように感じられます

そして、私たちはそういった対話を生み出せる社会を目指して、引き続き事業に取り組んでいきます」

また、fermata株式会社では10月22日〜24日間にかけて「Femtech Fes! 2021」を開催。日本未上陸のフェムテックプロダクトやサービスなどに触れることができる3日間となりました。

開催レポートはこちら

ここがポイント

・fermata株式会社ではフェムテック関連プロダクトをセレクトし販売、またフェムテック市場に参入したい企業を支援することで日本・アジアのフェムテック市場拡大に貢献している
・ゼブラアンドカンパニーでは持続可能な事業を支援する投資事業を実施。ジェンダーレンズ投資に力を入れている
・フェムテックという言葉の認知度は2017年末を皮切りに急上昇している
・言葉として認知されているものの、企業での取り組みに落とし込み実行できている国内の事例はまだ少ない
・ウェルネスにまつわるあらゆるトピックが対話されることによって今後の相互理解が深まる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木詩乃
撮影:幡手龍二