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消費者の行動で、社会を動かす。「異彩を社会に送り届ける」福祉実験ユニットが目指す世界とは――Founders Night Marunouchi X vol.33

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2021年11月24日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi X vol.33」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。

今回イベントで語られたテーマは『さまざまな異彩を社会に送り届ける、福祉実験ユニットが目指す世界とは』です。

登壇したのは福祉領域の変革と拡張を目指すスタートアップ、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長兼CEO 松田崇弥さんと、同社と資本業務提携契約を結ぶ株式会社丸井グループから共創投資部兼D2C&Co.株式会社 チーフリーダー武藤夏子さんの2名。

本イベントではヘラルボニーの創業への想いから現在に至るまで、また大手企業とのコラボレーションにおける可能性について語っていただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営担当の鈴木七波がモデレーターを務めています。

INDEX

障害を持つ兄の存在が、会社を創業するきっかけに
資本提携でシナジーを生む。協業先との関係はまるで“親戚”
たった1つのカードで、消費者が社会を動かしていく

障害を持つ兄の存在が、会社を創業するきっかけに

「“普通”じゃないことには、大きな可能性があると考えています」

イベント冒頭、こう語ったのはヘラルボニーの松田さん。社会が持つ「障害」に対するネガティブなイメージを払拭させたいとの想いから、双子の兄である文登さんとともに会社を立ち上げました。掲げるミッションは「異彩を、放て」。

松田「会社を立ち上げたきっかけは、4歳上の兄が重度の知的障害を伴う自閉症であったことから、家だと仲良く普通に暮らしているのに、一歩外に出ると欠落の対象のように扱われてしまう。幼い頃からそんな社会に対してどこか違和感がありました」

現在障害のある方は世界には約10億人、その中で知的障害のある方は約2億人。日本では約936万人が障害者手帳を持っていると言われています。

ヘラルボニーの中心事業はライセンス事業です。150名以上の障害のある作家と契約を結び、その方々が手掛けたアートを起用した商品を制作、販売。その売り上げの一部を、ライセンスフィーとして福祉施設や作家に還元するという仕組みです。

これまで「Ca va?缶」やかんぽ生命、三菱地所といった大手企業が手掛ける商品とのコラボレーションも実現。アートデータを軸に、様々なモノ、コト、バショに落とし込み、社会に提案してきました。


<株式会社ヘラルボニー代表取締役社長兼CEO 松田崇弥さん>

松田「もともと重度の知的障害がある方のアーティスト活動と、ライセンス事業はすごく相性がいいのではないかと思っていました。ライセンス事業であれば、納期などの制約に縛られすぎることなく作品を生み出し、金銭を得ることもできるからです。

私たちが販売している商品は決して安くありません。『福祉だから』『障害者の方が関わっているから』と商品を安く提供する理由にはせず、価格ではなく純粋な商品の価値で勝負したいと考えています」

2018年7月に創業し、2021年11月には福祉を起点にさらに新たな文化の創造を目指し、シリーズAラウンドの資金調達を実施しました。

松田「私たちの目標はユニコーン企業になることではありません。実際、企業価値がとても高いわけではない。しかし、障害福祉の歴史において私たちの活動は、非常に意義のあることだと自負しています。
資金調達実施のプレスリリースを手書きで発信したのも、私たちの想いを手触り感のある形で伝えたかったから。『私たちはこういう経済を、様々な会社と組んで作っていきます』といったメッセージを社会に提示したいと思い、未来への手紙のように書きました」

資本提携でシナジーを生む。協業先との関係はまるで“親戚”

2021年11月には丸井グループと資本業務提携契約を結び、新規事業をスタート。新たな提携クレジットカード「ヘラルボニーエポスカード」を発行しました。

ヘラルボニーエポスカードは利用することによって、知的障害のある作家の創作活動や福祉団体を応援できるカードです。買い物での利用金額に応じた加算ポイント(200円につき1ポイント・還元率0.5%)から、利用金額の0.1%分が、ヘラルボニーを介して寄付される仕組みになっています。

両社が出会ったのは丸井グループが開催したピッチイベントでした。2021年2月、第1回「Marui Co-Creation Pitch」において、ヘラルボニーは優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞。武藤さんはイベントを振り返りながら語ります。


<株式会社丸井グループ 共創投資部兼D2C&Co.株式会社 チーフリーダー 武藤夏子さん>

武藤「ヘラルボニーさんは創業の背景にしっかりとした原体験がある。創業ストーリーを聞いて、将来絶対に事業を投げ出さないと思いました。

事業面では、たくさんの企業とライセンス契約を結んでいることが強みになると感じました。ライセンス事業があれば、その作品を様々な製品やサービスに落とし込めるからです。商業施設を持ち、生活者と対面しながら多様な商品・サービスを展開している丸井グループと、非常に相性が良いと思いました」

丸井グループは5年前から、自社と出資先の企業価値を向上させることを目的とした「共創投資」に力を入れています。単に資金を提供するだけではなく、未来を共創するパートナーとしてスタートアップに出資しているのです。

社内プロジェクト「共創チーム」には全社員5000名弱のうち、延べ200名以上の社員が参加。オープンイノベーションによって、投資先とのシナジーを生むことを追求しています。

武藤「私たちが大事にしているのは、会社全体で共創を推し進めること。資本業務提携契約を結んだ企業は友達でも家族でもなく、例えるならば“親戚”でしょうか。家計は別でも、困っていることがあれば駆けつけるし、甥っ子や姪っ子が成長したら共に喜ぶ。そのような関係に近いと考えています」

武藤さんの言葉にうなずく松田さんは、丸井グループが取り組む「グループ全体でのサポート」を身をもって感じているそうです。

松田「丸井グループさんとの会議には、いろんな部署の方が出席されます。例えばエポスカードに関する取り組みであっても、会議にはエポスカードの部門だけでなく、その他の部署の方も参加しています。

様々な部署の方が参加してくれることによって、多角的な議論ができる。丸井さんは目先の取り組みだけではなく、先を見据え『今後はこんなことができるのではないか』という提案をしてくださっているのです」

たった1つのカードで、消費者が社会を動かしていく

事業を推進する上での両社の関係にまつわる話に続き、話題は「これまでに自社の存在意義を感じた瞬間」に展開。ここで松田さんは「自分が社会を動かしている」と感じたある出来事について語ります。
松田「現在35歳以上で妊娠した方のうち、約40%の方が生まれてくる子に障害があるかどうか確かめるための検査を受けます。そこでダウン症という診断が下された場合、80%の方が堕胎を選択する。もちろん、そういった選択自体を否定するつもりはありません。
ある時、ダウン症の子を産む決断をした方から連絡がありました。いわく、ヘラルボニーのニュースを見て感化され、決断に至ったと。私たちの活動が、人生の重大な局面における選択肢を増やすことに繋がったわけです。『子どもが生まれてよかった』ということ以上に、新しい命を授かった際の選択肢を提示できたということが、非常に感慨深かったですね」


<この日のイベントはオンラインでも配信されました>

一方の武藤さんは「お客様が喜んでくれていることを感じたとき」が、事業の意義を感じる瞬間だと語ります。その例として、ヘラルボニーと共催したポップアップイベントでの出来事を挙げました。
武藤「以前開催していた有楽町マルイでのポップアップイベントで初めてヘラルボニーを知り、その場でエポスカードを申し込んでくださった方がいました。なぜ申し込んだのか伺うと、『大学時代にSDGsを学んだが、実際に自分に何ができるのかは分からなかった。偶然マルイに来て取り組みを知り、これなら私でもできると思った』と。
エポスカードを作ってお買い物をするだけで、寄付ができるという仕組みに強く共感していただけ、我々が伝えたい想いがしっかりと届いていることを実感しました」
最後はお二人が描く今後の展望について語り、イベントは締めくくられました。
松田「知的障害のある作家が生み出す作品を、単なるアート作品としてではなく、実用性とデザインに優れた様々な製品に落とし込むことで勝負していきたいと思っています。今後もアートというフィルターを通じて、より多くの方に障害がある方との出会いを創出し、美しい啓発活動を展開していきたいです。
社会に大きな影響を及ぼすのは多くの場合、高い資本力を持つ会社ですよね。私たちは、資本の力ではなく、『消費者の行動』が社会を動かすことに繋がる仕組みを提供していきたい。そんなことができれば、面白いのではないかと思っています。
丸井グループさんとはこれまでにないコミュニティの形、施設の形を生み出してみたいです。丸井グループさんが『売らない店』を掲げられているからこそできる、新たな小売業を創造していきたいですね」

武藤「ヘラルボニーさんとの取り組みの新しいステップとして、ギャラリーを展開したいと思っています。以前、松田さんのお兄さんである翔太さんの日記を読んで、とても感動した経験があります。力強い筆圧で綴られた、アートに溢れたあの日記が忘れられません。字の質感などオンラインでは分からないこともあるので、たとえばマルイの店舗に置くなどして、実際に見ていただけるような機会を作りたいと考えています」

▼当日のセッション
『さまざまな異彩を社会に送り届ける、福祉実験ユニットが目指す世界とは』
https://youtu.be/gmKDQnTRAuE

●転載元記事:https://www.egg-japan.com/event_report/5157